地下からの奇襲はBETAが用いる手段としてはありふれた物だ。それ故に人類は対策をし、今まで立ち向かってきた。だが、その地下からの奇襲の為の“陽動”と足止め……それは、BETAが取った作戦である。その衝撃は大きい物だ……そして、その奇襲を成立させた高速で移動する未確認超大型BETAの存在も……基地には絶望の雰囲気が漂う要因だ。『A-01、メインシャフトゲート前へ到達!Aブロック及びBブロックを開放します!』そんな中、基地内部へと侵入したA-01がメインシャフト前の障壁に到達したのが告げられる。そして、突入用にと隔壁が開放されたが……そこでA-01の動きは止まった。「HQ、光線級の個体予想数は?」『こちらHQ、光線級は全部で21体確認されている』『このシャフトじゃ、レーザーを回避すれば内壁か味方かに確実に衝突します…………同時に突入は3機といった所でしょうか』『だろうな……HQ、メインシャフトには90番格納庫を含んだ地下施設への荷物運搬用の橋があった筈だ、それを光線級の照射を遮る盾にする。全て伸ばしてくれ』『HQ了解』地下に溜まったBETA……その中でも厄介な光線級という砲台に守られた逃げ場の無い閉所。光線級を避けて通るには数少なく突入、そして光線級を排除して他の隊員と合流するのが現状では最も成功率が高いと言える。ただ、成功率が良いだけで……突入する第一陣が行う事は『直線において光線級による狙撃を回避し、そして何千ものBETAの溜まりへと突入する』という事だ。運が悪ければ壁に衝突して文字通りバラバラ……支援砲撃も無いこの状況で、それは危険すぎた。『……突入は突撃前衛が担当します!宜しいですか、伊隅大尉』『了解した、鳴海……死ぬな』『はい―――――白銀、クラウス………行けるな?』そんな中、俺と白銀の名前が呼ばれる。奇しくも男三人組だが、理由は分かる。白銀はA-01最高の機動力を誇る衛士であり、そしてその実力は佐渡島でBETAに囲まれた際にも十分に発揮している。そして、白銀は今回の様な「無謀」に向いている。逆境であればそれだけ力を発揮するのが白銀だ。そして俺は海軍として敵地への突入が任務であり、日常だ。その経験を買って……だと思う。それに加え、俺のEF-2000は密集地帯での戦闘に特化してるとも言える戦術機だ。これからの戦闘を考えれば相性も抜群だろう。とまぁ、冷静に考えればこうなんだが……芸人としてそれはつまらないだろう?「成るほど、『突っ込むのは男の仕事』って訳か?このエロガッパめ」『ぶっ!てめ、クラウス!?』『アンタ!こんな時になんて事を言うのよ!?』『最悪ですね大尉、いや本当に』A-01全員からブーイングを受ける俺。だって、シリアスとか嫌いなんだよ!……前回では絶望感があった?知らんがな。『はぁ……じゃあ行くぜ白銀、クラウス』『勿論です、楽勝ですよ!』「了解、後で奢りな」『ちょっ!?階級はクラウスの方が上だろ!そっちが奢れって!』「馬鹿野郎!俺の金だって無限じゃねーんだよ!!全部飲み代に消えたわ!!」『……最悪です』『………漫才しとらんでさっさと行かんかぁー!!!』やべぇ!伊隅大尉が何か某カエル軍曹っぽい声でキレた!?『『「行って来ます!!」』』何故か危険を感じ、一気に突入する俺達。そのまま着々と下降し、しっかりと閉じられた障壁を確認すると機体の姿勢を揃える。この先は二重になっている障壁であり、そしてその下はBETAの支配下にある。つまり、俺達は“なんちゃってダイバーズ”な訳だ。『第二、第三隔壁を同時開放します!光線級の照射角が最も少ない箇所です!』『了解!壁にぶつけてでも良いから初撃を回避しろ!その隙に全て狩るぞ!!』『了解!全部俺が頂きますよ?』「言うねぇ、白銀!」タイミングを揃え、エアブレーキングによる減速。小さく開いた隔壁の隙間を抜け………その瞬間、警報が鳴り響く。『ーッ!!』孝之のくぐもった声が耳に届いた瞬間、レーザー照射の初期照準が定められたのを機体が告げてくる。白銀は上手く貨物運搬用の橋に機体を隠したが、ポジション的に俺と孝之は隠れる事が出来ない。そして、レーザーが発射されようとする瞬間に俺達は同時に行動を起こしていた。『耐えろよ、不知火ぃ!!』「耐えろよ、俺の体!!」孝之の操る不知火が跳躍ユニットと脚を用いて、壁を蹴って左右に機体を強制的に振る。浅くレーザーが掠ったが、対レーザー蒸散塗膜がそれに耐え切る。俺も似た様に回避するが、脚部ダメージが一瞬でイエローゾーンに変化する。異常とも言える負荷が掛かったんだ、当然だ。多分、孝之も似た状況だろうが……戦闘継続は可能だ。『ヴァルキリー16、フォックス3!』『ヴァルキリー02、フォックス3!』「ホルス01、フォックス2!」数少ない光線級と、排除する際の障害を撃ち殺していく。元々の個体数が少ない事もあって殲滅はあっさりと終わるが、足場が他のBETAによって完全に奪われていた。「畜生!密集して仲間同士で押し合い圧し合いしてやがる!」『S-11でもぶっこめば終わるんだがな!!』『駄目です!涼宮中尉はハイヴの制御室に居るんですよ!?近すぎます!』『分かってる!HQ!施設破壊許可があるんならS-11を起爆させる!!制御室の涼宮中尉は!?』着々と降りてきたA-01の面々と合流し、今も湧き上がるBETAの侵攻を逸らそうと円陣を組んで突撃砲を撃ちまくる。足の踏み場も無い、というのが現状だが少しの間なら「持つ」……それ故に急かしてしまう。弾とて無限じゃない……このペースじゃ到底持たない。だから、さっさと撤退するなり何なりがしたいのだ。退けないとは分かっていてても、だ。『こちらHQ!涼宮中尉には救出部隊が向かってます!生死の確認後、離脱を開始します!』『早くしてくれよ!?』『うるさいわよ鳴海!伊隅!さっきの30分は無し、涼宮の離脱後にS-11を起爆させなさい』『副司令……了解!全員、聞いたな!涼宮の離脱まで持たせろ、良いな!?』全員の了解の声が響き、反応炉へ繋がる障壁を破壊しようとするBETAや俺たちに向かってくるBETAを排除し続ける。佐渡島以上の地獄に、空笑いが出そうになるがそれを飲み込む。「急いでくれよ……!」 ◇「不幸だ……」まだ年若い青年はそう言葉にして洩らす。戦術機適正は無かったから地獄の様な選抜テストを抜け、ようやくSASに配属された。そして、何度かの任務を経験してイギリス王女の護衛という大役を果たす部隊へと配属されたのに……「ローチ!さっさと撃ちやがれ!!」「後方より兵士級3、闘士級1!」………何でBETAとガチンコの殺し合いに参加してるのー!?「ソープ!ローチとスミスを連れて道を開け!――――行けッ!!」「了解!ローチ、来いっ!!」「ふ、不幸だぁー!!!」そう叫んでしまうが、まぁそれは納得してほしい。俺だってこんな事になるなんて予想していなかったんだ……いや、本当にな。「ったく、数だけは多いぜ!」「ギャズ!帰りの分も考えておけ!」「了解―――こいつでも食ってな!」ギャズ中尉が通算3個目の手榴弾をピッチャーよろしく放り投げ、兵士級の口内へと入れる。そしてくぐもった爆発音と共に弾けるBETAを通り抜け……途中で戦い、力尽きたであろう国連軍兵士の遺体に胸で十字を切る。遺体を回収する時間は無い。故にマクタビッシュ大尉がドックタグを引きちぎる様に回収し、この兵士が持っていたであろう血濡れのTAR-21ライフルを手に取る。それの弾倉を引き抜き、残弾やフレームに歪みが無いかを確認して……小さく告げた。「こいつは借りるぞ……来い、ローチ」「……Yes Sir!」冗談じゃない。あんな風になって堪るか……その気持ちを生存本能と勇気に変えて突き進む。走り、時には止まり、邪魔となるBETAを排除し……そうしていると目的地の制御室前へと到達していた。「ローチ、開けろ」「了解」硬く閉じられた扉に耳を添えたマクタビッシュ大尉が小さく頷き、ロックされている際の扉のパスワードを入力する。すると、エアーが抜けた様な音と共に扉が開く。中から、物音が聞こえた。「きゅ、救助……か?」「ああ、そうだ……生存者は何人だ?」「9人だ……それも半分は重傷だ」薄く暗い部屋、そこからヌッと体を出した黒人の国連軍兵士が安堵に声を洩らす。その後ろには同じくライフルを携えたアジア系の兵士も居る。目が慣れてきた制御室内には、応急処置がされた兵士たちが座り込んでいた。「……了解、さっさと脱出しよう」「了解であります!涼宮中尉!」「はい!あ、これ三角巾みたいに吊り下げに使って下さい」アジア系兵士の声に負傷者の手当てをしていた涼宮が包帯を細く裂いた制服で紐を作りながら此方へと来る。それを、途中で腕を押さえていた兵士に渡しこちらへと来た。「初めまして、涼宮中尉。積もる話もありますがさっさとここから逃げましょうか?」「了解です、よろしくお願いしますね?」「ええ、勿論……プライス、生存者を確保、これより撤退する」『あー……ソープ?こちらは問題が発生した』脱出地点を確保しているであろうプライス少佐に通信を送るマクタビッシュ大尉の顔色が曇る。その内容は聞こえないが、苛立たしげに足を揺すっている所からして“相当な問題”なんだろう。やがて、通信は終わり溜息を吐いたマクタビッシュ大尉はこう告げた。「………篭城決定だ」【次回予告】終わる筈の戦いは延長戦へと突入していく。あまりの物量に追い詰められ始めるA-01、そして逃げる手段が“何か”に閉ざされた救出部隊。この戦いの終わりに何があるのか?―――――そして、白き百合はその身を紅く咲かせる。 アカイアカイ、血ノ華ヲ次回「守れた物、守れなかった者」