『ヘンリーが喰われたッ!ジャクソン、カバーしろ!!』『ああ畜生ッ!アイツはガキが生まれたばっかなのによォ!』『悲しむのは後でしろ!!俺を殺す気かテメェ!?』『…………了解!!』地面を砕き、粉塵を上げて動き回る仲間達。その誰もがこの戦線を持たせようと足掻き続ける。霞む意識が鋭い痛みで冴える。見ると、包帯を手にした一人の女性衛士が俺に向かって声をかけている。鼓膜が破れたのか、何を言ってるか分からないが俺を元気つけようとしてるのだろうか?そこで、俺は思い出す。これは、俺が昔に経験した記憶だと。『死に…たくない……!嫌、だ………』『大丈夫ですよ、クラウス少尉!必ず助けますから!』血だらけで、情けなく涙を流す11年前の“俺”がうわ言に様に「死にたくない」と繰り返し続ける。むき出しになった管制ユニット、そして脚部が溶解し損失したF-4は要塞級の鞭と溶解液にやられたのを示している。そんな俺を助けようとしてくれた仲間が………“壊滅”した戦場の記憶だ。「(あれ?なんか、こっから先が靄がかってるような……)」俺の意識が覚めてきたのか、徐々に白く塗りつぶされていく光景を見ようと目を凝らす。夢の中の景色は、俺と同時期に配属されたまだ幼い少女である衛士が俺の体を支える様に持とうとして…………―――――その少女の腕を、人では有り得ない『赤い腕』が引き上げていく光景が最後に映った。「……………………ッッッ!!!」その瞬間、俺は声にならない叫び声を上げて布団を跳ね飛ばす。全身は流れる様に出た汗でぐっしょりと濡れ、鏡で見た顔色は死人みたいになっている。軍医に見れれば一発で医務室への連行確定であろうその顔色を俺は忘れる様に冷水で顔を洗う。忘れたい、忘れたくない何かを洗い流すように何回も。「………冷て」 ◇「………はぁ」“世界の修正力”ってのがこの後に起こるであろう横浜基地襲撃の可能性を予期している中、俺は深夜に一人でPXへと向かっていた。あの夢を見て眠れないってのもあったし、少し体が冷えてたのもある。だから、温かいお茶でも飲んで落着こうと思ったのだ。「実戦も近いってのに、あんな夢を見るとはねぇ……」夢の内容……今は、記憶に封印が掛けられたように思い出せないが最悪なのは分かる。防衛本能みたいのが自分を守るために忘れようとしてるのかも知れない。つまりは、それだけの事が必要なほどにショッキングな記憶なんだろう。………ああ、畜生。だから何で作戦の前にこういう夢を見るんだろう。正直に言おう。今まで、戦いの前に昔の夢を見ると碌な出来事が無いんだよ!「はぁ………」ふと、振り返る。今まで色々と好き勝手やってきた結果、少しは犠牲は減ったと思う。その結果、この横浜を切り抜ければ現状で出せる最高の戦力であ号攻略へと行ける。佐渡島で損失する筈だったXG-70bも無事だったし、自立制御で作戦に投入すれば囮くらいにはなるだろう。そこは博士に任せる事になるだろう。あとは、機体の問題だけど神宮寺軍曹が佐渡島に参戦しなかったのは『機体調達』の為らしい。新品だろうとなんだろうと、神宮寺軍曹が調整をすればその教え子であるA-01の隊員は問題なく扱えるだろう。そこも俺が博士に要請しておいた物だ。桜花作戦に使用するのが不知火であっても、今度は約4個小隊規模での突入だ。原作の御剣たち5名の吶喊とは違い、隊としての連携が十分に組めるはず………だと思う。何しろ何が起こるか予想も出来ないのだ。姫さんの襲来も含めて。「はぁ………」何度も吐いている溜め息にも疲れが滲む。限界は近いと実感してるが、疲労で倒れるのもありそうだ。………そもそも、前から思うが俺がやってる事は個人が背負うには重すぎる。まぁ、それでも俺がやると選んだ道なのだが。「はぁ………ん?」そんなこんなでPXへと到着。熱い合成緑茶を手にガラッとしたPXを見渡す。座る席を探す予定だったのだが、見覚えのある人間が何かブツブツと言いつつ下を向いているのが目に入った。「………エレナ、何をしてるんだ?」「大尉……?……………だいい゛~ッ!!」「ちょおまっ!?何で泣くの!?てか酒くさっ!?」どうやら飲んでたらしいエレナが突っかかってくるのを足蹴にも出来ず、俺は頭を掻く事しか出来ない。というか、何で飲んでたのかも予想が出来ん。何かあったのか、そうで無いのか……。「で、何があったんだ?……ああ、もうほら!顔がぐしゃぐしゃだぞ?」「う、ううっ……だって、らってぇ!」「はいはい、動かない」ハンカチで顔を拭き、アルコールの所為か呂律の回らない相棒に俺は逃げ出したくなるも何とかそれを自制する。作戦前だってのにこんな状況で放置したらどうなるのか分かったモンじゃない………………俺は保育園の先生かよ。「だって、だって……大尉が悪いんじゃないですかー!?」「いきなりキレるなよ!?キレる十代かお前はっ!あと何で俺が悪者なの!?」「十代ですよ!ピチピチです!……じゃなくて!大尉がそんな無意識か狙ってるのか分からないくらいに好意を振りまくからじゃないですか!!」「はぁぁぁ!?」「そうですよ、世界中の戦場で戦うたびに新しい女の人と……兎も角!大尉は悪い子ですッ!!」「なぁエレナ、ちょっと落着こう、な?」俺はお前が言ってる事が分からないよ。いやホント。それに、これだけですっごく疲れたからもう寝たいし。「大体ですね、大尉は私の事を軽視しすぎです!実力行使に移れば大尉なんてものの5秒で………………」「…………ど、どうした?」「………………ぐぅー…」「………ね、寝やがったコイツ…!」騒ぐだけ騒ぎ、疲れたら寝る!という子供みたいな行動をするエレナに俺は思わず頭を抱える。ねぇ、この子って本当にエレナ?酔ってたとはいえ、普段の状態から逸脱しすぎじゃねえか?「はぁ………どっこいしょっと」「んみゅぅ……Zzz…」「気楽だなオイ………はぁー…」動けない人間を背負うようにエレナを背負い、えっちらほっちらと地下の居住区を目指す。流石に放置するのはちょっと可哀そうだ。それに、風邪で寝込むなんて事態があっても困る。「ったく、手間が掛かる相棒だぜ……」エレナに割り当てられている部屋を空け、ゆっくりとベットにエレナを寝かせる。少々だけ酒臭いが、その寝顔は年相応の穏やかさが残っている………まったく。「すまねぇな、相棒」エレナの頭をグリグリと撫でるとくすぐったそうな声を漏らす。それにちょっとだけ笑みが零れる。2年という付き合い、何時の間にか肩を並べるのが普通に感じるほどに親しくなっていたまだ幼い少女に感謝と謝罪を俺は呟く。巻き込んでスマナイ、戦いをさせてスマナイ、こんな俺につき合わせてスマナイ。色々と謝る事はあるけど、今はそれは置いておこう。俺が答えを出すのは全てに決着をつけてからだ………最も、限界が来てる俺にどれだけの時間があるか、だが。「………ああ、そっか」そこで、俺がエレナに関して少しだけ気にしてた理由に気付く。俺が失ってしまった昔の仲間に似ているんだ………守れなかった、仲間に。「重ねて見ると………うん、そっくりだな」普段から口五月蝿くて、何処かお姉さんっぽい様でそうじゃない。今思えば、エレナみたいな奴だった………うん、というかエレナより強烈だったな。「…………」「う、ん………」「――――ったく、気楽な奴だ」俺は小さく呟き、部屋を後にする。色々とあるけど、俺がやる事は変わらない。戦って、勝つ………それだけだ。「うっし……寝るかー」そうとすれば、何より睡眠だ。疲れて戦えないなんてのはまったく笑えない。だから、今の俺の仕事は休む事だ。「さて、と……BETAが来るとしたら明日………さっさと、寝よ、う……」睡魔に身を任せ、意識を沈める。やれるだけはやった、後はどう転ぶか………それは不明だけど……。「――――せめて、笑って終わりたいもんだぜ…………」―――――――最後は、笑顔で終わりたい。そう願いつつ、俺は意識を落とす…………そして、これより半日後の事だ。付近に展開していた帝国軍部隊によりBETAの地底からの移動を確認、横浜基地はそれに対して全部隊を展開、徹底抗戦の意思を見せる。。接敵まであと2時間……俺は、戦場に立つ。笑って、全てを終わらせるために。後書き過去編フラグ構築と横浜防衛戦始動。そろそろ終わりが見えてます。