2001年12月24日 1500 日本帝国 旧上越市沖 ウイスキー上陸部隊第2派別働部隊(上陸第2軍) 強襲上陸作戦指揮艦『千歳』
『千歳』は姉妹艦の『千代田』と共に、世界最大級の強襲上陸作戦指揮艦であり、『千歳』級のネームシップである。
今回、作戦総司令部が『千代田』に、上陸第1軍司令部はドック型揚陸艦『津軽』に作戦指揮艦を指定した。 『千歳』は上陸第2軍の作戦指揮艦だった。
広い作戦室内には軍司令部、そして各軍団司令部、更には各師団長、副師団長、そして作戦参謀・・・凡そ上陸第2軍の主要幹部級以上の上級指揮官たちが一堂に集まっている。
『千歳』から指揮を執るのは、ウイスキー別働部隊の7個師団―――新編第17軍団(第10、第14、第15師団)、新編第19軍団(第27、第30、第31、第33師団)
この別働2個軍団を指揮する宮崎陸軍中将。 各方面から甲21号作戦のために抽出された各師団を、新編成の軍団に再編し、その内の2個軍団を有する、上陸第2軍司令官である。
「・・・本作戦の戦略目的は、かくの如しであります」
G3(軍司令部作戦主任参謀)が、背後のスクリーンを指し示す。
『―――作戦名『決号作戦』(甲21号攻略作戦)
・戦略目的:本土東日本の脅威排除・安定化。
・・作戦目標:甲21号目標の無力化(第1目標)、及び敵施設の占領、及び、可能な限りの敵情収集(第2目標)』
大戦略としては、本土の直接脅威の排除と、安定化。 その為の甲21号目標の完全無力化を目指す。 これにより日本は『柔らかい横腹』を突かれる恐れがなくなる。
「この戦略目的、作戦目標に対し、攻略軍の戦術目標は以下の如しであります」
『―――『決号作戦・戦術目標』
・第1段階
・・国連軌道艦隊による突入弾による軌道爆撃
・・第2、第3艦隊による艦砲射撃
・・第1艦隊、国連艦隊(米第7艦隊)による艦砲射撃
・・真野湾、両津湾、2方面よりの強襲上陸による戦域確保
・・松ヶ崎を起点とする南東部海岸線への強襲上陸・確保による、兵站主地の確保
・・松ヶ崎より真野湾、両津湾、2方面への戦域確保と、兵站線確立
・第2段階
・・ウイスキー第1派主力を持って、真野湾方面戦域の沢根=高瀬の戦線を維持
・・エコー第1派主力を持って、両津湾戦域方面の北松ヶ崎までを確保
・・本時点でウイスキー、エコーの各第2派、及びウイスキー第2派別働の各部隊は上陸開始
・・真野湾、両津湾と第1派との連絡を確保する
・・ウイスキー第2派別働部隊による、佐渡島中央部の確保(真野湾=両津湾間の連絡確保)
・第3段階
・・国連軍第6軌道降下兵団の再突入開始
・・帝国軍4個独立機動大隊(ハイヴ突入特別戦術機甲大隊)と共同の上、ハイヴ突入開始
・・中間層制圧の後、ウイスキー、エコー、各第3派、ウイスキー第3派別働部隊上陸。
・・ハイヴ内兵站線確保は、ウイスキー第3派別働部隊、これを担う。 地上兵站線確保はウイスキー第2派別働部隊、これを担う。
・第4段階
・・ハイヴ最深層到達後、ウイスキー第2派、エコー第2派、ウイスキー第2派別働の各部隊、ハイヴ突入開始。
・・国連軍特務部隊への協同を行う。
・・地上の戦域確保はウイスキー、エコーの各第3派、これを担う。 ハイヴ内兵站確保は、ウイスキー第3派別働部隊、引き続きこれを担う。
・第5段階
・・甲21号目標最深部『大広間』の完全制圧。 並びに『アトリエ』を含む主要部分の完全占領』
並み居る諸将、参謀たちが唸る。 難しい、非常に難しい作戦だ。 戦域での自由度を確保する余地のない、狭い戦場。 押し迫るタイムスケジュール。
僅かの齟齬も許されない。 僅かの逡巡も許されない。 最早部下達の死は、『統計数値』として認識するしかない作戦となるであろう・・・
「以上の戦術目的による、我が上陸第2軍の戦術目的は、佐渡島南東部海岸の兵站主地確保、並びに島中央部までの背に木確保による兵站線の確立。
そしてハイヴ突入後の、地上からハイヴ内への兵站線確保、及び兵站末地の確立であります。 主攻はウイスキー主力、及びエコーの両部隊。 我々ウイスキー別働は裏方でありますが・・・」
しかし兵站が確立されなければ、如何な大軍とてたちまち往生してしまう。 古来より兵站が上手くいって負けた例はあるが、兵站が上手くいかず勝った例はない。
ウイスキー主力である海軍聯合陸戦第2軍団(聯合陸戦第1、第2師団)、第16軍団(第2、第3、第7、第19師団)、第18軍団(第5、第8、第12、第13師団)は主力だ。
そしてエコー部隊の米海兵隊第2軍、UN第21軍団、UN第22軍団も10個師団を有する、北部戦域の主力である(このほかに2個師団の戦略予備師団がある)
この両軍(ウイスキーは上陸第1軍、エコーは上陸第3軍)の間を繋ぎ、戦線を有機的に運用するための任務を課せられたのが、上陸第2軍の7個師団であった。
戦略予備を含め、地上部隊はウイスキー主力が14個師団、エコー部隊は12個師団。 そして支援任務を行うウイスキー別働は7個師団。
この他に第6軌道降下兵団10個大隊、帝国陸軍独立機動大隊(戦術機甲大隊戦闘団)4個がハイヴ突入第1陣として控える。
洋上の支援艦隊は、真野湾に展開する予定の帝国海軍第2艦隊(戦艦6、正規戦術機母艦4、大型巡洋艦2、イージス巡2、打撃軽巡2、イージス駆4、汎用駆15、ミサイル砲艦36)
両津湾に展開予定の帝国海軍第1艦隊(戦艦2、戦術機母艦2、イージス巡2、打撃巡2、イージス駆2、汎用駆10)と、米第7艦隊が展開する。
米第7艦隊は2個任務部隊・4個任務群からなり、戦艦5、空母(戦術機母艦)3、大型巡洋艦2、イージス巡8、ミサイル巡2、イージス駆18、ミサイル駆11から成る。
両艦隊合わせて戦艦7、戦術機母艦4、大型巡洋艦4、イージス巡10、ミサイル(打撃)巡4、イージス駆22、ミサイル駆21になる。
佐渡海峡に展開予定の帝国海軍第3艦隊は、戦艦4、戦術機母艦4、イージス巡4、打撃巡2、イージス駆4、汎用駆15である。
「状況によっては、ウイスキー主力の後、我々、ウイスキー第2派別働部隊も、ハイヴ最深部突入の可能性あり。 状況に応じ、戦力の抽出も有ります。 が、基本は戦線の維持」
その為の兵站線の確保。 誠に地味だが、誠に困難な任務だ。 まさしく裏方の戦場と言える。
「また本作戦の第2目標は、国連太平洋方面軍との共同特殊作戦であります。 国連軍側の作戦発起点は、旧上新穂。 従ってその前面にある旧65号線を絶対死守となります」
上新穂は南部・小佐渡山地の中央に位置し、その前面には新穂ダム跡がある。 甲21号目標からは南西に12kmほどの地点。 兵站支援戦域の真っ只中でもあった。
ハイヴ突入直前までの守備範囲として、旧65号線に沿って中央部の畑野から行谷までが第14師団、北部の行谷から潟上・加茂湖までは第10師団、畑野から南部の真野までが第15師団。
この時点まででウイスキー主力第1派は北部大佐渡山地の沢根=高瀬の戦線を構築。 ウイスキー主力第2派が真野湾岸の旧窪田から国府川河口の真野北部までを維持。
エコー第1派は北松ヶ崎で戦線を構築。 エコー第2派は加茂湖北部から羽黒山、藤権現山、白瀬に至る北部支援戦域を確保する。
「オービットダイバーズの軌道降下、並びに独機大隊のハイヴ突入後は、ウイスキー主力第3派、エコー第3派が上陸。 それに従い、兵站支援戦域を中央部の国仲平野北部まで前進」
ウイスキー第3派別働部隊、4個師団がハイヴ突入部隊の後を追って、ハイヴ内兵站線の確立を目指す。 中間層から下層に突入した時点で、ウイスキー主力第2派がハイヴに突入する。
「その後、戦況に応じ、最深部到達と同時にエコー第2派もハイヴ内に突入。 最深部『大広間』の制圧を目指します。
その間の地上の戦域確保、並びにハイヴ内中間層までの兵站線確保は、我々、ウイスキー第2派別働、並びにエコー第2派、第3派が行います」
第1段階は小佐渡山地北部前面の戦線確保。 第2段階で中央部の国仲平野から北部大佐渡山地までの戦域を確保。 最後はハイヴ中間層までの確保となる。
作戦主任参謀の説明が終わった後、軍司令官の宮崎中将が立ち上がり、静かに訓示した。
「・・・佐渡島を無力化能えば、帝国には最低でも、あと10年の時間が許されるであろう。 能わねば、最早、亡国である―――諸将、諸官、勇敢なれ」
上陸第2軍の全将官、高級参謀たちは、無言で敬礼を返した。
2001年12月24日 1800 日本帝国 旧上越市沖 ウイスキー上陸部隊第2派別働部隊(上陸第2軍) ドック型揚陸艦『男鹿』 第15師団作戦指揮艦
「・・・我々は旧赤泊付近に上陸後、旧65号線跡を北上。 真野湾南東部の旧真野新町から、旧65号線沿いに小倉川西岸の畑野西部までを防衛線とし、この戦線を維持する」
第15師団の部隊長級・・・大隊長以上が集められた師団作戦会議。 既に後は作戦発起を待つのみであるので、詳細は語らない。 あくまで概略の最終確認だ。
「敵の・・・BETAの耳目は真野湾のウイスキー主力第1派と第2派、そして両津湾のエコー第1派が集めてくれる。 我々は艦隊の支援は最も薄く、陸戦隊の強襲上陸部隊も無しだが」
それでも、『こっそりと裏口から』上陸が出来るであろう。 師団G3(作戦主任参謀)の三浦中佐が苦笑したように言う。 実際『裏口入島』などと、師団内で言われている。
「裏口でも何でもいい。 最も損害が大きくなる強襲上陸時の損耗を、それで防げるのならばな」
TSF―――戦術機甲部隊の最先任指揮官・荒蒔中佐が、真面目な表情で言った。 海軍陸戦隊の『海神(イントルーダー)』が居ないこの方面では、彼ら師団TSFが真っ先に上陸する。
荒蒔中佐の言葉に頷いた三浦中佐が、言葉を続けた。
「強襲上陸第1陣は、第151と第152戦術機甲大隊。 周防少佐、長門少佐、宜しいか?」
「了解です」
「はっ」
6名いる戦術機甲大隊指揮官の内、最先任の荒蒔中佐に次ぐ、戦術機甲部隊指揮官のNo.2とNo.3であり、この手の『荒事』の経験が豊富な周防少佐と長門少佐が指名される。
「第1陣による海岸線橋頭堡確保の後、TSF主力が上陸。 旧81号線と交差する備附山より西の笠取山、東の外山ダム跡から海岸線手前のヒルメ山までを確保。
中央は第153(荒蒔中佐指揮)と第154(間宮少佐指揮)の2個戦術機甲大隊。 西部は第155(佐野少佐指揮)、東部は第156(有馬少佐指揮)の両戦術機甲大隊が担当する」
TSFによる橋頭堡確保と、戦域拡大の後、機械化装甲歩兵部隊が上陸。 小型種BETAに対する警戒を行う。 その後、機械化歩兵部隊、機甲部隊、自走砲部隊を含む戦闘車両・重装備を揚陸する。
装備の揚陸完了後、師団は小佐渡山地内陸部への侵攻を開始。 途中のBETA群を排除しつつ、真野湾南東部の真野新町を目指す。 その後、旧65号線に沿って戦線を構築する。
「我が師団を含む第17軍団は、ウイスキー第2派別働部隊。 海軍聯合陸戦隊2個師団が真野湾一帯を確保した後、主力第2派の真野湾上陸と同時に南東部海岸線に上陸する。
第17軍団の任務は、小佐渡山地の戦域確保。 並びに真野湾、両津湾に至る兵站連絡線の確保と維持。 なにせ、この両湾には兵站末地は構築できないからな・・・」
甲21号との距離が近すぎる上、場所は島の中央部の国仲平野だ。 こんな所にデポ(兵站地)を設置すれば、BETAの格好の餌食と化すだろう。
それ故に、最も離れた、そして地形的に岩盤部分が多く残る小佐渡山地東岸の海岸線に、兵站末地を設営する必要があった。 それだけではない。
「ウイスキー主力、そしてエコーもだが、艦隊の支援砲撃は受けやすいが、自前の砲兵部隊を展開できない。 甲21号との距離が近すぎる、砲兵に近接戦闘をさせられない」
同時に他の支援部隊もだ。 それらの部隊は一括して、第17軍団指揮下で南東部の小佐渡山地に展開する事になる。 小佐渡山地の岩盤を盾に、支援砲撃を繰り返す。
M110 203mm自走榴弾砲(自走20榴)なら射程21,300m、99式 自走155mm榴弾砲ならば30,000m、長射程弾(ベースブリード弾)ならば40,000mの射程がある。
他にもMLRSならば45,000m以上、牽引式のFH70 155mm榴弾砲ならば24,000m、RAP弾(ロケットアシスト推進弾)で30,000mに達する。
小佐渡山地に陣取り、優に北部の大佐渡山地を射程に入れての支援砲撃が可能になるのだ。 よって小佐渡山地は、兵站発起点であると同時に、支援砲撃の要地ともなる重要な場所だ。
「作戦発起は国連軌道艦隊の突入弾分離後、敵BETA群のレーザー照射迎撃確認、重金属運発生後となる。 予定では0900、第2艦隊の艦砲射撃が開始される予定だ」
その後に海軍聯合陸戦隊の4個強襲上陸大隊(スティングレイ)が、潜水母艦より発進して強襲上陸開始。
第2艦隊による真野湾旧河原田一帯の面制圧完了、旧八幡新町への砲撃継続を待って、母艦戦術機甲部隊発艦。 広域面制圧攻撃を開始する。
「ウイスキー上陸第1派(海軍聯合陸戦第1、第2師団)の強襲上陸開始は、スティングレイの橋頭堡確保の後。 タイムスケジュールでは0935」
これらの部隊が旧八幡新町、旧河原田本町を確保し、エコー揚陸部隊が両津港沖にオン・ステージした後、ウイスキー第2派、同第2派別働部隊、エコー上陸1派が上陸作戦を行う。
第15師団はウイスキー第2派別働部隊のうちの一つ。 上陸後、小佐渡山地の南東部を確保する事が任務となっていた。 その後に確保戦域を拡大し、国仲平野南東部まで進出する。
「ここから先は本番だ。 主役はオービットダイバーズ(国連軍第6軌道降下兵団)、そして帝国軍の4個独立機動大隊(大隊戦闘団)、彼らがハイヴに突入する」
その後は・・・心境としては、最早、『天祐を信じ突撃せよ』であろう。 何せ、過去の戦訓でもハイヴ突入後、4時間前後で作戦は破たんし、失敗し続けているのだ。
「今回は隠し玉がある。 国連軍と我が軍、双方にな。 上手くいけば地表に限り、BETA群を一掃出来得るほどの」
日本帝国軍・戦略航空機動要塞『YG-70b』、秘匿名称『義烈』 国連軍も『準同型艦』を投入するという。 詳細は軍機故に、部隊長クラスでさえ知らされていない。
「各部隊長に対する留意点は、『義烈』、及び国連軍の準同型艦が攻撃開始体勢に入った際、その射軸上には決して入らない事。 冗談ではなく『消滅』するそうだ。
第2に、『義烈』、及び国連軍の準同型の直援に入る事態になった際、装甲表面から10m以上離れる事。 そしてさらにその際、発射体勢に入った艦体の直後に位置しない事だ」
「何か影響が?」
第153機械化歩兵装甲大隊長・高谷少佐が質問する。 他の数名の大隊長も同様の表情だ。 G3(師団作戦参謀)の三浦中佐が、G2(師団情報参謀)の矢作中佐を振り返った。
師団G2・矢作冴香中佐は元通信大隊長を務め、その後に情報畑に転じた。 30代に入った女性将校だが、一部熱烈な信奉者が居る、と噂される冷たい美貌とスタイルの持ち主だった。
矢作中佐が三浦中佐から説明を引き継ぐ。
「ここで一部情報を開陳しても、問題は無いと思う・・・『義烈』、並びに国連軍の準同型艦の主兵装は、『荷電粒子砲』である・・・とんでもなく大出力の、超強力な電子レンジよ。
それを収束させ、指向性を持たせて放つ。 戦術機や戦車の電磁波遮断処置程度では、人も電子機器も、直撃されれば瞬殺・・・いえ、蒸発するわ」
直撃でなくとも、エネルギーの影響範囲に入れば完全に蒸し焼きにされるだろう―――冷たい美貌に妖しい笑みを浮かべてそう言う矢作中佐は、確かに特殊な人々の垂涎だろう。
しかし同僚たちは、彼女が戦死した夫に未だ操を立てていて、一人息子の幼い愛息に惜しみなく愛情を注いでいる良き母親である事を知っている(本人の前では怖くて言えないが)
「従って主兵装発射時は、車線軸上はおろか、その中心線から100mの範囲内に入る事を厳禁する。 更には直援に就く可能性のある場合、艦体後方、艦幅から後方100mも侵入厳禁」
更に、国連軍の準同型艦は再発射までのクールタイムが約4分、『義烈』はクールタイムが約3分ある。 よって同時砲撃は行わない。 交互砲撃を行う。
「国連軍の準同型艦には、専属の直援部隊が付く事になる。 戦術機甲1個中隊だが、無論それだけの戦力でカバーできる訳ではない」
従って、第17軍団が『間接護衛』を行う。 出来得る限り、接近してくるBETA群を削る訳だ。 これは『義烈』にも同様の間接援護を行う。
「もっとも、荷電粒子砲しか兵装を持たない国連軍の準同型艦とは異なり、『義烈』は荷電粒子砲の他に、艦載型と同型の127mm電磁投射砲を単装2基搭載する」
他にも、今回の作戦で帝国軍が先行量産型を投入した『ライトガスガン』 試作型では155mm、105mm、57mmの3種類が開発された。 『01式特殊野戦砲』
このヘリウムガスを作動流体として用いる新型砲を、71口径105mm単装砲6基を搭載する(155mm砲は60口径、57mm砲は85口径)
ライトガスガンは理論上、ヘリウムガス使用の場合、火薬の燃焼ガスよりも大きなエネルギーを伝播させることができ、理論上の上限は7.8倍になる。 実用上では5.3倍。
戦闘車両としては、退役したM42自走高射機関砲の66口径40mm連装対空機関砲M2A1を降ろし、本試作57mm単装砲を搭載した『試作01式野戦自走高射砲』を57輌。
74式戦車から旋回砲塔を撤去し、代わりに固定式戦闘室に変更して本試作105mm砲を搭載した『試作01式駆逐戦車』が38輌。
そして重装輪回収車の車体をベースに、本試作155mm砲を搭載した『試作01式火力戦闘車』12輌が製作された。 全て今回の作戦に投入されている。
先だってのBETAの新潟侵攻後、佐渡島での『先行試験作戦』の結果、57mmでも射程4000mで突撃級BETAの正面装甲殻を見事に射貫させている。
105mm砲で有効射程8500m、155mm砲が有効射程15,000mで、突撃級BETAの正面装甲殻をそれぞれ見事に射貫させた。
要撃級ならば57mmでも、6000m以内で全て撃破可能。 現状で電磁投射砲に次ぐ高初速・高貫通力を有する砲だ。 製造コストは電磁投射砲のおよそ10%に過ぎない。
戦術機の突撃砲に搭載の120mm滑腔砲では、撃破可能射程距離が射距離300mあたりだ。 400mを超すと2~3発を同一箇所に当てなければ貫通できない。 500m以上は弾かれる。
この事を考えると、『義烈』搭載の火砲は127mm電磁投射砲単装2基、105mm特殊野戦砲(ライトガスガン)単装6基。 速射性を入れれば、距離8000m辺りから掃討可能だ。
そして近接防御用の通常機関砲として、GAU-12イコライザー(25mm・5砲身ガトリング式ロータリー機関砲)を、36mm口径に改良した『99式艦載機関砲』を12基搭載する。
但し、ここにも昨今の新技術は盛り込まれている。 装薬が炭素骨格火薬から、ホウ素骨格火薬に換装されている。 従来の炭素骨格火薬の2倍以上のエネルギーを発生させる。
この『ボロン(ホウ素)・コンポジット(BC)』の実用化で、装薬量はかなり軽減でき、砲弾全長も短縮出来た事で、装弾量の増大を実現させた―――兵站部署にとっては悪夢だ。
この新型装薬を用いた新型36m砲弾(戦術機の突撃砲の36mm砲弾にも用いられている)を発射する、5砲身ガトリング式ロータリー機関砲を、『義烈』は12基搭載している。
遠距離攻撃から近接攻撃まで、荷電粒子砲以外も充実させている。
国連軍の準同型艦と同じく、『義烈』もまた、荷電粒子砲発射時は艦底部と後方部以外の『ラザフォード場』が無くなる。 但し回復に要する時間は15秒だけだ。
そして荷電粒子砲以外の火力使用については、『ラザフォード場』を展開しながらの、火力使用が可能な点が大きい。 光線属種から防御しつつ、他のBETAを制圧出来得るのだ。
前者の『欠点』についても、解決の目途は立っている。 数か月後には『ラザフォード場』を展開しつつ、荷電粒子砲の連続発射を行えるであろう。
「基本的に『義烈』は独力で作戦遂行可能だ。 だがそれでも限度がある、故に我が第17軍団が間接護衛任務に就く・・・事もある」
第15師団の部隊長クラスのほぼ全員が、嫌そうに顔をしかめた。 こう言った『厄介事』を背負い込む『癖』が、この師団には確かにあるからだ。
「とは言え、我々の主任務はあくまで、兵站線の確保と維持だ。 よって『間接護衛』は、『余力のある場合にのみ』、実施する」
G3・三浦中佐の言葉で、その場にいた部隊長たちは確信した―――『義烈』は兎も角、国連軍には勝手にやってもらう。 そして『間接援護』は恐らく『間に合わない』
正直、己が任務を遂行するだけで、首が回らなくなるであろうからだ。
2001年12月24日 2100 日本帝国 旧上越市沖 ウイスキー上陸部隊第2派別働部隊(上陸第2軍) 第15師団第151戦術機甲大隊 戦術機揚陸艦『松浦』
『煙草盆』―――艦内は基本、禁煙である。 これは商船でもそうだ。 そして帝国海軍艦艇の場合、決められた所定の場所に『煙草盆』を出し、そこで喫煙する。
木箱の内部にブリキ板を敷いたスタイルは、明治・大正の頃の海軍と変わらないスタイルだ。 これを石綿製の敷物の上に置く。 『松浦』の『煙草盆』は艦橋後部の露天甲板にある。
「・・・馬鹿だと言われても、スモーカーは止められませんね」
「うん。 これはもう、宿痾(治らない病気)だな・・・」
夜、僚艦が並ぶその舷灯を見ながら煙草を吸いつつ、言うのは第151戦術機甲大隊の先任中隊長・最上英二大尉。 煙草を吸いながら、相槌を打つのは大隊長の周防少佐。
「遠野(遠野麻里子大尉、第3中隊長)や来生(来生しのぶ大尉、大隊副官兼第2係主任(情報・保全))あたりからは、白い目で見られますが・・・」
「俺なんか、香川(香川由莉中尉、第2中隊第2小隊長)あたりから、煙草を吸っていたら、汚物を見る様な視線で睨まれますよ・・・」
これまたスモーカーの大内和義大尉(副大隊長兼大隊第1係主任(人事・庶務))、第2中隊長の八神涼平大尉が、やや凹みながら言う。
12月下旬の日本海洋上。 いくら防寒装備を着込んでいるとは言え、真冬の海を渡る風は、それも夜間となれば身を切るように冷たい。
それでも煙を求めるのは、モク中たるの宿痾だ・・・馬鹿なモク中男が4人、寒さに震えながら身を寄せ合って煙草を吸っている。
「・・・実は、俺の同期生で軍司令部の通信班長をしている奴がいます。 負傷して戦術機を降りて、通信に鞍替えした男ですが」
最上大尉が周防少佐を見つつ、誰ともなく言い始めた。
「作戦発令直前、今年最後の同期会をやったんですが・・・その時に奴から漏れ聞いた話です。 今回の作戦発令時期は、余りに急だった」
なにしろ、今月の上旬にあんな事件が発生したのだ。 普通に考えれば、作戦発令は1カ月か2か月は遅れる、軍人ならば誰もがそう考える。 最上大尉もそう考えた。
「軍司令部内の、それもスペさんの間の噂で、『横浜の横やりで、年内発令に決定した』と・・・」
『スペさん』―――昔の特務士官の事で、下士官から昇進した超ベテランの准士官、士官達の事を指す。 軍隊歴も20年以上、軍の隅々まで把握する苔むした古狸達。
そのネットワークは、高級将校でしか知り得ない情報でさえ、時として嗅ぎ付け、そして深く静かに情報が、そのネットワーク中に回る。
故に、『スペさん情報』となれば、その信憑性は軍情報本部や情報省、国家憲兵隊並み『以上の』信頼性で捉えられる。
「スペさん情報か・・・俺の所には入っていないが・・・」
短くなった煙草を消して、性懲り無くもう1本、煙草に火を点ける周防少佐。 一息吹かした後で、部下達を見回しながら言った。
「例えそうだとしてもだ、作戦自体は発令されただろう。 そして最早、それが1カ月、2か月の差など些末に過ぎない状況だという事も、貴様たちは理解しているだろう?」
色々な情報が軍内部を飛び交っている。 佐渡島のBETA群も最近また活性化しつつある。 最早、時期を選ぶ余地は限りなく少なくなっているのだ。
「珍しく横浜が『協力的』だそうだ。 作戦の独立指揮権要求を引っ込めたそうだ。 もっとも独立裁量権は結構大きいそうだが・・・」
それでも作戦の総責任者は、攻略作戦総司令官の嶋田陸軍大将だ。 横浜の裁量権は、直接の上級者である海上作戦担当副司令官の小澤海軍大将を通じ、嶋田大将の承認が必要となる。
更に言えば、地上戦とハイヴ攻略戦に関する事項は、地上作戦担当副司令官である国連軍(米軍)の、ロブリング米陸軍大将の同意も必要となって来る。
「事、これだけの大規模作戦に至っては、横浜の横槍も通じないし、通す事もしないだろう。 色々と言われている人物だが、愚者ではないだろう」
でなくば、あれほどの大組織をほぼ1人で掌握し、運用することなど不可能だからだ。 本来は、様々な面で『天才』なのだろう。 もっとも、故に独善的な面があるのかもしれない。
「帝国軍もまた、横浜の提案にメリットを見つけたのだろうな。 だから作戦を発令した・・・俺達は与えられた任務を遂行するばかりだ。 いいな? 変に勘繰りを入れるな」
部下達を諭すように言う。 この辺りの勘は、周防少佐は経験上、結構当たる。
その後、大内大尉と八神大尉が艦内に戻り、周防少佐と最上大尉の2人で居残った。
「少佐・・・部下達には全員、遺書を書かせました」
「うん・・・」
「自分は、書いておりません」
「・・・うん」
周防少佐も、最上大尉も、それから無言で煙草を吹かし続けた。
「来春には・・・最上、貴様も少佐に進級だなぁ・・・」
「後を八神に任せるのは、ちょっと心配ですけれどね・・・」
最上大尉は、周防少佐の1期後輩である。 そして第2選抜で、来春3月末の定期人事で、少佐進級が内定している。
「八神もまあ、育っているよ。 遠野も経験を積んだしな・・・」
順当にいけば、23期B卒の三島晶子中尉(第1中隊第3小隊長)、香川由莉中尉(第2中隊第2小隊長)、鳴海大輔中尉(第3中隊第2小隊長)辺りが、同時期に大尉に進級する。
勿論、中隊長として転出もあるが、場合によってはこの3人の内、1人が最上大尉の後釜に座る可能性が大きい筈だ。
「いずれにせよ、この作戦が終わってからだが・・・」
煙草を消して、ふと、夜の洋上に錨泊して並ぶ僚艦群の舷灯を見ながら、周防少佐が言った。
「最上。 貴様は得難い右腕だよ」