【2001年6月4日 アラスカ国連軍ユーコン陸軍基地】「………おやっさん」「………何だ?」「申請したのってつい最近ですよね?」「……ああ、そうだ」俺はおやっさんと共に呆然としながら廃品輸送コンテナに入っていた品物を記された書類を確認する。[新開発CPU]そう、一言だけ書き殴る様に書かれていた。「いやまさか、こんな早く届くたぁな……」「俺、もっと嫌な言葉を見たんで気分が鬱いっす」だってさ、コレを提供したのがあの“横浜”だぜ?………何が狙いだ!香月博士ー!!「んま、取り合えず中身のチェックだな」「ウェーイ」コンテナを開放、中身をハンガーの床に敷いたシートに並べる、並べる、並べる、並べ……「って多いわ!?」「色々とあるな……おい、これなんか物理的に破壊された痕があるぞ?」「ハッキリ言うと、ジャンクの集まりって感じですねー大尉」―――エレナ嬢、何時から居たかは知らんが……君の声質(CV:田中○恵)で“ジャンク”って言うと何か思い出すから止めてくれ。俺は頭に浮かんだ『乳酸菌』という単語を打ち消し、CPUの山を弄りながらふと思う。このCPUの山全てはオルタナティブ4の「試作品」なんじゃ無いか、と…。香月博士が目指しているのは150億個の並列回路を掌サイズに開発する事、XM3もその研究の副産物で生まれたのだ。なら、XM3というOSを処理出来る物がこの中にある可能性もある。俺はそんな考えを巡らせ、「ありえそうだな」とか思う。コンテナに積み込まれていたCPUのサイズは別々で中には小型過ぎて性能が良くない奴や、高性能だが大型過ぎるのもあるが……どうやら、ビンゴだ。「見た感じ、良さそうなのがある。まぁ、後で総チェックと重量を纏めておくぜ」「おおー、そりゃ良い……んじゃあ、俺はOSの方に回りますよ」「大尉!私も手伝います!」「おお、助かる!じゃあお礼に新OSでの動きを手取り足取り教えてやる」何故か頬を紅潮させてエレナが俯く、それを俺は無視してコンテナを見つめる。あ、CPUの中には叩き付けた痕があった奴の他に銃弾が撃ち込まれた奴もありました。………苛立ってますね、博士。 △ ▼俺、ユウヤ・ブリッジスは「どうしてこうなったのだろう」、と思った。俺の隣では愉快そうに酒を飲むバーラット『中尉』とヴィンセント、VGやタリサにステラといったアルゴス隊のメンツも居る。そして、驚く事にあの堅物のイブラヒム中尉ですら参加しているのだ……非常に珍しい光景だろう。「おーうユウヤ~!飲んでるかぁ~い?」「飲んでるさ、中尉………肩を抱くな、肩を」「スマンスマン!―――テメーら!今日は俺の財布の中身が無くなるまでは飲み放題だぜぇー!!」『『『『イェヤァァァァァァ!!』』』』――――此処は基地歓楽街に在る基地要員御用達のバーだ。以前に一回だけ、VGに紹介されたのでヴィンセントと飲みに来た店だ。何でもNFCA計画の功績で中尉へと昇進が決定したクラウスの誘いで飲みに行く、というのでご相伴に与ってる訳だが……今さっき、店に居た奴等に酒を奢りだした。さっきから騒がし目だった店内は今は歓声と笑い声で包まれている。「流石クラウス!」や「おっしゃ、樽で持って来い!」等々……慣れてるのか、コイツら?「マスター、ロックでくれ」「アタシとVGはビール!」「私はジンにしようかしら?」上から イブラヒム・タリサ・ステラの順のオーダーを義足のマスターが素早く対応する。何でも元国連軍大佐であったがBETA戦による負傷で司令部勤務へ、その後は退役して今の店を持ったそうだ。この店では階級は関係なし、合言葉は『二等兵から大佐まで、飲んで騒ぐは人の常。但し将軍、テメーは自室で高級酒でも飲んでいろ』らしい……なのでこの店は常に無礼講なのだそうだ。俺はジョッキの底に残ったビールを飲み干し、次を注文しようとすると目の前に新たにジョッキに並々と注がれたビールが置かれる。見れば、豊かな髭を蓄えた老マスターのウインクが一つ………なるほど、視野は広いんだな。「うへへ~~たいいー」ホルス02こと、エレナ・マクダビッシュは先程から半夢見心地で何かを呟き、クネクネと動いている……確か、イギリス人だったよな?一杯で駄目、なんて初めて見た。因みに、彼女にはかなり優秀な兄が居てイギリス陸軍所属らしい。「よぉクラウス!何時もの武勇伝は無いのか!」「次はアジアか?ソ連?それとも欧州?」「インドでラクダに乗ったまま遭難した話は笑えたぜ!」「聞きてーか!んなら何話すかねぇ」店内の兵士から一部、有り得ない様な話が聞こえた事に思わず飲むのを中断し、隣のVGへと向き直る。大分、ご機嫌そうだが話をする事は出来るだろう。「おいVG」「あン?どーしたユウヤ?」「武勇伝ってのは何だ?」俺の質問にVGは何かを思い出したのか大爆笑する……取り合えず、酒の肴程度にはなる話らしい。そんな風に思いながらビールを煽る。見れば、バーラット中尉は何かを考える様に黙り、ポンッと手を打ち話し出す。「んじゃ、あれは俺がハイヴ:22の攻略作戦に参加した時の事だ」「ブッ!?―――ゲホゲッホ!!」「汚っ!?」噴出した、咽た。VGの叫び声が響くが無視する。ハイヴ:22、つまりは日本の横浜ハイヴの事だったからだ。だが、沸き立つ周囲を考え……取り合えずは静観する事にする。「あれは作戦域に突入してからしばらく経過した終盤の頃だ。俺の中隊が補給所で補給を済まて少しした後にG弾が2発、頭の上から降って来やがったんだが……」 『G弾』その単語に一瞬だけ動揺の声が零れる。過去に映像データが大々的に――宣伝の様に――公開された事もあるし、最新鋭の兵器を扱うグルームレイクでも話題はあった兵器だ。俺は映像で見たあの黒い渦巻く様な球体を思い出し、誤魔化す様にビールを呷る。正直言うと、とんでもない兵器だと俺は思っている。あれを対人類戦に使用する事が来る日があるのだろうか?と当時は同僚達と話したものだ。「んで、俺の中隊の部下…つっても既に小隊規模だったけどな。順々に退避させて俺が殿を務めた際の話だ」 △ ▼【回想~1999年8月7日~】《此方は国連宇宙総軍軌道艦隊―――我が軌道艦隊は現段階を持ってH:22に対し新型ハイヴ攻略兵器の導入を決定》『なっ!?このタイミングで新型兵器だと!?』オープンチャンネル(全回線)で急に呼びかけられた警告に周辺部隊の衛士の一人が毒づく。俺は目の前の要撃級と戦車級数体を沈黙させ、『前の世界』から知っては居たがHQへと通信を入れ、叫んだ。「ジョーカー01よりHQ!その新型ハイヴ兵器とやらの破壊力は!?」《……予想では貴隊及び周辺部隊を巻き込む。新兵器によりラザフォード波による重力波が発生する。周辺地区に展開中の部隊は速やかに退避せよ。繰り返す―――》『ファック!お偉いさんにとっちゃ俺達は盤上の駒なのかよ!!』「喚くなジョーカー03!ジョーカーリーダーより各機へ、背部兵装及び余剰弾薬を投棄する。重量を減らす為に最低限の兵装のみだ。そしてジョーカー08を先頭に戦域をNOE突破を決行する」『此方クリムゾンリーダー、ジョーカーズに我が隊の随伴を求める!コッチも限界だ!』『パール02よりジョーカーズ!私達もお供します!』周辺で戦っていた戦術機部隊が集まり、隊列を整える。損傷多数の機体が全部で11機、それが嘗ては一個連隊(108機)として戦域へと侵入した海軍部隊の末路であった。ジョーカー小隊とパール小隊のF-18/Eが合わせて8機にクリムゾン小隊のF-14が3機、そのF-14の内の2機が肩部のミサイルコンテナへ2発と1発づつ、長距離クラスターミサイルを装備している。俺はその情報と周辺地図を参考にし、新型兵器――G弾――の予想効果範囲をマップへと表示。更にBETAの配置も確認する……よし。「ジョーカー01よりHQ!ポイントE-308への支援砲撃を求める!」《HQよりジョーカー01、2分後に着弾する。……新兵器のご到着まで、後15分だ》「了解!各リーダー、エレメント(2機連携)を崩さずにポイントE-257へ移動する!クリムゾンリーダー、“フェニックス”を用意してくれ!」『クリムゾンリーダー了解!撤退の時にこんなクソ重いミサイルを捨てられるなら大歓迎だぜ!』『パール02よりジョーカーリーダーへ!私達は推進剤に余裕がある、ジョーカー08の援護へ回る!』今までに無い位の連携を組み始める各機に思わず俺は苦笑する。死に際では流石に人は素直になるようだ。そんな事を一瞬だけ考え、弾着まで40秒を切った瞬間、俺は叫んだ。「クリムゾンズ!ポイントE-299へフェニックスを放て!」『了解!クリムゾン01、FOX3!』『クリムゾン09、FOX3!』F-14の肩部コンテナから射出された3本のミサイルが、白煙を引きながら指定された座標へと向かっていく。このままでは光線級に撃墜されるであろう3本のミサイル。だが、そのミサイルに向けられるであろう光は空へと……正確には、東京湾方面に展開する国連艦隊から発射された砲弾の迎撃へと向けられた。その瞬間、ミサイルが該当空域到達。光線級の12秒のインターバルの間にフェニックスミサイルが分離、目標域にクラスターを降り注ぐ。BETA共の今日の天気予報は晴れ時々砲弾、及びミサイルって所だ。「オーケィ、野郎共!全機、ジョーカー08を筆頭にNOEで突破する!光線級は優先して殺せ!止まるんじゃねぇぞ!?」『『『了解ッ!』』』「俺とジョーカー03が最後尾を固める、兎に角海へ出るぞ!」『了か――『ぜ、前方より友軍機が高速接近中!早いです!』ッ――!?』先頭を行くジョーカー08から通信が入り、更に次の瞬間にはレーダーマップ上に小さな光点として出現する。対象の予測速度は……時速600キロ!?第三世代機の戦闘最高速度だぞ!?「んなっ!?何処の馬鹿だ!こっちはG弾の効果範囲だぞ!!」『こ、此方ジョーカー08!機種判明、タイプ94…不知火です!所属は国連軍特別教導連隊!』「―――――ッ!?」一瞬、思考が停滞する。その一瞬の呆気が、巡航速度で飛行する戦術機の姿勢制御にミスを生み出す。管制ユニットに鳴り響く衝突警告。その音に半ば無意識で跳躍ユニット停止、120ミリ6発を全て発射して邪魔になる障害物を吹き飛ばし右跳躍ユニット再噴射。「っぉぉぉぉおおおおおお―――!?」ガリガリガリッ…という鈍く嫌な音が丁度、俺の目の前に見える管制ユニット外壁から内壁へと響き――――――停止。あわやビルに衝突、という直前で止まる事が出来た様だ。『大尉!』「無事だ!先に行け!!止まったら的になる、俺なら1機でも逃げるだけなら平気だ!」『―――――――ッ!!…………お待ちしてます!』「了解、後で俺の取って置きを開けてやる!」全周囲警戒、機体ダメージチェック、BETA郡の予想進路と脱出経路の確認、G弾の予定着弾時間確認。衝突による管制ユニットへの歪み発生、脱出不可能。そして最悪な事に破片でも当たったのか、跳躍ユニットに推進剤を供給するパイプから推進剤が洩れている様だ……あれ、死亡フラグ?「チッ…推進剤の供給停止、走って場所が開けたら行くか……」俺が着地した場所は旧市街地の様で廃墟と化したビル郡が建ち並び、見渡しが最高に悪い。このビル郡に何処かにレーザーが隠れている可能性もあるので飛べないので足を使っての逃げの1手しか打てないのが痛いものだ。「うっし………行くぞ!」機体を前進させる。特に問題は無い、戦車級と対人級が数体居ただけだった。それらを駆除、そのままビル街を無事に抜けた瞬間、戦闘中なのか複雑な動き方をしながら接近する不知火から男の叫びが全回線へと響き渡る。≪死なせたく無い……俺達の街でッ!これ以上死なせたく無いんだぁぁぁぁぁあ!!≫――――――はい、この谷○紀章ヴォイスはどう考えてもキング・オブ・ヘタレーこと、鳴海孝之君ですね?分かります。そっかー、コイツA-01所属だったよねー……マジか。『ッッッ――――!!?うぁああぁぁぁぁぁ……』「レーザー!?呆けている場合じゃ無かった!!」空へと上がる3つのレーザーが孝之の乗るであろう不知火の両脚と左腕を貫く。小爆発と悲鳴を続けさまに上げて落下していく。それを見た俺は跳躍ユニットで一気に機体を浮上。レーザー級を排除し、墜落したUNブルーの不知火へと殺到する戦車級の群れに突撃砲を構え、撃ちまくる。『な、味方…機!?何でまだこの戦域に居るんだ!Gだ…、新兵器が見えないのか!?』あーハイハイ、見えてますよ。ハイヴモニュメント上部へゆっくりと降下して来る黒い玉2つだろ?………見えてるんだよ、こんちくしょう!「うるせぇ!!テメーも言えねぇぞ!それより機体は……聞かなくても良いな」『……ああ、操縦系統も駄目だしイジェクト出来ない……それに、あと2分で新兵器の着弾だ』「一応、爆発の範囲からは外れているが……この距離だと衝撃だけで撃震の装甲ですら破壊されるな……」『………ごめんな、遥、水月…』ポツリ、と孝之が呟く。それに俺は溜め息一回、半壊した不知火を引き摺る様にして動き出す。『お、おい!何をする気だお前!』「後1分ある……隠れる所を探す。あと、俺は大尉だがお前は?」『な……!も、申し訳ありません大尉殿!自分は、鳴海孝之少尉であります!』「そうか、鳴海少尉……昔、とある人が言ったんだ」『はぁ…?』「諦めたら、そこで戦いは終了だ…ってな?ここで良いか」『諦めたら……そこで終わり……』呟く孝之を無視し、俺は孝之機の背部兵装担架から長刀を引き抜き、損傷の少ない要塞級の腹を開いて不知火を入れる。これで、少しは防御が良くなっただろう。そう考え、俺も無理矢理に入るが……グロイね。「鳴海少尉、機体を停止させろ。……生き残ったら、また会おう」『ハッ!……あの、大尉殿!お名前は…?』「俺か?俺はクラウス・バーラットだ、本来は存在しない…な」『え?それっt』孝之が聞き返した瞬間、衝撃と振動…要塞級ごと吹っ飛ばされるのが分かる。そして大きく1回、叩き付けられ……俺は、意識を失った。 ▲ ▽【歓楽街酒場】「取りあえず、こんな感じだ」「何で死んで無いんだお前」VGの無機質な声に俺は心の中で頷き返す。まったくもって、俺も同意見だからだ。実戦を経験していない俺でも分かる。BETA支配地域に戦術機1機のみ、装備は極僅か、跳躍ユニットの不調、G弾の接近中&巻き込まれた………普通は死んでいる絶望的な状況だ。「お前、ゾンビかなんかじゃねーの?」「コラ、失礼よタリサ?バーラット中尉に向かって………どっちかと言えばアンデットじゃないかしら?」「……タリサとステラ、お前らは後で梅干な」「ヒッ!?」「お、オホホホホ……(汗)」クラウスは握り拳を作り、タリサの両側面の米神で固定する。グルカ民族の出の優秀な戦士でもあるタリサに動き出す暇さえ与えなかったのはスルーしておくが……タリサが、かなり震えている…。「ハァーイ!ショウタイムの時間だぜぇぇぇえ!」「みぎゃああああああああああああああああ!!!!」グリグリ……と言うよりはゴリゴリッ!といった感じの音が鈍く響く。後に響くのは初めて聞くタリサの悲鳴に、かなり楽しそうなクラウスの笑い声………新手の拷問方法か?「あ゛~~~~~!!頭が痛い、脳が痛い!」「ふー、スッキリしたー………あ、ステラも後で殺(や)るから」「え゛………ねぇ、そんなのより“コッチ”はどう?」床を頭を抱えた状態でゴロゴロと転がるタリサと、そんな様子を見てからクラウスにしな垂れかかり胸を強調するステラ……色仕掛けか、オイ。そんなステラに、周囲の男達が一斉に沸き上がる。何やら囃し立てているがそう下品な物じゃなく………「おい!予想外のダークホースが出たぞ!?」「レート!レートを確認しろ!」「てか誰だ!?男を対象に賭けた奴!!」……下賎な物(金)だった。つまりは賭けだ、博打だ、ギャンブルだ。クラウスが誰とくっつくか、という賭けだそうだ……因みにだが最有力候補はエレナであり、大穴がイブラヒム(一応言うが、男)である。…………俺の名前なんて、無かった。そう、無かったんだ。そうこうしている最中、クラウスがステラの肩を掴んでしっかりと椅子へ座らせる。そして、「嫁入り前なんだから、もっと体を大事にしろ!」「………え?」何か、父親みたいな事を言ったのであった。あとがき忙しかったようぅ…orz