【2001年12月25日 日本 佐渡島】蒼と白、佐渡島に広がる空模様にも見える2機のEF-2000がA-01隊員が乗る16機の不知火の先頭を突き進む。上陸までのこの数分、海軍として戦っていた俺が何度も経験する死と生の淵だ。『跳躍ユニットが…!う、うわぁぁぁぁぁぁあ!?』『母さん……母さッ』『駄目だ、沈んでいく………これが、私の最期だと言うのかっ!?』混線する通信、前を見据えながらもその“最期の声”を少しでも聞いておく。本当に怖いのは忘れられる事、だから……名前の分からない誰かであっても、光線級の狙撃、それで管制ユニットを焼き貫かれた1機の撃震が錐揉み回転しながらA-01の進路上にフラフラと迷い込む。それを俺は、少しの黙祷と共に撃震を撃ち落す。搭乗衛士は既に生きていない……だけど、思う。あの撃震の衛士もこの作戦を前にして自分が他を巻き込んで犠牲を出したいとも思うとは思えないから…。だが、飛行する不知火数機に迷いにも似た動きを俺は見逃さない。「―――――迷うなッ!接岸するまでが今最大の勝負だぞッ!!貴様らは何時からBETAとの戦争で余裕を持てるベテランになったんだ!?」『―――――っ!!』「死にたくなければ前を見ろッ!俺たちを含む後続の本隊を上陸させる為に盾になっている者の思いを軽視するんじゃないっ!!」……そして、目標の上陸地点を確認。滑り込む様に着地する。周囲にBETAの姿は死骸しかない。大破したA-6から流れ出たオイルとBETAの体液が流れ込んで海がどす黒く染まる。ここからが……本番だ。『うおおおおおおおおおおおおおッ!!』地底より飛び出る形で湧き上がるBETA群へと俺が突撃砲を向けた瞬間、白銀の咆哮と共にBETAの出鼻を挫く様に36㎜が叩き込まれる。その不知火の動きに迷いや恐怖は無い。あるのは……覚悟だろうか?人間、変わる時は豹変するモンだ。『わお、やるぅ』『おいおいおい!白銀に見せ場を取られるんじゃねェぞ!!』『分かってるわよ、孝之!』宗像中尉の囃す様な声と、A-01最強の突撃前衛コンビがそれに感化された様に牙を剥き出す。とりあえず、BETA達は暫らくご愁傷様だなぁとか思いつつ俺も突撃砲をBETAへと向ける。ま、可哀そうとも思わないけどな。「しっかし……やっぱり良いな、タイフーンは」目の前の戦車級の波を飛び越え、停滞していた突撃級を足場に抜ける。そして乱射、そんなちょこまかと動き回りながらBETAを駆除し、エレナが立ち止まったまま4門の突撃砲を撃ちまくっている場所に戻る。相変わらずの弾幕、EF-2000の運用思想である機動砲撃戦に最も適応しているのはエレナなんじゃとも思う。そう思いつつもリロードしていると、通信がエレナから繋がった。『そういや、何時の間にか乗機がそれになってましたよね』「ああ、芯が太くて柔軟な帝国軍機よりはやっぱ鋭利でキッチリと固めた欧州軍機の方が違和感が無い」『帝国軍機はサムライで、欧州軍機は重騎士って感じですからねー』『そこぉ!話して無いで戦いなさい!』のほほんとした空間、そこに速瀬中尉が怒鳴り声を上げて乱入する。………なんか、エレナ“さん”が「チッ」とかって舌打ちをした気がするけど気のせいだろう。「(ま、少しでも楽できるならそれで良いか……)」俺は、数日前の事をゆっくりと思い出す。あれは、博士に呼ばれて飯もそこそこに慌てて食堂を出た時だったな……。 ◇【2001年12月20日 国連軍横浜基地】「………わ~お」「ふふん……どう?」俺はハンガーに固定される1機の戦術機を見上げ、ちょっとした感嘆の声を漏らす。博士へ甲21号攻略戦の詳細、及び横浜襲撃という事実を提供し、暫らくして格納庫へ呼ばれて今だ。俺の隣には悪戯な笑みを浮かべた博士がおり、視線の先には帝国カラーに染められた……EF-2000があった。「アンタのF-4JX、ガタが来てたし借り物なの。帝国にはデータも着けてやったからコレ位は貰わないとやってられないわよねぇー」「まさに外道」俺は無意識にそう言うと眉を少し顰める博士の横を移動し、EF-2000の足に触れる。まぁ、不知火も良いなぁと思ってたけど搭乗時間で言えばこの機体は300時間を超えている。下手な機体より戦える筈だろう。「で、今はXM3の換装中なんだけど……オーダー、ある?」「じゃ、色を空色で」「はいはい」苦笑する博士に俺も小さく笑みを零し、EF-2000……タイフーンを見上げる。今は、どう機体があろうが無かろうが関係ない。俺が戦闘で取れる手段の幅が少し広がった……それだけだ。「ま、あと3回だけだが……頼むぜ、相棒」取りあえず、世話になった益荒男を洗えなかった分もコイツを洗ってやろうとか思いつつ俺はハンガーを出る。あと数日後には、コイツで戦場を駆け巡っているのだろうな……と、思いながら。 ◇「あー……まさに外道って無意識に言っちゃったんだっけ」『なんの話してんですか!?』「白銀、良いから後ろも見ろ」白銀の不知火の前に飛び出し、ブレードを振り下ろす。背後に迫っていた要撃級を2体、返し刀で斬ると白銀は慌てた様に少しだけポジションを変えた。「ちゃんと把握してないと死ぬぞ、ヒヨっ子」『りょ、了解!…………なんか、少しキャラ変わってるような…』『大尉は真面目な時は真面目ですよ、白銀少尉』「……エレナ、後で梅干な」『嫌ですよ!?アレってあのマナンダル少尉が泣くくらい痛いんですよ!?』「当たり前だ馬鹿野郎。全国のお母さんが子供の説教に使う伝家の宝刀だぞ」『少なくとも、私は悪戯したってあんなのはやられた覚えはありません!!』騒がしくも順調所か快進撃といった具合でBETAを屠り、突き進み続けるA-01。今回、俺達の任務はA-02、XG-70b『凄乃皇・弐型』の砲撃地点の確保、そしてハイヴ内に残存する総数20万のBETA駆除だ。博士には細かな状況を伝えており、『00ユニットによるリーディングの結果』という事でBETA総数が20万と判明した事になっている筈だ。帝国軍も20万というBETAの軍勢が本土へ攻め込んだ場合は防衛が厳しいと判断した上での今回の作戦は以下だ。【第1段階】国連宇宙総軍の装甲駆逐艦隊による対レーザー弾での軌道爆撃を開始。敵の迎撃と同時に帝国連合艦隊第2戦隊が対レーザー弾による長距離飽和攻撃を行い、二次迎撃による重金属の発生を合図に全艦隊による面制圧。 【第2段階】帝国連合艦隊第2戦隊が真野湾へ突入、艦砲射撃にて旧八幡~旧高野・旧坊ヶ浦一体を面制圧。同時に帝国海軍第17戦術機甲戦隊が上陸し、雪の高浜から橋頭堡を確保。続いてウィスキー部隊を順次揚陸して戦線を維持しつつ旧沢根へ西進、敵増援を引き付ける。 【第3段階】両津湾沖に展開した国連太平洋艦隊と帝国連合艦隊第3戦隊が制圧砲撃を開始。同時に帝国海軍第4戦術機甲戦隊が旧大野を確保。続いてエコー部隊を順次揚陸。先行部隊が戦線を構築し、主力は北上して旧羽吉からタダラ峰跡を経由し旧鷲崎を目指す ここまでは正史と同じだ。だが、ここからはかなりの食い違いが出てくる。第4段階A-02によるハイヴへ向けての順次砲撃によるBETA間引き、総数18万を超えた瞬間に軌道上を周回中の第6軌道降下兵団が再突入を開始、降着したのち「甲21号目標」内部へ突入。第4層への到達を確認後、ウィスキー部隊を順次投入「甲21号目標」の占領を目指す。その際、A-02はハイヴ内に残存するBETAを引き着ける為に陽動を開始、ハイヴ攻略部隊の支援を目的とし行動する。突入部隊が成功した場合はA-01及びA-02はハイヴに進入し情報収集に当たる。突入部隊が失敗した場合はA-02の攻撃によりハイヴと周辺BETAを無力化し、その後ウィスキー部隊が突入し残存BETAを掃討、A-01及びA-02は情報収集に当たる……これが以上だ。この作戦の為に白銀の記憶に対するリーディングブロックも博士にして貰った。それに、第6軌道降下兵団やウィスキー部隊などの余計な被害が押さえれる筈だ。犠牲が出ない、なんて贅沢は言えない。俺が届く範囲はこの手に持つ突撃砲の射程範囲で精一杯だ。それ以上は、作戦という行動指針を変えなければ駄目だ。「あー……ウジャウジャとぉ!!」だから俺は俺の戦場を今は戦い続ける。今、洋上で指揮する者を動かせる博士には博士の戦場があるのだと……皆が、戦っているのだと。そう、俺が思っていた時だった。『速瀬中尉ッ!陽動を志願しますッ―――――――オレにやらせてください!』――――そう、混線した中でも響く様な……白銀の声が聞こえたのは……。続くスーパー武ちゃんタイム、はっじまっるよ~!