【2001年7月10日~横浜基地PX~】「……っ!」ごくりっ、と俺は生唾を飲み込む。いや、正確に言うなら空気を飲み込んだのだろう。口の中は、緊張の為かカラカラに乾いている……飲み込む唾なんて傍から無い。「よし…あと一本…!」爆弾解体用のハサミがチョキンッ…という短い音を立て、赤い線を切る。既に20分以上、この作業を繰り返しているが未だに馴れないのは……やっぱり、滅多に体験しないからだろう。俺は、息を大きく吸い込み―――そして…! チクッ「あ痛ぁっ!?」「…!(ビクッ)」――――よし、ぬいぐるみの補修完了!………最後の最後でミスしたけどねー。「ほれ、社君。直ったぞー?」「……ありがとう、ございます…」俺は修復を完了した呪いウサギ人形(って名前だったけ?)を霞に渡し、序でにポンッと頭を撫でる。ビクッと反応するが、ウサ耳をピョコピョコと動かすだけで特に抵抗もしないので撫で続ける……………やばい、癖になりそう!「よかったねぇ、霞ちゃん。アンタ、男なのに裁縫上手いねぇ!」「どうも、京塚さん。昔から器用貧乏でして(昔、自分の腹を縫った感覚でやった……なんて言えNEEEEEE!)」「……お腹、痛そうです…(モフモフ)」俺の背中をバンバン叩く京塚のおばちゃん、苦笑しつつも背中を擦る俺、人形をモフる霞……違和感しかない光景がPXに展開されている。……地味にカオスだな。あ、あと、何で霞と一緒に居るかは気にするなよ?ちょっとした事で知り合ったのさ。 ◇【2001年7月8日~横浜基地・戦術機シミュレータールーム~】「孝之、相変わらずのイノシシだな……痛い目を見ただろうが」「うっ…そ、それを言われるとひっじょーに俺は何も言えないんだが……」「黙れ突撃バカ」シミュレーターから降り、片隅に置かれたベンチに座って煙草を取り出す。左右確認、エレナも居ないので気兼ねなく吸える。……エレナ、俺が煙草を吸うと「煙草はメッ!ですよ!」とか言って取り上げるからなぁ。「フゥ……」「……煙草は体に悪いぞ?」「早死にする予定だから、健康にゃぁ気をつかってねーんだ」煙草の煙を肺に大きく吸い込み、吐き出しながら思考を回す。先程まで俺は孝之と1対1での対戦をしていた。孝之は俺と同じく突撃前衛長を務めているらしく、戦闘スタイルが似ていた。そんな訳もあって孝之と俺は良くつるんでるのだ……因みにこのへたれ野郎、まだ速瀬と涼宮(姉)との三角関係に決着を着けて無いらしい。まぁ、涼宮(妹)がA-01に所属したら四角関係だけどね!………愚かな、鳴海孝之。「しっかし……不知火は動きも良い、捉えにくいな。極東だと、武御雷を除いたら最も高性能機なだけあるよ」「ああ、かもな……というか、お前の機体は吹雪だってのに俺は未だに捉え切れないんだぜ?突撃前衛長の名が泣くぜ……」「そりゃ、年季が違うからな」「そういう問題じゃねーよ変態」酷ぇ!?俺ってそんな扱いばっかじゃん!「……無自覚なら、俺はアンタを尊敬するよ…」「おう、尊敬しろ!」「………ハァ」【side 孝之】クラウス・バーラット……欧州国連海軍が誇るトップエースであり、現在はNFCA計画のテストパイロットとしてユーコン基地へ出征。NFCA計画中に発生したCPUの処理能力という問題を香月博士の気まぐれで送ったスクラップから開発し、その有効性を認められて横浜へ……。「(経歴は分かってはいるけど……どう見ても、そんなオーラは無いよなぁ……)」隣で幸せそうに煙草を吹かす男の顔を横目で覗き、小さく息を漏らす。今はダレている彼だが……欧州方面の訓練校に属する海軍衛士達はクラウスを憧れと畏怖、敬意を持って様々な呼称で呼ばれているという。『死神を欺く男』、『Mr,マジシャン』、『ホルスの目』、『一人一個大隊』等など……確かに、要塞級の腹の中に隠れる~なんて非常識な事をする奴だから不思議じゃない。「……タバコは体に悪いぞ?」「早死にする予定だから、健康に気をつかってねーんだ」……衛士として戦場で死ぬのと、何らかの病気で死ぬだと……どっちが早いんだろうな。そんなくだらない事が思い浮かび、苦笑する。どっちでも死にそうにないな、と思ったからだ。「なぁ、聞いていいか?」「ん?何だ孝之」「アンタが戦う理由、それが知りたくなった」ふと、気になっていた事を聞いてみる。俺は『オルタネイティブ4を成功へ導く』なんて部隊の目標以外に個人として……鳴海孝之として、『遥と水月を守りたい』……それが俺の戦う理由だ。俺には人類を、地球を守る…なんて誇大妄想を言うつもりは無い。第一、俺は守る所か守られた人間だ。でも、コイツは……クラウスは今までの中で守る戦いを多く経験してきた。仲間も一般人も関係なくだ。俺はそんな男の、戦う理由が気になったんだ。「ん~……俺が戦う理由ねぇ。軍人だから…ってくだらねー理由は最初に捨てるぞ?」「ああ」クラウスは2本目の煙草を消し、3本目の煙草に火を着け一吸い。ゆっくりと煙を吐き出し、のんびりとした顔で言う。「仲間の為ってのもあるな……でも、最大の理由は俺にとっての故郷を取り返す…だな」「故郷?それってアメリカか?」「孝之、俺は米軍から国連へ追い出されたんだぜ?愛国心なんてドブに捨てたぜ」「そ、そうか…(何気にスゲーこと言うな…)」「俺は故郷の無い雲みたいなモンさ……風(軍)の吹くまま(命令で)、あっち行ったりこっち行ったり……で、最後には消えるのさ」つまらなそうに言い、煙草の煙で輪を作りだすクラウスを見て思わず生唾を飲む。これだけ聞くと、彼には理由が無い……それは、死に場所探しをしている様にも捉えれるからだ。クラウスは続ける。「………しいて言えば…父親の言葉がある」「親父さんとの約束?」「『また……あの青く、全てを吸い込みそうな青空へと戻りたかった』……父が言った死に際の言葉だ。病気で退役したんだがね、何時も空へ戻りたいって言ってた」「親父さん、パイロットだったのか?」「ああ、戦闘機のな」そう言えば……クラウス本来の乗機であるF-18/Eの改良機の塗装は青空の様な青色だったのを思い出す。あのカラーリングは、自身の意思の表れなんだろうか…。「ま、そんくらいさ。俺に出来る事なんてたかが知れてる……一人の人間に、出来る事は限られてるんだから」クラウスは立ち上がり、片手を振りながら離れていく。その背中に……何処か、寂しそうな物が俺には見えた気がした…。 ◇【Side クラウス】「………ふぅ」俺は基地裏にある丘へと居た。あの『木』も発見、そこの背中を預けて目を閉じる。鳴海に戦う理由を聞かれた時、何故か動揺したのを思い出す。考えてみれば……「そんな事、あんま考えた事もねーや……」衛士として戦った1年目―――涙を流し、死にたくないと思いながらも戦った。2年目―――部隊の仲間が全滅し…それでも諦めずに戦った。3年目―――酷いノイローゼになり、逃げたくなっても戦った。4年目―――初めて部下を持ち、守ろうと戦った思い返せば12年間、戦う理由の大元は『死にたくないから』だった気がする。………死にたくないのにBETAと戦う、これいかに?「……矛盾してるな、俺」ごろんっと寝転がる。今日は雲が多い空で全体的に白い空、、まるで俺の心境を表している様な気もする。「やれやれ、何時になったら俺は―――」居眠りでもしよう、そう考えた時には目蓋が重くて……何時の間にか、俺は寝てしまっていた。そして2時間後、揺さぶられる様な振動に目を開く。視界に映る、銀髪ウサギ娘………………やっべーぇ!?お、おおおお落ち着け!ドイ‥じゃない、国連軍人は慌てない!常にKOOLだ!って違げぇぇぇ!?「………君は?」「……社 霞です」内心だらだらと冷や汗を流しながら小さな笑みを顔に出し、兎に角落ち着く。『何で霞が?』とか『やっべ、聞かれた!?』とかの思考は全部破棄、複合思考開始!「起こしてくれてありがとう。あの、社君でいいかな?何でこんな所に?」「はい…………(じ~…)」………あの、ジッと見つめないで?おっちゃん、心が汚いからさ、そんな純粋な目には弱いのよさ。そんな風にアホな事を考え、気を紛らわしていると霞が再度口を開いた。「もう、お昼です…」「ほ、ホントだ……」「雨、降りそうです」「た、確かに……空がねずみ色だな…」「風邪、引いちゃいます………」「………」なにこのかわゆい生物、お持ち帰りして良い?後書き執筆中は良く仮面ライダークウガの『青空になる』を聞くブシドーです。さて、私が叫びたい事が一つ…もやしの可能性、もやしの世界、究極のもやし、至高のもやしぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!では、また次回で。