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No.20952の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 第2部[samurai](2016/10/22 23:47)
[1] 序章 1話[samurai](2010/08/08 00:17)
[2] 序章 2話[samurai](2010/08/15 18:30)
[3] 前兆 1話[samurai](2010/08/18 23:14)
[4] 前兆 2話[samurai](2010/08/28 22:29)
[5] 前兆 3話[samurai](2010/09/04 01:00)
[6] 前兆 4話[samurai](2010/09/05 00:47)
[7] 本土防衛戦 西部戦線 1話[samurai](2010/09/19 01:46)
[8] 本土防衛戦 西部戦線 2話[samurai](2010/09/27 01:16)
[9] 本土防衛戦 西部戦線 3話[samurai](2010/10/04 00:25)
[10] 本土防衛戦 西部戦線 4話[samurai](2010/10/17 00:24)
[11] 本土防衛戦 西部戦線 5話[samurai](2010/10/24 00:34)
[12] 本土防衛戦 西部戦線 6話[samurai](2010/10/30 22:26)
[13] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 1話[samurai](2010/11/08 23:24)
[14] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 2話[samurai](2010/11/14 22:52)
[15] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 3話[samurai](2010/11/30 01:29)
[16] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 4話[samurai](2010/11/30 01:29)
[17] 本土防衛戦 京都防衛戦 1話[samurai](2010/12/05 23:51)
[18] 本土防衛戦 京都防衛戦 2話[samurai](2010/12/12 23:01)
[19] 本土防衛戦 京都防衛戦 3話[samurai](2010/12/25 01:07)
[20] 本土防衛戦 京都防衛戦 4話[samurai](2010/12/31 20:42)
[21] 本土防衛戦 京都防衛戦 5話[samurai](2011/01/05 22:42)
[22] 本土防衛戦 京都防衛戦 6話[samurai](2011/01/15 17:06)
[23] 本土防衛戦 京都防衛戦 7話[samurai](2011/01/24 23:10)
[24] 本土防衛戦 京都防衛戦 8話[samurai](2011/02/06 15:37)
[25] 本土防衛戦 京都防衛戦 9話 ~幕間~[samurai](2011/02/14 00:56)
[26] 本土防衛戦 京都防衛戦 10話[samurai](2011/02/20 23:38)
[27] 本土防衛戦 京都防衛戦 11話[samurai](2011/03/08 07:56)
[28] 本土防衛戦 京都防衛戦 12話[samurai](2011/03/22 22:45)
[29] 本土防衛戦 京都防衛戦 最終話[samurai](2011/03/30 00:48)
[30] 晦冥[samurai](2011/04/04 20:12)
[31] それぞれの冬 ~直衛と祥子~[samurai](2011/04/18 21:49)
[32] それぞれの冬 ~愛姫と圭介~[samurai](2011/04/24 23:16)
[33] それぞれの冬 ~緋色の時~[samurai](2011/05/16 22:43)
[34] 明星作戦前夜 黎明 1話[samurai](2011/06/02 22:42)
[35] 明星作戦前夜 黎明 2話[samurai](2011/06/09 00:41)
[36] 明星作戦前夜 黎明 3話[samurai](2011/06/26 18:08)
[37] 明星作戦前夜 黎明 4話[samurai](2011/07/03 20:50)
[38] 明星作戦前夜 黎明 5話[samurai](2011/07/10 20:56)
[39] 明星作戦前哨戦 1話[samurai](2011/07/18 21:49)
[40] 明星作戦前哨戦 2話[samurai](2011/07/27 06:53)
[41] 明星作戦 1話[samurai](2011/07/31 23:06)
[42] 明星作戦 2話[samurai](2011/08/12 00:18)
[43] 明星作戦 3話[samurai](2011/08/21 20:47)
[44] 明星作戦 4話[samurai](2011/09/04 20:43)
[45] 明星作戦 5話[samurai](2011/09/15 00:43)
[46] 明星作戦 6話[samurai](2011/09/19 23:52)
[47] 明星作戦 7話[samurai](2011/10/10 02:06)
[48] 明星作戦 8話[samurai](2011/10/16 11:02)
[49] 明星作戦 最終話[samurai](2011/10/24 22:40)
[50] 北嶺編 1話[samurai](2011/10/30 20:27)
[51] 北嶺編 2話[samurai](2011/11/06 12:18)
[52] 北嶺編 3話[samurai](2011/11/13 22:17)
[53] 北嶺編 4話[samurai](2011/11/21 00:26)
[54] 北嶺編 5話[samurai](2011/11/28 22:46)
[55] 北嶺編 6話[samurai](2011/12/18 13:03)
[56] 北嶺編 7話[samurai](2011/12/11 20:22)
[57] 北嶺編 8話[samurai](2011/12/18 13:12)
[58] 北嶺編 最終話[samurai](2011/12/24 03:52)
[59] 伏流 米国編 1話[samurai](2012/01/21 22:44)
[60] 伏流 米国編 2話[samurai](2012/01/30 23:51)
[61] 伏流 米国編 3話[samurai](2012/02/06 23:25)
[62] 伏流 米国編 4話[samurai](2012/02/16 23:27)
[63] 伏流 米国編 最終話【前編】[samurai](2012/02/20 20:00)
[64] 伏流 米国編 最終話【後編】[samurai](2012/02/20 20:01)
[65] 伏流 帝国編 序章[samurai](2012/02/28 02:50)
[66] 伏流 帝国編 1話[samurai](2012/03/08 20:11)
[67] 伏流 帝国編 2話[samurai](2012/03/17 00:19)
[68] 伏流 帝国編 3話[samurai](2012/03/24 23:14)
[69] 伏流 帝国編 4話[samurai](2012/03/31 13:00)
[70] 伏流 帝国編 5話[samurai](2012/04/15 00:13)
[71] 伏流 帝国編 6話[samurai](2012/04/22 22:14)
[72] 伏流 帝国編 7話[samurai](2012/04/30 18:53)
[73] 伏流 帝国編 8話[samurai](2012/05/21 00:11)
[74] 伏流 帝国編 9話[samurai](2012/05/29 22:25)
[75] 伏流 帝国編 10話[samurai](2012/06/06 23:04)
[76] 伏流 帝国編 最終話[samurai](2012/06/19 23:03)
[77] 予兆 序章[samurai](2012/07/03 00:36)
[78] 予兆 1話[samurai](2012/07/08 23:09)
[79] 予兆 2話[samurai](2012/07/21 02:30)
[80] 予兆 3話[samurai](2012/08/25 03:01)
[81] 暗き波濤 1話[samurai](2012/09/13 21:00)
[82] 暗き波濤 2話[samurai](2012/09/23 15:56)
[83] 暗き波濤 3話[samurai](2012/10/08 00:02)
[84] 暗き波濤 4話[samurai](2012/11/05 01:09)
[85] 暗き波濤 5話[samurai](2012/11/19 23:16)
[86] 暗き波濤 6話[samurai](2012/12/04 21:52)
[87] 暗き波濤 7話[samurai](2012/12/27 20:53)
[88] 暗き波濤 8話[samurai](2012/12/30 21:44)
[89] 暗き波濤 9話[samurai](2013/02/17 13:21)
[90] 暗き波濤 10話[samurai](2013/03/02 08:43)
[91] 暗き波濤 11話[samurai](2013/03/13 00:27)
[92] 暗き波濤 最終話[samurai](2013/04/07 01:18)
[93] 前夜 1話[samurai](2013/05/18 09:39)
[94] 前夜 2話[samurai](2013/06/23 23:39)
[95] 前夜 3話[samurai](2013/07/31 00:02)
[96] 前夜 4話[samiurai](2013/09/08 23:24)
[97] 前夜 最終話(前篇)[samiurai](2013/10/20 22:17)
[98] 前夜 最終話(後篇)[samiurai](2013/11/30 21:03)
[99] クーデター編 騒擾 1話[samiurai](2013/12/29 18:58)
[100] クーデター編 騒擾 2話[samiurai](2014/02/15 22:44)
[101] クーデター編 騒擾 3話[samiurai](2014/03/23 22:19)
[102] クーデター編 騒擾 4話[samiurai](2014/05/04 13:32)
[103] クーデター編 騒擾 5話[samiurai](2014/06/15 22:17)
[104] クーデター編 騒擾 6話[samiurai](2014/07/28 21:35)
[105] クーデター編 騒擾 7話[samiurai](2014/09/07 20:50)
[106] クーデター編 動乱 1話[samurai](2014/12/07 18:01)
[107] クーデター編 動乱 2話[samiurai](2015/01/27 22:37)
[108] クーデター編 動乱 3話[samiurai](2015/03/08 20:28)
[109] クーデター編 動乱 4話[samiurai](2015/04/20 01:45)
[110] クーデター編 最終話[samiurai](2015/05/30 21:59)
[111] 其の間 1話[samiurai](2015/07/21 01:19)
[112] 其の間 2話[samiurai](2015/09/07 20:58)
[113] 其の間 3話[samiurai](2015/10/30 21:55)
[114] 佐渡島 征途 前話[samurai](2016/10/22 23:48)
[115] 佐渡島 征途 1話[samiurai](2016/10/22 23:47)
[116] 佐渡島 征途 2話[samurai](2016/12/18 19:41)
[117] 佐渡島 征途 3話[samurai](2017/01/30 23:35)
[118] 佐渡島 征途 4話[samurai](2017/03/26 20:58)
[120] 佐渡島 征途 5話[samurai](2017/04/29 20:35)
[121] 佐渡島 征途 6話[samurai](2017/06/01 21:55)
[122] 佐渡島 征途 7話[samurai](2017/08/06 19:39)
[123] 佐渡島 征途 8話[samurai](2017/09/10 19:47)
[124] 佐渡島 征途 9話[samurai](2017/12/03 20:05)
[125] 佐渡島 征途 10話[samurai](2018/04/07 20:48)
[126] 幕間~その一瞬~[samurai](2018/09/09 00:51)
[127] 幕間2~彼は誰時~[samurai](2019/01/06 21:49)
[128] 横浜基地防衛戦 第1話[samurai](2019/04/29 18:47)
[129] 横浜基地防衛戦 第2話[samurai](2020/02/11 23:54)
[130] 横浜基地防衛戦 第3話[samurai](2020/08/16 19:37)
[131] 横浜基地防衛戦 第4話[samurai](2020/12/28 21:44)
[132] 終章 前夜[samurai](2021/03/06 15:22)
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[20952] クーデター編 騒擾 6話
Name: samiurai◆b1983cf3 ID:6aaeacb9 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/07/28 21:35
2001年12月5日 1325 日本帝国帝都 隅田・深川付近 某所


「・・・では、御家は此度の騒乱、関与せず。 当主交代も支持する、と?」

「はい、義姉上様。 夫も、義父も、その様に」

帝都の東、深川界隈の某所。 およそ庶民の街中に、昔ながらの古い、しかし広い一軒家が有る。 そこは、さる芸事の宗家の別邸だが、今日そこを訪れているのは・・・

「彩乃様、斯様な情勢の中、御身の危険を承知でお呼びしました事、相済みませぬ」

黒絹に四季の百花を散りばめた、品の良い友禅の小紋に身を包んだ女性が、すっと、畳に手を突いて頭を垂れる。
その様子に、水浅黄の地色に糸菊の繊細な花びらの友禅小紋を着付けた、やや若い年頃の女性も、慌てて頭を下げる。

「何を仰います、緋紗義姉上様! 今は御国の大事、私もかつて、斯衛の禄を食んでいた身です。 それに実家の父上や兄上の求めとあらば・・・夫も、賛同してくれています」

やや年上の、20代後半くらいと思しき婦人は、九條公爵家門流重臣、菊亭伯爵家の伯爵夫人・菊亭緋沙夫人(旧姓:神楽)
その相手、20代前半頃と思える若い婦人は、斑鳩公爵家の重臣、醍醐伯爵家世子(後継者)夫人・醍醐彩乃夫人(旧姓:菊亭) 
醍醐伯爵家世子夫人の醍醐彩乃は、菊亭伯爵の実妹である。 つまり菊亭伯爵夫人の菊亭緋紗とは、義理の姉妹であった。

芸事の宗家に、月稽古の名目で義姉から呼び出しを受けた義妹。 それもお互いにこの国の上流階級である、摂家の重臣筋の伯爵家夫人(もしくは伯爵家世子夫人)
戒厳令が発せられ、市中の交通は既に全面管制下に置かれているが、世には『別格』の存在も、確かに有るのだった。 しかも騒乱の帝都中心部と逆方向となれば・・・

「美知様(斑鳩公爵家門流、三条伯爵家世子夫人。 斉御司公爵家門流、冷泉伯爵家の出)も仰っておられます。 かの家もまた、同心頂けると・・・」

「・・・有り難い御言葉ですわ。 醍醐、三条、御両家の御力あれば、崇継卿(斑鳩崇継公爵)は、抑え得ましょう」

これで斑鳩家内部の強硬派・・・国粋派と結びついている洞院伯爵家だけが、孤立する事となる。 当主の崇継卿だけでは、何も為し得ない。

「・・・ふふ、でも・・・」

「・・・? 何か?」

義妹の含みのある笑いを、不審に感じた菊亭緋紗夫人が、上品に首を傾げる。 その様子を嬉しそうな表情で見ながら、義妹の醍醐彩乃夫人が言った。

「もう、3年以上も前になるのですね。 当時の神楽斯衛大尉の指揮のもと、京都の防衛戦を戦ったのは・・・懐かしいです。 美知も、会いたがっておりましたよ?」

1998年当時、京都防衛戦と、その前後の一連の本土防衛戦での戦いを、菊亭緋紗夫人は当時(結婚前)、神楽緋紗斯衛大尉として、衛士として戦術機に乗り戦った。
そして今は義妹となっている、当時の第2小隊の菊亭彩乃斯衛少尉、第⒊小隊の冷泉美和斯衛少尉もまた、神楽中隊長の指揮のもと、京都の戦いを生き抜いた。

「わたくしどもとて、地獄の対BETA戦を戦い、生き抜いて来ました。 斯様な情勢で狼狽えるほど、お淑やかでは有りませんわ、義姉上様」

「・・・部下の教育を、間違えたかしら・・・?」

途端に、上品に笑い合うかつての上官と部下であり、今は婚家の義理の姉妹。 いずれにせよ2人の若い夫人たちの情報は、それぞれの婚家にもたらされ、政治の季節に利用されるのだ。





かつての部下、今は婚家の義妹である夫の妹と別れた菊亭緋紗夫人は、そのまま家には戻らず、とある料亭の近くで車を止めさせた。

「さほど、時間はかかりません。 ここで待つように」

「しかし、奥様。 万が一と言う事も御座います、せめて側仕えの者だけでも・・・」

摂家門流、重臣筋の伯爵家ともなれば、それなりに軍務経験があり、護衛を任ぜられる家人も居る。 普段は『秘書』とか『書生』と言う名目だが。

「構いません。 ここは当家の用を務める店。 会うのは身内です」

それだけ言うや、彼女は店の門を潜って行った。 この店は菊亭家が『出資』している、『特定目的で』使用する店だった。 女将の挨拶を受け、奥の座敷に通される。

既に、先客がいた。

「・・・早いのですね?」

「情勢が、情勢だ。 早々、のんびりしておれまい?」

三つ紋の色留袖を着付けた、同年配の女性の先客が、既に到着してお茶を飲んでいた。 その女性の対面に座り、彼女もお茶を頂く。 別に料理を楽しみに来た訳で無かった。

「しかし・・・こうして見ると、やはり菊亭家も商売人なのだな。 私には縁の無い店だ」

「・・・父上も、このような店のひとつ、ふたつ、ご用意されていたわよ?」

「しかし、家の金は入っていまい? あの親爺殿が、斯様な出費を? まさかな」

「どうかしらね・・・私達には、何もお話しされていなかったから、父上は」

そのまましばらく、少し開けた障子から見える冬空模様を2人して眺めていた。 やがて、先客の女性が口を開く。

「で・・・どうなのだ? 緋沙姉上」

「・・・おおよそ、貴女の想像の通りではないかしら? 緋色・・・」

先客の女性は、宇賀神緋色帝国陸軍少佐。 旧姓は神楽緋色、つまり菊亭緋紗夫人の双子の妹だ。 今は出産後の育児休職中の身である。
宇賀神緋色少佐は、姉の言葉に少しだけ形の良い眉をひそめる。 双子だけにそっくりだが、柔和な印象の姉に比べ、『凛々しい』印象の妹がそうすると、迫力がある。

「・・・昔から、そうだったな、あの家は・・・それ程、将軍位を煌武院家に取られたのが、口惜しいのか・・・」

「御一新以来の、悲願ですもの・・・」

武家社会の中では周知の事実。 大政奉還後、政威大将軍を輩出していない五摂家は、斑鳩家のみ。 幕藩時代は、他の摂家とは同格の有力外様大名家同士だったと言うのに。

「かと申して、最早、将軍家が現実政治に介入出来る世でもなかろう・・・」

「そんな事も読めないから、こんな騒ぎを起こしたのよ。 そんな時世を読めないから、国粋派に利用されたのよ。 そんな現実を拒否するから、自滅するのよ・・・」

「・・・手厳しいな、緋紗。 お前らしくない言い方だ」

「これでも、かつては斯衛の禄を食んだのよ? 己が護ろうとしたものが、底の抜けた大馬鹿だったと、認める代償くらい、言わせて貰いたいわ・・・」

普段は柔和で淑やかで、およそ人の悪口など言う事も無かった姉の愚痴を、面白そうな表情で見つめる宇賀神少佐。 そんな妹の視線に気がつき、バツの悪そうな表情の菊亭伯爵夫人。

「コホン・・・醍醐家は、こちらの提案を飲みました。 これは彩乃様から直々に回答が有ったわ。 三条家も、美知様が実家の冷泉家と繋ぎを付けて、了解を・・・」

「ふん・・・醍醐と三条。 旧家老三家の内、二家にまで離反されては、崇継卿も足掻き様が無いな。 洞院家は潰されるか、主家の身代わりに?」

「崇継卿は当主の座を、御舎弟の崇彬卿(斑鳩伯爵、異母弟)にお譲りになり・・・斯衛の『青』が抜ける穴は新当主に・・・の筋書です。 年が明けてからになるでしょうけれど」

「年明け? 悠長だな・・・? いや、まさか・・・そこまでやるか・・・? いや、あの親爺殿ならば・・・そうか・・・」

「ええ、そうよ。 私たちの父上・・・城代省官房長官の神楽宗達子爵は、斑鳩公爵崇継卿が『年末大攻勢』で、佐渡島で戦死されることを望んでおられるわ・・・」

彼女たちの実父、神楽宗達子爵は城代省官房長官として、城代省高官と言うだけでなく、省内権力のほぼ全てを、手中に収める事に成功している。
そして神楽子爵は、政治的には武家政治の復権を望んでいない。 彼は穏やかな流れの中での、武家社会の終焉こそを望んでいる―――滅亡ではなく、終焉を。 生き残る為に。

「・・・武家の動きは判った。 で? それでこの、クーデター騒ぎをどう収めるのだ?」

それが一番聞きたかったこと。 あの第1師団の大尉の表明放送を聞いた瞬間、裏で武家社会が係わっていると当たりを付けた宇賀神少佐が、真っ先に連絡を付けたのが姉だった。

「そこまでは、私は知りません。 軍部統制派の詳細までは・・・主人や義父なら存じているかもしれませんが・・・私には、言いませんよ、緋色?」

「武家は、相変わらずの完全男性上位、男尊女卑社会だからな。 それもそうか」

「・・・夫や義父でさえ、知り得るは概要だけやもしれません。 大殿様(五摂家・先代九條公爵)や、御屋形様(五摂家・当代九條公爵)ならば或は、ですが。 しかし・・・」

「しかし?」

「・・・しかし、どう考えても、斑鳩家がクーデター部隊と、誠心より繋がっているとは思えません。 あの家は武門の家と同時に、非情の家でもありますから・・・」

「斑鳩家・・・門流の洞院家と繋ぎを取っているのは、軍事参議官の間崎大将、だったな?」

「ええ。 そちらは緋色、貴女の方が詳しいでしょう?」

「詳しい・・・と言う程ではないが・・・色々、陸軍内部で噂は流れておった。 兎角、機会主義の御仁だと。 利権漁りの軍官僚、と言う異名もな・・・」

少しだけ考える。 間崎大将は、尊敬能わざる将星ではあるが、無能では無い。 特に後方で視野を広く見て兵站を構築する手腕は、かなりのモノだと評価が有る。
それはとりもなおさず、壮大な構想力と企画力、そして綿密な計算と実行力を備えると言う事だ。 同時に、政府や議会対策にも秀でている、と言う事だ。 それは・・・

「・・・そうか・・・そう言う事か・・・」

「緋色・・・?」

「国粋派・・・間崎大将は・・・クーデター部隊と繋がっていない。 いや、表向きは繋がっているようで、実の所、使い捨ての駒として扱う気か・・・
そして・・・統制派も、恐らく事前に把握して居た筈・・・でなければ、元老や重臣が未だクーデター部隊の網にかかっていない筈はない・・・」

つまり、統制派と元老・重臣は繋がっているのだ。 であれば、彼らがクーデター部隊を事前に『見逃した』訳は何か・・・?

「それは・・・つまり・・・統制派もまた・・・?」

「そうだ、姉上、緋紗・・・クーデター部隊は、あの若い連中は・・・最初から国粋派、統制派、両派から・・・生贄の子羊に選ばれていたのだ」

お互いが、お互いを潰すために。 国粋派は直接の暴力装置として。 統制派は潰した後の残骸を証拠とする為に。 あの若手将校団は『死ぬ為』に見逃され、生かされているのだ。





短い姉妹の邂逅の時間が終わり、2人の女性は店を出た。 そして姉は家の車で、妹は徒歩で、それぞれの帰路に就く。

「・・・緋色、今更ですけれど・・・今回の情報、第一線部隊に流す事は、お勧めしないわ。 判るでしょう?」

姉が心配げに、そう言う。 余りにも政治的な情報だ。 軍の第一線部隊が、その情報に基づいて動く様な、その様な類の情報では無い。 しかし、妹は不敵な笑みを浮かべて言った。

「案ずるな、緋紗・・・姉上。 私の夫は、この情報程度で度を失う程、純真では無いのでな。 夫の同僚たちも然りだ、食えない古狸どもばかりだ・・・無理はなさるな、姉上」

「・・・緋色、貴女も。 緋那子ちゃん(宇賀神夫妻の長女)も、お父様とお母様を失ったら、可哀そうよ?」

「はっ! それこそ案ずるな、姉上! 私たちの娘は、なかなか性根が座った赤子だぞ? 父母の不在など、どこ吹く風だ。 
ま・・・私も死ぬ気はない。 せめて娘を嫁がせるまでは。 それよりも姉上、貴女こそ身の回りに気を付けられよ。 洞院とて・・・いや、斑鳩は馬鹿ではないぞ?」

形勢逆転の為に、家臣筋の妻や子、それに繋がる一族を『排除』する事も厭わぬ歴史が、あの家には有る―――いや、五摂家やその門流の上級武家貴族の家は、か。

「心配は、有難う、緋色・・・これでも、側の者達は斯衛や陸軍で、対人戦闘の訓練を積んだ者達よ。 そうそう、遅れはとりません・・・では、また。 そうね、桜の季節にでも」








2001年12月5日 1445 日本帝国・帝都 東京 都内某所


「はぁ、はぁ、はぁ!」

戒厳令が敷かれ、外出する市民とて居ない帝都の一角を、一人の男が焦りの色を露わに走っている。 見た目は東洋系だが、果たして・・・

「くっ、くそっ! ジャンダルメ(国家憲兵隊)めっ! まさか、これ程早く嗅ぎ付けるとはっ・・・!」

仲間は殆ど始末されるか、重傷を負った上で拘束された。 作戦は完全に失敗だ、JSOCの作戦部隊の内、既にデルタとデブグルは通信途絶らしい。

「はっ、はっ、はっ・・・! な、何とか! 何とか『フレンド』に接触して・・・ッ!」

背後から複数の足音が聞こえる。 聞く者が聞けばわかる、明らかに訓練を受けた者だ。 警戒と探索を両立させる動き、それが立てる足音。
男は無意識に懐のホルダーに手をやり、息をひそめて小さな路地に身を隠した。 嫌な汗が止まらない、喉がカラからに乾く―――恐怖だ。

(ファッキン・シット! 俺もここまでか・・・!?)

日本の国家憲兵隊の尋問―――と言う名の拷問は、凄まじい。 半世紀以上前の陸軍憲兵隊特務の時代から、営々と受け継がれてきた、自白を得る為だけの手段。
『対象』がどうなろうと一切考慮しない。 ゲシュタポ(ナチ党親衛隊国家保安本部第Ⅳ局)や、GPU(ソ連内務人民委員部(NKVD)国家保安本部)さえ怖気を振った。
近年ではCIAは言うに及ばず、KGB(ソ連国家保安委員会)、シュタージ(東ドイツ国家保安省)、国家安企部(中国国家安全企画部)なども、その手法を『参考』にしたと言う。

背筋に悪寒が走る。 諜報員として、潜入先でのトラブルはご法度。 ましてや己の死体を相手先に渡す事さえ、憚られる。 それが捉えられた場合など・・・

(・・・まだしも、死ぬ方がマシさ・・・)

決定的な証拠は、身に付けていない。 必要なのは、『あの一言』だけだ。 だとすると、自分が死ねば、少なくとも国家憲兵隊の連中は永遠に、その事を解明できない。
ホルスターから拳銃を取り出す。 SIG SAUER P220、日本帝国軍でも『82式自動拳銃』の名で制式採用されている、日本で最もポピュラーな9mmオートだ。
全て日本国内で調達されたものだ、それこそ靴下から下着に至るまで。 日本以外の『痕跡』は一切残さない、それが鉄則だ―――己の死体以外は。

「はっ・・・はっ・・・はっ・・・」

足音がジリジリと近づいてくる。 連中も当たりを付けたな。 せめて、何人か道ずれにするか?―――そう思った瞬間、くぐもった音と共に呻き声と、複数の人が倒れる音がした。

「―――制圧、完了。 周辺警戒に入ります」

「了解した」

今度はごつい足音が複数。 間違いない、これは戦闘靴の足音だ。

「―――おい、いい加減に出てきな、憲兵隊は始末した。 お前さんの『お友達』から、頼まれた者だがな?」

恐る恐る、物陰から銃を下ろさず覗き見ると、日本帝国陸軍の歩兵部隊が1個分隊ほど。 それに明らかに佐官クラスの上級軍人と、大尉が1人ずつ。

「連れて行ってやる。 こちらも早々、暇ではないのでな―――付いて来い」

最早、従う以外に道は無い。








2001年12月5日 0725 連合王国・スコットランド エディンバラ


「正直申し上げますと、英国はこれ以上、新大陸の内部抗争に付き合いたくない、と言う事なのですわ、ミスタ・フジサキ」

「ふむ・・・もはや時代遅れの、英連邦圏だけで首が回らぬと」

「古色蒼然さでは、貴国も負けず劣らず、ですけれど・・・」

連合王国・スコットランドの首都エディンバラ。 その郊外のカントリーハウスの一室で、日本帝国外務省・国際情報統括官、藤崎慎吾は、相手に無言で頷いた。
ひと月前から、欧州連合との極秘裏の会合を持つ為に渡英していたが、その間に今回の本国でのクーデター騒ぎだ。 本来なら混乱の極みの筈。

「主人が、次の狩猟シーズンには是非、お越しくださいと申しておりましたわ」

「ほう。 結構ですな。 御家の所領では、どの様な獲物が?」

「そうですわね・・・キツネ狩りとか?」

「ふ・・・ん」

様は、今回以外で生き残る『予定』のキツネ・・・内部協力者の情報を提供すると言う事か。 相変わらず、英国は『外套とナイフ』の仕事は米国の対極だが、侮れない。
相手は若く美しい貴婦人だが―――バーフォード伯爵夫人ローズマリー・フィリパ・ヴィア・ボークラーク―――『会議』にも伝手のある女性だ。
軽々しく扱ってよい相手ではないし、その様な愚を犯すほど、自分も愚かでは無い。 それに彼女の夫は、英軍と国連欧州軍に太いパイプを持つ軍人貴族だ。

「・・・何はともあれ、貴重なお時間を頂き、大変楽しいひと時を過ごせましたよ、伯爵夫人―――ひとつ、お伺いしても?」

「宜しくてよ、ミスタ」

「なぜ―――なぜ、私だったのです?」

他にも駐英大使や、他の高官は居る。 なのになぜ、別件で急遽渡英していた自分を?

「公には、たいした理由では有りませんわ。 ミスタ・フジサキ。 貴国外務省の対外情報は、貴方の元に集約されるはずですわね?」

「・・・ええ」

第1から第4までの、外務省国際情報官室を統括するのが、彼の仕事だった。

「公には、それだけですわ。 おまけとして、貴方が貴国の国家憲兵隊副長官の義弟である事。 貴方の義兄が貴国統帥派の大物である事・・・」

「公には、そうなのですな? では、本当の意味は?」

自分は外務省内外で、統制派と目されているからな。 面倒な話だ。

「・・・1996年の4月。 北フランス、ブーロニュ・シェル・メール前面。 プリンセス・オブ・ウェールズ・ロイヤル連隊(PWRR)、その第3大隊『ローズ』
わたくし、当時はその大隊長を務めておりましたの。 衛士として・・・事実上、初陣でしたわ。 『PWRR』は、出陣をそれまで許されませんでしたの」

「ふむ・・・?」

確か『PWRR』は、連隊長を女王陛下が務める(形式上)部隊だったな―――要は儀典用のお飾り部隊か。 それが北フランスで? 無茶だな、よく戦死しなかったものだ。

「よく、戦死しなかったものだ・・・そう、お顔に出ていますわ、ミスタ」

「・・・失礼」

「いいえ、確かにそうですもの。 当時のわたくしたちは、対BETA戦の何たるかも知らない、お飾り部隊でしたわ。 そして案の定、危地に追い込まれた・・・」

部隊の1/3を失い、未だBETAの猛攻に晒され続け、全滅を覚悟した・・・

「救われましたわ、国連軍に。 その一部隊に・・・国連軍大西洋方面総軍第1即応兵団・第1旅団戦闘団本部直属、第13強行偵察哨戒戦術機甲中隊『スピリッツ』
ミスタ・フジサキ。 貴方の甥御殿が当時所属していた部隊に、ですわ。 わたくしの大隊の撤退を、殿で援護しつつ、脱出を助けてくれましたの」

「・・・よく、調べ上げられましたな?」

「ふふ・・・夫は貴方の甥御殿とは、N.Y.で面識があるのですわ。 それに、人物の周辺を調べるのは、この『お仕事』では当然なのでは?」





「大友、本国に緊急電だ。 最強度で打て。 内容はこれだ」

エディンバラの在英日本総領事館に戻った藤崎国際情報統括官は、臨時に開設している情報統括室で部下に一片の紙切れを手渡した。 
それを一瞥した部下の1人が、暗号通信係の担当者を呼び、指示を出す。 暫くして通信室から戻ってきた部下が報告した。

「通信、終了。 最強度暗号のECC(楕円曲線暗号)で送りました」

「ん・・・」

冬のどんよりしたスコットランドの空模様を眺めながら、藤崎国際情報統括官は先ほど自分が送った通信文を、脳裏で反芻した。

『―――『会議』EU派に帝国内介入の意思なし』

であれば、米国内の『会議』メンバーが揃って、帝国内への介入を企図している訳では無い。 彼らとてもEU派とは『一蓮托生』な部分を有している。
少なくとも、米国内の『会議』主流の考えではなさそうだ、そう判断していいだろう。 真っ先に考えられるのは、あのユダヤの老人。 『会議』メンバーではないが、影響力は有る。

(が・・・今回は米国派も首を縦には振らなかったようだな。 あの老人の飼い犬の中には、AL5派・・・慎重派から急進派まで揃っているが、今回の騒ぎに噛んでいるのは急進派か)

そして恐らく、あの老人とて帝国の全ての裏を握ろうなどとは、考えていまい。 情報省や憲兵隊外事からの情報では、CIA長官のゴースがそろそろ見限られる様子だ。
となると・・・ゴースの懇願を聞き入れる振りをしての、ゴース切り捨て策か? そしてあわよくば、帝国内の裏と一脈を通じる事が出来れば・・・その場合、裏は国粋派か。

(・・・そんな単純な老人ではないだろう。 もしかすると、単に帝国の危機対処能力を見る為に、ゴース切り捨て策を使った・・・あながち、妄想とも思えんのが怖いな)

いずれにせよ、恐らく国内で派手にクーデター部隊、その裏に陣取る連中を排除しても、対米、対欧州政策に瑕疵は生じないだろう。

(もっともそれは、『裏で派手に動いても』だろうがな)

表だって―――つまり、帝都でクーデター部隊との大規模戦闘などやらかした日には、海外からの評価、それも今後帝国を収めていく勢力に対する評価は、微妙になる。

(だからさ・・・俺は本省以外に、憲兵隊にも一報を入れた)

本来であれば、越権行為も甚だしい。 が、恐らく本国は蜂の巣を突いた騒ぎだろう。 誰も気に留めやしない。
これが本省主流派から疎まれる原因のひとつとは判っている。 判ってはいるが・・・だからと言って、誰でも出来るものではない。

(本省の外交貴族どもが、どの様に欧州外交に突っ込めると言うのだ・・・)

欧州然り、米国然り、ガルーダス然り・・・だから彼、藤崎慎吾は外務省の『ジョーカー』として生き抜けてきたのだった。

「では、本夕のディナー・パーティーは『会議』、『EU』、それに米国の『保守・中道派』外交官と、『大東亜連合』代表部が出席・・・と言う事ですか?」

「ああ、そうなる―――完全非公式の『ディナー・パーティー』だがな・・・落し所の見極めが、難しいぞ、これは・・・」

部下の問いかけに、藤崎情報統括官はややうんざりした表情で答えた。 目指すゴールは互いに見えているが、それでも海千山千の連中相手の食事が、美味になる訳は無いからだ。









2001年12月5日 1810 日本帝国 宮城県仙台市 仙台臨時政府庁舎


「きっ、君は、私を脅すのかねっ!?」

先代臨時政府の政府庁舎が、これまた臨時に置かれている、元東北軍管区司令部(軍管区司令部は、第2師団司令部(旧仙台城二の丸)に臨時移転)
その一室で臨時政府首班である子爵・依田直弼首相代行は、面前の若い(と言っても、30代後半だが)男に蒼い顔で、悲鳴の様な声を上げる。

「まさか。 脅すなど、人聞きの悪い。 私はこう申し上げたのですよ、依田大臣。 『可及的速やかに、クーデター部隊の鎮圧命令を発令する事』
そして『クーデター鎮圧後は、速やかに臨時政権を奉還する事』です。 まさか大臣、このまま居座って、正式な内閣首班になりおおせるとでも?」

「っ! きっ、貴様には与り知らぬ事だっ! わっ、儂はっ・・・!」

「戒厳司令官の間崎大将・・・そして斑鳩家との密約の事ですかな?」

「なっ・・・」

完全に主導権を相手に握られている。 相手の男は政界ではまだ尻の青い青二才、と言われる年代だが、榊首相の側近政治家として、政務担当内閣官房副長官に任じられた程の男だ。
若くとも、その見識・能力・胆力は、次代を担う若手政治家として、大いに期待されていたからこそ、政務担当官房副長官の1人(政務担当は2名)に任じられたのだ。

「・・・『何故、その事を』ですか? 馬鹿ですか、貴方は。 あれだけの大人数が、派手に裏で動いておきながら、誰も気づかれずにいたとでも?
政府は・・・榊首相閣下は蚊帳の外でしたがね。 少なくとも『我々』統制派は、貴方がたの行動は把握していた、大筋においてはね。 それでいて、手を出さなかった・・・」

「そっ、それはっ・・・!?」

「我々も、『クーデターを欲していた』のですよ。 予定調和としての、ね・・・宜しいですか、大臣? ここまで手の内を握られていたうえで、クーデターが成功するとでも?」

この若い官房副長官は、完全に統制派なのだ。 榊首相の側近の顔をした、統制派の政治家・・・最初からか、取り込まれたかは今更意味は無い。 どうする? どちらを取る?
依田大臣の表情が目まぐるしく変わる。 同時に、どこか油断のできない、探る様な狡猾な視線で相手を観察する様に見ながら、言葉を探している。
果たして、どちらに着くべきか? 国粋派か? それとも統制派か? 依田大臣自身は、実の所国粋派寄りの中立派・・・有体に言えば、より多くの利権のお零れを貰える派閥に着く。

「帝都の中心部は、決起軍が押さえておると言う。 儂は帝都に無駄な損害を出さぬよう、戒厳司令部司令官(間崎大将)をして、彼らとの対話を指示したのじゃ」

「彼ら、反乱将校団の主張は、完全なる政威大将軍親政ですな。 そうなれば大臣、貴方の『取り分』を、あの潔癖な将軍が見逃しますかな?」

まずは、建前を実利の面で潰す。 それでなくとも、世俗に塗れた政官界では(でなくば、やっていけない面も確かにある)、『清流に魚は住めぬ』と揶揄される潔癖気味の少女だ。
衆愚と言われようとも、議会民主主義体制を敷く帝国の俗物衆議院議員たちを、その利権さえも利用しながら国家の大運営を行える程、人間が練れているとは考えられない。

「わっ、儂とて前政権内部では、農水相として首相の対外協調政策による弊害を、指弾してきたのじゃ! まずは放置された農耕地の回復が先だと・・・!」

「その『植民』に、国内外の難民を格安の屯田兵・・・『奴隷労働力』として供給する、その主張は主に難民解放戦線の反発を買い、余計な国内不安定を生み出しました」

これまた、反乱将校団の攻撃命題のひとつとなっている。

「べっ、米軍を再び呼び戻すのかっ!? 我が帝国内にっ!? 横浜を見よ! あのG弾の惨状を! 儂とて愛国の情は持っておるわっ!」

「軍部首脳からの報告は、お読みになられていないと? 『帝国軍単独での国土回復―――佐渡島の奪回は、不可能と判断せざるを得ない』 あの軍部が、恥も外聞もなく、ですよ?
それにお忘れか? 貴方も当時はその場に居た筈。 横浜攻略後に、我が帝国もG元素を保有するに至ったことを。 最早、米国の事を表はともかく、とやかく言う事は出来んのですよ」

「あっ・・・あれは、軍部の独断だっ! わっ、儂は与り知らんっ・・・!」

「そう、軍部の独断です。 しかしながら、諸外国が目を向けるのは我が国の軍部で無く、表向きは政府なのですよ」

つまり、このまま居座れば、いずれG元素絡みの件でつつかれる事になるぞ、と。 統制派はこの件では、完全に米国とは『相互いに見て見ぬふり』だ。 密約は出来ている。
米国内の一部強硬派―――CIA強硬派やネオコン派等は、あわよくば帝国内のG元素を回収したいようだが。 その件については、米国内他派と話を付けている―――排除だ。

所詮、利権漁りだけで(その金をばらまいて)大臣の椅子を得たに過ぎない依田大臣は、最早堪忍したようにも見えたが、最後の最後に、藁を掴む様子で、正攻法を放ってきた。

「・・・歴代首相を、元老院と重臣会議にて推挙するのは、我が国の慣例為れど・・・儂の立場もまた、帝国憲法が定めるところで定義されておる。
ましてや、陛下は御国の御法を尊守為される事、誠に範たる御方じゃ。 仮に儂が戒厳司令部司令官を支持したとて、陛下は何も申されぬぞ・・・?」

(・・・成程、最後のあがきに、そう来たか。 確かに正論だ、正論だとも)

が、この騒ぎを起こした派閥に協力したそちらが言える言葉か?―――その言葉を聞きながら、若い内閣官房副長官は、止めの一言を放った。

「元老・岡田閣下が陛下に拝謁を賜り、この御言葉を賜ったとの由―――『朕が重臣を不法に殺めし『賊軍』に対し、朕は帝国とその民に代わり、卿らに正道を正すを望む』と・・・」

「ぞ・・・賊軍・・・」

さて、依田大臣。 貴方はどちらを選びますかな? 目先の権益か? その場合、陛下の御言葉は、怖れ多い乍ら公表させて頂く。 臨時政府の『信用』は地に落ちる。
建前を捨てて、実利に―――こちらに従うのであれば、名目上でも『首相経験者』の名誉だけは許されよう。 全てではないが、安保利権の一部も黙認される。

「わ・・・儂の身の安全と、財産は・・・ま、守られるのじゃろうな・・・?」

粘つく様な、到底爵位を持つ家柄出身の人物とは思えない、欲の保証を得た機会主義者の様な視線だった。








2001年12月5日 1810 日本帝国・帝都 東京 戒厳司令部(九段・陸軍東京偕行社)


「閣下! 我々は決して私心より行動を起こしたのではありません! 帝国の現状を憂い、その状況を放置せんとしたる君側の奸を取り除き、帝国の御稜威を取り戻さんと!」

「巷に溢れかえる無数の難民たち! 最早国民を守る大前提すら放棄し、宿敵・米国に再びすり寄らんとする政府と軍部首脳! 一体、どこの国の政府と軍でしょうか!?」

「斯様な状況下においてさえ、只でさえ少ない難民救援予算を削り、軍備と財閥支援予算に振り分けるとは! あまつさえ、米国との物品役務相互提供協定など!」

「米軍が再び、我が帝国内で自由に行動するための兵站を、なぜ我が国がその予算で融通を付けてやらねばならぬのです!? 難民関係予算を削ってまで!」

激昂する若い中尉達(少尉はいない)を片手で押さえ、1人の大尉が前へ出て言った。

「閣下。 我々の要求はひとつだけです。 『帝国の国体、その正常化』その実現です」

彼らは言う、本来の帝国の国事全権代理者は、政威大将軍である。 そしてこの未曾有の国難に於いて、衆愚政治の呪縛から帝国を解き放ち、挙国一致体制を構築するには・・・

「政威大将軍殿下による、挙国一致政体の樹立。 その真の姿の実現、それのみです。 我々は恐らく、後世で反乱軍の汚名を着せられましょう。 しかし・・・
しかし、それでも結構。 帝国内の腐った宿痾を取り除き、帝国再生の暁、それを見る為の礎となるのであらば・・・我々は一同、その身命を捧げる一存であります」

若手将校団の『熱情』を聞きながら、泰然と目を瞑りながら無言で座っていた間崎大将は、暫くしてうっすらと目を開くと、重々しい口調で言った。

「・・・諸子の憂国の心情、国体顕現の至情、本職とて無碍にするものではない」

これに先立つ1500時、戒厳司令部では、仙台臨時政府経由で以下の告示を出している。

一.蹶起ノ趣旨、諸子ノ真意ハ、国体顕現ノ至情ニ基クモノト認ム
二.国体ノ真意・顕現ノ現況ニ就テハ、政府ハ恐懼ニ堪ヘズ
三.臨時政府ハ一致シテ、先ノ趣旨ニヨリ邁進スルヲ得タリ
四.諸隊ハ敵ト見ズ友軍トナシ、一致警戒ニ任ジ、皇軍相撃ツノ愚ヲ絶対ニ避クルコト
五.軍ハ部隊ヲ説得シ、活溌ナル経綸ヲ為ス。
六.閣議モ其趣旨ニ従ヒ、善処セラルヲ申合セタリ
七.之以外ハ、一ツ陛下大御心、二ツ殿下御心ニ俟ツ

後に『日本史上の大虚言』と言われた告示である。 この告示内容では、完全に蹶起部隊の要求を受け入れた、と思われる(確実にそう解釈される)文面だった。
この告示が為された時には、クーデター部隊の全てで喝采が上がったほどだ。 逆に『包囲部隊』からは『逆クーデターでもして欲しいのかっ!?』と不穏な空気が充満した。
第3師団、第14師団、第15師団など、帝都周辺を『包囲警戒』中の各部隊から、戒厳司令部宛に激烈な(殆ど罵倒に近い)確認の通信電文が集中している記録が確認されている。

「故に、本職は諸子に望む。 どうか真の国体顕現の為、何としても麾下部隊の統制を厳にしてもらいたい。 臨時政府閣議は粛々と進行しておる、天命を待って欲しい」





反乱将校団との『面会』を終えた間崎大将は、戒厳司令官室に戻るや否や、高級副官(陸軍大佐)に向かって、吠えるように言った。

「・・・徹底弾圧だと!? それに『国連軍の正式受け入れ』だとっ!?」

「はっ・・・仙台臨時政府の閣議決定が、只今届けられました・・・」

「依田の爺い! あの老い耄れ、気が狂ったか!? ここで手を引いてみろ! 自分も火の粉をかぶる事になる事ぐらい、想像できんのか!」

仙台臨時政府は、臨時閣議で今回の事態に対し、以下の決定を伝えて来た。

『戒厳司令官ハ、断乎武力ヲ以テ、帝都ノ治安ヲ回復セン』
『戒厳司令官ハ、帝都ヲ占拠シアル部隊ノ徹底弾圧ヲ以ッテ、下士官兵以下ヲ速ニ所属部隊ノ隷下ニ復帰セシムベシ』
『帝都ヲ占拠シアル部隊ハ、爾後之ヲ『賊軍』ト称ス』

「日和りおったか・・・!」

「それに先程、禁衛師団参謀長より内々に、でありますが・・・皇帝陛下は今回の事に、いたくご立腹の由、との事で・・・」

「陛下が・・・か」

「はい。 寺倉閣下(第1軍管区司令官・寺倉昭二陸軍大将)が参内為され、『軍部主導の挙国一致内閣にて、本事案を解決致したし』の奏上を為された所・・・」

「・・・陛下は、何と?」

「はっ・・・『賊軍に同調する者、我が臣に非ず』と・・・大変な御怒り様との事・・・」

「ッ・・・!」

「更に、田中閣下(東部軍管区参謀長・田中龍吉陸軍中将)よりの『蹶起将校ノ心情御理解』の奏上文に対しては、『余は獣心を理解せぬ。 赦しも有り得ぬ』と、御破り捨てられ・・・」

「ぐっ・・・! 久賀少佐を呼び出せっ! あの男、元老・重臣を悉く確保するか、始末しろと命じたのを、何をしておるかっ・・・!」

「はっ・・・そ、それが・・・」

「なんだっ!?」

「はっ! 現在、久賀少佐と一部部隊は、連絡が取れません!」

「なに・・・?」









2001年12月5日 1840 日本帝国・帝都 東京 都内某所


「久賀少佐、そちらが何を考えているのか知らんが、こちらとしてはもう縋る相手はいない」

「・・・この国のカウンターインテリジェンスを、甘く見過ぎたな。 生きて帰れれば、後日の反省にすればいいさ」

「そうさせてもらう・・・ここは?」

「・・・俺の家さ。 いや、家になる筈だった所さ」

都内の一軒家。 だが生活の匂いは全くしない。 家具もない、人が住んでいないからだ。

「所有者は俺だが、普段は官舎住まいだ。 憲兵隊や特高も、ここまでは調べていなかったようだな。 名義人が俺では無いのでな」

「・・・誰の家だ?」

「女房さ・・・死んだ、な・・・」

1人はクーデター部隊の首謀者の一人と目される、久賀直人陸軍少佐。 もう一人は明らかに欧米系の男だった―――JSOCの要員、情報支援活動部隊の要員だった。

「なんにせよ、助かる。 デルタ(デルタフォース)やデブグル(海軍特殊戦開発グループ)は、どうやら全滅らしい。 
第24特殊戦術機甲隊に第55特殊作戦戦術機甲隊は、横須賀の国連軍基地で足止めを食らった。 女狐だ、あそこの戦術機部隊司令は」

「周蘇紅・・・舐めてかかるからだ、あれで食えない歴戦の女だ」

その時だ、玄関の戸が控えめに叩かれた。 トン、トトトン、トトン、トン―――それを3回繰り返す。 どうやら『協力者』が無事着いた様だった。

「少佐殿、警戒網を潜るのに時間がかかってしまいました。 連れてきました」

「ご苦労だった、高殿大尉―――シスター、ご苦労だ」

「・・・なぜ、我々に協力するのか・・・その辺は聞かずにおくわ、少佐」

高殿大尉の背後には、カソリックのシスターが一人、控えていた。 そのシスターを屋内に居れた後、久賀少佐は腹心の高殿大尉に小声で囁くように伝えた。

「おい、高殿。 最新情報だ―――仙台臨時政府は、日和ったぞ。 国連軍の正式受け入れを決定した」

「・・・JSOCの狗の駆除は終了した、と言う事ですか。 残るは統制派・・・特高や憲兵隊に『転向』したスリーパーばかりだと?」

「そう言う事だ。 これで統制派は望むタイミングで『暴発』を演出できる、場所もな。『我々』は時と場所のイニシアティヴを握られ、各個撃破されるばかりさ」

「CIA・・・多分こっちのシスターとは別口の、あの『シスター』は、JSOCの狗が逃げおおせそうな場合、『処分』を依頼してきましたが・・・」

少し面白そうな表情で、高殿大尉が久賀少佐を見返す。 それに対して、久賀少佐は『底の抜けた』様な、昏い笑みで答えた。

「こちらが『把握していない』狗は、知った事では無いさ・・・国粋派も統制派も・・・CIA右派も左派も、特高や憲兵隊、情報省も・・・『忘れた頃に』ってやつを、思い出して貰う」

その言葉に、高殿大尉も昏い笑みを浮かべた。 本来の筋書ならば、久賀少佐も高殿大尉も、実は捨て駒にされる筋書。 今更、名誉も、生も望みはしないが・・・

「・・・この国が忘れているのなら、思い出させてやろう。 知らぬなら、教えてやろう・・・BETAが国内に巣食っていると言う事実と、その現実をな」

「統制派も国粋派も・・・沙霧達もです、何時までも現実を後回しにしていては、所詮この国は亡国ですし」

小さな、限りなく小さな『勢力』だが、どこに対しても後ろ足で砂を掛ける男達が居た。









2001年12月5日 1905 日本帝国・帝都 東京 戸山陸軍軍医学校 第15師団A戦闘旅団臨時本部


「警戒態勢のレベルを上げる。 各大隊、即応態勢を取らせろ」

旅団長の藤田准将が、居並ぶ部下の大隊長たちに命令を発した。

「仙台臨時政府の命令だ、『戒厳司令官ハ、断乎武力ヲ以テ、帝都ノ治安ヲ回復セン』―――武力鎮圧だ」

ザワリ―――空気が動いた。 同時に各大隊長たちは、本部を飛び出している。

「機甲大隊! 明治通りまで進出!」

「機動歩兵! 新大久保から明治通りまでを確保しろ!」

「自走砲! 照準は紀尾井町だ! 急げ!」

「TSF! クーデター部隊の戦術機部隊に警戒!」

既に武力鎮圧の作戦案は、師団本部と繰り返し練っている。 他にも第3師団、第14師団、禁衛師団、中央即応集団、独立混成第101旅団、独立混成第103旅団とも連携の上だ。
甲編成師団2個(第14、禁衛)、乙編成師団2個(第3師団、第15師団=戦力減の為)独立旅団3個。 他にも帝都周辺には『友軍』が居る。

横須賀から急速展開を果たした、海軍第3陸戦旅団(1個戦術機甲連隊基幹) 東京湾内に突入した、海軍第1艦隊主力(4個戦術機甲大隊) これは当てにできる。
佐世保の海軍第1陸戦師団、大阪・堺の海軍第2陸戦師団は動かせないが。 それに国連軍を『正式受け入れ』したことにより、国連軍横須賀基地の戦力もあてに出来るだろう。 

部下・幕僚たちが慌ただしく動き回る中、藤田准将は昏い表情で吐き捨てるようにつぶやいた。

「・・・誰の筋書か知らんが・・・能うならば突撃砲をぶちかましてやりたいぞ・・・」




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