【武ちゃん無双推奨BGM:栗林みな実≪United force≫】『速瀬中尉ッ!陽動を志願しますッ―――――――オレにやらせてください!』『―――なにぃ!?』『―――ッ!?』『あ、なんかデジャブ』白銀の言葉に全員が驚き………序でにエレナが何か呟くのを無視し、俺は戦域マップを表示する。何時の間にか要塞級が壁を作るかの様に並び、その奥には光線属種が多数存在する。A-02の脅威となる存在だ……狩っておきたいのは俺もそうだ。『オレが引きつけますから、一気に突破してくださいッ!』『まさかそなた……あの時の事をまだ……』『無理よ!この状況じゃ孤立しちゃうッ!』御剣の呟き、そして涼宮のこの状況の危険性を理解していないのかと言いたげに声を荒げての反論。だが、俺には特に何も言えない。原作と同じ展開だからじゃない―――――白銀の、強い意志を感じれたからだ。『―――涼宮。あの時のお前の質問……オレの答えを今、見せてやる』『え……!?』『それと……マクタビッシュ少尉!――――オレ、まだガキですけど……これが、オレなりの覚悟ですッ!』『白銀少尉……』白銀の覚悟……この世界で生き抜く覚悟か、戦い続ける覚悟か……それとも、もっと別の……過酷な物なのか。俺には分からない……けど、それが強い物というのは分かる。『―――――良いのね?あんたが孤立しても光線級の撃破を優先するわよ』『―――――大丈夫です、訓練以上にやれますよ』だから、それを感じれたであろう速瀬中尉がそう聞く声には何処か柔らかい物が混じっていた。鳴海が今、伊隅大尉達の露払いをしている間の簡易的な隊長だが本来、速瀬水月は隊長としても十分に才能を有す人間だ。人の変化、それに過敏に反応できるその才能が「白銀なら出来る」……そう告げているのだろう。「――――良いじゃないか、やらせてやれ」だから、俺はそう口にしていた。一部より強い視線が突き刺さるが、それに俺は何の反応もしない。『ですがッ!最小行動単位はエレメントです、私も志願します!』『却下する』「駄目だ――――――白銀ェ!男を見せてみろ!!」『了解ッ!!』その瞬間、白銀の不知火が長刀を抜き跳躍ユニットを使用して爆発的な加速と共にBETAの群れへ突入する。白銀の不知火を覆い隠すほどの要撃級、そして赤い波となって動く地面と化した計測不能な数の戦車級。レーダー上に映る白銀機の光点を埋め尽くさんと包囲網を狭めて行き、そして視認できないほどに囲まれていく。『―――白銀機、23体の要塞級に囲まれていますッ!』『―――ッ!』『…………!!』『その他、要撃級48ッ!戦車級は……計測不能ッ!』『……白銀……ッ!』絶望的な数値、物量、そして攻撃を今も受けているであろう白銀に悲痛な声が洩れる。だが、その声はたった一瞬で変わった。「―――――来るぞ」『中尉!……敵の損耗率が……加速度的に……ッ!』鬼神……一言で今の白銀を表すのならこの言葉以外に何が合うのだろうか。戦術機という存在を、不知火という機体の限界を全て振り切った速さで縦横無尽にBETAを切裂くその姿は新人衛士とは思えない覇気に満ちている。俺もエレナも……A-01の誰もが息を飲み込む。声が、息が詰まるほどの戦意を撒き散らしてBETAをかく乱し続ける白銀の強さに……意思に。『……す、凄い……ッ!』『あいつ……!?』要塞級2体の溶解液を噴射するウィップを回避、その間に詰め寄った要撃級の一撃をまるで分かっていたかの様に側転しながら離脱する。そして、要塞級の横を通り過ぎるその一瞬で頭を切り落とした白銀の叫びが……響き渡る。『やってみろ…………やってみろッ!オレを殺せるなら殺してみろッ!!オレは世界を変えるんだッ!もう、誰も失いたくないんだッ!!』「………」『オレはッ………オレはッ―――――――!!』『絶対に失わないって―――――――――全部“護る”って決めたんだァぁぁあああああああ!!!!』「―――――よく言った白銀ぇッ!!」その瞬間、強固に閉じられていた要塞級の壁が開く。速瀬中尉が率いて抜ける瞬間、俺は白銀が【嵐の尖兵:ストーム・バンガード】と化して暴風を撒き散らすBETAの渦に飛込み、要塞級のウィップを発する尾を切り捨てる。そして、背中合わせで包囲するBETAに背後を向けない様にして声を交し合った。「楽しそうだな白銀、俺も混ぜてもらおうか!」『バーラット大尉!?』「クラウスで良い!―――で、お客さんはお待ちなんだがどうする?」互いにブレードを構え、目の前のBETAを見据えて軽口を叩く俺に少しだけ白銀が苦笑する。BETAの包囲は完璧、おまけに得物は互いにブレードのみ……そんな状況だが、何の恐ろしさも無い様に白銀は吼えた。『じゃ、全滅させて皆に追いつきますか?』「ハッ………上等!!」『楽しむのは良いが……任務の最中という事を忘れるな白銀、バーラット大尉』BETAの躍り掛かろうとした瞬間、そんな通信と共にBETAの一部が血煙となって突破される。そこには2機の不知火……伊隅大尉と孝之の機体が存在した。「伊隅大尉………お預け、だな」『そういう事だ……まぁ、これからもそんな機会は幾らでもある』「そりゃ同感」ニヤリと笑う伊隅大尉に俺も笑い返す。――――ただ、ここから先はA-02によるBETA殲滅シークエンスに突入する。俺たちの出番は……あまり無いと信じたい。 ◇『いやぁー、こんなにBETAが吹っ飛ぶ光景ってのも爽快ねー』『まぁ、佐渡島にこれだけのBETAが存在したというのも恐ろしい事ですがね……』「これで、4回目の砲撃が終了……次で予定数か?」BETAをハイヴから引き出し、A-02の砲撃によって殲滅。その間、警戒はしているが半休憩状態となったA-01は今の間に推進剤や弾薬を搭載しながら不慮の事態に備える。………白銀の記憶をリーディングした際に起こった鑑の暴走も無い。これなら、行ける筈だ。『BETAが門より再度出現ッ!推定固体数……4万!これで予想される最後のBETAです!』『よし!A-02の砲撃に備えろッ!』―――――そして、放たれる砲撃はBETAを消滅させる。これでBETA撃破個体数は約21万となった………特に何事も無く……これで終わりだ。俺がそんな呆気ない終わりについ呆けていると雲を引き裂き、空からこの戦いの終わりを告げる為の部隊がハイヴへと到達した。『オービット・ダイバーズのお出ましだ!ハイヴ制圧まで待機しろ』「さっさと決めちまいな、チキンダイバーズ!!」『ち、チキンダイバーズ?』「ン?知らないのか白銀?アイツら……第6軌道降下兵団は俺の知る限りじゃ今回が3回目のダイブでな……チキンダイバーズってのは―――」ダイバーズのF-15EがBETAの存在しない地表へと降り立ち、5回の砲撃によって抉られたハイヴモニュメント直下に存在する反応炉へ繋がる縦穴へと飛び込んでいく。―――――そして、時間にして一時間もしない内に一本の通信が入った。『デカイ穴のお陰で―――――全機、欠ける事なく反応炉へ到達ッ!世界記録だッ!!畜生ッ――――――たまんねェ!!!』「「「「「「「「う――――――――うおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!!」」」」」」」」一瞬の静寂と共に、佐渡島全域から叫び声が上がる。涙する者、腰が抜けた者、包帯から血を滲ませ、ベットに寝た状態で拳を強く握る者――――その誰もが、勝利に沸きあがる。『やった……やったよッ!茜ちゃん!!』『多恵……うん、うんッ…!』『………ッ!』『まったく………だが、貴様等の気持ちは理解できる』勝利にA-01の戦乙女も歓喜の声を上げ、その身が生身であれば抱き合って人類の勝利を祝福する勢いで声を上げる。それに、俺とエレナも少しの疲労と多くの充実感に満たされていた。―――――――――その通信を聞くまでは。『――――アクイラ01よりHQ、残存していたBETAを追撃中………反撃して来ないが移動速度が速い』『此方、哨戒中のゴースト隊だ。こっちもBETAを追撃中……これは――――地上へ向かっているのか!?』『ザウバー01よりHQ、反応炉へS-11の設置が完了した!最悪、何時でも破壊できるぞ!!………しかし妙だな、BETAは反応炉の確保を諦めたのか?』「………全機、振動計に意識を向けておけ」『ホルス01……?』嫌な予感がした。経験上、俺が嫌な予感がする時は大抵が最悪の事態を呼ぶ………そして、『レザール01よりHQ!B、BETAが集結して同ポイントへと向かっている!推定個体数は2万!出現予測ポイントは――――』『伊隅大尉!振動計のメーターが……!』その予感は―――――――現実となる。『出現予測ポイントは―――――――新型ハイヴ攻略兵器が展開する一帯だッ!!』その瞬間、地表が爆ぜる様に……温泉を噴出す間欠泉の様にBETAが噴き上がる。背筋に氷柱を刺し込まれた様な寒気と共に全員が声を失う。だが、俺と伊隅大尉は誰よりも早く意識を復帰させていた。『全機散開!A-02の砲撃まで時間を稼げ!!』『了解ッ!!』沸き上がるBETAへと全員が突撃砲を向け、弾をバラ撒きながらかく乱を続ける。数にして1万、だがちょっとした小谷となっているこの戦場ではあっと言う間にBETAが地表の土を覆い隠していく。この狭い戦場で………18機の戦術機では余りにも無力だった。《HQよりヴァルキリーズへ!撤退を開始して下さい!A-02の冷却ユニットに異常発生―――――砲撃不能です!!》『―――――了解ッ!損傷が激しい者から離脱しろ!ここは私が受け持つッ!!』『伊隅大尉ッ!』『鳴海!貴様はヴァルキリーズの全員を艦へ連れて帰れ!これは命令だッ!!』『駄目ですッ!後方にもBETA出現、光線属種多数!完全に挟まれましたッ!!』HQからのA-02故障の通信、距離を詰めるBETA、乱れ始める戦列……そして、挟み撃ちに合う俺達。光線級に押さえられた空へは逃げる事も叶わない。『A-02への光線照射多数ッ!このままでは―――――ッ!』『なんだってんだよ……そんなにオレ達の勝ちが気に食わないってのかよぉぉぉぉおおお!!』「白銀ッ!無闇に突っ込む――『バーラット大尉!!』―――なぁッ!?」下から爆発する様に飛び出したBETAに機体が吹っ飛ばされ、バランスを崩して尻餅を着く様な形になる。そして、その一瞬で腕を振り上げる要撃級に意識が凍結する。不味い、動け動け動け……そう脳は理解していてもそれを腕の動きに命令として伝えるラグ……戦術機の動きとして反映されるまでのラグには遅すぎた。「あ」終わったと理解した瞬間、言葉が零れる。そして、要撃級の腕が俺が乗るタイフーンの管制ユニット目掛けて振り下ろされ―――――その要撃級の顔の中心に、一つの風穴が開いた。「そ、狙撃…ッ!?珠瀬か!」『ち、違います!』なら誰が……そう思った瞬間に、マップ上にBETAがすし詰め状態になっている後方へと突入する友軍の姿が一瞬だけ映る。俺は、その2機の戦術機が存在する事を意味する光点に異様な迫力を感じていた。――――あれだけのBETAの中を通り過ぎるにしては速すぎるその速度に、血煙が吹き上がる光景に…。『伊隅大尉ッ!後方よりBETAを突破した友軍を示す2つの光点が有り得ない速度で接近して来ます―――!その内の1機は……帝国の不知火!?』そして、BETAの壁を無理矢理に引き裂いたであろう2機の戦術機。その機体をBETAの体液に染め……俺達の元へと到達する。『何故、この機体がこの戦場に……ッ!?』誰かの呟きが聞こえたと同時に、俺は『烈士』と銘打たれた不知火に並ぶ濃緑色の戦術機を視界に納め、目を見開く。その右肩の装甲には、俺が僅かの間だけ所属していた……米軍所属機を示す白い星のマークが描かれている。「F-22A……ラプター!?」そして、俺の呟きが引き金だった様に……通信が繋がった。『国連軍指揮官に告ぐ。私は帝都防衛第1師団・第1戦術機甲連隊所属、沙霧尚哉大尉』『同じく告げる。此方は、米軍陸軍第66戦術機甲大隊所属のアルフレッド・ウォーケン少佐だ』不知火が長刀を振り抜き、ラプターが機体を少し前倒しにして全ての突撃砲を展開させる。そして同時に台詞、言葉が重なった。――――――――後は任せろ、と……。続く今回の話が書いてて一番楽しかったのは内緒。というか土曜日も仕事って嫌だね。