【同日 ヒッパーコス島 アルタイルビーチ】「ビーチバレー大会、優勝チームには1億円分の……トイレットペーパー?」俺は午後2時半から始まる一大イベントであるビーチバレーの対戦表を見ながら呆れた声を出す。毎回の様に思うのだが金持ちの考える事が訳分からんと感じるのは俺だけじゃ無いだろう。何時ぞやのお料理対決や球技大会でのステージ空輸など、常識というか…何らかの考え方が変なベクトルに向かってる。「白銀達も出るみたいだな…」500mほど先に見える白銀と愉快な仲間達も参加するのか、準備運動を繰り返し行っているのが見える。あの人数からして……ローテーションを組んでるな。「んま、他の一般的なチームと比べたら有利なんだけどねぇ……」そう…あくまでも“一般的な”チームであったなら、だ。「えーと、あいつらは御剣警備部隊の奴、宗像に風間……」俺の位置から見える限りで厄介だと確定しているのは3チーム。あの世界ではトライアル時に出撃回数20回を超えるエースとして登場した4人組が2チームに分かれて参戦してるし、宗像と風間のチームワークは言わずもがなだ。「こりゃ、苦戦は確実だな」しかし、そこまでしてトイレットペーパーなんか欲しいのかね?実際問題としては……いや、思い出か?まったく分からんぞ……。「……まさか、『一億円』の部分だけしか聞いて無いとかか?いや、そんなまさか…」「はい、それで合ってます」「おぉう!?霞か!?」「……」何時の間にか後ろに居た霞にオーバーリアクション気味に驚く。何か白い目で見てるがそこは流しておく。服装は白いワンピース、ビーチバレーの参加者は動きやすい水着ばかりなので霞は参加しないんだろうか…?「やっぱりインパクトのある一億の部分しか聞いてなかったのか……しかし霞よ、バレーには参加しないのか?」「……恥ずかしかったので、逃げてしまいました」「ああ、なるほど…」そりゃ、霞だってあのスク水が周囲の水着と比べたら変だってのは分かるか…それに…「白銀の前だしな」「――――ッ!」「ハッハッハ!図星か!」元が白い肌をしている所為か、赤くなったのが直ぐに分かる。何とも初々しい姿に俺も大きく声を上げて笑っている………が、何処か暗さを帯びた霞の表情に笑うのを止めてゆっくりと息を吐き出す。「お嬢ちゃんお嬢ちゃん、ちょっとおじさんとお話でもしようか」「……(ススッ)」「……正直、言い方が悪かった。謝るからそんな目で見るな、後ろに退くな、あと携帯は仕舞いなさい」思いがけない自爆に頭を抱えて転げ回りたくなるが我慢する。俺は普通なのだ、今のには変な意味は無いんだぞ?……いやもうホント、周囲のビーチバレーの試合への注目度が高くて良かった良かった。「―――さて、おふざけもここで終わらせて話を戻そうか……おじさん、何か霞君が悩んでるように思うんだがどうかね?」「………」「だんまりですかい……まぁ、白銀の事を話してから顔色が変わった所からして……恋、そして鑑達との関係での悩み、か……青春だねぇ」親指と人差し指で顎先を撫でながら呟き、『専門分野じゃねぇんだけどなー』とか言っていると服を引っ張られる感覚に気付く。見れば、何処か驚いた様な表情の霞が俺の顔を見つめている。「あの…」「『なんで分かるんですか?』…かい?」「…!(コクコク)」なんで…って、俺は原作を知ってるってのもあるが……誰でも見れば鑑達が白銀に“ホの字”だと分かるんだけどね。そして、あの世界での出来事の記憶は霞にもあるみたいだからそう思ったんだが…。「………フッ」そんな事を思いつつ小さく口元を歪めて笑う俺。キュピーン!という擬音と目の端が輝き(世界の修正力)、自信満々な顔を霞に向けて口を開く!「―――囁くのさ……俺の、ゴーストがな…」「………(スススッ)」……ギャグの天丼は芸人(笑)にとって基本なんだよ!分かってくれよ!だから霞、さっきより後ろに退くな!「オーケーオーケー、少し真面目に考える」「…あの、やっぱり私――」「OK、ではよ~く聞きたまえ!」「………」ジト目の霞を無視し、俺は目を閉じる。それを見た霞も何処か真面目な顔をしているが………まだ固いな。「――確かに、白銀の周囲に存在する女性はほぼ全てが彼に好意を抱いている……つまりは敵だ!」「て、敵…ですか…?」「そう、ヤ(告)らなきゃヤ(取)られる……そんな関係だと思うんだ!そう……彼女達は女豹、気を抜いたら掻っ攫われちまうぞ!?横からパクッ…だぜ?」「パクッ…ですか…」「YesYesYes、ウサギのままじゃ狩られるだけさ―――霞よ、虎だ!虎になるのだ!!女豹すら追い払う虎に!」「あ、あの!わ、私、は……」以外にも大きな声を出して来た霞だが、次第に声が小さくなっていく。いやはや、遠回りだけど白銀の話題に対する緊張感は取れた…かな?「……皆に遠慮、してるのか?」「………はい」「ふぅ~ん……ま、そんな事はどうでも良いんだ」その辺の犬にでも食わせちまえ、ンなモン。「え……?」「好きなんだろ?じゃあ、仕方ないじゃんか」「で、でも、純夏さんに皆さんも…」「シャラーップ!それはそれ、これはこれ!」話し方からして鑑らと何かあったみたいだが……やっぱ、あの世界の記憶がある彼女だからこその葛藤なのかもな。俺の記憶には桜花作戦が成功した、とかの記憶がある程度だ。誰が死んでしまったのかは霞んだ様にまったく思い出せないのが現状だ。だから正史通りA-01は壊滅したのかも知れないし、俺というイレギュラーが関係して生き残った人物も居るかも知れない。だが、だからと言ってなんだというのだ。霞がどんな様に考えているのか、記憶をどう受け継いでいるのかは知らんが俺にもこれだけは言える。「……何もしないで、後悔だけはしたくないだろ?」そう、行動を起こした者こそが結果を得るのだ。その結果や周囲に対して怯え、自ら身を引いてどうすると言うのだ。自分の思いに嘘を吐いて誤魔化す?アホ、そんなんは本気の恋じゃない。そう、自分自身の思いを押さえ切れないから“恋”ってのは辛いんだ………け、経験談じゃないぞ?「まぁ、色々と言ったけどな…これは霞の人生だ。思いを伝えるも良し、秘めるのもまた良し……でも、後悔だけはしちゃいけない」「後悔……」何処か考える仕種を取る霞の変化にひと段落ついたのが分かった俺は息をゆっくりと吐く。元々の押しが弱い霞にはこれくらいの発破掛けは……まぁ、許してくれ。「そうそう、長年生きてきたおじさんが言うんだから間違いないさ」「………クラウスさん、まだ若いです…」「……いや、もう(精神的には)結構な年齢なんだよね……ははっ…」「?」「うん、多分だけど霞…というか、誰にも理解できないと思うから深くは考えないで良いぞ?……っと、終わったか?」ビーチバレーの試合が終了したのか、ワッと湧き出る様な歓声が上がる。その優勝チームの代表である白銀がなんかテンション高いが……商品は一億円分のトイレットペーパーなんだよね。「南無……さて、霞も皆の所にそろそろ行ったほうがいいんじゃないか?」「はい……クラウスさん…」「ん?」「…私、頑張ります」「………そっか、じゃあ頑張れ」霞が俺を向いて軽く頭を下げ、白銀を中心とした輪に戻っていくのを見届けてから煙草を取り出し、咥える。いやはや……「もう、逃げられないだろうなぁ……白銀」ある意味、最後の良心である霞もそれなりに考えもあるだろうし……やれやれ、白銀の奴は相変わらず罪づくりな男だぜ。 ◇【同日夜 セプテントリオン島 海岸】俺は肩に下げていたクーラーボックスを砂地に下ろし、ゆっくりと自身も腰を下ろす。いやぁ、今日という一日は良い日だったが……昼間は色々と大変だったな。「ふぅ…」カシュッというビールの蓋が開く音と共に俺は口を付ける。喉が渇いていたのか、開けた缶の中身を一気に飲んで少し咽る。酒を久し振りに飲んだ所為だろう、そう思ってクーラーボックスの2本目に手を出す。「………」2本目の中身が半分程度になった頃、砂浜に寝転がって空を見上げる。空には満天の星空、日本の田舎でも見れないような数の星達が俺が居る暗闇を照らしており、多少は周囲の地形が分かるほどの光量だ。普段から空で飛んでいるが…やはり、地上からの方が綺麗に感じる気がする。「……ん?」ふと、耳を澄ますと砂を踏みしめる音が俺に近づいてくるのが分かる。この島の警備は某国大統領官邸以上にしっかりとしているのでまぁ、警戒も何もしていなかったのだが……暗闇で狭まった俺の視野にかなり見覚えのある人物が見え、上半身を起こす。「あれ?貴方は…」散歩でもしていたのか、Tシャツに短パン、ビーチサンダルというラフなスタイルの青年が俺を見て声を上げる。……いやさ、ここに陣取った俺も俺だけどさ…こう、ご都合主義って怖くないか?なぁ、「…白銀、か…楽しんでいるか?」「ま、まあ、楽しんでますけど……あの…」「昼間の試合はお疲れだったな。俺はクラウスだ、君達を護衛した戦闘機部隊の隊長を務めている」「クラウスさんですか……じゃあ、あの時に霞に…」「そういう事だ。まぁ、立ったままも何だし座るといい」俺はクーラーボックスからビールとコーラを取り出して白銀に「要るか?」と問う。白銀も一瞬だけ迷ったように視線を流したが結局はコーラを受け取り、砂浜に腰を下ろす。「なんだ、酒は飲めないのか?」「や、俺は未成年なんで」「このリゾートがある国の法律じゃ飲酒はOKだぜ?……ま、酒は大人になれば覚える必要性があるからな」「そぉっすか……てか、飛行機乗ってた時も思いましたけど…日本語が上手いですね?」「実地学習さ、日本には可愛い子が多いからな」「………そ、それって…」隣でコーラに口を付けていた白銀のキョトンとした顔に噴出しそうになるが耐える。暫らくそうしていると意味が分かったのかフリーズしていたのか知らないが何処か慌てた白銀に「冗談だよ」とだけ告げて3本目のビールを取り出す。「実際は知っていた…ってのが正しい見解さ」「…知っていた?」どういう事だ?と言いたげに首を捻る白銀に内心で「絶対に分からないな」とだけ言っておく。最近忘れがちだが俺は元々は日本人だ。だから日本語だって現地の物と何ら変わりなく話せるし、勿論書く事も出来る。何気に便利である。「あれだ、良い男には謎があるもんさ」「自分で言いますか、普通」「……お前も色んな意味で謎だらけだがな…」「へ?なんか言いました?」「ああ、ビールが美味いな、と言ったんだ」いやホント、正直言って無自覚でフラグが付いて来るお前にだけは言われたくないな……まぁ口が裂けても言わんけど。白銀が良い奴ってのは分かるんだ。EXの時もいきなり医者を目指すくらいの行動力とかもあったしな……ただし、エンジン始動は絶望的なんだが。「……」「………」お互いが無言になり、波の音が響き渡る。俺は俺で何か話題は無いものかと考えを右往左往させていたのだがつい、ホントにポロッと出る様にこの話題が出てしまう。「………白銀、君には好きな子は居るか?」「ブッハぁ!?――ガハゲッホッ…!?」「汚ねぇなオイ!?」微妙に停滞していた空気を動かすために昼間に霞と話していた事に関連した話題がつい口に出る。すると白銀は口と鼻からコーラを噴出し、顔を抑えるように砂浜に身を転がせる……大丈夫か?「白銀、平気か?」「こ、これが平気に見えますか!?」「少なくとも地獄のような苦しみだったというのは理解できる」炭酸が鼻を通ると痛いからな、しかも白銀が飲んでいたのは炭酸がキツい奴だし。未だに咽る白銀にミネラルウォーター(本当はウイスキー割る用)を渡す。まぁ落着け。「―――で、彼女は居るのか?」「………狙ってません?」「気のせいだ」白銀はゆっくりと俺の渡した水を飲み込み、溜め息を吐く……チッ。「今、舌打ちしませんでした?てか、しましたよね?」「HAHAHA、ソンナコト、ナイヨ?」「嘘だっ!その彩峰以下の棒読みは何だ!?」「ぷるぷる ぼくわるい がいこくじん じゃないよ?」「何なんですかそれ!」「なん…だと…?もうこのネタが通じない年代なのか!?」「アンタ本当に何なんだー!!」おおぅ、俺のボケ倒しに喰らい着いてくるとは流石は主人公。中々に高い適応スキルだな……他の奴は「何言ってんだコイツ?」みたいな反応するしな!そんな記憶に心の中で泣いていると再度ミネラルウォーターのボトルに口を付けていた白銀が溜め息を吐く。「………あれ?どっかでこんなやり取りをした記憶があるような……」「マジか、友人はもっと考えて作った方が良いと思うぞ?」「アンタなぁ…」呆れた様な態度の白銀だったがもう諦めたのか立ち上がる。どうやら、散歩を続行させるつもりらしい。「んじゃ、俺はもう行きますんで……コーラ、ご馳走様です」「おう、代金は誰が好きか答えるんd‥」「失礼しまっす!!」俺の台詞が全て語り切る前に逃げだす白銀の姿に俺は腹を抱えて笑い、暫らく呼吸困難になる。白銀からしたら酔っ払いに絡まれたようなモンだからな、いい迷惑だったろう……てか、何であいつってば俺に付き合ったのかね?「……謎だよなぁ?」とりあえず、今は愉快な気持ちだしどんどん飲むか……明日が良い日になると信じて。後書きスホーイ社が開発したロシア空軍の第五世代戦闘機T-50こと【PAK-FA】が引き締まったスタイルを持つ美女に見える俺の眼は駄目かも知れない。というか、着々と雪風のような戦闘機が作られてきているなぁ。