『畜生……ッ畜生!畜生、畜生ちくしょうチクショウッ…!―――――……チクショォォォォォオ!!!』『白銀さん……』 (タケルちゃん……)ダイバーズの光点が完全に消滅した事に白銀のやり場の無い叫びが木霊する。ただ、それで少しは落ち着いたのか……その顔には強い意志が宿っていた。『――――絶対に……勝つぞッ!』『『『………ッ!』』』「ああ、悲しむのも……嘆くのも後に回せ―――――ご到着だ」大きく開いた大広間。その中央に鎮座するあ号目標……オリジナルハイヴに、全員が息を呑む。その禍々しさと異様とも言える形状に、嫌悪を顕わにする。『涼宮、荷電粒子砲は?』『あと二分でチャージ完了です!』「二分も、大人しくしてくれそうには無いけどな……」あ号の触手が少し伸び、戦闘体勢を整えると同時に俺は最後のブレードを抜く。それと同時に、孝之、速瀬中尉、白銀、彩峰、御剣、伊隅大尉、神宮寺少佐も長刀を抜き……ほぼ、同時に動き出した。『全機、荷電粒子砲のチャージ完了まであ号の攻撃を近づけるな!』その言葉と共に、幾十にもなって襲い掛かる触手を角度をずらす様に切り払う。あ号の手数は多い……だが、後衛を務める球瀬らの的確な射撃が一瞬の隙を生み出していく。そして、御剣に白銀、神宮寺少佐に速瀬中尉……そして孝之。全員がお互いの背を守る様に剣を振り、斬り続ける。『畜生ッ!数が多い……冥夜!!』『なっ!武!?』『ぐぁぁああああ!?』その中、白銀の叫びと共に御剣が乗る武御雷が横殴りの様に突き飛ばされる。そして、後ろから迫っていたあ号の触手が、白銀の機体を貫いた。『白銀!?』「白銀ッ!?――――離しやがれテメェぇぇぇえ!!」近くに居た俺と御剣が、白銀の不知火弐型を貫いた触手を切り裂いてあ号の拘束から開放する。ただ、機体は腕が完全にもがれている。足で蹴る訳にもいかない、戦闘継続は不可能だ。「白銀、機体を破棄しろ!!白銀をXG-70dへ!!」『な、俺はまだ!』『無理をするでない武!』「そういう事だ!それに、鑑はお前を守りたがってるんだ!傍で無事って事を教えてやれ!!」耐久値がレッドゾ―ンになり、欠け始めたブレードに悪態を吐き、白銀が乗っていた弐型の腕が持っていた長刀を取る。触手を切り飛ばしながら、白銀が鎧衣の機体に連れて行かれ、XG-70dへと到達するのをサブカメラで確認。それに、もう間も無く荷電粒子砲のチャージも完了する。その後は、その引き金さえ引けば全部が終わる。皆の機体はボロボロだけど、ダイバーズや地上で勝利の為に戦う戦士達の犠牲は出たけど……人類の未来へと繋がる、勝利へと。だけど、その時の俺は失念していた。物事は、全てが順調に終わる事が無いって事を。『荷電粒子砲のチャージ完了!全機、射線軸より退避して下さい!』『『了解!』』「了か……ッ!?」返事をしようとした瞬間……咽る様に、口から吐き出される血。そして、その行動によって生み出された大きな隙……それを、見逃す筈の無い敵の存在。鈍い衝撃が二回、機体へ通る。その瞬間から制御を失う機体に、“やられた”と理解できた。『クラウスさん!?』管制室へと到達したのか、白銀の声と霞の声が重なる。それに、一抹の安心を覚えながら……S-11起爆のボタンを力一杯叩く……だが、起爆しない。「ったく、制御系を抑えるのが早いっつーの……」………俺の乗るEF-2000を貫いた触手に、そう呟く。皆は助けようとしてくれたみたいだが……あ号の傍まで連れて来られている。それを分かってるからこそ、S-11を起爆しようとしたんだが……一矢報いる事も、許されないらしい。「………撃て」まだ通信が繋がっているのを願ってそう告げる。息を呑む声が小さく聞こえた所からして繋がっているんだろう。だからもう一度言う。それで、全てが終わるんだから。「撃て」◇《推奨BGM:宇多田ヒカル「誰かの願いが叶うころ」》『撃て』あ号目標から延びる触手に完全に捕らえられたクラウスさんから通信が入る。もう、荷電粒子砲のチャージは殆ど終了している………何時でも、撃てる。「でも……でもッ!」『全機!あ号目標に捕らえられたバーラット大尉を救出する!』「神宮寺少佐!!」鳴海中尉、速瀬中尉、冥夜、彩峰……そしてまりもちゃんの機体も長刀を構え、一気に突撃していく。宗像中尉を中心とした後衛組みはXG-70を守る様に構え、狙撃で支援する。そんな現状で出来る完璧に近い陣形も……抉る様に、クラウスさんのEF-2000を貫く触手に全員が固まった。『グゥッ……!?』「大尉!?」『は、はははっ……BETAは学ぶってか?俺は人質らしいぜ?』「白銀少尉!バーラット大尉のバイタルが異常数値を……ッ!」ノイズが交じり始める通信に俺は強化装備で体温調整されている筈なのに汗が流れ始める。制御が奪われ、もがく様に抵抗していたEF-2000はだらりとその腕を下げ………跳ね上げる様に構えられた突撃砲が、照準を着けたかも疑わしい速さで放たれた。『回避ッ!』『うわぁあぁぁ!?』『鎧衣!?』放たれた120㎜が、美琴の武御雷の脚部を貫く。その一瞬の隙、その一瞬の隙で再度放たれた120㎜と36㎜がA-01へと……皆に、襲い掛かる。でも、直ぐに砲撃は止んだ。あ号に制御を支配されている筈のEF-2000の右腕が、突撃砲を持つ左腕を押さえていたから。『撃……てッ!――――撃て!』「―――――ッ!!」突撃砲を持つ腕を引き千切り、捨てるとまたあ号に貫かれる。まるで、「抵抗するな」と言う様に……飼い犬に躾をするかの様な適当さに、俺は歯が砕けんばかりに食い縛る。俺達を行かせる為に散っていったダイバーズの人達も、地上で戦う皆も……勝利を望んでいる。それが分かってる、分かってるのに……俺は言い表せない感情に歯を食い縛った。「……涼宮中尉、俺に撃たせて…下さい」「白銀少尉……」………俺は、セーフティーを解除。トリガーに指を掛ける。だけど………腕が石になったみたいに固まって………引き金を引けない。そして、その間にもA-01の皆の機体は息を吹き返した様なあ号の攻撃に傷ついていく。撃てば終わるのに………撃てない。そんな俺にイラついた様にクラウスさんが叫び声を上げた。『さっさと撃てッ!S-11も発動しねェんだよ!――――――――俺に仲間を殺させるんじゃねェ!!』「クラウスさん………」『あン?管制ユニットにまで触手が入って来てんだ………触手プレイなんて、俺はそんな趣味ねェんだからさっさとしろ』「クラウスさん……ッ!」『なんだぁ!?通信が繋がってる内に言いたい事を言いやがれッ!!』「―――今まで、ありがとう御座いましたッ!」『………おう』煙草を咥え、ライターを探しているクラウスさんに……俺は敬礼する。それに対しクラウスさんもようやく見つけたのかライターで煙草に火を着け、ゆっくりと煙を吐き出して緩く敬礼を返す。そして、視線を落として……ゆっくりと目を閉じた。『ったく、最期の一本くらい……のんびりと吸わせ――――――』その瞬間……用済みとばかりにあ号の触手がクラウスさんのタイフーンを滅多刺しにした光景に俺は………トリガーを壊れんばかりに引く。放たれた荷電粒子砲が……光の奔流が全てを飲み込み―――その範囲に存在した物を跡形も無く消し飛ばす。俺はその奔流の中に消し飛ぶあ号と“何か”がの爆発した光を目に焼き付け、見届ける。何故か、涙は出なかった。「あ号目標の……消失を、確認しました」『そうか………全機、機体破棄の後にXG-70dへ乗り込め……脱出する』神宮寺少佐の命令と共に、皆が無言でXG-70dへと乗り込み、脱出の為に用意された連絡艇に乗る。今も昏睡するマクタビッシュ少尉と、荷電粒子砲の光に消えたクラウスさんが座る筈だった……二つの空席を残して。「………そんな顔をするな、散っていった者達への無礼になる」伊隅大尉の言葉に全員が頷く。でも、何処か呆然とした中、横浜基地の滑走路へと機体がタイヤを鳴らしながら着陸する。窓の外には出迎えの国連将兵が盛大に手を、帽子を……笑いながら、泣きながら、喜びながら振っていた。――――なら、胸を張ろう。それが、生き残った者の……務めなのだから。「………そうだ、純夏…!」呆然としていて気づかなかったけどアイツだって俺達と戦ってくれたんだ。だから、アイツも一緒にこの艇から降りて……そしたら、一緒に笑おう。だから、だから、だから――――――――目を開けてくれよ……純夏。次回エピローグ