【2001年11月30日】「……どうしよう」朝、起床した直後の第一声がコレなのもどうかと思うが俺は本当に悩んでいた。もう11月も終わり、12月に入る。つまり、オルタ世界でも大きな火種にもなった12・5事件が迫っているという事だ。「………どうしよう」博士に言って対応して貰う?博士の事だから吹雪の大破の事実を含めて話せば認める筈が無いし、かと言っても事件を起こすのも最悪だ。国を思う気持ちは分からなくも無い。だが、それで犠牲になる者が大勢出れば被害を被るのは次世代を担う子供達だ。クーデターで死者が増えれば増えるほど……徴兵され、戦地に送られる子供が増える。最悪、現在のソ連軍の様な事態が日本に起こる可能性がある。それに戦術機を含めた兵器だってタダじゃない。結果的に国民に対して負担が増すのだ。だが、クーデターを防いだとしても火種は燻ぶり続け、新たな火種を得て再発火する。その場凌ぎじゃ駄目だ、根本から解決しないと何時かは大火となって犠牲を生み出す……故に、難しい問題だ。少なくとも、俺一人じゃ絶対に解決できない問題だった。「―――ったく、なんで俺ってこうなってんのかなぁ」昔から厄介事に首を突っ込んで行く性質、それが尚更顕著になっている気がする。こんなクソみてぇな世界で何人もの死に様を見て、それを防ごうと無茶をして………足掻いている。正直、滑稽だと自分でも思う。「とりあえず、博士に報告だけしないとな……」こんな手段しか取れないのが情けないが仕方がない。だが、最悪は207B隊を天元山に派遣してでもクーデターは防がなければならない。……今のこの国に、そんな余裕は無いのだから。だが、数日後。事件は発生してしまった。博士に対応して貰ったが207B隊は出動せず、引き金は引かれる結果になった………。 ◇【2001年12月5日 帝都城正門】帝都城最外縁にある正門で歩哨をしていた男が異常に気づいたのがほんの数分前だった。たまにご老体の方が帝都城を拝む姿があり、それを見て「慕われているな」という暖かな気持ちと共にこの門を護らなければ、という決意を直していた事が何度もあった。だが、今目の前に居るのは弱々しい老人の姿では無い。屈強な肉体をその帝国軍制服の下に隠した兵士達が一糸乱れず此方へ向かって来ているのだ。「……此方正門、問題発生。戦術機部隊及び歩哨の増援を願う」『了解、対象の目的はまだ不明だ。臨機応変に対応せよ』「了解……何だ一体……?」『隊長、此方では武装の確認が出来ません。そして、此方に背を向けて正門より約1キロ離れた地点で全員が停止しました』正門の櫓で狙撃銃を構えている部下の報告内容に肩へ掛けていた銃を構え、警戒を続ける。何らかの意味がある筈の行動、それが気になったためにCPへの通信を繋げる。すると、慌ただしい声が聞こえた。「CP、此方正門!どうした!?」『此方CP、帝国内のラジオ・TV放送局が占拠されたと情報が入った!奴等との関連性がある場合、射撃を許可する!』「……了解ッ!」その情報を聞いた瞬間、嫌な汗が流れ落ちる。―――――長い一日になる。俺は小さく喉を鳴らしながら唾を飲み込み、そう思った。 ◇【同日同時刻 横浜基地】《防衛基準体勢2発令、防衛基準体勢2発令。全基地要員は主要部署へ集合し、指示を待て。繰り返す…》「―――クソッたれ!!」基地内へ響く警報、12・5事件に対して打つ手が無くなった俺は祈る様に自室で待機していたがその警報へと叫び声を上げて壁を殴る。防げなかった歯がゆさと情けなさに自身を殴りたくなったがそれを晴らす様に壁へと再度拳を叩き付ける。「……畜生ッ」鈍い音を立てて歯軋りし、喉から引き絞る様に呟く。大体、一分くらいだ。赤くなった手、それを軽く振って香月博士が居るであろう中央司令部へ走って向かう。こうなった以上……やるしか、ない。「博士!状況は!!」「先生!これは一体!?」「五月蝿いわよ、白銀にドゥ!クーデターよ、くだらなさ過ぎて笑いも出ないわ!!」「「は?」」室内に居たであろう白銀と俺の声が重なり、博士がイラついた様子で司令室を出て行く。それについ、呆けてしまった俺は白銀と顔を見合わせた。「あー……ピアティフ中尉、何事なんです?」「はい、此方になります」司令部に残っていたピアティフ中尉に何故博士があんなにも肩を怒らせていたのか尋ねる。すると、タタンッとパネルを操作して一つの画面を出現させた。そこに映るのは―――――『―――――親愛なる国民の皆様。私は帝国本土防衛軍・帝都守備連隊所属、沙霧尚哉大尉であります』―――――今回の事件の首謀者、沙霧尚哉だった。「先生、そう言えばクーデターって……コイツが!?」「静かにしろ白銀」騒ぎ立てようとする白銀を黙らせ、画面に写る沙霧を睨む。そして、原作通りの演説に見るのも嫌気が差してピアティフ中尉にもう消していいと言おうとした瞬間だった。その言葉を飲み込むに十分な言葉が、変化が発生したのは。『―――――皆様。本来、我等は戦術機等の兵器を用い、最悪の場合は実力行使すらも視野に入れておりました』「ッ!?」「え……?」『ですが、とある人物の言葉に考えを変える必要があると感じたのです。私より齢十以上は幼い、一人の幼い異国の少女の言葉に……』 ◇「大尉、お疲れ様でした」「駒木中尉……首尾は?」「総員、帝都城へ結集。背を向けた状況で無抵抗を貫いております」「被害も出ていないな?」「はい。そして実力行使を推奨していた者を尋問した結果、米国との関連性を認めました」「憂国の者達にも潜り込むか、米国め……ッ!」車へ乗り込み、皆が待つ帝都城へと向かう。戦術機も無ければ拳銃・ナイフすら持たない数百を超える兵士・衛士による直訴……これが、犠牲を我等のみに区切る手段だった。「これで通じず、我等が死す事態になっても先の放送は全国……いや、世界へと通った。思いを引き継ぐ者は必ず出る……私はそう信じている」「大尉……お供します」「付き合わせてすまないな、駒木中尉………あの幼い少尉が我々を見たらどう反応するのだろうか……」「ふふっ……多分ですが、怒られてしまうんじゃありませんか?」少し目を瞑り、数ヶ月前を思い返す………そう、あれは休暇で散策をしている姿を偽装として計画を実行する為の視察の最中だった。【約4ヶ月前 帝都】「……ふむ」帝都を粗方回りきり、茶屋でゆっくりと一息吐く。憂国の士達が決起する場合に失敗は許されない……それ故に何度も事前確認を繰り返し、この茶屋で少しばかりの休息を取る。それが普段通りのパターンだったのだがこの日は違った。「あ、あの……道を尋ねてもよろしいでしょうかー?」「……どうぞ、迷われましたか?」首に古めかしいカメラを提げ、動きやすさを重視したであろう服装に身体を包んだ金髪の少女。明らかに日本人では無いその少女に道を尋ねられたのだ。少し驚いたが、四苦八苦な様子だが日本語を話せていた。「あ、はい!帝都城へ行きたいのですが!」「………写真、ですか?」「はい!私、配属の関係で色々と向かった先の風景を撮るのが好きなんです!……あ、軍人みたいな事を言ってスイマセン……」「―――軍人の方ですか、お若いですね」「あ、はい。今年で18歳になります!……あ、自分は国連軍所属、エレナ・マクタビッシュ少尉であります!」「私は沙霧尚哉、しがない医者です……衛士ですか?」「えっと……はい」18歳の少女が衛士、帝国でもこの年齢の衛士は珍しくないのだが少しだけ興味があった。私は彼女を帝都城へと案内する最中、言葉を交わす。イギリス出身で日本にはあの横浜基地へ任務で来日したという事。日本語も上官から教わったという事。もうちょっとでエースであるという事。国連という組織は快く思わないが、個人に対しては特にどうこう言う気は無い。所属が国連なだけであって戦場で戦う兵士達はどの国であっても変わりない……そうだと考えるだけの冷静さはあるつもりだ。烈士達の中には過剰すぎる考えの者も居る、それらが事を起こす際に暴走しなければ良いのだが……。「……着きました、ここまでが一般人の立ち入りが許される区画です」「凄い……これが帝国のお城ですか……!」そう考えていると何時の間にか到着する。少女……マクタビッシュ少尉は写真を取り始め、何回かシャッターを切って満足そうに微笑んだ。「うん、良く撮れたけど………どうしてか、寂しいお城ですね……」「何故、ですか?」「警備もそうですけど、これじゃ鳥籠です。まるで、遠ざける様に隔離しているみたいな……」『鳥籠』……そう称す彼女に心で小さく頷く。その喩えは間違いではなかった。「……この国の政治はあの天守閣におられる政威大将軍、煌武院悠陽様が取るべきなのです。ですが、実質は他の政治家たちによって判断されています」「えっと、全権代行……ですよね?大尉……あ、私の上官が教えてくれました」「ええ……」本来は政治の全権を皇帝陛下より授けられている殿下、しかし腐りきった官僚達はまるで殿下が下した命令の様に自身達が考えた指示を下す。これは、殿下のあるべき姿を蔑ろにされていないとどう言えるというのだ。私が小さく握り拳を作ると同時にマクタビッシュ少尉が理解できたのか頷く。そして、口を開いた。「じゃあ、お話すれば良いじゃないですか?お茶でも飲みつつ」「――――――――は?」今、なんと言った?お話?つまり、殿下と?茶を飲みながら?私が思わず呆けた顔をしているとマクタビッシュ少尉はそれに不思議そうに続ける。「いえ、政治の実権を握って欲しかったら言わないと駄目ですって。言わないと分からない、子供でも分かる事ですよ?」「だ、だが!その声を聞き届けれないのもこの国の―――」衝撃的過ぎたのか、少ししどろもどろになりつつもこの国の現状を説明する。それを聞いていた彼女は、眉を吊り上げて声を上げた。「だまらっしゃい!」「ッ!?」「『出来る出来ないじゃない、やるんだ』です!……私もそうします!」「だ、だがしかし!」「『声が届かない?』だったら声が届く様にする、向うが聞かないなら聞かなければいけない状況を作る!それを考えるのが人間じゃないですか!」「この国の者ですら無い人間が何を言うか」……そう発しようと思ったが口を開けない。我等が動いた際、少なからずの死者が出る。その中には政治家も居れば、その警備を任されていた無実の兵士の姿も……そして、一般人の姿もあるかも知れない。そして、犠牲者が出たと聞いた殿下の気持ちを考えてみる。あのお優しい方だ、臣民を失えば大きく悲しまれる………それは分かった。「話をする……か」「―――話をしなければ伝わらない事もあります……これ、理想論ですけどね。話せないまま物事が推移していっちゃう事もあるのは事実ですし」「……ああ、確かに理想論だ……―――――本当にな」「あ、偉そうな事言ってスイマセン!……………あれ?沙霧…さん?」「……?どうしたました?」「あ、いえ……」―――――口元、小さく微笑んでますよ―――? ◇「―――あれから、この手段が最も最適と思ったが……殿下へと届くのだろうか…」「……大尉、その心配は無さそうですよ?」車が停車し、帝都城へと到着した事を運転手が教えてくれる。そして、車から降りると異様な光景があった。「これ、は……」人、人、人……明らかに一般人も含まれた数多くの人の集団が同じく正座して帝都城を仰ぎ見ている。その光景に呆然としていると、同志の一人が慌てた様子で此方へ向かって来ていた。「少尉、これはどういう事だ!?」「沙霧大尉!大尉の放送を聞いて結集した帝国兵・帝国民です!何時の間にか、この様な規模に!」「……ッ!」「……皆、思いは同じだった……そういう事なのでしょうか…」「真実を知った国民が、殿下の復権を望んでいる……」警備部隊や戦術機も周囲に展開しているがその銃口は空へ向いている。一般市民も含めたこの集団には撃てないのか、それとも撃つ気は無いのか。まぁ、それは良いだろう。「諸君、ここからが正念場となる……」―――――通すぞ、我等が悲願を―――。 ◇【同日 横浜基地司令部】「 ( ゚д゚) 」「あ、あの?ドゥ中尉?………ドゥ中尉!?」「白銀君、立ったまま気絶してるわ……医務室に運ぶの、お願いできる?」「は、はぁ……了解です、ピアティフ中尉」『基地司令、日本領海外に展開していた米国第七艦隊より連絡が―――』「……必要ない、お帰り願え」「 (゚д゚) 」後書き12・5事件終了なう。「【TE・オルタ√第1話】さらば横浜、また会う日まで」で出かけてったエレナさんはこんな事を起こしてました。