【アラスカ国連軍~日本帝国・斯衛軍専用ハンガー】 【 Side 篁 唯依】「ステラ・ブレーメル少尉…―――――やはり、か…」私は彼ら…『XFJ計画』に関係する者全ての情報―――とは言っても、戦歴や出身軍・国、人間性、交友関係程度―――を閲覧し、息を吐く。整備兵も含め把握するのにそれなりの時間は割いたが大方の者は把握した。そんな彼ら、XFJ計画の衛士は勿論無の事、整備兵とも交友関係を広く持つ者の名前があったのだ。国連軍による海軍機への近接格闘能力付加計画の首席開発衛士、つまりはメインテストパイロットであるクラウス・バーラット少尉だ。聞いた話では元米軍の衛士であり、アラスカに来るまでは常に最前線での戦闘を経験してきた男だという。『中尉、司令部より要求した情報閲覧許可が出ました……中尉?』「―――……あ、ああ!了解した少尉。私の“機体”の搬入申請も含めご苦労だった」思考の海に沈んでいた私に副官である少尉が声を掛ける。私も画面越しではあるが返礼し、今も使用しているPCに送信された情報ファイルを開く。此処にかの男の情報があるのだが……――――――鬼が出るか、それとも私の気苦労なのか……。【名前:クラウス・バーラット】 【階級及び兵科:国連軍少尉、衛士】【現年齢及び任官年齢:28歳、任官時16歳】【身体情報:身長176cm、体重66キロ、視力2.5、五体満足、戦術機適性検査ランクAA+】【出自国:アメリカ合衆国ネバダ州】【家族構成:両祖父母及び父母共に死去】【現所属:国連太平洋方面第3軍アメリカ合衆国アラスカ州・ユーコン陸軍基地】【所属部隊:NFCA計画(Navy fighter adjacent combat ability addition plan)首席開発衛士、コールサインは“ホルス1”】【前任地及び所属:国連欧州方面海軍 第二艦隊 第341戦術歩行戦隊】【対BETA戦出撃回数:73回】【対人戦出撃回数:1回】【BETA総殺傷総数:凡そ2万8千弱(内に生身で3体)】【対人殺傷数:0】「言わば…古参のエース、とゆう訳か……」総出撃回数にもBETA殺傷数にも驚かされるが世界全体で見ればそう珍しく―――勿論だが本当に少数である―――は無い。だが、思わず額に手をやってしまう出来事の数々……こうして、履歴に“特別欄”で残る様な問題が同じ様に驚かされる程あったからだ。【訓練兵時代に練習機を破壊した機数:4機(内1機は当時において最新鋭第二世代戦術機であるF-15)】【上官に暴行を加えた回数:13回(内佐官3、将官1)】【降格処分にされた回数:6回(中尉から少尉へ…5回、大尉から中尉へ…1回)】【書いた始末書:………プライスレス】「あ、頭が痛く……」何をどうすればこうまで出来るのかが逆に聞きたくなってくる……それほど、理解に苦しむ内容であった。『普通なのか?国連軍ではこれが普通なのか?』そう問えば確実に『NO!』と返って来る返答を予測出来るであろう……まだ、続く。【自身が所属する部隊の壊滅数:11回】【戦場でのベイルアウト回数:7回】【戦闘でスクラップにした戦術機の数:16機(ベイルアウトを除いた9機は三次元機動による強烈なGで発生したフレームの歪み・ほぼ大破…等の理由で破棄)】【当時の整備班から『ゾンビ』『レジェンド・オブ・べイルアウター』『何で死なない』等など……】………………。「――――まぁ……直接、確かめれば良いのだな、うん」――――そう考え、私は…考える事を放棄した。 △ ▼【2001年5月10日 アラスカ国連軍ユーコン基地・NFCA計画ハンガー】「お~……“ハンガーで”機体の装甲が無い剥き出し状態なんて初めて見たなぁ…」「……それ以外で、見る機会なんてあるのか?」「おう、戦場でだ。要撃級と戦車級のコンボで剥き出しになった」「そ、そっかぁ……(普通は見る間も無く死にそうだけどなぁ)」俺は隣で管制ユニット周辺のコードを纏めているヴィンセントとくだらない話をしながら設定を確認する。今日、NFCA計画は第2フェイズへと移項する。今も最前線で戦う海軍衛士達や俺の意見を取り入れて設計された新装甲への換装作業中なのだ。そしてその作業を遠巻きに眺めていたヴィンセントを呼んで手伝って貰っている。「しっかし……良いンか?俺、計画に無関係の整備兵だぜ?」「あー、別に大丈夫だろ。中身は只のスーパーホーネットだし、他国もこれ以上の戦術機を生み出してるから技術的価値もあんま無いし」ヴィンセントの今更な疑問にHAHAHA!と笑いながら右から左へ受け流す。この第2フェイズだって既存の技術のオンパレードである。特に他国がマネ出来ないものは無し、だ。特に目くじら立てる必要もあるまい。――――それに、この作業を言葉にすれば『F-18/Eの破損した装甲を外して、新しいのに換える』と何ら変わりは無いのである。「そういや、お前等の所は新しい責任者が来たのと小隊内でのAH(対人)戦闘訓練、昨日のソ連との合同訓練・ユウヤ反省房行き(笑)がイベントか?」「最後が冗談になってねぇよ!?今朝に開放されたけどさぁ…」「ま、ソ連さんとの厄介ごとはどうでも良いんだ。ユウヤ……荒れてるな?アルゴスと腕を競い合ったって聞いたから打ち解けたと思うが…」「あ、ああ……お前の言う通りで本当に腕利きの集まりだって理解した。お陰でユウヤもそれなりに打ち解けたけど……」「―――派遣された中尉…か?」「そうッ!あの中尉、すっげぇ美人なんですけど無表情!お堅い!一緒に居て息苦しい!」「熱くなるなよ………まぁ、この間だが…少しだけ話をしたぞ」PXでメシ(何故かあった合成鯖味噌定食)を食していると相席して来たのだ。その際に少しだけ(日本語で)話したが驚かれた上に非常に反応に困った、という顔をされた……何でだ?「タカムラ中尉、何か気になる事でもあるンかねぇ?」「んー……俺ってXFJ関係の人間に知り合いが一杯居るからその線で気になったんじゃねーの?」衛士組みは勿論だが整備兵にも知り合い一杯だしね……とぉ、終わったか?―――――――よし、内装やケーブル調整等は全て終わった。後は、この上に新たな装甲を装着するだけである。「いやー、何時見てもワクワクする!」「そうだな~、何故か“新型・カスタム機”って心が惹かれるよなぁ」「俺、何時かは自分で設計した機体を作ってみたいぜ…!」クレーンによって吊るされた新装甲が誘導に従って運ばれていくのを横目にしつつヴィンセントと駄弁り、ハンガーを出て行く。此処から先は専門家の出番だ。そう考えながら歩いていると、XFJ計画のハンガー前に置かれている灰色と黒の地味なカラーリングの機体が目に写り……思わず、よく見える位置まで駆け出してしまった。「おいおい…!これって日本帝国のタイプ97“吹雪”じゃねーか!」「おい、いきなりどうし…知ってるのか?」「ああ、日本で轡を並べて戦った事がある!初めて見たけど帝国カラーもイイなぁ…!」「(帝国カラーの吹雪を初めて見た?一緒に戦闘したのにか?)……アンタ、日本で戦ったって事は……」「おう、“ルシファー”に参加してたよ。でも、吹雪があるって事は……ヴィンセント、F-15・ACTVと別に開発するもう1機のベースは……不知火か?」「ルシファー…!?―――あ、ああ…不知火だ!」「へぇ~!良いなぁ、不知火…」俺は…【前世名:桐生 一】は不知火・吹雪が大好きである。お次に好きなのが斯衛軍の瑞鶴、その次が武御雷だ。何気に、俺が前の世界で死んだのは注文していた国連カラーの不知火と吹雪のフィギュアに浮れていた際に線路に落下、電車が直ぐに来て見事に即死だった。あの時はそんな感じだったが今は実機を見れるだけでも幸せだ。それに………この世界は毎日に楽しさを見つけなければ……俺は多分…自殺でもして死んでいたであろう。――――こう言うと不謹慎になるが………俺にとってはBETAすら戦術機に乗る為の口実であり、BETAとの戦争は命を料金とした一回きりのコンテニュー不可のゲームなのだ。「(でも……本当は―――)」“ゲーム”なんて言葉と存在で自分を誤魔化して……心を恐怖に押し潰されない様にしていただけだ。俺、12年軍人やってたけど前は学生だしね。それに……この世界に存在する者達はしっかりと生きている、今実感している事が俺の現実なんだ…………その“俺も居る現実”を、俺はゲームと思い込んでプレイして(生きて)いる。ゲームに恐怖心を抱く必要は無い、と思い込んで。「(まー、その点で言えばテストパイロットはありがたい……これから使用する機体についても真っ先に熟知出来るし)」「―――…で、ユウヤの奴、この機体に慣れる事を中尉に命じられたけどさ……練習機を充てられるなんて、とか言って不貞腐れてるんだよ」「―――……あ、すまん。聞いてなかった」「うぉい!?」ヴィンセントがもう一度話し始めるが無視し、そのまま吹雪の足元まで進んでいく。あー……やっぱ、良いね!――――え?話を聞いてたかって?――――えっと……ユウヤと、あの日本人中尉との関係が悪いと?ユウヤも名前的には日本人とのハーフだろ?「あー……ユウヤ、日本人に嫌悪しか抱いて無いんですよ…」「ありゃまぁ…どして?」「俺の口からは言えんので」「ほぉ……」メンドくさいんだな、と思う。ユウヤに何があったか知らないが訓練された兵士であるのなら気に入らない上官だろうと従うべきである。まぁ、ユウヤみたいなテストパイロット出の奴は機体を仕上げる事を第一にしているので付き合いが悪くても結果的には完成するだろう。てか、そうじゃないと困る。「ま、そこは俺が首を突っ込む要件じゃ無さそうだな……んじゃ、俺はブリーフィングだから行くな」「おう、見学の許可出たら見に行くぜ~!」午後から始まる予定のテスト飛行、俺は久し振りに乗り込む相棒を思い浮かべながらノンビリと歩く。今日は……「ん~……あんま、良い天気じゃねーな」後書き的な何かコメントありがとうございます!今回は前後後編での投稿となりますのでよろしくお願いします。