<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

Muv-LuvSS投稿掲示板


[広告]


No.20384の一覧
[0] マブラヴ~青空を愛した男~(現実転生)【本編完結】[ブシドー](2010/10/18 18:34)
[1] 【第一話】スタートライン[ブシドー](2010/07/17 21:40)
[2] 【第二話】始動[ブシドー](2010/07/17 21:41)
[3] 【第三話前編】NFCA計画[ブシドー](2010/07/17 21:42)
[4] 【第三話後編】NFCA計画[ブシドー](2010/07/17 21:43)
[5] 【閑話過去話】彼と彼女の流儀[ブシドー](2010/07/17 21:44)
[6] 【第四話】特に何でもない日常が幸せだと気付くのが次回である[ブシドー](2010/07/17 21:45)
[7] 【第五話】最初で最後でありたい介入[ブシドー](2010/07/17 21:46)
[8] 【第六話】繋がる道、有り得ない歴史[ブシドー](2010/07/17 21:47)
[9] 【第七話前編】横浜day,s[ブシドー](2010/07/17 21:48)
[10] 【第七話後編】横浜day,s[ブシドー](2010/07/17 21:48)
[11] 【第八話】そして、物語は加速する[ブシドー](2010/07/17 21:50)
[12] 【第九話前編】天空の眼[ブシドー](2010/07/17 21:50)
[13] 【第九話中編】天空の眼[ブシドー](2010/07/17 21:51)
[14] 【第九話後編】天空の眼[ブシドー](2010/07/17 21:52)
[15] 【第十話】選択[ブシドー](2010/07/17 21:53)
[16] 【TE・オルタ√第1話】さらば横浜、また会う日まで[ブシドー](2010/07/17 21:54)
[17] 【TE・オルタ√第2話】北の国から[ブシドー](2010/07/17 21:54)
[18] 【TE・オルタ√第3話前編】思い出とトラウマ[ブシドー](2010/07/17 21:55)
[19] 【TE・オルタ√第3話後編】思い出とトラウマ[ブシドー](2010/07/17 21:56)
[20] 【TE・オルタ√第4話】暗雲[ブシドー](2010/07/17 21:57)
[21] 【TE・オルタ√第5話】相棒[ブシドー](2010/07/17 21:58)
[23] 【書いてみた】AF編その1※主人公はAFの知識がありません[ブシドー](2010/07/17 22:00)
[24] 【続いちゃった】AF編その2[ブシドー](2010/07/17 22:16)
[25] 【まだまだ続くよ】AF編その3[ブシドー](2010/07/17 22:00)
[26] 【END-1前編】AF編その4[ブシドー](2010/07/17 22:01)
[28] 【TE・オルタ√第6話】Kの怒り/テメーは俺を怒らせた[ブシドー](2010/07/18 11:14)
[29] 【TE最終話】隠れた青空[ブシドー](2010/07/24 09:06)
[30] 【AL第1話前編】ジョン・ドゥ[ブシドー](2010/07/24 06:38)
[31] 【AL第1話後編】ジョン・ドゥ[ブシドー](2010/07/25 23:26)
[32] 【AL第2話】男の目元の厳しさと優しさを隠してくれる※何故か前編とか付いてた件[ブシドー](2010/07/27 19:25)
[33] 【AL閑話】私色に染め上げて欲しい[ブシドー](2010/07/28 00:56)
[34] 【AL第3話】制限付きの体[ブシドー](2010/07/30 07:45)
[35] 【本編と無関係】Muv-Luv Alternative Der Himmel, in den ein Huckebein fliegt[ブシドー](2010/07/30 19:40)
[36] 【AL第4話】変わらない自分[ブシドー](2010/08/08 23:03)
[37] 【AL第5話】男の在り方[ブシドー](2010/08/11 07:41)
[38] 【AL第六話】貴方を犯人です[ブシドー](2010/08/20 07:35)
[39] クロスオーバーな小ネタ集~ストライクウィッチーズ2編~[ブシドー](2010/08/20 07:38)
[40] 【AL第7話】死者VS死者[ブシドー](2010/08/25 08:01)
[41] 【AL第8話】12月5日[ブシドー](2010/08/26 23:18)
[42] 【AL第9話前編】沈黙の空[ブシドー](2010/08/27 18:57)
[43] 【AL第9話後編】沈黙の空[ブシドー](2010/08/31 19:10)
[44] 【AL第10話】翼[ブシドー](2010/08/31 19:26)
[45] 【AL第11話】隠した限界[ブシドー](2010/09/02 19:33)
[46] 【AL閑話】男なら、誰かのために強く在れ[ブシドー](2010/09/02 20:34)
[47] 【AL第12話前編】戦士達の佐渡島[ブシドー](2010/09/03 22:05)
[48] 【AL第12話中編】戦士達の佐渡島[ブシドー](2010/09/04 22:11)
[49] 【AL第12話後編】戦士達の佐渡島[ブシドー](2010/09/05 18:33)
[50] 【AL第13話前編】強襲――――もとい、わりとヒマなお姫様の一日『来訪編』[ブシドー](2010/09/06 19:11)
[51] 登場人物&各種装備設定集(クリスティーナ追加&F-4JX、一部も改定)[ブシドー](2010/11/02 21:05)
[52] 【AL第13話後編】強襲――――もとい、わりとヒマなお姫様の一日『回顧編』[ブシドー](2010/09/09 17:52)
[53] 【AL閑話2】守りたい笑顔[ブシドー](2010/09/26 15:45)
[54] 【AL第14話前編】Save[ブシドー](2010/09/30 08:09)
[55] 【AL第14話後編】Save[ブシドー](2010/10/02 20:39)
[56] 【AL第15話】守れた物、守れなかった者[ブシドー](2010/10/07 19:02)
[58] 【AL第16話】たった一つの想い[ブシドー](2010/10/07 19:11)
[59] 【AL第17話】全てに終わりを[ブシドー](2010/10/10 09:49)
[60] 【最終話前編】桜ノ花[ブシドー](2010/10/14 21:23)
[61] 【最終話後編】桜ノ花[ブシドー](2010/10/16 20:54)
[62] 【エピローグ】もう一つの未来[ブシドー](2010/10/18 23:47)
[63] 【The Day After】Let the story live on in your heart[ブシドー](2010/11/05 00:14)
[64] 【外伝その1】意外と喧嘩ってのは意地と意地のぶつかり合い[ブシドー](2010/11/05 00:17)
[65] 【欧州物語その1】とある軍曹(サージェント)と訓練兵(ひよっこ達)[ブシドー](2010/11/30 20:56)
[66] 俺の部下がこんなに○○○○なわけがない![ブシドー](2010/12/18 16:52)
[67] 【欧州物語その2】とある軍曹(サージェント)と訓練兵(ひよっこ達) [ブシドー](2010/12/31 01:43)
[68] 【本当は】 白銀武の消失(!?) 【正月用だったのに】[ブシドー](2011/01/25 18:25)
[69] 【外伝中編】白銀武の消失[ブシドー](2011/01/25 21:38)
[70] 【外伝後編】白銀武の消失【副題:白銀VSクラウス】[ブシドー](2011/02/03 00:00)
[71] 【過去編】それでも、生きる[ブシドー](2011/02/22 15:42)
[72] 【過去編サイドストーリー】貴方の隣へ[ブシドー](2011/02/25 22:43)
[73] 【番外編前編】In the snow of time [ブシドー](2011/04/03 08:27)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[20384] 【外伝後編】白銀武の消失【副題:白銀VSクラウス】
Name: ブシドー◆fddcbbd2 ID:10f8d4d5 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/02/03 00:00
「ハァ…ハァ………ッ」

額から流れ出た汗が頬を伝い、その形を変えることなく顎先へと達し、床へと落ちる。
自分が身に纏う衛士強化装備には体温調節機能が備わってる筈なのに、まるで苦しむ病人にように汗を流し続ける。
自身が……白銀武が今現在、存在する戦術機の管制ユニット内という閉鎖空間。
部外者の助けは無く、また操縦桿を離して汗を拭うことも出来ない。

それは何故か?
それは、白銀の機体が存在する旧市街地通りの道に相対するもう1機の戦術機の存在が居るからこそだった。

白銀武が乗る肩部装甲に描かれた黄色いリボンマークが特徴的なF-15Eの改造機。
それと相対する日本帝国カラーの灰黒と黒銀色に塗られた見覚えがあるようで見知らぬ戦術機。

そのそれぞれが長刀、大型ナイフと装備を分け、相対していた。

「…………ッ」

『…………』

白銀も、その相手も何も喋らない。
ただ、合わせたように戦術機の腕が上がったり下がったり、脚を進ませたり引かせたりと……互いに一瞬の隙を狙い続ける。

白銀の脳内には今は混乱しかない。
どうしてこうなってしまった―――そう思うしかない。
そう思うと、声が聞こえた。

『………もはや、演技や演出などどうでも良い。これだけ聞かせろ白銀武。お前は、あの子を幸せに出来るのか?』

「出来る出来ないじゃありません……幸せにします、絶対にッ!!」

『………そうか』

通信機から聞き慣れた男の優しげな声が通信よりまた響き、連動するように男が乗る機体の持つナイフが揺られる。
“殺し合い”が始まってから優しげな声での初めての会話だ、とか思う。

だけど、その優しげな声に含まれているのは何かが違う、
何時も口を開けば軽口ばかり、安心感を与えたいのか素なのかよく分からないあの人の声色には普段の軽さは無い。
いや、正確に言うのならば、声に変化は無いが篭められた感情が伝わる……そう言うべきなんだろうか。

『……これで終わりにしよう』

「……ッ! 望むところです…!」

男がそう告げる。
それと同時に鈍く光る大振りのナイフをゆっくりと構え直し、跳躍ユニットや機体各所に設けられたスラスターユニットが推力を吐き出し続ける。
燃焼する推進剤の燐光が機体の装甲を照らし、辺りに青白い光を撒き散らし、そして空へと昇っていく。

白銀の機体も、それに対しあまりにも自然に思えるほどにゆっくりと長刀を構え直す。
構えは待ち、ただ向かってくる相手を真正面から叩っ斬るだけを考えたその型は示現流の蜻蛉の構え酷似していた。

奇しくも、互いの獲物に最も適した戦闘方法を二人は取っていた。

男は、白銀がその太刀を振り下ろす前に懐に入りナイフを突き刺す。
白銀は、向かってくる男を払い落とすように叩き斬る。


後は、タイミングの問題だけ。


『………』

「………」

そして、この二人の決着を告げる為の鐘の役割を果たしたのは――――――


『タケルちゃんッ!!!―――さんッ!!』


――――通信機越しに叫ばれる、二人の名前。


『………ッ!!』

「――――うぅぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおッッ!!!」

その瞬間―――両者が動く。
吹き上げた噴射光を置き去るように、ナイフを構えた機体が突貫。
それと同じく、白銀の裂帛の気合と同時にF-15Eカスタムが長刀を振り下ろす。

互いが必殺の一撃を放ったその時……この決闘の終止符を告げる鐘となった彼女は呆然とし、腰を抜かしたように地面へと座り込んでいた。



 ◇

【2005年1月5日】


白銀武は自室でゆっくりと瞳を開け、ボウッとした目で天井を見つめる。
次に手のひらを見つめてから閉じて開いて、しっかりと自分の体が自分であると認識する。
そしてベッドから起き上がり、周囲の景色を見てからようやく安堵の溜め息を漏らしていた。

(良かった、まだ俺はこの世界に存在している……)

香月夕呼、クラウス・バーラットとの対面と会話から丁度3回目の朝。
昨日…3日でも大した進歩は無く、自分でも泣く泣く床に就いたのはよく覚えていた。

理由は、昨日は夕呼ともクラウスとも出会う機会は無かったからだ。
ただ一人、全てを知っているであろう霞は何も告げずに純夏の元へと消え、仕方が無く自分の率いる中隊の部下と訓練しようと思えばシミュレーターは貸切だ。
じゃあ、自分の機体でも見に行こうと思えば何らかの作業中で進入禁止エリアになっていて……やること成すこと、尽くを潰されていた。

ただでさえ白銀に残されている時間は少なく、また曖昧な存在だ。
何かをしていないと落ち着かないし、落ち着けないというのもあったがこれはあんまりだ……少なくとも、白銀はそう感じていた。

4日も同じく、貸切のシミュレーターに進入禁止な格納庫、見かけない夕呼とクラウス。
一人寂しく、自室で閉じこもっていた記憶がある。というか、昨日の出来事だし忘れる訳が無い。

「……はぁ」

そんな、二日間の記憶を思い出し、それを振り払うように部屋に備え付けられた洗面所の蛇口を捻る。
冷たい冷水で顔を洗い、そして歯磨きと着替えを済ませて部屋を出る。

現在時刻は朝の6時。
よほどの事でも無い限りは多くの基地要員達が起き始める時間帯だが、まだ多少は早い。
だから朝食を早めに済まそうと足を食堂へと向けて歩いて行き、到着すればまばらにしか居ない列へと並ぶ。
そして、あっさりと自分の番が来たので食堂のおばちゃん……京塚曹長へと注文をしようと、白銀が口を開いた瞬間だった。

「おばちゃん、合成納豆定食をひと「おや、見ない顔だね?新しく来た人かい?」―――――ッッ!?」

何一つ変わらない、変っていない京塚の口から白銀に向かって帰ってきた言葉。
その言葉が意味する物に、白銀の思考が停止する。


今、目の前で鼻歌混じりに朝食を用意してくれているおばちゃんは何て言った?


(わす、れてる………!)

「はいよ、大尉さん!いっぱい食べるんだよ!」

「は、はいっ……」

何の準備も、何の覚悟も無い中で直面した現実。
この世界の白銀にとっても母とも思える人から忘れられたショックは白銀には大き過ぎた。

そして、それを如実に表すように…白銀の顔からは何かが抜けていた。
意識が薄れてるというより、生気が抜けているという方が正しいであろう。

それでも、鍛え上げられた軍人としての雰囲気は崩さず、食事の乗ったトレイを持ち上げ、席へと早急に移動する。
冷静でなかろうと、慌てたり悲しめば状況がひっくり返される訳じゃない。
だからこそ、白銀は早く食事を済ませて夕呼の元へと行く必要があると判断していた。

現状で白銀の状態を最も把握しているのは夕呼なのだろう。
少なくとも、白銀にとってもそれなりに長い付き合いになっている恩師の能力は知っているつもりだ。
それが、万能でないことも勿論知っているが…。

「(やっぱ、先生に頼るしか無いか…) ご馳走様!」

一気に口に詰め込み、最後に味噌汁で“よく分からない物体”と化した合成納豆定食を流し込み、そして食器類を下げたその足で小走り気味に走り出す。
ただ、『少しでも早く、少しでも時間短縮をしよう』という内面の焦りが滲み出ているのか、何時の間にか全力疾走と化していた。
しかしそれは、三つ目の曲がり角を曲がり切る直前に、強制的に止められる結果に相成った。

「白銀大尉!ちょうど良い所で会えました。 緊急の連絡が入っています!」

「ぴ、ピアティフ中尉!?もしかして、俺のことを覚えてるんですか!?」

「は、はぁ?それは勿論ですが……」

一言で言うのならば、秘書という雰囲気を纏った白銀も良く知る女性、ピアティフが白銀を認識していることで思わず尋ねる。
ハッキリと言えば異様な様子にしか見えないだろう。

そして、呼び止めた相手にいきなり『自分を知ってるのか?』と尋ねられたピアティフの表情にはありありと困惑が浮かんでいた。
その顔に、白銀は『やっちまった!』という思いを隠しつつも冷静に考えていた。

(忘れられてるってのはやっぱ、個人差みたいのがあるのか……?)

京塚は白銀を忘れ、ピアティフは白銀を覚えている。
薬の効き目みたいな個人差……そう思えればまだ気が楽なのだけれど、この誤差が“白銀の存在が不安定である”という状況を表している。
……そう思うと、妙に説得力がある気がして陰鬱であった。

「そ、そうですか!変なことを聞いてスイマセン!……それであのー、緊急の連絡ってのは?」

「はい、香月司令より第12格納庫への出頭命令です。その際、衛士強化装備を装着しての合流となってます」

「第12格納庫って俺の部隊がメインで使ってる……分かりました、ありがとう御座います!」

軽く敬礼し、駆け出す。
目指す場所はハンガー脇に存在する更衣室だ。
そこで時間を掛けずに一気に着替え、微妙に苦しさを感じるような衛士強化装備のズレを修正しながら第12格納庫へと繋がる通路を歩いていく。

少しだけ乱れた呼吸を整えるのもあるし、強化装備に備えられている生命維持装置や体調管理システムの起動した感覚を確かめる為でもあった。
そして体調管理システムのお陰か、体温調整がされて薄っすらと浮かび上がっていた汗も気にならなくなっている。
それを確認し、最後に一回だけ飛び跳ねて小さく呟いた。

「うっし、全部OK」

チェック終了。
それを自分でも確認した後は肩や手首を回しながらも歩き続ける。
思えば、言われるままに衛士強化装備を纏って呼び出された格納庫へと向かっているが何をするのだろうか?

少なくとも確実に分かることが一つだけ、先ず間違いなく戦術機に乗るのだろう。
そのための衛士強化装備、そのためのハンガー集合だ。
だが、今の白銀の状況に対しての手段にしてはどうにも要領を得なかった。

白銀を呼び出したのは基地司令、つまりは夕呼だ。
頼りっぱなしで情けなく思うが、現状では彼女が動くとなると何らかの対策をしてくれたのか?と思ってしまっていた。
それ故に、どうにも肩透かしにしか思えないのだ。

(ま、会えばとりあえずは状況把握できるかな……ん?)

そう思った時だった。
妙にスゥッとする特徴的な匂いが鼻腔に感じられた。

よく格納庫で嗅ぐ塗料の匂い。
それが、第12格納庫の入り口から漏れ出ている。
その匂いに、多少顔を顰めながらも白銀は入り口のドアへと手を掛けていた。

「……換気、し忘れてるってのはねーよな……? ……うっし!先生!!ここに俺を呼んで何を―――――……へ?」

ドアを開放した瞬間、照明の明かりが何かを反射したのか、白い光が目を焼き、そしてそれが直ぐに収まる。
そして、白銀が夕呼の名前を呼びながら目を開き……絶句した。

本来ならば、そこには今の白銀の愛機であるUNブルーに塗られたF-15Eが鎮座している筈だ。
オルタ4は成功に終わり、A-01連隊が解散された今では日本帝国が国連に、正確に言うのならば夕呼に『不知火』等の純国産機第三世代機を送る義理は無い。
そして夕呼自体も集るように日本帝国に要求するつもりも無かった。

それに、今は一国一城……とは少し違うが、極東方面最大の基地の司令であり、オルタ4を成功に導いた文字通りの【聖母】だ。
そんな彼女へと手出し出来得る勢力は限られ、そしてその対策を忘れる筈も無かった。
それ故に、盛大な私兵を抱える必要性も無かったと言えるだろう。
現状、この横浜基地の全てが彼女の保有する戦力だからだ。

そんな夕呼の元に、白銀は国連軍…限定的に言えば、夕呼の傍へと残り続けていた。
そして、そんな白銀に現状で与えられる最高の機体がF-15Eだった。
何故、F-15Eなのか……と言われればどうにも面倒になる話だ。

現状の横浜基地へは、国家からの派遣という形で機体が送られていない。
オルタ4を支えたA-01部隊とて、(オルタ4に関連する都合以外)のその多くは日本帝国からの派遣部隊だ。
かつて行われていた訓練兵の育成は過酷な任務で消耗する人員の補充の一環であった。

そんな状況下で良い例としては帝国斯衛軍所属であり、今は国連軍へと派遣されて武御雷を運用している【独立北方中隊】という部隊がいる。
武御雷の機体色もUNブルーに染められており、衛士の所属だって国連軍である。
そんな部隊が武御雷を運用できるのは【斯衛軍】というバックヤードのお陰なのだ。

そんなバックヤードに囚われていない数少ない機体がF-4、F-15などの機体であり、現状の国連軍の戦力の大多数を占めている。
その中で、白銀の実力に見合うだけの底力があり、運用できる戦術機がF-15Eであっただけなのだ。
……例外として、ユーラシア大陸の方では国連軍所属であってもEF-2000等の第三世代機を運用している者は居るには居るのだが…。

とまぁ、ひとまずそれは置いといて、だ。
そんな経緯もあり、白銀用に完全カスタムされた【専用(ここ、男の子にとって重要である)F-15E】を大層気に入っていたが故に、目に映ったF-15E改の状態は衝撃であった。

そう、そんなまさか……。



「は、白銀色ォぉぉぉおおおおお!?」



そう、白銀のF-15Eの機体カラーリングがUNブルーから白銀色へと変更されていたのだ。
それに、肩にはハッキリと色残る黄色いリボンマーク(どっちかと言うとメビウスリングだろう)のエンブレムが輝いている。
先日まで何ら変らないUNブルーだったのに、今はデモンストレーター機でも見ないような派手化粧だ。

そこで、白銀がハッとする。
先日までの格納庫封鎖はこの作業を行っていたのだろうと、あまり時間も掛からずに辿り着いていた。

「煩いわねー白銀、少し声を小さくできないのかしら?」

「せ、先生!?こ、これってどういうことっスか!?」

「あーはいはい、落ち着きなさい白銀。面倒だから直球で言うけど、この機体でアンタには模擬戦闘をして貰うわ」

詰め寄った白銀は、気だるげにそう告げる夕呼に目を丸くする。
『模擬戦?俺が?』と目が存外に語り、それを見た夕呼も少しだけ落ち着かせるように咳払いをし、白銀を注目させた。

「一応だけど、この模擬戦もアンタがこの世界に残り続ける手段の一つよ」

「……どういうことですか?」

理解が出来ないと言いたげに眉を顰める。
模擬戦がこの世界へと残る手段になる……それは、どういうことなのだろうか?

「アンタの戦いを世界中に配信するわ、衛士の紹介入りでね……つまり、アンタの名前をリアルタイムで世界中に流すのよ」

「そ、それで俺の名前を映像を見た人達に刻む……ってことですか?」

「そ、白銀をこの世界に縛っているのは白銀を本当の意味で知り、求めてるあの子だけ……だから、白銀を求める存在をこの世界中に作るのよ」

「そ、そうですか……それ、上手く行くんですか?」

良く分かったような、分からないような。
そんな顔を白銀はするが、この作戦を実行に移そうとしてるのが夕呼だと思い直し、期待を込めてそう尋ねる。
だが、夕呼の顔には白銀に期待させる色は無かった。

「ま、可能性は限りなくゼロでしょうねー」

「……ッ!」

「でも、やらないよりはまだ可能性があるわよ?どうするの?やる?やらない?」

その問いに、白銀が出せる答えは一つしか存在していない。
ただ、ゆっくりと頷くだけだった。
その白銀の答えに、夕呼は小さく笑んだ。

「そ……なら早く乗りなさい。相手はもう待機してるわ」

「了解!」

白銀がリフトを利用し、戦術機の管制ユニットへと乗り込んだのを確認した夕呼は目を細め、ハンガーの外を見る。
恐らく、多分…その視線の先に存在するであろうもう一人の決め手になり得る男の存在を信じるように。

「さ、後は任せたわよ……?」



 ◇



「外部電源より切り替え及び主機運転開始、主電源接続、OS:EXAM3起動開始…」

シートへと座した白銀は手馴れたように戦術機の始動シークエンスを開始する。
そして、F-15Eの内側から響く主機の低くも響き渡って来る音に耳を傾けつつ網膜投影に写るチェックリストを消化し、小さく笑んだ。

(よし、いきなり色が変ってビックリだろうけど、相変わらずだなぁ相棒?)

整備員と言葉のやりとりを交わし、ヘッドセットの固定をしっかりと確認。
そして、主機から供給される数値が基準値を超えた所で、白銀は唇を薄く舐め、起動を続けていく。

「オートバランサー、アビオニクス、FCS共に異常なし……出します!」

『了解です大尉!リフト退け、誘導員配置にかかれ!さぁさぁ別嬪さんのお披露目だぞ!!』

通信機越しに聞こえてくる整備班長の声を聞き、苦笑しつつも“別嬪さんになった相棒”の管制ユニットを閉じる。
ヘッドセットと外部カメラを接続、網膜投影による視界の不良も無い。
後はそのまま待機、誘導員の信号を待ってそのままシートに腰を深く落とし、機体が奏でるテンポの良い振動に身を預ける。

「………」

考えることは、この後に行われるであろう模擬戦の事だった。
現状では相手が不明だが、白銀にはある程度の予想が出来ていた。

この基地で白銀武と1on1で十分に闘えるであろう技量を持つ、一人の男の背中が白銀には見えている。
今から四年前……白銀が負けたままに終わった、あの男との再対決を。

(……あれから俺は、強くなった……と思う)

白銀は自身の掌を見つめ、それを強く握り直す。
以前は喰らいつくことしか出来なかった自分に今の自分……あの男に残る後遺症はもう理由にならない。
ただ言えるのは、これは男のプライドの問題だ。

(今度は、勝つ……あの人に―――クラウスさんに!)

『進路クリア…どうぞ!』

「――――了解ッ!」

全関節ロック解除、操縦桿をゆっくりと前に押し出す。
連動するように機体の脚が前へと進み、それと同時に芯へと響く振動に心頼もしさを感じながら滑走路へ。
この機体が格納庫から姿を現した瞬間、周囲の警備兵や哨戒部隊の戦術機の動きが目に見えて動揺したように見えた気がした。

(ま、そりゃそうだよな……)

この横浜基地で現状ではこれだけ目立つカラーリングはそうは無いだろう。
白銀は、A-01がまだ存続してた頃をふと思い出す。
月詠真那達の赤と白の武御雷にエレナ・マクタビッシュの白いEF-2000、ジョン・ドゥもといクラウス・バーラットが一時期乗っていたF-4JXの黒も目立っていた。
まさか、今になってそんな妙に目立つ立場になるとは思ってもいなかったのだ。

「ははっ……こりゃ、少し慣れないな………ん?」

回線がオープンで固定されているのか、周辺部隊の通信が耳に入ってくる。
白銀自身も交わされている会話には苦笑するしかなかったが、その中のどの衛士が呟いたのかは不明だが、聞き逃せない一言が耳に入っていた。

『おいおい、さっきの【重武装の新型】に続いて、今度は曲芸(サーカス)機かよ?』

(………重武装の新型?)

初めて聞く単語を白銀の耳が拾う。
この呟きを漏らした相手は何事も無しに呟いたんだろうが、白銀にとっては捨て切れない単語であった。
それにどうにも、会話の雰囲気からしてこの基地に元から配備されている機体の感じでは無さそうだ。

現状、白銀に予測出来得る範囲での可能性では……自分がこれから戦うであろう機体だろう。
少なくとも、相手となる衛士をまだ仮定ではあるがクラウス・バーラットと白銀は定めているのだ。
そして、あのクラウスが乗るとすれば、だ。
先ず一般的な機体で来るとは思わないほうが良いだろう。 そういう風に、白銀の“直感”が告げていた。

(こりゃ何をしてくるか分からないかな……)

機体を進め、跳躍ユニットの試運転を開始しつつそんな事を思う。
跳躍ユニットの排気等のチェックをしていた地上班のOKサインに対し、F-15Eの手に持つ突撃砲を軽く上げて答える。
そしてそのまま待機しつつ一分後、HQより通信が繋がった。

《HQよりヴァルキリー01、当基地からの飛行許可が下りました、発進タイミングをヴァルキリー01へ譲渡します》

「了解」

HQからの発進許可と目的地のマップが表示される。
場所は、未だ復興の始まらない旧白稜居住区域。 現在は基地の演習場と化している廃墟。

さぁ、行こう。
直ぐにでも行こう。

そう騒ぐ心臓に落ち着くように命令し、大きく息を吸い込む。
餓鬼っぽい、遠足前の少年のような気持ちを押さえて息を吐き出し…操縦桿を力強く握り直した。

「――――ヴァルキリー01、白銀武、出ます!」

そして、地面から白銀色の戦術機が一気に青い空へと飛び立つ。
浮き上がる直前の不安定なブレを跳躍ユニットが吐き出す推力で押さえ込み、そのまま一気に空へ。
そうすれば、空が近い場所になるというのを白銀は知っていた。

《ヴァルキリー01の飛行を確認しました。演習区域へと進入して下さい》

「ヴァルキリー01了解。HQ、模擬戦の開始時刻は?」

機体の高度を落とし、NOEへと移行してから尋ねる。
片目で確認しているマップには間も無く演習予定の区画ラインが描かれており、そこにあと少しで接触するであろうタイミングだ。
現在時刻は午前9時59分、配置に着くのも含めて考えれば10時30分であろう―――そう、当たりを着けていた。

《演習予定時刻ですか?それは――――》

管制官のマイクから書類を捲る音が聞こえる。
そして、その捲る音声が消えたと同時にその内容を読み上げようと管制官の口が開いた瞬間――――白銀の耳に、寝耳に水に近い警告音が響き渡った。

「ミサイルロック!?」

地面へと機体を降ろそうとしていたその手と足を咄嗟に動かし、ビル郡の間にある旧道を噴射地表面滑走(サーフェイシング)でホバリングするように突き進む。
白煙を引いて飛来してきたミサイルの数は確認できるだけで10発以上―――明らかにミサイルコンテナに搭載された全てのミサイルを迷い無く撃ち切っている。

だが、その多くはビルという簡易防壁に阻まれて白銀へと到達する物は無かった。
まるで小手調べのような感覚だ。

「……それで、演習開始時刻は?」

《―――は、はい!開始時刻は午前10時となってます!!相手は、クラウス・バーラット少佐です!!》

「……なーるほど」

目の端で捉えたミサイル発射地点の予測地点をマップに登録し、現在時刻を確認する。
午前10時1分になったばかり……なるほど、つまりはそういう事だ。

「何でもアリってか?……上っ等だ!!」

年上だろうが関係ねぇ、クラウスのあのスカした顔をぶん殴るつもりでやってやる。
そう心に刻み込んだ白銀は索敵センサー類を全て最大にしながら機体を進める。

全てのセンサー類を全力で使用すれば機体の行動可能時間は減るが敵はただ一人、何の遠慮も要らない。
さっきのミサイルもクラウスが全開で使用していたセンサーを用いて白銀の機体を捉えたのだろう。
白銀も、先ほどのミサイルによる“歓迎”は部分部分の狙いが甘く感じていた。

「もうちょっと、引き込んでからのが良いんだけどな……」

ビルを背に、腕だけ乗り出すように突撃砲を進行ルートの先へと向け、警戒する。
極力、音は出さないようにとしてはいるが戦術機の巨体が動けば騒音はそれなりに発生する。
最大で使用中のレーダーにも映らないクラウスの機体は恐らく、待ち伏せ(アンブッシュ)しているだろう。

機影は半壊したビルの合間に入って隠せばいい。
それに主機も切っているだろう。 熱源探知も通用しないのが良い証拠だ。

「……」

神経を尖らし、鋭く薄く、360度全てに広げる。
奇襲か、狙撃か、それともトラップか……対人戦闘という状況に限られた手段で攻撃を仕掛けて来るかも知れない。
だが、“分からない”という恐怖は感じない。

ただ、クラウスという男が白銀を全力で潰しに来ているのが理解できる。
白銀にはそれが嬉しく感じていた。
嘗ては僅かながらでも及ばなかった相手に、今は持てる全ての戦術と作戦で対処されている……それはむしろ、誇りにすら思えるのだ。

「さて、と……ミサイルの発射地点はこの辺りなんだけど……」

そして、それから暫くの時間が経過し、目的の場所へと到達した白銀は呟きを放つ。
“誘い込みに乗った”のだ、もうこの範囲は相手のテリトリーであり、敵地だ。
先程のミサイルは囮、クラウスが現在居る居場所を伝えるメッセージだと感じていた。
つまり、本番はこれから……それを白銀も理解している。

そして、それならば乗ってやろう……そんな思いも、白銀には有った。

「二次元で見えないってなら……三次元で見るだけだ!」

その言葉と共に、白銀の乗るF-15Eカスタムが空へと飛び立つ。
ビルの屋上と地面が同じように見えるまで機体を上昇、まるで衛星写真のように市街地をその目に映し出す。
直ぐに破棄されたであろうミサイルコンテナも発見できた……そして、屋上が半壊したその隙間から薄っすらと見える戦術機のシルエットを、白銀は完全に捉えていた。

「そこっ!!」

一気にダイブし、ペイント弾が装填された突撃砲を機体直上から照準する。
だが、近距離で派手に動いたが故にクラウスも白銀の存在を感知していた。
36mmペイント弾が飛来する直前、半壊したビルの内壁をこじ開けるように飛び出し、半壊のビルを全壊のビルへと変えて…白銀の視界へと“ソレ”は躍り出た。

「何だアレ…第一世代機…?」

線は細く見えるが、そのシルエットは非常にズングリとしている。
ビルの倒壊によって盛大に生み出された土煙が機体の全容を覆い隠していてよく掴めないが、どうにも時代錯誤にも見える機体。

その機体が此方を見る。
始めて見る機体のカメラアイが薄く発光、白銀を認識したようにも見えた白銀は予測した相手の動きを脳内でトレースし、それに最適な機動をさせていた。
白銀は降下する機体を深くフォークのように機体を落としながらロールさせる。
そのタイミングは、此方へと向けて発射されたペイント弾の雨を回避するには十分な距離を生み出す。

そして、F-15Eカスタムが地面へと着地すると同時に、両者が左右へと円を描くように分れた。

「……ッ!」

ペイント弾を互いが撃ち合う中、白銀は大きく距離を開く。
それは、ようやく全容が見えた機体に対する判断の時間も必要だった。

(何だよアレ…!)

機体を大きく覆う、未塗装の装甲板。
部分部分には塗装がされているが、どう見ても不恰好に見えてしまう。
ズングリとした風体もあってか、どうにも不細工に見えてしまう機体だった。

だが、その図体にはどうにも見合わない機動力がソレには存在していた。
機体重量とて見た目に沿ってそれなりなのだろう。 なのに喰らい付いて来る瞬発的な加速度は異常とも思える。
そう、何かに似ているとすれば……かつて戦ったF-4JXによく似ている雰囲気が存在していた。

(あの機体の再改修機…?いや、そんなのを考えるのは後で良い!)

追い込むようにペイント弾を撃ち込み、進路を限定させる。
ただでさえ狭い市街地、その中で避けるとなれば限界は存在する、それまで追い込みきれば必ず大きな隙が生み出せる筈だ。
だからこそ、決して引かずにコンマの修正をしながら射撃を続けていく。

だからこそ生み出せたのだろうか。
クラウスの乗る未確認機の肩が浅くビルへと突っ込み、そこが基点となったように慣性の法則を再現する。
基点で抑えられた機体は、慣性によって一瞬だけ動きを封じられ……白銀にとって最大の好機となった。

「そこっ!!」

連射されていたペイント弾がクラウスの機体へと喰らい付き、黄色い斑点を生み出す。
ただ、そのままクラウスの機体はスモークを撒き散らしてビルの中へと無理やり突っ込んでしまい、それ以上の追撃は成らない。
しかし、白銀にも確認できた被弾箇所は胸部から左半身の多くを巻き込んでいる。 普通なら、もうこれで終わりの合図が来るであろう。


その機体が、普通ならば。


「―――ッ!!」

警告音が鳴り響き、行動しようとした瞬間には遅かった。
レーダー阻害の能力が含まれていた白煙を引き裂いて“ペイント弾の塗料にまったく染められていない”戦術機が一気に視界一杯に満たされる。
突撃砲を向けようとすれば敵機の空いた腕で銃口を空へ向けて外され、その瞬間に突き抜けるような衝撃が白銀の体を揺さぶっていた。

「っ……!な、何が―――」

口内を切ったのか、口の中に広がる鉄の味を感じつつ視界を開き、目を見張る。
視界一杯に、突撃砲の銃口が広がっている。
それが意味するのを理解するのに、白銀は少しの時間を要していたが、直ぐにどういう状況かは理解できていた。

組み伏せられ、管制ユニット部へとクラウス機の持つ銃口が押し当てられているのだ。
柔道でいう寝技みたいなものだろう、と何処か呆然とする頭で白銀は答えを出していた。

そこまで考え、ようやく気付く。
相手の、クラウスの乗る機体の外見が変化している事に。

そして、その視界の端に転がるペイント弾の塗料が着いた装甲が転がっている事に。
それを見て、白銀はパズルが組み上がった音を聞いた気がした。

「あ、アーマー!?そんなのありかよ、ンなもん!?」

あのでっぷりとした姿で気付かないのも問題な気もするが今はそう力なく言うしかない。
今見れば、あのアーマーを着込む為なのか角が多く、従来の戦術機とはどうにも大きく変わっている造型を見直す。
白銀の乗る白銀色のF-15Eカスタムに相対するような黒銀と灰色の戦術機。
赤いカメラアイの色と相成って無言の迫力を秘めているソレは銃口を下ろす。

その動きに、『負けた』という実感が白銀に沸き上がっていた。
悔しさもある、納得できないのもある。
だけど、相手は持てる手段の全てを持って相手してくれた…そう思い、通信を繋げる。

「クラウスさん、今日はありがとう―――」

しかし、その感謝の言葉は言い切らずに終わる。
鳴り響く警報と表示される警告。
それが示す物を理解する前に、地面へ寝ている状態の機体を跳ね上げるようにしてクラウスの機体と距離を離した。

『……チッ』

「な、何をするんですか!?」

聞こえてきた舌打ちに白銀は思わず叫ぶ。
白銀の機体が元々存在した場所には空振りに終わった大型ナイフがあり、白銀の機体に記される情報にはそのナイフは模擬兵装ではなく、【実刀】と表示されている。
更には、響き渡る警告が意味するのはIFFが訓練用から実戦仕様へと変更され、敵としてクラウスの機体が表示されている。


それが意味するのは、一つだった。


「(俺を…殺そうとした…ッ!?) クッ……!」

機体の跳躍ユニットに火を点し、一気に距離を開こうとする。
だが、クラウスの機体はそれに追従してくる。
現在、白銀の乗る機体が持つ兵装は全てが模擬兵装だ。 だからこそ、既に意味の無い突撃砲を投げ捨てて長刀を抜く。
模擬刀であってもまだ十分に打ち合えるだけの強度は存在している。

だからこそ、迎え打つ。
何故、クラウスが実戦装備で此方を攻撃してくるのかを。

「何をするんですか!?」

『……君の本気を見たい、というのが理由の一つだ』

「そんなっ!?」

あまりにも突然で、あまりにも理由が見えないが故に叫ぶ。
もう“おふざけ”のレベルを超えた実戦という名の殺し合い。
そうなる理由が掴めない白銀にとっては、“本当の実力が見たい”というのは理由になっていない。
大きく振るわれたナイフを弾き、バックステップで距離を開こうとしながら通信機へと叫び声を上げていた。

「それが理由じゃない筈です!!何故、どうして…『女の取り合いだよ、白銀』 ――――ッ!?」

通常のナイフより巨大な、山刀のようなデザインのナイフと刃の無い長刀とが火花を散らして打ち合い続ける。
だが、クラウスの言葉に動揺したその瞬間、距離が詰められる。
所謂、鍔迫り合いの形へと至ったことで、白銀は理解できない心情を叫ぶ為に口を開いた。

「女の取り合いって何ですか!?そんなの、俺は…」

『いや、確かに君は私から奪った! 私が恋した“鑑純夏”を!!』

「なッ――――!?」

クラウスの口から告げられたその言葉に、白銀は固まる……だが、戦術機を操る腕だけは変わらない。
大きく長刀を合わせるように振り、クラウスの機体が持つナイフを弾き飛ばす。
だが、その瞬間にはクラウス機の持つ刃の着いた長刀が翻していた。

『愛した者の、彼女の幸せを願うのが男の在り方だ!それを貴様は、下らないことで悲しませた!!』

「そんなの…ッ!」

『言い訳するか白銀!その結果が消えようとしている貴様だろうが!!』

「それは……そうですが!」

叩き着けるように、型も何もあった物じゃない長刀を捌き続けていた白銀の機体が持つ長刀が限界を向かえ、半ば程で断ち切られる。
残った柄の部分を反射的に投げ付け、白銀は機体を大きく下がらせ、クラウスの機体が持っていた大型ナイフを拾い上げた。

『私ならば彼女に全てを奉げよう!嗜好も、感情も、自身の体もな!!』

「……そんなのは絶対に違うッ!!それは人と人との関係なんかじゃない!!」

『だが、純夏という存在が求める声だ!!彼女の求める声に答えれなかったその結果、残照の如きか細さで世界にしがみ付く今の君がそれを言うのか!?』

浅く、深く…白銀の機体に装甲を削った傷跡が生まれ始める。
白銀も、防御や時間切れで終わらせるのは既に捨てている。 確実にその前に殺されると実感していたからだ。
だからこそ、相手の攻撃能力である腕を破壊しようともがき続ける。
混乱の極みに至った今、全てを常で判断できる気は無かった。

「そんなの……人と人は意見が違うから人なんです!当たり前でしょう!?」

白銀は、何故か催眠術に掛かったような気持ちで良く分からない事を口に出し続ける。
ただ、それを語ろうとすると、クラウスからの攻撃が緩んだ気がした。

「ぶつかり合うのもある、分かり合えないこともある!でも、それが人の関係なんです!確かに、俺は純夏と喧嘩しました!でも、それは夫婦でなら当たり前じゃないですか!!」

叫び、ナイフを叩き着ける。
互いに獲物が手から飛び跳ね、白銀は長刀を、クラウスはもう一振りのナイフを取り出し、そして打ち合う。
まるで、今度は逆の映像のように繰り返しながら、白銀の言葉は続いていた。

「嗜好の違いも人と人の違いだ!それで意見がぶつかり合うのは普通なんですよ!それに、俺は純夏を愛してます!!だから貴方には絶対に譲らない!絶対に!!」

『――――それなら、何故直ぐに彼女を抱き締めてそう言わなかった!意見が違うのは当たり前だと!それが夫婦で、人だと!!』

「ッ!!」

お互いが距離を離し、ナイフと長刀をそれぞれが構えて仁王立つ。
動かなくなった二人は、言葉だけを交わしていた。

『もはや、演技や演出などどうでも良い。これだけ聞かせろ白銀武!お前はあの子を幸せに出来るのか?』

「出来る出来ないじゃありません……幸せにします、絶対にッ!!」

『………そうか』

何処か嬉しそうなその言葉と共に、お互いの動きが完全に止まる。
次に動く時はどちらかが動かなくなる時、それを理解してるからこそ、動かない。

『……これで終わりにしよう』

「……ッ! 望むところです…!」

お互いが終わりを意味する言葉を理解し合う。
後は、この終わりを告げる鐘の存在が必要なだけ。

そして、それは……。


『タケルちゃんッ!!!クラウスさんッ!!』



――――通信機越しに叫ばれる、二人の名前。



『………ッ!!』

「――――うぅぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおッッ!!!」

その瞬間―――両者が動く。
吹き上げた噴射光を置き去るように、ナイフを構えた機体が突貫。
それと同じく、白銀の裂帛の気合と同時にF-15Eカスタムが長刀を振り下ろす。

交差する影と影。
互いが必殺の一撃を放ったその時……この決闘の終止符を告げる鐘となった純夏は呆然とし、腰を抜かしたように地面へと座り込んでいた。



 ◇


【同日 国連軍横浜基地地下19階 香月夕呼私室】



「「ぜ、全部演技ぃぃぃぃぃいいいいい!?」」

目を丸くした武と純夏の叫びが木霊する。
それに対し、【今回の事態の半分を担った】夕呼は面倒そうに「そう」とだけ答え、また驚きの声を上げようとする二人を制止していた。

「大体ねー白銀?アンタ、クラウスの馬鹿の三文芝居に騙されてるんじゃないわよ……まぁ、良い感じに騙されてくれてたんだけどね?」

「いや、確かにあの気持ちは正直なもんですけど……もっとこう、手段ってのが…」

「そ、そうだそうだー!」

「あるのかしら?このバカカップル、略してバカップルね」

「「う……」」

意気消沈した二人の“白銀”を見て、夕呼は愉快そうに笑う。
あの決闘は、両者の戦術機が強制停止という形で終わりを迎えていた。
結局、目的としては話を聞こうとしない純夏に武の思いや夫婦としての何かを少しでも伝われば、とでも夕呼は思ってたようだ。

それが、だ。
脅しの為にのみ装備していた筈の実戦兵器での殺し合いもとい決闘へと発展した。
それを演出したのが、今は医務室でスコポラミン(酔い止め)の過剰摂取で胃洗浄&説教を喰らっているだろうクラウスだった。

「全く……あの馬鹿、やりすぎって言葉を知らないのかしら……ねぇ、白銀?」

「は、はははははっ……」

そう言われると、今の武には反論する術は無い。
ただ言えるのは、これだけだろう。

「あの、本当にスンマセンでした……」
「あの、夕呼先生……御免なさい!」

「はいはい、もう良いから戻りなさい。そろそろ昼食の時間でしょう?」

言葉が微妙に被った武と純夏は互いに顔を見合わせ、苦笑する。
そしてまた二人揃って頭を下げ、肩を並べて食堂へと歩く。
そ肩と肩の距離は、前よりもちょっと近い気がする。

「こらタケル!純夏ちゃんと喧嘩したって聞いたよ!こんな良い娘と喧嘩なんて……男として罰当たりだねぇ!」

「京塚のおばちゃん……大丈夫です!俺と純夏はもうラブラブなんで!で、今日のお勧めを二つお願いします!」

「も、もうタケルちゃんってば!」

「おやおや、喧嘩ってのは嘘みたいだったねぇ……あいよ、今日のお勧めお待たせ!」

嬉しそうに微笑む京塚のおばちゃんが二人前の料理を二人の前に出す。
それを見て、二人は揃って「あ…」という呟きを溢していた。
二人の前にあるのは、トンカツ定食だった。

「………ソースも、美味しいよな?」

「……お醤油も、だね!」

白銀がソース、純夏が醤油をトンカツへと掛けて笑い合う。
そして、揃って席を探していると二人の視線がまたもや揃って止まっていた。
今回の事態の原因の半分たる人物が胃を抑えながら食事をしているのが目に入ったからだ。


「………ああ、二人ともか?仲が良さそうなこって……」


ちなみに、クラウスのトンカツにはポン酢が掛けられてた。



〈終わり〉


後書き
今回が一番文章量があった気がする。
あと白銀VSクラウスの個人的に流したBGMは【機動戦士ガンダムUCよりBGM《MOBILE SUIT 》】

【補足】
クラウスの乗っていた戦術機は吹雪をベースにF-4JX益荒男、TYPE-04不知火弐型の開発データを盛り込み、再設計された実験機。
外見的な見た目は『デルタプラス』というのを脳内で妄想中。

あとクラウスの中の人(前世な意味で)は純夏萌え


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.071583986282349