【アラスカ国連軍~ユーコン基地~】青い空………BETAという異種起源生命体が闊歩するこの地球において人類が奪われた二つ目の領土。レーザー光線級なんて特級にふざけた代物が現れてあっさりと奪い去った空間だ。[また……あの青く、全てを吸い込みそうな青空へと戻りたかった…]元戦闘機パイロットであった父が死ぬ間際、そう言っていたのを今も覚えている。皮肉な事に、今現在をおいてその“空”へと居る俺は父の無念を晴らす為に存在してるんでは?とでも考えてしまうのも無理は無いだろう。とまあそんな事を考えていたら通信が入る、自分の担当オペレーターである白人女性だ。『ホルス1、予定通りのコースを消費、これよりC-130による撮影会だ』『アルゴス・イーダル小隊両機のチェイサー離脱を確認』「ホルス1了解、イーダル1とアルゴス3へは?」『担当CP士官が今伝えた、少し……なっ!?』CPからのどよめきが聞こえる。原因は分かる、てか俺もさっきから見てる。先程までは仲良く(?)エレメントを組んで飛んでいたのに今はガチンコのドックファイトだ。……どうしてこうなった?「……撮影は?」『出来るか馬鹿者!イーダル1はFCSを実戦モードにし、アルゴス3をロックしている!!』「…………え゛!?」『良いから止めろ!怪我をさせたら貴様のクビが飛ぶと思え!』「いやいやいや!俺、撮影係ですからね!?」『今現在空域に居るのはお前と遥か上空の撮影用C-130だけだ!危険すぎて他は侵入出来ん!』「んな無茶な!」『無茶は承知だ!お前の仕事はその猛牛二頭を大人しくさせる闘牛士だ……その、何だ、カ…カッコいいぞ?』「ふざけんなー!!」そんな無茶を言うオペレーターに思わずツッコミを入れる俺。俺が此処に居るのは換装されたジェネレーターの試験運転兼頼まれた至近距離でのローアングル撮影だ。―――――断じて、戦いの為では無い。(チェックの為に積載量最大にまで弾薬を積んではいるが)「あの空戦に割り込む気はしねーぞ…」無茶を言う……向うは準第三世代機、F-15・ACTVとSu-37UBだ。しかも三次元での高機動が目的とされてるような機体にそれを熟知した衛士が乗っている。跳躍ユニットが換装されている以外は“ノーマル”のF-18Eでは若干だが辛いモノがあるだろう……いや、良い機体なんだけどね?「あ~…もう、嫌……―――アルゴス3、イーダル1両機へ告ぐ。此方はホルス1、直ちに格闘戦機動を止めて予定通りのコースへと戻れ」『ふっっっっざけんな!テメェ、アタシに死ねってか!?』『………』2機の後方300メートル辺りで通信を入れるがアルゴス3の怒声しか耳に残っていない。そもそも、ログを見てもイーダル小隊…ツインズは反応していなかった……シカトか?シカトですか?シカトですよね?「ハァ……あ、そういや紅の姉妹の顔って初めて見たけどイーニァって子、“本編”の霞にそっくりだったな……雰囲気が特に」思わず現実逃避をしたくなる、いい加減にして欲しいのが本音だ。そんな感じに俺がポケッとしていた間にあの2機の戦場は演習場を突っ切り、射爆場へと移りつつある……ってちょっと待て、そっちには定期便のルート!?「CP!今は輸送機が来てるか!?下手したら接触か衝突だぞ!」『こちらCP、最悪な事にもう間もなく定期便がご到着だ』「おいおいおい、冗談じゃ無いぞ……」俺は片手でレーダーの設定を変更して輸送機を捕らえる。11時の方角、あの2機の様子だとそのまま接近するだろう。そう考えた俺は2機を放置する事を決め、最大出力で進路を輸送機の方角へと向けるのだった。 ▲ ▽Sideヴィンセント『あー…此方は国連軍所属のバーラット少尉だ。前方のムリーヤ、応答されたし』俺の隣に座る男、ユウヤ・ブリッジスとの気まずい空気を消し飛ばす様な声が外部スピーカーと全通信チャンネルから聞こえて来る。戦術機の跳躍ユニットが響かせる低く響き渡るブースト音が聞こえてきたのはその直後だった。「何だ?戦術機…?」「基地も直ぐそこってのにトラブルか?」俺とユウヤは気になった為、コックピットへと駆ける。丁度、機長が応答をしている所だ。「此方ムリーヤ、如何された?」『ああ、ちょいと今は戦闘中なんだ、後ろからカマ掘られないよう早めに着陸してくれるとありがたい』戦闘中!?いや、明らかに“ちょいと”なんてレベルの事態じゃ無いと思うだがその所はどうなんだろうか?「ホーネットか……ヴィンセント、特に変わった部分は無いよな?」「あ、ああ…確かに、何処も変わって無い。ただのホーネットだ」後部尾翼の装備されたカメラが後方から此方に警告をする戦術機、F-18Eを映し出す。他と違うのはカラーリング。通常の灰色では無く、吸い込まれそうな程に青い、空色のブルーだ。「き、機長!下方6時より高速で2機の戦術機が接近中!」「なっ!?」『機長。そのまま滑走路に突っ込め!俺が援護する!』「りょ、了解!」焦りの声がコックピットに響き渡るそんな中、ユウヤが目を閉じ、耳を澄ませたのが分かる。今、コイツは跳躍ユニットの噴射音の音によって描かれる機動を脳内に描いているんだろう、ユウヤクラスの衛士であればそう難しくは無い。そう思っていると輸送機の進路前方100メートル程先を下から上へ抜ける様に2機の戦術機が空へと上がる。その圧倒的な存在感とも言える物に俺とユウヤの目が見開かれ、未だ格闘戦機動を続ける2機を見守るかの様な距離で空色のホーネットが続く。「あのホーネット……」「ユウヤ?ホーネットがどうしたんだ?」ラインディングアプローチを取り始めたコックピットを出て、キャビンへと戻る。その際にユウヤが呟いたホーネットという単語が気になった俺は聞き返す。「あのホーネットが“何か”をしたんだ。本当ならもっと輸送機の至近距離をあの2機は抜けていた筈なんだが…」そんな呟きは、『1機の墜落』という事態によって俺の記憶から消されたのだった。 △ ▼『ち―――――っくしょう!!』回線がオープンのままなのかACTVの衛士、タリサの悪態と疲れが分かる声が俺の耳へと響く。「流石に限界」……俺が下した判断だ。「イーダル1、おふざけも大概にしろ……それ以上は俺が相手になる」『ホルス1!?貴様、模擬戦闘許可は出ていないぞ!!』「実弾を積んでてロックしてるんだったら模擬戦じゃなくて実戦だっての!」そうこう話す内にACTVが信じられない程に見事な失速機動を見せる。実戦的なコブラ機動、といった説明が正しい感じだ。アレを受けたのが一般的なエースだったら一瞬で後ろを確実に取られるであろう機動だ。本当ならソ連軍機もビックリ………何だがSu-37は児戯に等しいとでも言う様に背中に張り付く。「なッ――――」その瞬間、タリサの弱々しい、信じられないとでも言うかの様な呟きが届く。俺はその時点で「終わった」と判断、120㎜を選択、Su-37の遥か上空へ三発、警告として撃ち込む。そして、Su-37をロックオン……「次は当てるつもりで撃つ」という意思を込めて突撃砲を向ける……すると、あっさりと退いた。「ふぃー……此方ホルス1、申し訳ない。“誤って”120㎜を3発も発射してしまった」『―――まぁ良い、“向こう側”もトラブルが無いのを希望している……任務終了だ。戻って来い』「了か―――……駄目だ、少し野暮用が出来た」俺は急いでフラフラと飛ぶACTVへと接近して右腕を掴み、推力を上げる。先程までの格闘戦機動の所為か、右背面強化スラスターと右跳躍ユニットが停止していたのだ。このままでは墜落の危険性もあるのでお節介だ。『わ、悪ぃ!助かる!』「気にすんな」ゆっくりと高度を降ろして行く俺達の上空を飛ぶSu-37を思わず俺は睨みつける。美少女は大好きだがトラブル(本格的に厄介なの)を持ち込んでくるのだったら美少女でもお断りだ。そんな事を考えながら着地、俺達はほぼ同タイミングで官制ユニットから身を乗り出し、空を悠然とフライパスするSu-37へ向け、中指を立てて叫んだ。『おぼえてろよッ(やがれ)!ちくしょぉぉぉー!(くそったれぇぇぇー!)』そんな感じで始まる……俺の、マブラヴアンリミテッド・オルタネイティブしか知らない俺の物語が………日本とはかなり遠い、アラスカの地で。――――――あ、俺か?俺はクラウス・バーラット、国連海軍少尉、今は海軍機の改修計画のテストパイロットしてる転生者だったりする。