【2001年7月3日~国連軍横浜基地・シュミレータールーム~】<Side 夕呼>《此方ヴァルキリー00!ヴァルキリーズ各機、状況を報告せよ!繰り返します、状況を報告せよ!》『此方ヴァルキリー02!挟撃を受けている!っっ――このやろぉぉぉぉぉぉおおお!!』『ヴァルキリー02!無闇に突っ込むな!速瀬、手綱はしっかりと握ってろ!直ぐに援護に向かう!』『了解!イーグルの癖に何で不知火より速いってのよぉ―――!!』《ヴァルキリー02、胸部管制ユニット部被弾。大破判定》『鳴海が喰われた、離脱しろ速瀬!P-B30へと再集結!デコイ(囮)を使用、捕捉されるな!?』『わ、分かってます…ってもう捕捉された!?え~い、離れなさいったらぁ!!』「何なの、あの機動…」「まりも、元富士教導隊の衛士として……率直な意見をくれるかしら?」「――――夢を見ている気分だわ」「―――そう、少なくとも使えるって訳ね?」私はモニターに写る猫に追われるネズミの様に撤退する3機の不知火と、獲物を追う獅子にも見える2機のイーグルを傍目にやる。オルタネイティブ4直属部隊であるA-01…嘗ては連隊規模であった部隊も今は5名の小隊となっているが戦術機の腕は世界でもトップクラスの集まりだ。その5人がだ、数で劣り、戦術機の性能で劣る相手に苦戦を強いられ、今も更に1機が撃墜されている。「―――正に、笑劇ね…」最後の1機…伊隅の乗る不知火の脚が射撃でもがれ、その一瞬の隙で接近したイーグルが長刀を振り下ろす。《ヴァ、ヴァルキリー01…左肩部から右腰部まで長刀による斬撃により大破……状況終了、ホルスチームの勝利…です》A-01のCP士官である涼宮 遥の呆然とした声が響き、15分の短くて、長い模擬戦が終わった。 ◇「皆さん、腕は良いんですが……概念が固まってますね」「だな、通常のOSに慣れている人間なんだから仕方が無いっちゃ仕方が無いんだが……」今日の晩御飯は何にしよかね~?しかし、かなり久し振りにイーグルに乗ったな。「ただ、途中から確実に捉えて来ました……正直、このEXAMに慣れたあの人と戦っても勝てる気がしません…」「確かにな……最後の不知火の一射にはかなり焦ったぞ」やっぱ鯖味噌か?久しく食べてないし。お土産は何にするか……あの不知火、隊長機だろうな。「兎も角大尉、この後は座学ですからドレッサールームで着替えましょう?」「おーう、了解」………ふぅ、やっとのんびりする事が出来た。あ、さっきの変な言葉(鯖味噌とか)は霞対策の『マルチタスク』である。俺は魔法少女リリカルな○はで知った奴だけどね。同時に複数個の思考を回し、霞のリーディングブロックを行う。思考の内容は様々だが下らない物ばかりだから大丈夫、多分。これで読まれてたらもう手の打ち様が無いから半分開き直ってるけどね!(それっぽいのを取得したい人は『日本語の文を英語で話しながら、ドイツ語で日本語文を同時に書き写す』をやってみよう)「さーて、今日はサッバ味噌だぁ~♪」もう、野となれ山となれ~だぜ~。 ◇「……以上が、EXAMの特筆すべき点であります」「なるほど、任意によるキャンセルとCPU強化による処理能力の増大で再現不可だった機動を行える様にする、と…」「その通りです、伊隅大尉。CPUの処理能力が強化されたのとキャンセル、この2つが大きな即応性を生み出してくれます」「非常に興味深い……それに、その力は実体験したので此方に文句は無い。よろしく頼むぞ、バーラット中尉」「此方こそ、伊隅大尉」俺はブリーフィングルームでA-01メンバーとの顔合わせと新OSの説明会を行い、丁度終えた所だ。しかし、こうして見渡して見るとやはりA-01の消耗率は半端じゃない。衛士は伊隅大尉・鳴海中尉・速瀬中尉・宗像中尉・風間少尉の5人にCP士官の涼宮中尉1人の6人だ。A-01という特殊性からして人員の補充もやはり難しいのだろうか、はたまたオルタ5派の圧力なのか……。「?バーラット中尉、どうかしたのか?」「いえ、以前に鳴海中尉は“連隊”と言っていたのでそれなりの人員が居る事を予想してたんですがね……随分と少ない、と思いまして」「……我々の部隊は新兵器や対BETA戦の情報収集も行う部隊だ。実戦への参加も多く、教導隊の役目もあるので補充要員も限られる」「―――なるほど、理解しました」伊隅大尉がそう告げ、俺は頷く。咄嗟に出したか以前から用意していたかは知らないが先程の言葉が嘘であるのは分かった。…………だって、鳴海が速瀬中尉と涼宮中尉に睨まれてすっごく顔を青くしてるんだもん。(余計な事を喋ったわね…!?な感じで)「…実機の方は既に換装作業に入ってますか?ピアティフ中尉」「作業はシュミレーター戦が終了した時点を持って開始しています。総チェックを含めて翌日から使用可能かと」「了解です。NFCA-01a(F-18/EX)は?」「既に全整備を完了してます。C型装備(実弾)を装備すれば戦闘行動も可能ですが、実機教導任務の際に機体は吹雪を運用するように、と命令が」「吹雪で?そりゃまた何で…ってああ、そう言えば不知火の直系機でしたね……え、今から慣熟ですか?」「………テストパイロットなんだから余裕でしょ?とのお言葉です…」……あの人(副司令)の命令だから特に何も言わないでおくが……無茶振りにも程があるだろ。そりゃ、主機出力も低い練習機だし力ずくで制御してから手懐けるのが出来るけどさ………しかし吹雪か、乗る事になるとは思わなかったな。「あの、私達が使用する吹雪は?」「当基地の訓練兵が使用する吹雪がありますのでその内の2機を使用する予定です」「え、あの…それじゃあ訓練兵の機体を奪っちゃう事になってしまいますけど…?」エレナが小さく手を挙げ、ピアティフ中尉に質問する。帰ってきた答えにエレナは少し驚き、聞き返している。確かに、訓練兵…恐らくは207A隊の吹雪を俺達が使用するのは些かアレである。命令ならば従うしか無いが、内心では決して良い気分ではあるまい。例えれば、『愛車を好き勝手に乗り回される』とか『楽しみにしてたゲームを先にプレイされる』…だろうか?―――――良い気分、しないだろ?「中尉、吹雪を借りる事になる部隊名は?」「部隊名…ですか?207A訓練小隊ですが?」「了解しました。では皆さん、本日はここまでとします…エレナ、行くぞ」「りょ、了解です!」慌てて俺の後ろに追従して来るエレナを引き連れ、ブリーフィングルームを出てその足でPXへと向かう。もうそろそろ夕食の時間だし、もしかすると207隊の連中が居るかもしれないからね。 ◇【side 茜】「あー……まだ一回も乗って無いのに~」「ま、災難だった~としか言い様が無いよね~」「茜ちゃんと晴子ちゃんの吹雪、有無を言わさず没収だったからねー」「いや、没収って……何かの任務で使用するから実機演習が少しやりにくくなるだけだって神宮寺教官が言ってたでしょ?」場所はPXのとある一角、そこに訓練兵を示す階級章をフライトジャケットに着けた少女達が座っている。涼宮 茜・柏木 晴子・築地 多恵・高原 舞・麻倉 静香の207A隊はそれぞれが思い思いの食事を手に普段は談笑しているのだが…どうにも、空気が違っていた。「まぁまぁ茜、そんなに落ち込んだって吹雪は帰ってこないんだから…」「分かってる、やっと戦術機に乗れる!と思った出鼻を挫かれただけよ…」「あれだよ、茜の吹雪を奪った奴にビシッ!と言ってやれ~!」「静香…あのね?相手は十中八九、上官なんだから言える訳…「いや、言いたければ許可するぞ?」へ!?」「だ、だだだ誰ですけぇ!?」声を掛けてきたのはシニカルな笑みを向ける外人…トウモロコシの毛の様な赤茶の髪をオールバックにし、機能性に優れた筋肉質な体をピッチリとしたフライトジャケットで覆っている。この基地では見ない部隊章だったのもあるが、彼の階級が中尉であったのもある。慌てて起立、敬礼。皆も続いて敬礼すると外人の中尉は戸惑った顔をし、私に声を掛けてきた。「おいおい、そんなに固くならないでくれ……英語だと、どうにも固いな……日本語で良いか?」「ハッ!中尉殿、私共に何か御用でしょうか!(日本語話せるんだ…)」「いや、この基地で吹雪を運用しているのは訓練小隊である君達だけ…そう聞いているが間違いないか?」「そうですが……あの、失礼かと思いますが吹雪を借りるのは……」「俺と、俺の部下だ……迷惑を掛けてスマン!」そう言って頭を下げる中尉に全員が絶句する。中尉が、訓練兵(二等兵扱い)である私達に頭を下げるなんて誰が予想出来るだろうか?少なくとも、私の常識の中ではそんな人は居ないだろう………というか。「は、早く頭を上げてください!周囲から不思議そうな目で見られてます!」「気にするな」「私が気にします!!」頭を上げた中尉はHAHAHAHAHA!とか笑いながら私達の自然な動作で空いている席に座り込み、鯖味噌定食の前でパンッと手を合わせる。「いただきます」……目の前の外国人が笑顔でそう言う光景は、非常に不自然であったが……何故か、日本人の様に堂に入ったモノだった。後編へ続く後書き一人暮らし、もやし炒めは飽きてきたブシドーです。食生活の劣化が執筆スピード減少に繋がっているんでしょーか?