【2001年12月27日17時07分~御剣警護部隊航空基地・地下4F士官室棟~】通信が鳴り響く。その瞬間、俺は手元で読んでいた小説を放り投げ受話器を取る。何時もの通常連絡では無い、緊急連絡を意味するコール音だったからだ。スクランブルか…?《HQよりホルス01、本家より出動要請。悠陽様、冥夜様及び白銀武様とご学友の皆様の乗る専用機の護衛です》「ホルス01了解、離陸予定時刻を教えてくれ」《予定では4時間後、21:00時。行先はセルシウス・リゾートSI》「ホルス01了解、出動待機に入る」通信を切り、フゥ…と息を吐く。久し振りに白銀の名前を聞いたからだ。「やっぱ……EXの世界じゃねーよなぁ?」2001年の10月22日、奇しくも白銀武が『あの世界』へ旅立った日、俺はこの世界に自我を確立させた。あの世界での記憶は……衛士:クラウス・バーラットとして生きた記憶はそこまで憶えていない。あの世界で俺が最後に見た光景は布団に入って、寝る前の天井だ………後は、断片的な戦いの記憶程度だ。「ホント……どうなってるんだかねぇ?」衛士からこの世界では御剣家警護部隊の戦闘機パイロットになっていた俺は……取り合えず、流れに身を任せる事にしている。まぁ、下手に行動するよりは何の問題も無く過ごせるからな。「行き先は南の島、か……」黒い革張りのパイロットケースに適当に下着を突っ込み、フライトジャケットを羽織る。序でに、日焼け止めや水着も放り込んでおくのも忘れない。島に着いてからは恐らくは半休状態なので少しは遊べるだろう、と思ったからだ。「キャプテン、私は先に待機室に向かってますね?」「了解した」ドア越しに響く声、ホルス中隊(人員はメンドイからパス)の隊員だろう。因みにだが……『キャプテン』ってのは俺のTACネームだ。あの世界でエレナが行っていた大尉の愛称がそのままになったみたいだ。「うっし……OK」灰色の耐Gスーツを着込み、しっかりと調整する。人間の耐えれるGは5,5Gまでとされている。だが、耐Gスーツを着ればその限界を広げる事が可能になるので戦闘機乗りはしっかりとチェックをする。―――――流石に戦術機と違って、イジェクト失敗すれば死ぬから。「その内に引退してとうもろこしでも作りながらゆっくりと過ごしたいよ……」ヘルメットを持ち、部屋を出て格納庫内にある待機所へと入る。そしてブリーフィング、荷物搬入、軽食、と出来る事を済ませ再度仮眠……そんなこんなをしている内に出撃時間へとなった。《HQよりホルス中隊各機へ、護衛対象をこれよりα-01と呼称する。以降、α-01に仮設したCPの指示に従え》「ホルス01了解、中隊各機に伝達。これよりバカンスに向かう、これよりバカンスに向かう」『『『『『『『『『『『了解!』』』』』』』』』』』俺の乗る機体を滑走路に誘導してくれた誘導員に手を挙げ、サムズアップをする。12機のYF-23が並び、飛び立つ時を待つ姿は開発者達が見ればどの様な思いを抱くのだろうか…?「―――てか、旅客機にコンコルド、戦闘機にYF-23とか……マジで金持ちだなおい…」YF-23なんてアメリカのF-22と並ぶ最新鋭機を運用している時点で御剣がとんでもねーけどな!とか思ってる内に2台のリムジンが到着。ゾロゾロとカラフルな髪色の方々(男は白銀のみ)が降りてくるのが見えた。「うおっ!?せ、戦闘機ぃ!?」「み、御剣さん…やっぱりこれって私設軍にしか思えないのだけれど……」「ご安心を、何の問題も御座いませんわ」白銀の驚愕の声と榊の戸惑いの声が響き、続いて月詠さんの無駄に説得力のある言葉。それに苦笑しているとHQから通信が入る。内容は「先に飛べ」…とのお言葉だ。《エンジョイ・フライト、ホルス01》「オーライ、幸運を祈っててくれ」先程まで機体チェックをしていた整備員が俺に向けて両手を大きく広げる。問題無しの合図、それを確認し、細かい計器の最終チェックを行う。エンジン出力計、燃料流量計、排気温度計……左右エンジンとも問題無し。しっかりとヘルメットを固定し、首を一回し。「……ん?」ふと、白銀達の方角を見る。約150mほど離れているが普通に視力4.0(マサイ族には負けるが)を誇る俺にはこの距離なら表情も良く分かる。此方を見ている白銀の横で浮かない顔をしている銀色の少女……霞だ。「ふぅむ………良し」軽く手を振り、最後にサムズアップ………隣のアホ(白銀)が反応したが隣の霞にも見えていた様だ。小さく手を振り返してくれる。それを見届け、スロットルレバーを引き、一気に加速。《離陸を許可す‥ホルス01!?》「―――――!」アフターバーナー全開。離陸直後から一気に垂直上昇し、空へ軌跡を残す。………高度2000……これで良いかな?「ホルス01、離陸完了」《貴様……ふん、まあいい。基地上空で旋回待機せよ》「ヤー」 ◇【Side 白銀】「すっげぇぇぇぇ~!」「……!」思わず驚きの声を上げる俺と、驚愕の眼差しで上昇していく戦闘機を目で追う霞。流石は御剣財閥、たかが旅行でもあの手の入れようだぜ!「……って霞?どうしたんだ?」「……飛行機、飛べるんですね…」………は?「安心しました……」「いや、飛行機が飛べるのは当然だろ?」何言ってんだ?霞の奴……。「………」「……おーい?」「武様、間もなく離陸時間ですので御搭乗をお願いいたします」「分かりました、月詠さん。霞、行くぞー」「はい」ジェット機に乗り込み、荷物を預け、シートに腰を下ろす。しばらくして機長挨拶とその他の注意事項が説明され、少し経ってから離陸した。「皆様、シートベルトをお外しになって結構です」「へ~い……うお、高っけ~」「タケルちゃんタケルちゃん!月が綺麗だよー!」純夏の無邪気な笑い声の他に悠陽と冥夜の雑談の声や月詠さんがドリンクを振舞う声も聞こえる。取り合えず、月詠さんに貰ったお茶をのんびりと啜っていたら隣に座っていた霞が息を呑む様な声が聞こえた。「霞?外を見てどうし……戦闘機?」俺達が乗る飛行機の隣を並走する戦闘機―――見えにくいが他の機の様な灰色とは違った青と水色を混ぜた様な色―――を見つめたまま固まる霞。あれは所謂……専用機?というか専用カラーって奴か!いいねぇ、男なら一度は燃えるよなぁ。「…ん?どうした、社。あの機が気になるのか?」「…はい」「あらあら……真那さん?」「はい、通信を繋げます」「良いのか?霞」「…ちょっと、気になります」冥夜と悠陽が霞の様子に対し、月詠さんへと声を掛ける。しっかし……珍しいな、霞が何かに興味を持ってそれをしっかりと意見するなんて……。「繋がりました。ホルス01、聞こえますか?」『感度良好、日本語の方が良いですかね?』「ええ、お願い致します」『了解。えー、皆様!本日は御剣エアサービスをご利用戴き真にありがとう御座います。護衛戦闘飛行隊隊長、クラウス・バーラット大尉であります』「ぶっ!?」「!」余りにも軽快な日本語と、軽い口調に思わず噴出す。そもそも、『護衛戦闘飛行隊』ってのが出てくる時点でやっぱ普通じゃ無いぞ!?『我が隊は世界各国より集められた精鋭が操る世界最強の戦闘機、YF-23によって構成されております。ご安心してお寛ぎ下さい』「……やるね(キュピーン」……彩峰、何が「やる」んだ?それと霞、さっきからあの戦闘機をガン見だな。『…それと、先程から此方を見つめられている銀髪のお嬢様』「!」「見えてるのかよ!?」思わずツッコミを入れる。いや、飛行機乗りは目が良いって聞くけどさ……。俺がそんな事を思っていると戦闘機のパイロット…クラウスさんの声が優しさを含み、言葉を続けた。『“この空”は自由です、ご安心してお休み下さい。―――以上、通信終了』「―――――」「……ん?(気のせい――か?)」通信が切れ、更に加速し見えなくなる戦闘機。それを見送った霞が……。「(笑って……泣いてた…?)」そう見えたのだ。そんな謎は残ったが……眠気に勝てない俺は、考えるのを止めるのであった。後書き暇だったでござる(どれくらい暇だったかと言えば『暁、遥かなり』のフリーマップをリアル全クリくらい)