<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

Muv-LuvSS投稿掲示板


[広告]


No.20952の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 第2部[samurai](2016/10/22 23:47)
[1] 序章 1話[samurai](2010/08/08 00:17)
[2] 序章 2話[samurai](2010/08/15 18:30)
[3] 前兆 1話[samurai](2010/08/18 23:14)
[4] 前兆 2話[samurai](2010/08/28 22:29)
[5] 前兆 3話[samurai](2010/09/04 01:00)
[6] 前兆 4話[samurai](2010/09/05 00:47)
[7] 本土防衛戦 西部戦線 1話[samurai](2010/09/19 01:46)
[8] 本土防衛戦 西部戦線 2話[samurai](2010/09/27 01:16)
[9] 本土防衛戦 西部戦線 3話[samurai](2010/10/04 00:25)
[10] 本土防衛戦 西部戦線 4話[samurai](2010/10/17 00:24)
[11] 本土防衛戦 西部戦線 5話[samurai](2010/10/24 00:34)
[12] 本土防衛戦 西部戦線 6話[samurai](2010/10/30 22:26)
[13] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 1話[samurai](2010/11/08 23:24)
[14] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 2話[samurai](2010/11/14 22:52)
[15] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 3話[samurai](2010/11/30 01:29)
[16] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 4話[samurai](2010/11/30 01:29)
[17] 本土防衛戦 京都防衛戦 1話[samurai](2010/12/05 23:51)
[18] 本土防衛戦 京都防衛戦 2話[samurai](2010/12/12 23:01)
[19] 本土防衛戦 京都防衛戦 3話[samurai](2010/12/25 01:07)
[20] 本土防衛戦 京都防衛戦 4話[samurai](2010/12/31 20:42)
[21] 本土防衛戦 京都防衛戦 5話[samurai](2011/01/05 22:42)
[22] 本土防衛戦 京都防衛戦 6話[samurai](2011/01/15 17:06)
[23] 本土防衛戦 京都防衛戦 7話[samurai](2011/01/24 23:10)
[24] 本土防衛戦 京都防衛戦 8話[samurai](2011/02/06 15:37)
[25] 本土防衛戦 京都防衛戦 9話 ~幕間~[samurai](2011/02/14 00:56)
[26] 本土防衛戦 京都防衛戦 10話[samurai](2011/02/20 23:38)
[27] 本土防衛戦 京都防衛戦 11話[samurai](2011/03/08 07:56)
[28] 本土防衛戦 京都防衛戦 12話[samurai](2011/03/22 22:45)
[29] 本土防衛戦 京都防衛戦 最終話[samurai](2011/03/30 00:48)
[30] 晦冥[samurai](2011/04/04 20:12)
[31] それぞれの冬 ~直衛と祥子~[samurai](2011/04/18 21:49)
[32] それぞれの冬 ~愛姫と圭介~[samurai](2011/04/24 23:16)
[33] それぞれの冬 ~緋色の時~[samurai](2011/05/16 22:43)
[34] 明星作戦前夜 黎明 1話[samurai](2011/06/02 22:42)
[35] 明星作戦前夜 黎明 2話[samurai](2011/06/09 00:41)
[36] 明星作戦前夜 黎明 3話[samurai](2011/06/26 18:08)
[37] 明星作戦前夜 黎明 4話[samurai](2011/07/03 20:50)
[38] 明星作戦前夜 黎明 5話[samurai](2011/07/10 20:56)
[39] 明星作戦前哨戦 1話[samurai](2011/07/18 21:49)
[40] 明星作戦前哨戦 2話[samurai](2011/07/27 06:53)
[41] 明星作戦 1話[samurai](2011/07/31 23:06)
[42] 明星作戦 2話[samurai](2011/08/12 00:18)
[43] 明星作戦 3話[samurai](2011/08/21 20:47)
[44] 明星作戦 4話[samurai](2011/09/04 20:43)
[45] 明星作戦 5話[samurai](2011/09/15 00:43)
[46] 明星作戦 6話[samurai](2011/09/19 23:52)
[47] 明星作戦 7話[samurai](2011/10/10 02:06)
[48] 明星作戦 8話[samurai](2011/10/16 11:02)
[49] 明星作戦 最終話[samurai](2011/10/24 22:40)
[50] 北嶺編 1話[samurai](2011/10/30 20:27)
[51] 北嶺編 2話[samurai](2011/11/06 12:18)
[52] 北嶺編 3話[samurai](2011/11/13 22:17)
[53] 北嶺編 4話[samurai](2011/11/21 00:26)
[54] 北嶺編 5話[samurai](2011/11/28 22:46)
[55] 北嶺編 6話[samurai](2011/12/18 13:03)
[56] 北嶺編 7話[samurai](2011/12/11 20:22)
[57] 北嶺編 8話[samurai](2011/12/18 13:12)
[58] 北嶺編 最終話[samurai](2011/12/24 03:52)
[59] 伏流 米国編 1話[samurai](2012/01/21 22:44)
[60] 伏流 米国編 2話[samurai](2012/01/30 23:51)
[61] 伏流 米国編 3話[samurai](2012/02/06 23:25)
[62] 伏流 米国編 4話[samurai](2012/02/16 23:27)
[63] 伏流 米国編 最終話【前編】[samurai](2012/02/20 20:00)
[64] 伏流 米国編 最終話【後編】[samurai](2012/02/20 20:01)
[65] 伏流 帝国編 序章[samurai](2012/02/28 02:50)
[66] 伏流 帝国編 1話[samurai](2012/03/08 20:11)
[67] 伏流 帝国編 2話[samurai](2012/03/17 00:19)
[68] 伏流 帝国編 3話[samurai](2012/03/24 23:14)
[69] 伏流 帝国編 4話[samurai](2012/03/31 13:00)
[70] 伏流 帝国編 5話[samurai](2012/04/15 00:13)
[71] 伏流 帝国編 6話[samurai](2012/04/22 22:14)
[72] 伏流 帝国編 7話[samurai](2012/04/30 18:53)
[73] 伏流 帝国編 8話[samurai](2012/05/21 00:11)
[74] 伏流 帝国編 9話[samurai](2012/05/29 22:25)
[75] 伏流 帝国編 10話[samurai](2012/06/06 23:04)
[76] 伏流 帝国編 最終話[samurai](2012/06/19 23:03)
[77] 予兆 序章[samurai](2012/07/03 00:36)
[78] 予兆 1話[samurai](2012/07/08 23:09)
[79] 予兆 2話[samurai](2012/07/21 02:30)
[80] 予兆 3話[samurai](2012/08/25 03:01)
[81] 暗き波濤 1話[samurai](2012/09/13 21:00)
[82] 暗き波濤 2話[samurai](2012/09/23 15:56)
[83] 暗き波濤 3話[samurai](2012/10/08 00:02)
[84] 暗き波濤 4話[samurai](2012/11/05 01:09)
[85] 暗き波濤 5話[samurai](2012/11/19 23:16)
[86] 暗き波濤 6話[samurai](2012/12/04 21:52)
[87] 暗き波濤 7話[samurai](2012/12/27 20:53)
[88] 暗き波濤 8話[samurai](2012/12/30 21:44)
[89] 暗き波濤 9話[samurai](2013/02/17 13:21)
[90] 暗き波濤 10話[samurai](2013/03/02 08:43)
[91] 暗き波濤 11話[samurai](2013/03/13 00:27)
[92] 暗き波濤 最終話[samurai](2013/04/07 01:18)
[93] 前夜 1話[samurai](2013/05/18 09:39)
[94] 前夜 2話[samurai](2013/06/23 23:39)
[95] 前夜 3話[samurai](2013/07/31 00:02)
[96] 前夜 4話[samiurai](2013/09/08 23:24)
[97] 前夜 最終話(前篇)[samiurai](2013/10/20 22:17)
[98] 前夜 最終話(後篇)[samiurai](2013/11/30 21:03)
[99] クーデター編 騒擾 1話[samiurai](2013/12/29 18:58)
[100] クーデター編 騒擾 2話[samiurai](2014/02/15 22:44)
[101] クーデター編 騒擾 3話[samiurai](2014/03/23 22:19)
[102] クーデター編 騒擾 4話[samiurai](2014/05/04 13:32)
[103] クーデター編 騒擾 5話[samiurai](2014/06/15 22:17)
[104] クーデター編 騒擾 6話[samiurai](2014/07/28 21:35)
[105] クーデター編 騒擾 7話[samiurai](2014/09/07 20:50)
[106] クーデター編 動乱 1話[samurai](2014/12/07 18:01)
[107] クーデター編 動乱 2話[samiurai](2015/01/27 22:37)
[108] クーデター編 動乱 3話[samiurai](2015/03/08 20:28)
[109] クーデター編 動乱 4話[samiurai](2015/04/20 01:45)
[110] クーデター編 最終話[samiurai](2015/05/30 21:59)
[111] 其の間 1話[samiurai](2015/07/21 01:19)
[112] 其の間 2話[samiurai](2015/09/07 20:58)
[113] 其の間 3話[samiurai](2015/10/30 21:55)
[114] 佐渡島 征途 前話[samurai](2016/10/22 23:48)
[115] 佐渡島 征途 1話[samiurai](2016/10/22 23:47)
[116] 佐渡島 征途 2話[samurai](2016/12/18 19:41)
[117] 佐渡島 征途 3話[samurai](2017/01/30 23:35)
[118] 佐渡島 征途 4話[samurai](2017/03/26 20:58)
[120] 佐渡島 征途 5話[samurai](2017/04/29 20:35)
[121] 佐渡島 征途 6話[samurai](2017/06/01 21:55)
[122] 佐渡島 征途 7話[samurai](2017/08/06 19:39)
[123] 佐渡島 征途 8話[samurai](2017/09/10 19:47)
[124] 佐渡島 征途 9話[samurai](2017/12/03 20:05)
[125] 佐渡島 征途 10話[samurai](2018/04/07 20:48)
[126] 幕間~その一瞬~[samurai](2018/09/09 00:51)
[127] 幕間2~彼は誰時~[samurai](2019/01/06 21:49)
[128] 横浜基地防衛戦 第1話[samurai](2019/04/29 18:47)
[129] 横浜基地防衛戦 第2話[samurai](2020/02/11 23:54)
[130] 横浜基地防衛戦 第3話[samurai](2020/08/16 19:37)
[131] 横浜基地防衛戦 第4話[samurai](2020/12/28 21:44)
[132] 終章 前夜[samurai](2021/03/06 15:22)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[20952] 本土防衛戦 西部戦線 6話
Name: samurai◆b1983cf3 ID:cf885855 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/10/30 22:26
『帝国本土防衛軍 第1局(作戦局)第3部(情報部)第5課(国内)作成―――本土防衛戦 戦況推移 1998年7月14日』


・1998年7月7日 
0435 佐賀県唐津市 唐津湾防衛線にBETA群、約9000が上陸。 第39師団応戦開始。 0715、第34師団応戦開始。
0505 福岡県福津市南部海岸線にBETA群、約1万2000が上陸。 第33師団応戦開始、後、第12師団応戦開始。
0720 第9師団、福岡県福津市到着、応戦開始。 0735、第21師団、佐賀県唐津市到着、応戦開始。
1130 唐津湾戦線に、海軍第2艦隊第2遊撃部隊、母艦戦術機甲部隊による支援攻撃開始。
1145 博多戦線に、海軍第2艦隊第1遊撃部隊、母艦戦術機甲部隊による支援攻撃開始。
1355 第2艦隊第2遊撃部隊、唐津湾に艦砲射撃開始。
1415 第2艦隊第1遊撃部隊、博多戦線に艦砲射撃開始。
1620 唐津上陸のBETA群9000、殲滅を確認。
1650 博多東方上陸のBETA群1万2000、殲滅を確認。

・1998年7月8日 
0025 福岡県 北九州市にBETA群、約1万上陸開始。
0030 長崎県 北松浦半島にBETA群、約1万上陸開始。
0040 福岡県 糸島半島にBETA群、約1万上陸開始。
0050 佐賀県 唐津湾にBETA群、約1万再上陸開始。
0215 島根県出雲市海岸線にBETA群、約3万8000上陸開始。
0240 西部軍集団司令部 博多=唐津の防衛の放棄を決定。
0245 中部軍集団司令部 デフコン1B発令 指揮下各軍、戦闘出撃開始。
0600 帝国軍統合軍令本部・本土防衛軍総司令部、国内防衛線を九州中南部、四国、岡山=鳥取間に決定。
0655 北九州戦線 BETA群7000、関門海峡を渡る。 BETA群3000、北九州市に残留。
0705 博多戦線 第12師団、福岡県南部=大分県北部へ撤退。
0715 山口県油谷湾 第2艦隊出撃開始。 『捷二号作戦』第3段階発令。
0800 博多戦線 最後まで防衛線に残留していた斯衛第5聯隊戦闘団、全滅。 
0805 第2艦隊、作戦中止。 反転開始。
0830 呉の第1艦隊在泊艦艇、出撃開始。 山口県瀬戸内海沿岸部に艦砲射撃。
1015 松浦戦線 第21師団、第34師団残余、佐世保近辺に撤退。 海軍基地隊と合流。
1035 佐賀戦線 第23師団、第25師団、佐賀平野撤退。 熊本県北部に後退。
1125 大分戦線 第12師団、第9師団と合流。 別府防衛線を構築。

・1998年7月9日~7月13日
九州戦線 
福岡県、佐賀県、長崎県北部、大分県、放棄。 阿蘇山を基点に、中部九州山地防衛線を構築。 天草諸島、長崎南部は保持。
残存戦力、12個師団(書類上) 実質戦力7個師団(他に、佐世保から脱出した海軍混成陸戦隊)
BETA群、熊本方面に1万4000、宮崎方面に1万2000、合計2万6000。 膠着状態が続く。

中国戦線 
山口県、島根県、鳥取県西部を放棄。 広島県西部で防衛戦闘を展開中。 関門海峡より流入したBETA群、1万2000。 出雲方面より約3万7000。 合計4万9000
出雲方面の3万7000の内、約1万3000が南下開始。 現在、広島=岡山県境北部で第7軍団と国連軍(中韓2個旅団)交戦中。
関門海峡からの約1万2000と、出雲からの分派約4000、合計1万6000が西と北から広島方面へ侵攻。 国連軍(米軍第2師団)、帝国軍第2師団防戦中。
出雲方面のBETA群残余約2万、鳥取市西方30km地点。 第9軍団が防衛線構築中。
第10師団、第15師団、第24師団全滅。










1998年7月14日 1730 広島県岩国市 国連軍岩国基地前面 門前川防衛線


『ジャッカル・リード(米第17戦術機甲大隊長機)より、“ヴァンパイア”、“ディーバック”、“タロン”―――ファッキン・ガイズ&ビッチ! 
よく聴け、このボーンヘッド共! 絶対にBETAを対岸には渡すなよ!? お家を喰い尽されたくなければな!』

―――『ウィルコ!』

岩国前面の防衛戦を担当する、国連軍部隊―――米第2戦術機甲師団、第2重旅団戦闘団(HBCT02:Heavy Brigade Combat Team 02)第17戦術機甲大隊。
33機に減じたF-15E≪ストライク・イーグル≫が、防衛線の最南端、国道113号線と188号線の間の陣地で、鋼鉄の壁を作っている。

大隊長の言葉に、一切の誇張は無い。 背後の門前川の向こうは、国連軍岩国基地―――在日国連軍の、西日本での最重要拠点が控えている。
もっとも現在に至っては、その80%以上が放棄されていた。 日本帝国軍と国連極東方面軍の、しこりの残る合意によって数日前に放棄が決定したのだ。
現在部隊は、西日本の最重要拠点―――瀬戸内海の突き当たり、大阪湾に面した堺工業埋立地に隣接基地の設営を急ピッチで進めている。
当初は臨海工業地帯の増設目的で造成された埋め立て地も、主要工業地帯の海外移転のあおりを受け、今は堂々たる広大な空き地になっていた。


≪CPより“ジャッカル”・リーダー! BETA群、約6000、6マイル(約9.6km)南を北上中! 接敵予定時刻、1938! 3分後に師団砲兵が、全力面制圧砲撃開始! 
なお、HBCT01(第1重旅団戦闘団)はポイント・ブラボー(岩徳線高架付近)。 HBCT03は、戦術予備で待機!≫

「ジャップの第2師団は、どうした!?」

≪IJA(日本帝国陸軍)第2師団は、1個旅団がポイント・アルファ(岩国城付近)に布陣完了! 
他に1個旅団がハイウェイ(山陽自動車道)のIC付近に展開! 残る1個旅団は、HBCT03と共に戦略予備です≫

最前面に、日米の4個旅団戦闘団が展開し、その後方に2個旅団戦闘団が予備戦力として待機。

「保って、1日だな。 2個師団・・・ 6個旅団だけだなんて、泣けてくる」

大隊長がそうぼやいた時、後方から重砲とMLRSが一斉に攻撃を開始した。 面制圧―――BETA群が4マイルまで迫っていた。
重砲弾やミサイルが地表に激突して炸裂する前に、遥か後方から上空に向けて伸びた光の帯に絡め取られる―――光線級の迎撃レーザー照射だ。
途端に発生する重金属雲。 それは瞬く間に濃厚な濃度を持った、レーザーを遮る厚い膜として上空に広がった。

何せ米軍の、本気の面制圧砲撃だ。 日本帝国軍や、中韓両国軍の様に戦場備蓄を気にしつつ、ここぞと言う時にAL弾を発射する、などと貧乏くさい事はしない。
端から、全力でAL砲弾・ALMを湯水の如く撃ち込んでいる。 彼らにとっても、戦場での物量こそ正義―――方向性はBETAと同じである。

そんな圧倒的とも見える面制圧砲撃に、大隊各機の衛士達のヴォルテージも自然に上がってくる。

『Suck my dick!(かかってこいよ!)』

『Hey! Don't get hyper about that.(おいおい、そんなのめり込むなよ)』

『Yo man, whassup?(ヨウ、調子はどうだ?)』

『Chuuch!(順調だぜ!)』


やがて、面制圧砲撃の猛火を潜り抜けたBETA群がその姿を現す。 同時に砲撃の最中、攪拌されていたレーダー情報が再表示された。 
その画面を見た米軍衛士から、落胆にも似た声が漏れた―――砲撃前と、殆ど数が変わっていない!

『That's bogus smh!(それってインチキよ!)』

『Holy shit!(なんてこったい!)』

『Damnit!(チクショウ!)』

小型種はある程度削ったのだろうが、大型種の数に至っては余り減っていなかった。
AL弾の比率が高かった為か、そして砲撃時間がまだ短い為か。 BETA群約5000が、土煙と重金属雲の彼方から湧き出してきた。

「ジャッカル・リーダーよりCP、支援砲撃は続行されるのだろうな?」

≪こちらCP。 “ジャッカル”・リーダー、米国は、いざとなればトイレの便器を製造する工場で、砲弾を作れる国よ!
面制圧砲撃は継続! 日本軍の砲兵旅団も、2分後に砲撃を開始! 流れ弾に当らない様にね、アタック・ラインから2マイル以上の進出は不許可!≫

大隊CPである女性大尉の、少々強気がかったセリフに、大隊長も不敵な表情を見せる。 そう、物量こそ、我が常道にして、正義。
心なしか、後方からの支援砲撃の勢いが増してきた気もする。 日本軍の砲兵部隊も、このパーティに参加を表明したのだろう。

目前を、M1A1≪エイブラムス≫戦車が、車間を取って布陣を済ませた。 その向こうには、日本陸軍の主力戦車である90式戦車が、120mm砲をBETA群に指向する。
やがてBETAとの距離が、1マイル半(約2400m)を切った。 途端に、はたく様な甲高い音が無数に響き渡った。
M1A1と90式戦車が、高初速120mm砲弾を一斉に発射したのだ。 約2秒後、先頭を突進してきた突撃級の集団から、数10体が脱落する。 
続けて第2射、そして第3射。 100体以上の突撃級が強固な装甲殻を射貫され、節足部を吹き飛ばされ、骸を晒し、そして横転する。

「ジャッカル・リーダーより戦車隊、下がれ! 次はこっちで、おもてなしする!」

『“ハーケン”リーダーだ。 “ジャッカル”、後は頼む! こっちは第2ラインまで下がる!』

日米の戦車部隊が、後方の射撃ラインまで下がってゆく。 
アウトレンジ攻撃が信条の戦車にとって、BETA群に差し込まれた乱戦は死を意味する。それは、戦術機部隊の役目だった。

「リードより各機! クソッたれの腕っこき共! マンチュリアとコリアでの借りを、たっぷり返してやれ! アタック―――ナウッ!」

米陸軍第2戦術機甲師団―――米太平洋軍の最精鋭にして、大陸と半島から叩き出され、プライドに傷を付けられた部隊。
幾多の戦いで勝者となり、そして敗者となった歴戦の部隊。 彼等は戦場での、自らの粘り強さを知っている―――『Second to None(右に出る者、無し)』として。

最前線に展開した4個旅団戦闘団から、4群の戦術機部隊―――4個戦術機甲大隊が、BETA群に襲いかかった。
米陸軍第2師団のF-15E≪ストライク・イーグル≫が、その大出力にモノを言わせた一撃離脱で、すれ違いざまに火力をBETA群に叩きつける。
94式≪不知火≫を装備した日本帝国第2師団戦術機甲部隊が、小刻みで変幻な機動でBETA群を左右に分け、その真ん中に最後の1隊が突っ込み群れを切り裂いてゆく。
上空には集中豪雨の様な支援砲撃、そしてそれを迎撃するレーザー照射が夕暮の空に乱舞していた。











1998年7月14日 2130 愛媛県 今治市 糸山公園


「ジューファ・リーダーより各中隊! 索敵情報では5分前にBETA群、約5000が大三島から大島に到達した!
あと10数分で対岸に視認できる、警戒を厳にせよ! なお、エンゲージまではROEは“タイト”、宜しい!?」

―――『是! 大姐!』

UFC(統一中華戦線)から派遣された国連軍太平洋方面第11軍所属、第303旅団戦闘団に所属する6個戦術機甲中隊の指揮官達から、了解の応答が入った。
いや、違う、4個中隊分だ。 1個中隊は彼女自身が直率しているし、残り1個中隊の指揮官は微妙な笑みを返してきただけだった。

「・・・文怜? どうかしたかしら?」

2歳年少の僚友の笑みが気になったので、何とはなしに聞いてみた。

『ムーラン・リーダーより、ジューファ・リーダー。 いいえ? ・・・統合指揮、頑張ってね、美鳳。 アウト』

少し茶目っ気に片目でウィンクして、朱文怜大尉が通信を切った。 その言葉に、無意識に溜息が出る。
よりによって―――よりによって、自分が現場総指揮官だなどと。 いくら少佐のバックアップが有るとは言え・・・

(『美鳳、無理に気追い込む必要は無いからね。 後ろから私がバックアップする、何時もの通りに指揮すればいいわ。
ちょっとだけ―――そう、ちょっとだけ、周りに気を向ければ、それで何とかなる。 大丈夫! 私にだって出来た事よ!』)

今や、旅団幕僚に収まって、本人いわく『隠居』してしまった周蘇紅少佐の顔が浮かぶ。
冗談ではないと思う、自分に少佐の様な統率力や指揮能力は・・・ 考えるのは止めよう、実戦を前に、ネガティヴな思考は宜しくない。
改めて戦術MAPを確認する。 網膜スクリーンに投影されたMAPモードを、3Dモードに。 やはり尾道からの流入は、まだ止まっていない。
BETA群の先頭集団は大島に入った約1500。 中段は因島から生口島を蹂躙中だ、約2500。 最後が尾道から向島で約1000。
RKA(韓国陸軍)から派遣された第304旅団戦闘団の6個戦術機甲中隊が、岡山方面から流れて来るBETA群を少しでも阻止しようと、福山付近で激戦中だった。

『ブルーバード・リーダーより、ジューファ・リーダー! 美鳳、聞こえますか!?』

(ッ―――!)

突然、網膜スクリーンに一人の衛士の姿がポップアップした。 全く予期していなかった為、内心の動揺を抑えるのに苦労する。
自分の表情がおかしくは無いか、どうか平静であって欲しいを思いつつ、通信チャンネルを入れた。

「ジューファ・リーダーです。 ブルーバード・リーダー、珠蘭、どうしました?」

相手はRKA所属の国連太平洋方面軍第11軍、第304旅団戦闘団の李珠蘭大尉だった。
彼女の部隊は今、瀬戸内海対岸の福山から尾道にかけての戦域で、BETA群の渡海阻止戦闘中の筈だ。

『美鳳、ごめんなさい、これ以上の突破阻止は不可能! 日本の第7軍団から戦力が北へ引き抜かれてしまって・・・ 
その穴埋めの為に3個中隊、岡山方面の防衛に引き抜かれてしまったわ』

と言う事は、珠蘭達韓国軍は3個中隊だけで、約5000からのBETA群の突破阻止戦闘をしていたと言うのか。
全く焼け石に水だ、それでは―――勿論、それは珠蘭の責任ではない。

「・・・いいえ、ありがとう、珠蘭。 後はこちらが。 貴女は予定通り、そのまま三原から竹原へ抜けて下さい。
大崎の上島から下島はまだ、BETAに荒らされていません。 そこから梶取ノ鼻まで洋上をNOEで合流して下さい」

『判りました。 念の為、光線属種の位置を知りたいのですけれど?』

「ちょっと待って―――大丈夫、生口島よ、まだ。 大三島が遮断してくれるわ、但し高度制限は50m」

『夜間の洋上飛行、それも超低空―――成功すれば、JIN(日本帝国海軍)の母艦戦術機乗りにも、自慢できるわね』

やや引き攣った笑みで、それじゃ、合流するまで頑張って頂戴、そう言って李珠蘭大尉が通信を切った。
視線を目前に移す。 昼間なら緑に囲まれた島々と、それにかかる大橋、そして流れの急な来島海峡が素晴らしい展望を与えてくれる。
だが、今は夜だ。 以前はそれでも、大橋がライトアップされて大変美しい夜景を見る事が出来たと言う。
ちょっと、残念だわ―――趙美鳳大尉は内心、戦場には似つかわしく無い感想を、ほんの少し抱いた。
故郷はもう、BETAの腹の中。 今まで戦ってきた戦場も、荒廃した土地ばかりだった。 豊かな自然は、それだけで贅沢なご褒美なのに・・・
今や、かつて美しかった夜景も、後方から撃ち出される照明弾の光によって、微妙な陰影を作る戦場の光景になってしまった。

目前に、中ほどからポッキリと破壊された大橋が見える。 
尾道側は破壊をする暇も無く、BETAの侵入を許してしまったが、辛うじて大島=今治間の大橋は破壊に成功したのだ。

≪旅団HQより全戦術機甲中隊! BETA共がご来場だぞ、歓迎してやれ! 支援砲撃開始!≫

いつの間にか、HQで戦術機甲部隊のミッション・オペレートをしている(本当は別に担当官が居た筈だ)周蘇紅少佐が、妙に嬉しそうな声で状況を伝えてきた。
同時に旅団の砲兵大隊と、共に展開する日本帝国軍第19師団の砲兵連隊が、203mm、155mm砲弾を一斉に発射し、MLRSを射出する。
夜空に曳行弾とロケット弾の推進炎が光の帯を煌めかせながら飛来して行き、彼方から暗闇を付いてレーザーの光が舞い上がる。

≪HQよりジューファ・リーダー、美鳳。 マリーナ側は日本の第19機甲連隊戦闘団が引き受ける、お前は公園側だけを守れ。
気を抜くな? そこを光線級に取られたら、市内の頭の上が『熱く』なってしまうからな!≫

「了解です、少佐」

≪ああ、それとだ。 日本軍は1個機甲連隊戦闘団と言えど・・・ 残念ながら、F-4J(77式『撃震』)の部隊だ、それに向うも戦術機は1個大隊―――判るな?≫

「・・・既に浄化センター付近に、S-11を設置済みです。 日本軍には内緒ですが」

≪仕方ないさ、気に病むな、そうなっては仕方がない。 我々は滅びゆく祖国でそれを学んだ。 日本人がどう学んでゆくかは知らんが、歴史は類似するものだよ≫

網膜スクリーンに、音紋センサーのアラームが響いた。 そして振動センサーも。 どうやらお出ましの様だ。

「最後の手は、用意してあります。 初手から使う気は、ありませんけれど―――BETA群視認! 戦闘指揮、開始します!」

今回派遣されたUFCの6個戦術機甲中隊―――人民解放軍系の殲撃9型(F/A-92C)が3個中隊と、台湾軍系の経国Ⅰ型(F/A-92T)が3個中隊。
最先任中隊長は、超美鳳大尉。 つまり、そう言う事だ。 私がこの戦場の片翼を担わなければ!
気負うなと言われても、性格はもう直し様がない。 せめて、これまで培ってきた経験をアテにするしか―――

「ジューファ・リーダーより全中隊! BETA群の進路は対岸の大島南端、地蔵鼻から渡海してくる!
馬島への跳躍は禁止! こっちの方が高度を取れるわ! マリーナ側は日本軍が担当する、戦闘境界線は『しまなみ海道』! 
絶対ではないけれど、焦って飛び出し過ぎない様に! いい事!?」

文怜は自分と同じほどに実戦を経験している。 解放軍から派遣されたもう1人の中隊長も、満洲から散々実戦を経験してきた古強者だ。
台湾軍の3人も、対岸の福建省防衛戦で解放軍と協同経験のあるベテランだ。 今更の感がしないでもないが、言ってみればこれは儀式だ。

5人の中隊長達が、スクリーンの先でニヤリと不敵に笑う。 
隣には『戦闘処女』の、日本帝国本土防衛軍部隊。 ここはひとつ、教育してやろうじゃないか―――

(ああ、もう! また向うから嫌味の一つも言われるわ! ・・・文怜、貴女まで!)

難しい夜間戦闘。 都合2個大隊で、約5000のBETA群を相手取る。 本来なら別の緊張と恐怖を抱く場面なのだが・・・

「ジューファ・リーダーより全中隊! 少しは協調性ってものを学習しなさい!―――来たわよ、フォーメーション・ウィング・ダブル! 迎撃開始!」










1998年7月15日 1330 広島県広島市 佐伯区 広島防衛線


戦場には不似合いな光景―――豊かな緑と、広々とした起伏のある芝生が広がる。 そしてそこに多数の攻撃ヘリ。
何の事は無い、攻撃ヘリ部隊が、前線近くの待機場所に丁度都合が良い場所として、ゴルフ場に陣取った話だった。

『ホークアイより“ダカー”、エリアD8Sに中規模のBETA群、約5000、旅団規模だ。 
廿日市市から広工大の方へ抜けるルートだ。 阻止攻撃を要請する、5分で行けるか?』

OH-1≪ニンジャ≫観測ヘリから、BETA群発見と、阻止攻撃要請の報が入った。

「ダカーより“ホークアイ”、承った。 そこは我々のまな板の上だ、捌くのは任せてくれ」

『先頭を突っ走っている連中の甲羅は、えらく固そうらしいがね? まあいい、任せる。 そこからバイパスに乗っかられたら、市内まであっという間だ』


瞬く間に、静かな緑地が騒音にまみれる。
飛行隊長の大尉は、大股の足取りで愛機へと歩み寄った。 そこには、鋼鉄製の危険な猛禽が羽を休め、狩りの時間を待っていた。

AH-1W ≪スーパーコブラ≫ 帝国陸軍が配備を進めてきた、AF-1S≪コブラ≫の発展型。 
AH-64D≪ロングボウ・アパッチ≫を次期主力攻撃ヘリに、と言う話も有るが、現在はこのAH-1シリーズが、帝国陸軍攻撃ヘリ部隊の主力を占めていた。

コクピットに乗り込み、ショルダー・ハーネスを固定する。 コンソール・パネルのメイン電源、オン。
僅かに唸りを上げ、パネルの計器類が一斉にオレンジの光に包まれる。 スターター・スイッチ、オン。
後部のエンジンが金属音を上げ、回転を始めたタービンが膨大な空気を吸い込んで行く。燃料流量計、筒機温度計、回転計―――エンジン系統、正常を確認。
オール・グリーン。 前のガナー・シートに座った砲手からも、準備完了の報告が入った。 ゆっくり、コレクティヴ・スティックを動かす。

「ダカー・リーダーより全機、エリアD8Sで対BETA阻止攻撃。 光線属種は、まだ岩国辺りで迷子になっているらしい。
戦闘高度制限、200m 念には念をだ、それ以上は上がるな。 戦闘巡航(150ノット)以上は出すなよ?」

―――『ラジャ!』

部下達、7機のAH-1W≪スーパーコブラ≫から、一斉に唱和が帰って来た。

「よおし、上がるぞ! アタック・フォーメーション2でいく! “ダカー”、リフト・オフ!」

コレクティヴ・レバーを引く。 同時に両足の間に有るサイクリック・レバーを引いた。 僅かにGがかかり―――≪スーパーコブラ≫が宙に舞い上がった。

高度は高く取れない。 余り取り過ぎると、岩国辺りにいる(筈の)光線級の認識空間に、身を晒す事になってしまう。
高度50m ビルや地上の障害物を回避しつつ、地形をなぞるように飛行する―――地形追従飛行。
コントロール・パネルの機体姿勢を示すフライト・ディレクター、高度計、そして前方の3点を目まぐるしく確認しつつ、250km/hを越す速度で超低空を曲芸飛行する。
やがてバイパス上空を横切り、低い丘陵部を飛び越したその時―――目前にBETA群が広がっていた。 禍々しい、死の色彩。

「リードより各機! タリホー! コンバット・オープン!」

―――『テン・フォー!』

4機1フライトに分かれ、左右に展開を始める。 大尉の直率する4機がまず機首を下げ、ピッチを変えて横転に入った。
急機動で右から左旋回をかけ、ほぼ垂直の角度でバンクした4機のスーパーコブラは、突撃級の集団の後方上空にピタリと占位した。

コクピットの中で大尉はコレクティヴ・レバーを引き、サイクリック・レバーを引き上げる。 攻撃に必要な運動エネルギーを確保する為、高度を100mまで引き上げた。
そのままHUDの照準にピパーが重なる様、慎重に機体を操ってゆく。 やがてピパーがレクチュアルに重なった。 その先には、突撃級BETAが無防備な後ろを晒している。

「ファイア!」

ガナーがトリガーを引いた。
機体の両サイドに取り付けてあった4基16発の95式対BETA用ミサイル。 海軍が開発した95式誘導弾の技術を流用した、新型空対地小型ミサイルが発射された。
『Fire-and-Forget(撃ちっ放し)』能力の為、機体と標的間に遮蔽物が有る射線が形成されていても、全く問題がない。
ミサイルは微妙に飛行経路を変えながら、高速で突撃級の柔らかい後部胴体へと吸い込まれ、その体内で炸裂した。

「1体、撃破!」

米軍使用のAGM-144N・ヘルファイアⅡよりやや小ぶりだが、装甲貫通力は上回る。 
体内にダメージを受けた突撃級が、95式ミサイルを撃ち込まれる度に、次々と停止する。

やがて、4機合計64発の95式ミサイルを撃ちつくした≪スーパーコブラ≫は一度、突撃級の上空をフライパスし、今度は右旋回で後方上空に編隊を持って行った。
フォーメーションを整えながら、300m程の距離で突撃級の集団と合間を取る。 60体以上を片付けたとはいえ、旅団規模。 まだ300体前後の突撃級が残っている。
各機のガナーが、緑色に光るレクチュアルを突撃級の後部胴体に合せる。 トリガーを引いた途端、凄まじい音と震動が襲う。
機首下部のユニバーサル・ターレットに取り付けられた、M197・3砲身20mm機関砲が突撃級に向けて、雄叫びを上げたのだ。
毎分650発の高速で吐き出される20mm砲弾を、30発前後ずつのバースト射撃で突撃級の腹に叩きこむ。

「無駄弾、撃つなよ! 確実に、徹底的に殺れ!」

足元から、痺れる様な震動が断続的に伝わる。 
その振動の先から吐き出される曳光弾の先には、柔らかい胴体をズタズタに引き裂かれ、醜い体液と内臓物をぶち撒いた突撃級が、次々に活動を停止させてゆく。
やがて750発の携行砲弾を撃ち尽した時、更に80体以上の突撃級BETAが屍を晒している様が、上空から見下ろせた。

『ダカー02よりリーダー、ハイドラ(ハイドラ70ロケット弾)は撃ち尽しました。 20mmはアウト・オブ・アンモ』

もう一方の4機を率いていた小隊長機から、通信が入った。
後方の要撃級以下のBETA群に対して、ハイドラ70ロケットランチャーを各機4基。 4機合計で304発のM255E1ハイドラ70ロケット弾をばら撒いた。
これは砲兵部隊以外では、かなり効果的な面制圧攻撃だ。 戦術機部隊の制圧支援機による面制圧力を、遥かに上回る。
胴体面の防御力に比較的優れた要撃級ならば、まだ耐えるかもしれない。 しかし戦車級以下の小型種では、この一斉発射には耐えられない。
その上に、M197の20mm砲弾の豪雨を上空から浴びせられた旅団規模のBETA群は、2000体以上を残骸に変えていた。

「よし、まずはこんな所か。 “ホークアイ”、補給を済ませ次第、再出撃する! 状況はどうだ!?」

『こちらホークアイ。 “ダカー”、お前さんの関心事は、光線級だろう? 安心しろ、まだ岩国を出ちゃいない、もう少し楽しめるぞ』

「それは、それは。 結構な事だ。 よし、“ダカー”、一旦戻るぞ! 高度100!」


ローターの轟音を残しながら、8機のAH-1W≪スーパーコブラ≫の編隊が戦場上空を去って行った。
光線級が確認されない戦場に於いては、BETAとの直接戦闘で最も威力を発揮するのは、航空機―――意外かもしれないが、この情景が事実だった。

“ダカー”飛行隊長は、過ぎ去る戦場の光景を振り返り、無意識に溜息をついていた。
既に戦場は広島市を放棄する所まで来た。 西に目を向ければ、岡山市内が戦場となっている。
昨夜半には、BETAが瀬戸内海を渡海した。 現在は松山市内前面で第12軍団が、国連軍(中韓所属)の2個旅団と共に防衛戦闘を展開中だ。
部隊はこの後、全力で西に向かって撤退を開始する。 岡山でBETA群の相手をしている第7軍団に助力し、兵庫県内まで何とか撤退出来れば。
そうなれば、軍集団主力と合流できる。 第7軍団の北には、強力な打撃力を有する第9軍団が、鳥取市西部でBETA群約2万と睨みあっている。
四国の戦場は、何とか持ち直しそうだと言う。 5000程のBETA群の渡海を許したが、それ以上は侵入しなかった。
現在は国連軍戦力を入れて、約4個師団の戦力で迎撃中―――何とか殲滅出来るだろう。 渡海点の今治市は残骸と化してしまったが。

そこまで思考を進め、そして不意に苦々しい想いに突き当った。 今思い描いた戦場、そこは無人では無いと言う事に。
中国地方に残留していた民間人、その内の未だ脱出できていなかった650万人は、もう救えない。
九州は、北部で500万人以上が犠牲になった。 中部の一部放棄で、その数は150万人程追加されたらしい。
これで西日本だけで1300万人がBETAの腹の中に消えたか、消える予定となってしまった。
ここで更に四国の350万人が加わるのか? いや、それは今のところ大丈夫か―――今のところは、と言う注釈付だが。
政府は近畿・東海の残留民間人の強制避難を実施中だが、捗々しくない。 近畿だけでも未だに2000万人前後が残っている、東海地方を加えれば・・・ 考えたくない。


ローターの轟音が響き渡る。 タービン・エンジンの振動も。 そして現実に戻された。
1300万人―――だが国内には、まだ1億からの国民がBETAの恐怖に怯えているのだ。

(・・・大の為、小を・・・ と言うには、多すぎるがな・・・)

それでも、まだ残っている多数の同胞を、そして祖国を、BETAの猛威から守る事が己が使命だ。
そう、無理やり内心で言い張って、“ダカー”飛行隊長は眼下の惨劇を無視しようとした。 逃げ纏う数百人の民間人が見えたからだった。











1998年7月15日 1840 広島県広島市 広島湾上 練習戦艦『長門』


『第22斉射、開始!』

『後部艦橋に、レーザー直撃! 後部指揮所、応答無し!』

『後部VLS、スタンダードAL-2、残弾20発!』

『前部VLS、スタンダードAL-2、発射!』

『陸軍第2師団、練兵場跡に後退! 国連軍、米軍第2戦術機甲師団は新住吉橋を防衛中!』


既に、広島市の西半分は約9000のBETA群に喰いつかれていた。 
それでなくとも、日米の第2師団は戦力の1/3を北東の向原に差し向けている。 BETA群4000が、北から迫っているのだ。
その中、練習戦艦『長門』は単艦、海上に在って支援砲撃を続けていた。 既に何度か、光線級との交戦で損傷を出している。

「陸軍部隊は、あと10分後に無観測一斉砲撃を敢行。 その後、東広島方面に撤退し福山へ。 第7軍団と合流すると連絡が有りました」

広島と岡山の県境では、山陰から南下してきたBETA群、約1万2000と陸軍第7軍団が交戦中だった。
そして呉に在泊していた艦艇は、台風の影響が収まり次第、次々と出港して行った。 豊予水道は既に大分が放棄された関係上、通過は出来ない。
狭い瀬戸内海を、ノロノロした速度で、いつBETAのレーザー照射を喰らうか緊張しながら(瀬戸内海では、艦艇の戦闘回避行動は不可能だ)脱出して行った。
途中、四国に戻る最中の第50師団が渡り切るのを確認して、西瀬戸自動車道、瀬戸大橋を艦砲で砲撃しながらの脱出行だった。

しかしながら、未だ呉周辺に居残っている艦艇もいる。 主に第3、第4予備役艦籍で、減人員数である為に、満足に航行が出来ない艦艇群だった。
練習戦艦『長門』も、そんな予備役艦艇の1隻だった。 かつては聯合艦隊旗艦を長く務めた栄光の戦艦。 『老後』を、海軍将校の学びの庭で過ごしていた『老嬢』
戦火が広島市に迫ったこの日、在泊艦艇各艦長の同意を得て、不足乗員を各艦からかき集めて、急遽、出撃したのだ―――戦場に向かって。

「他の艦、残りの乗員は?」

「ランチ(連絡艇)で、四国まで脱出しました。 各艦、弾火薬庫に時限信管を満載して、です」

残っているのは、『長門』以外は老齢の小型艦や、雑役艦が殆どだったが、中にはドック入りしていた修理艦艇も2、3隻いた。
それらの艦艇は、BETAの腹の中に入る前に、自らを木っ端微塵にして自沈する。 乗員はその前にランチに分乗して、対岸の四国まで脱出していた。

やがて対岸から、重砲の連続した砲撃音が響き渡った。 いよいよ、陸軍部隊の撤退が開始されるのだ。

「艦長よりホチ(砲術長)、主砲、一斉射撃開始。 目標、市内西部のBETA群」

『ホチより艦長、了解』

4基8門の45口径16インチ砲が、砲塔毎に一斉に陸上を指向する。 砲の仰角を定める為に、砲身がやや上下した。

『射撃指揮所より、上下良し、左右良し―――主砲、撃て!』

8門の主砲から、重量1トンに近い巨砲弾が一斉に発射された。 やがて、目標上空で炸裂し、無数の破片と子弾をばら撒く。
クラスター砲弾とも言うべき、虎の子の九四式通常弾を一斉に砲撃したのだった。
それでも数発は、レーザー照射の直撃によって途中で蒸発されていた。 恐らく重光線級だろう、戦艦主砲弾を、ああも短時間で蒸発させるとは。

『本艦に向け、レーザー照射警報!』

『光菱重工工場跡に、光線級8、重光線級3! 本艦を狙っています!』

『速射砲、発砲開始!』

艦の右舷に設置された127mm単装速射砲が2基、毎分45発の高発射速度で127mm砲弾を光線級、重光線級に向けて撃ち出す。
瞬く間に5、6体の光線級、重光線級が弾け飛んだが、同時に残った個体からのレーザー照射が数本、直撃した。

『右舷電機室、全滅!』

『後部艦橋、倒壊! 第3、第4砲塔使用不能!』

『第3弾火薬庫、庫内温度上昇!』

『機関出力、65%に低下!』

『右舷後部装甲、剥離! 浸水します!』

一瞬の差し違えで、この損害。 やはり水上艦艇にとっては、光線級は脅威だ。
艦長以下、各部署の責任者が次々に指示を飛ばす。

「電路切り替え! 電源供給を切らすな!」

「左舷注水! 第3弾火薬庫放棄、注水開始!」

「ダメコン、急げ!」

その間にも、主砲、VLS、速射砲が休みなく、地上のBETA群に向けて砲弾と対地ミサイルを浴びせかける。
しかし、艦隊での攻撃と違い、戦艦とはいえ1隻だけではどうしても、砲撃密度の面で薄過ぎた。
残った数体の光線級、重光線級から、更に数本のレーザー照射の直撃を受ける。 差し違えで全ての光線級、重光線級を撃破したが、艦体からは爆炎が噴出していた。

『こちら、陸軍第2師団だ! 『長門』、もういい! 退避されたし!』

陸軍部隊から、悲鳴の様な通信が入る。
ただし、それを受け取る『長門』の艦内は、阿鼻叫喚だった。

「速射砲弾火薬庫、誘爆!」

「機関指揮所、応答有りません! 機関科全滅!」

「右舷浸水、6000トンを越しました! 左舷注水量、5800トン! 艦体、沈降開始します!」

「左舷電機室、損傷! 電路、遮断されました!」

「主砲射撃指揮所、レーザー直撃!」

「舵機室、応答無し! 舵機故障!」

「第1砲塔弾火薬庫、庫内温度上昇止まらず! 注水開始します!」

「ダメコンチーム、全滅!」

各所から、断末魔の報告が入ってくる。
既に『長門』は、戦闘力を喪失したに等しい。 機関はほぼ壊滅、舵機の故障で針路の変更も出来ない。 
更には電力供給も、ほぼ途絶えた。 これでは主砲も撃てない、VLSも発射出来ない。
これ以上の交戦は、生き残った乗員を無駄に死なすだけになってしまうだろう。 口惜しいが、ここらが潮時だった。

「・・・航海長、この辺かな?」

「本艦は、持てる全力を出し切りました。 広島の陸軍部隊の撤収も、想定された損害を下回る程度で脱出できると、先程第2師団より感謝の通信が・・・」

「うん、そうか。 ならば、良かった」

艦長の居る場所は、CICでは無かった。 危険だと諌める部下の声をしり目に、戦闘艦橋での指揮を執り続けたのだ。
よくもレーザー照射の直撃を受けなかったものだ。 直撃を受ければ最後、一瞬にして蒸発してしまっただろう。

西の空が、赤々と燃え上っていた。 台風が通過して、大気中の余計な粉塵を洗い流したからだろうか、とても見事な夕焼け空だった。
その赤々とした夕日が、艦橋に照り注いでいる。 その夕日に照らされた艦長の顔を見て、傍らの航海中はふと、それが清冽なまでの返り血の様に、一瞬思えた。

「航海長」

不意に艦長に話しかけられ、航海長はそんな想像を頭の中から追いやった。
改めて艦長を見る。 差し込む夕日に照らされたその顔は、長年海上の武人として鍛えた顔に、穏やかな満足感にも似たものが有った。

「君は生き残りをかき集めて、左舷から脱出しろ。 本艦の艦体が盾になってくれるだろう。
副長も、砲術長も機関長もやられた、生き残りの先任は君だ。 ただし、急げよ。 BETA共が海に飛び込んで来たら、それ程時間は無い」

「艦長・・・」

「まずは、江田島まで行け。 そこからなら、島伝いに四国まで苦労はせんだろう。 兵学校は既にもぬけの殻だろうが、カッター位は残っていよう」

「艦長・・・!」

「・・・定年間近で、ようやく満足のいく戦が出来た、私は満足だ。 惜しむらくは、この老兵の我儘に、多くの部下を付き合わせ、死なせた事だ」

「・・・」

「靖国で、頭を下げて来るよ。 それと、感謝もな」

「・・・全員、自ら望んで、この戦いに身を投じました。 艦長の指揮下で、戦って、満足に死んでいったに違いありません」

それだけ言うと、艦長は少しだけはにかむ様に微笑んだ。 航海長が敬礼する。
それを受けて艦長も答礼する。 お互いの敬礼と答礼を済ませ、航海長が辛うじて生き残っている艦内放送で、生き残り総員に指示を出した。

「―――総員、退避。 繰り返す、総員、退避。 左舷より離艦せよ」

すでに『長門』の行き足―――推進力は止まっていた。 心なしか、右舷側に傾き始めている。

「では、艦長―――」

想いが万感過ぎて、言葉が出ない。

「うん―――諸官の、今後の武運長久を祈る」


そして航海長は艦橋を出た。 彼には未だ、為すべき仕事が有るのだ。





数隻のランチ、それにカッターに兵員を満載して、『長門』の左舷から生き残った将兵が脱出してゆく。
後ろを振り返ると、広島市内から赤々とした炎や、真っ黒な爆炎がわき上がっている。 時折、大きな爆発音がする。 都市ガスに誘爆したのか。

その手前には、ちっぽけな存在である脱出艇を、身をもって守るかのように『長門』が停止していた。
右舷への傾きは、益々酷くなっている。 電力が停止し、流入する海水に対してトリムバランスを取る為の、左舷への注水が出来ないからだ。

「急げ! 急げ!」

艇指揮の中尉や少尉達が、下士官兵たちに声を枯らして叫び続けている。 オールを握る兵達が、顔を真っ赤にして漕ぎ続ける。
もし、『長門』が横転すれば、彼らとても巻き添えを食うかもしれない。 少しでも離れる必要が有った。

ようやく、似島の沖に達した。 右手彼方に宮島、そして左手前方に、懐かしい江田島が見えた。 その時―――





艦橋に一人残った艦長は、さてどうしようか、と、不意に思案に暮れた。
昔ならば、舵輪にホーサー(綱)で体を巻きつけ、艦と共に沈む―――だが、昨今の艦艇はデジタル化されている。
取りあえず、艦長席に座り、下半身をホーサーで椅子に括りつけた。 念の為、長年使っている愛銃を取り出す。
如何に覚悟を決めたとはいえ、BETAに喰い殺されるのは頂けない。

艦橋から眺める景色は、美しかった。 夕日が照りつける赤焼けの山々、市街は真っ赤に照らされ、海面は夕日を反射して輝いていた。
最早BETAなど、どうでもよい。 1秒でも長く、この景色を脳裏に焼き付けたかった。 故国の夕焼け空、美しいこの景色を。

不意に、無意識に、懐かしい歌を口ずさんでいた。

「・・・夕焼け、小焼けの、赤とんぼ。 負われて、みたのは、いつの日か・・・」

そう言えば、故郷の街も、いずれは廃墟と化すのだろうか。
海軍一家に生まれ、軍港所在地を転々として過ごした子供時代。

「山の畑の、桑の実を。 小かごに、摘んだは、まぼろしか・・・」

祖父母の元に遊びに行った、あの山々。 友と遊んだ、あの海辺。

「十五で姉やは、嫁に行き。 お里の便りも、絶え果てた・・・」

家族は無事だ。 疎開した。 親族の幾人かは、連絡がつかない。

「夕焼け、小焼けの、赤とんぼ。 とまっているよ、竿の先・・・」

―――視界が、急転した。







突然、轟音が発生した。 そして暫くして、大きな波長の波が押し寄せてきた。
小さなランチやカッターが、上下左右に振られる。 全員判っていた、北の方角、その海面上に黒々としたキノコ雲が、聳え立っている様を見たのだ。

「長門が・・・ 横転したのだ。 弾火薬庫が、誘爆した・・・」

誰かが、掠れた声で呟いた。
赤い夕焼け空に、高々と爆炎のキノコ雲が舞い上がっていた。







『Indomitable Battleship “NAGATO” sinks―――July 15,1998』(米第2戦術機甲師団 戦闘詳報)




前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.046298980712891