《―――以上が、ドゥ中尉についての報告です》「お疲れ様ピアティフ……で、アイツは?」《本人は報告書を提出してから出頭する、との事です》「頭が痛くなるわぁ……」額に手をやって天井を見上げる夕呼にピアティフは思わず同情的な視線を向ける。先程の実機演習終了後、命令無視による逸脱行為は副司令……夕呼の管轄であると基地司令へと連絡してある。通信はピアティフが乗り込んだCP車のみに聞こえており、外部に聞こえなかったとしても本当の名を名乗った事に対して注意があった。ジョンと細かい接触を行えるのは夕呼の息が掛かった者のみ、他はあの仮面や噂も相成ってか見事なまでに避けていてくれている。ピアティフ自身もジョン……クラウスの経歴を知っているだけあって呆れてはいる物の、「あんな人物なんだろう」で納得していた。「はぁ……とりあえず、伊隅達の様子はどう?」《はい、既に出撃に備えて装備の講習会を行っています。今回はBETAの捕獲という事で勝手が違いますので、念入りに行うとの事です》「そ……とりあえず、あの馬鹿は勝手に来るからもう良いわ」《了解しました》通信が切られ、物静かな風景が戻る。そんな中、暫らく待っていると待ち人がやってきた。「ちゃ、チャオ☆」「………」「嘘ですごめんなさい」無言で銃を突き付けるとほぼ90度に腰を曲げて頭を下げる仮面の男……もとい、俺の姿に多少は溜飲が下がったのか冷めたコーヒーを飲む。そして、その苦さに少し顔を歪めながら口を開いた。「正座」「へ?」「正座しなさい!」「はいッ!」命じられた忠犬の如き素早さで正座。そんな俺の前に博士は腕を組んでの仁王立ち。その異様な威圧感に嫌な汗が止まらない。「アンタね、一応は死者っていう自覚あるの?」「………ハイ」「嘘おっしゃい!なら本名を叫ぶんじゃないわよッ!!」「あ、あああああれはついノリででででででー!?」夕呼が胸ぐらを掴んでヒステリーの様に叫びながら上下左右に振りまくる。声が変に伸びるがお構いなし、しかも結構力があるので首も絞まる………ああ、アカン、天使の格好をしたエレナと霞が俺を迎えに来て……「フンッ!」「あごぱぁ!?」……くれなかった。博士が俺を放した衝撃で頭を打った際に逃げてしまった。その衝撃で外れた仮面を拾い、ポケットに入れる。再度暴行を加えられた際に落として壊れない様にだ。しっかし、頭をぶつけた瞬間にエレナが堕天してるよーに見えたのは……気のせいだな、うん。「お~痛てて……あ、話は変わりますが博士」「何よ」「A-01、新潟に向かわせるんですよね?」「……そうよ、それも例の“映画”の情報?」“映画”……俺がプレイしたゲーム本編をそう称した霞の顔を思い浮かべ、頭を掻きながら頷く。博士は博士で「ホントに何でも記憶としてあるのね…」とか言っている。「まぁ、そうです……俺は?」「あら、行きたいの?変わってるわね」戦場に行きたいという旨を含ませて問うと自殺志願者を見る様な眼で見てくる博士。それに小さく笑みを零しながら「そうですね」と答える。「ま、『偽善者が自分の満足の為に行く』と思って頂ければ結構です」「そう……でも、駄目よ」「ですよねー」「……?(やけに諦めが良いわね……)」「まぁ、ふざけてますけど立場は理解してます。俺が基地の外へ出るのは演習のみ、でしょう?」「分かってるのなら良いわ……帰りなさい」「了解………さてさてと」部屋を出て、フラフラと歩きながら懐から取り出した何時ぞやに得た葉巻を咥えながら地上へと繋がるエレベーター前で待機。途中に【NO SMOKING】と書かれたプレートをゆっくりと見送り、点火。一回だけ大きく吸い込み、口内で煙を転がしてからゆっくりと濃厚な煙を吐き出す。その瞬間、丁度エレベーターが来たのか扉が開いた。「けむっ!?」「あ」吐き出した煙がエレベーターに乗っていたらしき男に掛かり、咳き込む。まさか、本人もエレベーターから降りた瞬間に煙を拭き掛けられるとは思うまい。モロに浴びたであろうその男、白銀は目尻に涙を零しながら視界が晴れたのか俺の顔を見て固まる。一応、包帯以来の対面だ。緩く敬礼をすると固まっていた白銀がしっかりと敬礼した。「ちゅ、中尉殿!?失礼しましたッ!」「なんだ白銀か……俺だ、ジョンだ」「………は?」「そう固くなるな……そういや、医務室ン時は包帯巻きだったな……分からんでも無理ないか」懐かしげに顎を擦りながら回想していると固まっていた白銀の硬直が解ける。どう反応したら良いのか分からないといった様子であるが冷静は十分に保っているようだ。「あの、ドゥ中尉。ここ(地下19Fフロア)に入れるって事は……」「まぁ、隠してもしゃあないな……博士の関係者だ、お前も何らかの事情でココに入れるんだろ?理由は詮索しないけどな」「……はい。では、失礼します!」「………ああ、そうだ。白銀」「へ?……とっとっとぉ!?」「もうすぐ演習だろ?蛇除けだ。俺にはコイツがあるからな」流石は軍人といった所か、特に追求する事も無く敬礼して立ち去る白銀に声を掛け、懐に入れてあった未開封の煙草を投げ渡す。放った煙草を慌てて受け取った白銀は少し眼を丸くしていた。それに対して俺はニヤッと笑みを零して咥えたままの葉巻を上下に動かし、エレベーターに乗り込む。最後に少しカッコつけでしっかりと敬礼をして、エレベーターの扉が閉じる前に言い残す。「“先に戦場に行って”待ってるぞ」多分、近い将来にそうなるであろう風景を幻視しながら……。「……あ、仮面着け忘れた」 ◇「先生、ドゥ中尉は先生とどんな関係なんです?」「白銀、知り合いだったの?………そうね、奴隷とご主人様かしら」昼間、驚異的な機動を見せ付けた空色の戦術機が気になった俺は何かを知るかもしれない先生に会おうと地下19Fに直通しているエレベーターで傷顔の男、ジョン・ドゥ中尉と出会った。以前出会った際には包帯巻きで顔は分からず、「飄々とした人物」とだけしか分からなかったが今日は違った。顔を横切る亀裂の様に走った大きな傷痕(仮面の着け忘れ)、咥えた葉巻(戦利品)、不敵な笑み(カッコつけ)………如何にも“歴戦”だった。事実、医務室で見た体中にあった傷は様々な戦いの経験なんだろう。今思えば、傷を好んで付けたいとは思わないが男として一種の勲章の様で何処か憧れる。だが、先生の言う「奴隷とご主人様」発言で少し考えさせられているオレも居た。「奴隷とご主人様……ですか?」「そーよ、色々と暴走するけど一応は私の手駒よ……昼間の戦術機、アイツが操縦してるの。あれを見れば暴走具合は分かるでしょ?」「た、確かに分かりますけど……スゴ腕ですね、ドゥ中尉」思わない所で判明したあの空色戦術機の衛士であるドゥ中尉の戦術機の機動制御を思い返しつつ呟く。一瞬だけ、一瞬だけの機動だったが洗練されている、と言うより瞬発力を重んじている感じがした。どんな戦況にも即時対応できる様な動きだと思う。「ま、アイツのプロフィールは極秘事項だから知っても口外は禁じるわ…………軍人なら、言ってる事の意味は分かるわよね?」「はい、失礼しました………ふぅ…」先生の部屋から出て、ゆっくりと息を吐く。余り参考になる様な内容の話は聞けなかったけれど、ドゥ中尉の事は少しだけ知る事が出来た。『博士の指揮下の衛士』『オルタネイティブ4に関連性のある人物』『俺の理想とする戦術機機動の操縦技術』判明している事だけだと謎が謎を呼ぶ、そんな人物ではあるが悪い人ではない……むしろ他者に好かれるタイプだ。だけど、以前の世界にはあんな人は……居なかった。忘れているだけかも知れない……けど、オレにとっても衝撃的な出来事を起こした人だ。忘れる方が可笑しいと思う。「タケル、何処に行っておったのだ?」「冥夜に皆……先せ…じゃなくて博士に用事があったんだ。委員長!コイツで大丈夫か?」「……煙草?私達はPXじゃ買えない筈なんだけど?」「でも、これで蛇対策が出来るね~」「たけるさん、煙草吸うんですかぁ?」「白銀、不良だね……」「吸わないし、それは買ったモンじゃないぞ」「「「「?」」」」夕食時、PXの食堂に集まっていた207B隊の皆にオレはドゥ中尉から貰った煙草を渡す。京塚曹長が売ってくれないのもあってか、どうやって手に入れたか気にしているみたいだが……理由が思いつかない。……下手に誤魔化すより、嘘を交えつつ本当の事を言った方が良いだろう。「ん~……不思議な中尉からのプレゼント、かな?」後書き時間が何とか出来たので更新できました。先日、クロニクルズ01をプレイし抱いた感想を一言だけ言うのなら……F-18/Eがカッコ良すぎる。そして祝☆ボークス海神発売!私は待っていた……ずっと待っていたんだ!!