【2001年5月12日 アラスカ国連軍 ユーコン陸軍基地 第二演習区画、E-102演習場】「主電源の接続を確認、OS起動開始」薄暗い戦術機の管制ユニット内に俺の声とパネルをタッチする音が響き、低く唸る様な起動音が響く。「オートバランサー、チェック。アビオニクス、チェック。FCS、チェック」灯りが灯る。網膜に機体情報が流れ、問題が無い事を俺に教えてくれる。「コンディショングリーン、網膜投影………よし」管制ユニットの内壁からダミービルが立ち並ぶ廃墟の光景へと変わる。戦術機のメインカメラ、サブカメラがヘッドセットに内蔵された高解像度網膜投影機能を介して俺に戦術機の目をくれる。「此方ホルス1、機体の起動確認」『此方はCP、此方も機体起動を確認した。予定通り、主脚歩行での走破性能のテストを開始しろ』「ホルス1了解」CP士官との通信が切れ、俺は一回だけ息を大きく吸う。そして―――……「往くぞ!」叫び、大きく一歩目を歩みだした。 ▲ ▽【Side ヴィンセント】「おいユウヤ、見てみろよ!あれがホーネットなのかよ!?」「見てるよ、ヴィンセント。……正直、アレはやり過ぎだろ…」俺はユウヤを気晴らしとしてクラウスがテストパイロットを務めるNFCA計画の第2フェイズ、F-18/E改修型の機動実験を見に来ている。大型のモニターが良く見える席に俺とユウヤが飲み物を片手に陣取る。この映像はホルス1のチェイサーからの直輸入モノの映像だ。流石は国連軍主導なだけあって、ある程度の情報公開や撮影自由などの事もあってかそれなりに様子見に来た奴が多いみたいだ。「いっやスッゲー!あれはあれでかなり空力とか考えてるぜ!」「……あのド派手なセンサーマストと腕とか肩に着いてるブレード・ベーンか?」「おう、あれが上手く機能すれば跳躍ユニットを使わないでも姿勢制御出来るんだよ」「―――……ああ、そういう事か…」ユウヤも考え、気付いたのか頷く。序でに言やぁ今現在ユウヤが乗っている日本機の“吹雪”もその制御法なんだけど……あれだ、機嫌悪くすっから言わないでおこう。そんな事を考えながらモニターに目を戻す。あと少しで、空地両方のドローンを標的とした三次元機動が始まる…。 △ ▼『CPよりホルス小隊へ、もう間もなくダミービルを抜ける。お空への切符を用意しておけ』「ホルス1よりCP了解」『ホルス2了解ッ!大尉、ワクワクしますね!』「こちらホルス1……あのな、俺は少尉だ!……あーゆーおーけぃ?」『NO!……良いじゃないですか!貴方が大尉であった時からの忠臣ですよ?』自機の後ろに続くF-18/Eの衛士であり、NFCA計画所属のホルス小隊においては俺の僚機を勤めるホルス2、エレナ・マクダビッシュが俺に微笑む。プラチナの様に輝くブロンドのロングヘアー、その腰辺りまで届く長い髪を紐リボンでポニーテールに纏めている。一見するとまだ十代の華奢なお嬢様…な外見だが、既に10度の戦闘を乗り越えた準エースでもあり、相当な腕を誇るであろう娘だ。そんな彼女との出会いは俺がまだ大尉だった2年前に預かっていた当時、14~15歳の少年少女で構成された新人衛士部隊の“生き残り”だ。とある任務以来、何かと俺に引っ付いて来たが此処まで付いて来るとは………何でだろね?「レーダー良し、推進剤残量良し、各部関節・装甲共に問題なし……ダミービル郡を抜けた瞬間から跳躍ユニットを使用した機動へと移る」市街地戦を想定されているダミービルが複数立つコンクリートの地面を主脚で走り抜ける。第二世代機とは思えない様な軽快さを感じさせる足取りだ。理由に整備兵達の腕が良いのもある。だが、様々な技術投入によった改修により第三世代機並の性能を得ているのだ、この時点で既にF-18/Eを超えている…そう感じれる素晴らしさだ。「いいな、悪くない……!」ダミービル郡を抜ける。BETA大戦が始まる前の………自然の減少と重金属雲によって消えた本当の青空の様な空色に塗られた碧い巨人がその姿をビルに隠す事無く、その雄姿を現す。『空中のドローン20、その後に地上のドローン数20だ。スマートにやれ』CPに「了解」とだけ短く返答し、右手腕に保持されたGWS-9突撃砲を射撃体勢に構える。F-18は大型戦術機であるF-14と軽量型戦術機のF-16の特徴を随所に彷彿とさせる様なデザインが特徴の機体だ。だが、今のコイツは通常のF-18のシルエットとは似ても似つかない。その姿は何処かソ連の『Su-37』にも似ていて、嘗て所属した欧州方面軍でも見かけた『EF-2000』や『ラファール』にも似ている。そんなF-18/E改修型の仕様はこんな感じだ。『頭部センサーマストの鋭角化&肥大化』『揚陸拠点確保・強襲任務を請け負う海軍機の為に第二世代機の操縦系統であるOBWから即応性が高い第三世代機操縦系統のOBLへの変更』『両前腕部外縁、肩部装甲ブロック両端、膝部装甲ブロックから下腿部前縁、前足部に着けられたスーパーカーボン製ブレードエッジ』『肩部サイドスラスターに追加された最新型可変式ノズル』『腰部装甲部へ増設されたスラスターモジュール』『近接格闘戦兵装の運用を想定したハード・ソフト面での仕様変更 』『近接戦へ耐えうる為のフレーム及び関節の材質強度や耐久力の向上、電磁伸縮炭素帯(カーボニック・アクチュエータ)の緩衝張力強化』 『跳躍ユニットに加速性能と瞬間最大出力が高く、増槽も着けれる[プラッツ&ウィットニーF120型エンジン]の採用』『最新の対レーザー蒸散塗膜加工』以上の改修点が施されたホーネット(スズメバチ)……いや、攻撃的な外見を増した“大スズメバチ”はその名に違わぬ鋭さを持って加速、上昇する。「うおっとぉ!――――暴れんな…今に跪かせてやるからよ……!」肥大化した頭部のセンサーマストや増設されたブレードエッジで生まれる空力の違いや新たに換装された跳躍ユニットの高出力、シュミレーターとの違いによってバランスを崩したが一瞬でリカバー。その面白い機動の変化の仕方に戸惑い、思わず笑みを零す。じゃじゃ馬なコイツ……手懐け、屈服させたらどれ程の動きを見せてくれるんだろうか……?『た、大尉が何時もの笑顔を浮かべてるぅ!?』「……ん?ホルス2、何か言ったか?」『言ってません言ってません言ってません!!』網膜に写ったエレナの涙目な顔に首をかしげつつ、17個目の滞空ドローンを撃ち抜く。残り3つ、これを地上のドローンと攻撃対象を切り替える為のラインへ接触する前に落とす必要がある。…………やってみるか。「ちょっと、派手に行くぞ」『えちょ、大尉?』そうエレナに告げ、俺は可変型サイドスラスターと腰部スラスターを使用した機動を試す為、意識を集中させる。【レーダーマップ】━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ○<対地ドローン001:6000M───――――――───【対地標的攻撃開始予定ライン】――――――───――――――↑※進行方向 ●<滞空ドローン:1700M ●<滞空ドローン:2450M ●<滞空ドローン:2650M △ ▲━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━△F-18/E改:ホルス1▲F-18/E:ホルス2ギリ…っと鈍い音を響かせる様に歯を食い縛り、一気に跳躍ユニットの出力を跳ね上げる。搭乗員保護設定を一時的にカット、腕部及び脚部関節の固定化、跳躍ユニットのリミット上限開放。そして巡航速度の600キロから一気に800・850・900・950キロへと跳ね上げる。「っぁ………!」衛士強化装備の耐G機構と蓄積されたデータのフィードバックのキャパシティを超えたGが俺の体をシートへと押し付ける。高Gによる影響で視界が暗くならない(ブラックアウト)様に唇を噛み切り、その痛みで精神に活を入れる。━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ○<対地ドローン001:4350M───――――――───【対地標的攻撃開始予定ライン】――――――───――――――↑※進行方向 ●<滞空ドローン020:50M △ ●<滞空ドローン019:-800M ●<滞空ドローン018:-1000M ▲━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━そして、急減速。暴れる機体を押さえ切り、腰部スラスターを吹かしたその一瞬、その一瞬に生まれた無重力状態とも言えるGがまったく掛からない状態で関節部固定解除、滞空ドローン020を突撃砲で撃ち落す。そして撃ち落したのを片目で確認した瞬間、失速する。その瞬間、跳躍ユニットと肩部の可変サイドブースターに火が点る。跳躍ユニットが機体を持ち直し、その逃げる推力をサイドブースターによって制御。180度ターン。━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ○<対地ドローン001:4300M───――――――───【対地標的攻撃開始予定ライン】――――――───――――――↑※進行方向 ▽ ●<滞空ドローン018:-500M ▲━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━機体に振られる…そう言うよりはミキサーに入れられてシェイクされる、と言った方が正しい様な高速旋回を行った直後に鳴り響く衝突回避――…いや、既に対衝撃体勢警告だ。“予定通り”の警告を無視、回避機動を取る様に機体を滑らし………右肩に装備されたブレードエッジで滞空ドローン019を切り裂き、墜とす。左サイドブースター再点火、そして跳躍ユニットの角度を左寄りにズラして一気に機体を横スライドさせる。━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ○<対地ドローン001:3900M ●<滞空ドローン018:-150M───――――――───【対地標的攻撃開始予定ライン】――――――───――――――↑※進行方向 ▽ ▲━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━『あ、抜けた…!』「まだぁッ!!」半強制的に制御を戻したのちに戦術機の背面を地表に向けたままNOE、36㎜発射……滞空ドローン018に命中。右跳躍ユニット停止、左跳躍ユニットの推力を最大出力で放射する。右サイドブースターと左サイドブースターを時計回りの方角にそれぞれを放射、グルンッと綺麗にバレルロールし、制御を戻す。そして、何事も無かった様に対地ドローンへと攻撃を開始したが……見学者の殆どが、唖然としていた。「んなっ……!」「め、滅茶苦茶だぞ!?何なんだアレ!」『流石です!大尉!』上から、ユウヤ・ヴィンセント・エレナの順で声を上げているのだが俺には通信からエレナの賞賛の言葉のみが届いている。うぇ…高Gで振り回したからギ ボ ヂ ワ゛ル゛イ゛ィィィィ。―――とまあ、そんな感じで今日のテストは終わった。これからは問題点などの洗い出しを中心に進めていくのだろう。一応、機体はハンガーで完全分解して暫らくの間はデータ採取に使用するのだとか………因みに、俺はこの機体の名称をF-18/EX「ワスプ」と名づけた。「ワスプ」も「ホーネット」と同じでスズメバチって意味だけど、「攻撃的なスズメバチ」な意味を持っているのだから……案外、ピッタリだと思わないか?