<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

Muv-LuvSS投稿掲示板


[広告]


No.17469の一覧
[0] まりもちゃん他[征史](2010/03/22 01:45)
[1] まりもちゃんの憂鬱 その後[征史](2010/03/22 01:45)
[2] まりもちゃんの憂鬱 過去と太陽[征史](2010/03/22 01:45)
[3] まりもちゃんの憂鬱 建前と本音と意地悪大佐[征史](2010/03/22 01:46)
[4] まりもちゃんの憂鬱 馬鹿は女の敵で師匠は悪人[征史](2010/03/22 01:47)
[5] まりもちゃんの憂鬱 泣き虫男と、男前な女[征史](2010/03/22 01:47)
[6] まりもちゃんの憂鬱 アラート、アラート。そしてまた繰り返す。[征史](2010/03/22 01:47)
[7] まりもちゃんの憂鬱 大佐殿の謀、便乗する男、泣く女。[征史](2010/03/22 01:48)
[8] まりもちゃんの憂鬱 成功と失敗は紙一重[征史](2010/03/22 01:49)
[9] まりもちゃんの憂鬱 もう一人の教え子と迷える女、晒された真実[征史](2010/03/22 01:49)
[10] まりもちゃんの憂鬱 女の戦いはこれからだ[征史](2010/03/22 01:50)
[11] 白銀武の溜息[征史](2010/03/22 01:51)
[12] 白銀武の溜息 三馬鹿トリオ!結成秘話[征史](2010/03/22 01:52)
[13] 白銀武の溜息 俺は反抗期、逆襲するはもう一人の俺[征史](2010/03/22 01:52)
[14] 白銀武の溜息 赤紙届ク、死地ニ突貫セヨ[征史](2010/03/22 01:52)
[15] 白銀武の溜息 邂逅するは死地ばかり[征史](2010/03/22 01:53)
[16] 白銀武の溜息 先輩トリオとの勝ち目の無い真剣勝負[征史](2010/03/22 01:53)
[17] 白銀武の溜息 熱弁爆発、俺が言わねば誰が言う[征史](2010/03/22 01:54)
[18] 白銀武の溜息 撤退は素早く迅速に。「おかし」が基本。[征史](2010/03/22 01:54)
[19] 白銀武の嬌声 其の侭に、我侭に[征史](2010/03/22 01:55)
[20] 白銀武の溜息 閑話休題してそのまま終了[征史](2010/03/22 01:55)
[21] 白銀武の溜息 理想とは遥か遠き幻想である[征史](2010/03/22 01:56)
[22] 白銀武の溜息 嘆息ばかりのこんな世の中じゃ[征史](2010/03/22 01:56)
[23] 白銀武の溜息 不思議な天才少女[征史](2010/03/22 01:56)
[24] 白銀武の溜息 最後まで締まらないから、そこがいい。[征史](2010/03/22 01:57)
[25] 前書きは恥ずかしいので、後出しの注意書き[征史](2010/03/22 02:16)
[26] 亡霊追憶記[征史](2010/10/27 01:58)
[27] 亡霊追憶記2[征史](2016/09/23 02:18)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[17469] 白銀武の溜息 嘆息ばかりのこんな世の中じゃ
Name: 征史◆409cbc01 ID:e41a2f05 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/03/22 01:56

「ところで武様。なぜ急にそんなことを?」
「ん?それは俺が面白い話を教えてくれって言ったこと?」
「えぇ、そうですわ」
「あ~それはだなぁ……」

さて、困った。
ここで素直に理由を話していいものか。
夕呼先生あたりだと、内緒にしていた方がいいと言う筈、なぜなら、あの人にとってはその方が面白いからだ。そして夕呼先生にとって面白ければ物事に問題など存在せず、面白いことは正義なのだ。例え、夕呼先生の眼前に聳え立つような険しい山が突如現れたとしても、彼女はフフンと不敵に笑い、山に挑むだろう。挑戦こそ彼女の生き甲斐。
先生は一種の快楽主義者のような一面を持っているため、順風満帆な人生などクソ喰らえ、世は事も無しなら、自分で事を起してやる、調和を乱してこそ、新たな境地に達すると考えている人なのだ。芸術は爆発?みたいな?前衛的な性格と言っても差し支えない。
……まぁ、アレだ。詰まるところ、香月夕呼という傑物にとっては、現代の日本のように平和を謳歌している現状は我慢できないのだろう。乱世に生まれていたなら、さぞかしその無駄にハイスペックな部分を生かして、さぞ高名な人物として後の教科書にデカデカと載っていたことだろう、実に惜しい。
というより、あの人の生き方、考え方は他の人の目に、さぞ面白い物に見えるということに気付いていないところが滑稽だと思う。
夕呼先生は遠くから眺めている分には、無茶な言動、突飛な行動に類稀な容姿も加わって、問題ないというか、むしろ積極的に眺めていたいところであるのだが、問題はその渦中に何故か必ず俺も巻き込まれているという点である。巻き込まれる方は決して面白くも楽しくもないので、そこのところは履き違えないようにして欲しい。

ちなみに、俺にとっての正義とは可愛いこと、ただこれだけである。
それだけが、俺の譲れないジャスティス。

俺としては小説を書くことについて隠す必要など無いのだが、やはり気恥ずかしさが残るし、何より、悠陽達に話すと、
――――『小説を書くために必要な物は何よりも経験です、実体験に基づいた話ならば、自然とストーリーに重厚さや奥行きが加わり、素晴らしいモノとなりますわ。経験の薄い人間によって書かれた物語と言うのは、やはりどこか薄く感じられます。語彙や構成力よりも、何よりも経験こそ必要なのです。では、武様、横になって下さい。……嫌ですわ、武様。これも武様を思えばこそ。御剣の名に誓って邪な想い等抱いてはおりません。よろしいですか、武様?経験と、一口に言ってしまっても様々な種類が存在します。ですからその様々な種類の経験を体験しておくべきだと、私は考えております。えぇ、これも武様のため。私も微力ながら協力させて頂きますわ。私の方はもう準備は出来ております。さ、武様、横に……』――――
と、こんな具合にそのままフランス書院のような展開に持っていかれそうな気がして、恐ろしくて話す気になれないのだ。悠陽なら確実に、こういう展開に持っていく筈。準備なんて既に出来ているのだ。
なにせ、いつでも、どこでも、誰とでも(特に俺)、闘ってみせるのが御剣の理念らしい、以前冥夜が言っていた。
そして何よりも恐ろしいのが、今の口上は実際過去にあった、俺の体験談に基づいているということが一番怖い。
少しばかりニュアンスが違うが、同じような意味のことを俺は悠陽の口から聞いたことがある。


忘れもしない、あれは高校生活最後のテストに備えて勉学に励んでいた時のことだ。
高校生活を締めくくる重要なテスト、当然出題範囲は広く、そして普段は筆記試験をしない科目ですら、「最後のテストだし、ついでにやっておくか」とばかりに教師はこちらの都合などお構い無しに、俺達に試験と言う名の重圧を課したのだ。
まぁ、これはエスカレーター校の宿命なのかもしれない。
なにせ大半の生徒はそのまま大学へと内部進学するのだ、多くの生徒は三年の三学期には既に進学も決まっており、遊び呆けている者も多い。だからこそ教師達もそのような気まぐれを起したのだと思う。
実に傍迷惑極まりない。


主要科目はいつも通りなので問題はないし、それ以外でも家庭科や美術、音楽などはまだいい。教科書を丸暗記すればいいのだ、一夜漬けで十分に対処が可能である。
問題は保健体育。
なにせ、ついうっかりと、高得点をとってしまえば、テスト返却日以降、級友達からは「エロ大臣」もしくは「白陵の種馬」、「ムッツリスケベ」なる実に不名誉な称号を頂戴してしまう。たとえ出題範囲が生殖に関係のない分野であったとしても、これは同様。保健体育で高得点を上げてしまうということは、学生生活において死活問題なのである。
「ラッキースケベ」「ハーレムエース」の愛称でクラスの皆から親しまれ、慕われている俺が、このような屈辱的な渾名で呼ばれることなど耐えられるわけが無い。

最後のテストでいい点数を取るか、はたまた俺のプライドを守るためにわざと手を抜くか、俺は二つの非常に重要な問題に板挟みにされて身動きが取れなくなってしまっていた。
進むも地獄、退くも地獄。まさに、進退ここに窮まれり。
教科書を机の上においたまま、机の前で、崇高な問題に頭を抱えて悩んだ。
悩んで悩んで、悩みぬいていると、深刻な問題を真剣に考えていたためか少し眠気が襲ってきた。
仕方が無い、勉強をしたかったのだが、体が睡眠を欲しているのだ、自然の摂理に逆らい体を壊してしまっては元も子もない。
幸い、部屋の片付けは既にテスト期間に入ってから念入りにしていたため、テスト前の恒例行事、部屋の大掃除は終わっている。後は勉強をするだけだったので、今日くらいは、直に寝ることは可能だった。
体調管理も大切なテスト勉強の一環である。
心の切り替えは生きていく上でも必須技能である、齢十八にして、既にその技能を会得していた俺は、勉強したいという強い思いに後ろ髪を引かれながらも、勉強への未練をスパッと切り捨てて、睡眠を取るためにベッドに潜り込んだ。
さあ、寝るぞ!と意気揚々と布団に包まった瞬間、俺の布団は剥ぎ取られ、俺は外気に晒されてしまった、如何にパジャマを着用しているとは言えど、部屋の中でも冷え込む、俺は寒空の下に捨てられた子犬のように、教会の絵の前で眠ってしまったネロのように、打ちひしがれ、やがて来る恐怖に慄いた。

――――ま、まさか……襲われるッ!

俺はこれから起こるであろう蛮行に、怯えて身を縮こまらせて、枕に顔を埋めて「くかーくかー」と寝たフリをすることで、俺を襲おうとしている犯人に対して、俺の方には抵抗する意思はないことを示した。
無抵抗な人間に対して、まさか悪事を働くほど非人道的な人間等この世には存在していないだろうという、「人類皆良い人」という性善説に基づいた、俺が根本的にはお人よしで優しい人間であるからこそ至った考えによる行動である。

さぁ、俺は寝ているぞ!諦めてくれ!

俺は犯人に対して無抵抗を決め込むことで、抵抗したのだ。
これこそ、現代人類に必要なモノなのではないだろうか。
あぁ。人類が俺のような人間ばかりならば、この世の中に争いごとなど起きる筈も無し。人類よ、俺を見習ってくれ!
特に、俺の布団を剥ぎ取るなど、人間に有るまじき卑劣な行いをした犯人は最優先で見習って欲しい。
俺は切に願った。

だが、やはり寝ている人の布団を剥ぎ取るような行いを平気ですることが出来る犯人は、人の心を持ち合わせていないらしく、そのような人間に俺の必死の無抵抗は通じる事無く
犯人は無情にも俺に語りかけ、俺の体を無遠慮に揺さ振った。
「……はぁ。武様。起きて下さい」
「……現在お呼びになった人間は、もう寝ています。時間をお確かめの上、また起して下さい……」
「まだ八時です。ほら、武様起きて下さいませ。テスト勉強をするから寝ていたら遠慮無く起してくれ、そう仰られたのは武様ですよ。武様、起きて下さい。起きられるまで、ずっと揺すりますよ?」
犯人は無情にも俺の体をずっと揺すると、俺のことを強請り始めた。
そこまで言われては仕方なし。俺は渋々、枕から顔を離し、上半身だけ体を起してベッドに腰掛けながら、悪逆非道な犯人に向き直った。
犯人は、ショタコン疑惑のある、御剣の侍従長、現代に残る最後の侍、我らがメイドの鑑、月詠さん(処女)だった。

「…… もう、武様ったら……やっと起きられましたか?では、机に向って下さい」
「う~ん、なんかやる気が出ないんですよねぇ」
出来ることなら月詠さんには迷惑を掛けたくないのだが、一度布団に入ってしまうと、やる気がごっそりと削がれてしまうのだ、布団の中には魔物が潜んでいるのだ、恐らく甲子園に潜む魔物よりも手強いと思う。なにせ、布団と言うのは人類が編み出した三大発明の一つなのだから、強いと言うのも頷ける。
ちなみに、俺が学生時代に習った記憶を紐解いて見ると、三大発明の残りもう二つは、確か、カラーテレビと洗濯機だったはず。三つ合わせて三Cと言うらしい。どこをどうすれば「C」というアルファベットが出てくると言うのだろう。まぁ、昔の人の考えたことだから現代人の俺が理解できないのも無理無き事。何せ、夜空に浮かぶ星を繋いで星座などと言うものを考えたような人種である、妄想力……もとい想像力は凄まじいものがあるのだ。

「ですが武様。テスト期間の間、一度でも勉強なされましたか?ずっとお部屋を掃除していただけではございませんか。申し訳ございませんが、信頼とは相互の過去の行動によって築かれていくものなのです」
「つまり、俺に対しての信頼は……」
「申し訳ございません。ゼロ、でございますね。まるっきり、さっぱりとありません」
実にきっぱりと断言してくれました。
ここまでスッパリと言われると逆に清々しい気持ちに……なるような、ならないような。
「そうですか」
「えぇ」
「……」
唐突に会話が終わった。打ち切りだ。いや、打ち止めかもしれない。

「……あのですね、月詠さん」
「はい、なんでございましょう?」
「俺も、やる気はあるんですが……体がついてこないというか……」
「よろしいですか武様。やる気など、机に向っていれば自然と湧き上がってくるものでございます。えぇ、ですから武様は何をおいてもまず、机に向うべきなのです。話はそれからでも遅くはございません」
「いえ、でも既に遅きに失するというか……」
「御剣の御令婿となるべき御方が何を仰いますか。この世においては、何を為すにも遅すぎるということは存在しません。在るのは、やるか、やらないか、それだけでございます」
「……でも、早すぎるってことは存在しますよね?例えば、まだ幼い男の子に性的な……」
月詠さんもいつのまにか庶民の暮らしに慣れたのか、はたまた俺の扱いに慣れてきたのか、最近は俺に対してちょっと厳しい。
いや、優しいんだよ?俺の知る限り優しさランキングで上位入賞するくらいには優しいんだけど……なんというか、俺に対しての位置付けが、教育ママ的な人になっているのだ。
だから俺もついつい、勉強をしようと思っていたのに勉強しなさいと母親に言われた時のような感情を抱いてしまい、うっかりと口を滑らせてしまった。
まずい、失言だ、と思った時には既に時遅し。やはり世の中には遅すぎるということはあるのだと俺は悟ることになってしまった。
「武様!あまり駄々をこねられるようでしたら、私にも考えがございます」
「ま、待ってください!すみません。勉強ですね?大丈夫。問題ありません。今から机に向うところです。大丈夫。問題ありません」
月詠さんのお仕置きの怖さを、三馬鹿が叱られているのを傍目で傍観していたので俺はよぉく理解していた、これ以上の時間の引き延ばしの無意味さを悟った。
大事なことを二回繰り返すことを繰り返し、いそいそとベッドから起き上がり机に向う。
素直な俺の行動を見て、月詠さんは数回頷き、俺の背後から覗き込むようにして机の上に広げていた教科書を眺めた。

「本日はどの科目を勉強なさるのですか?」
「あ、その、保健体育とか……です」
どもりながら俺は答えたが、今のやり取りは問題があったのではないだろうか。
『女教師の個人授業』そんな卑猥なタイトルが付いたビデオの一場面のようではないか。
ムッフン、ウッフンなムチムチの年上の女性に、保健体育を勉強していると答えてしまった男子生徒が女教師に「教えてあ・げ・る」と言われてそのまま、十八歳未満お断りの展開に突入する前フリのようではないか!
いかん、いかん、俺にはそんなつもりはないのだ。
下心はゼロ、純粋な知的好奇心で勉強をしようとしているだけなのだ。
でも、さっきから俺の背中に触れている、月詠さんの二つの山の感触が堪らなくて、正直、その二つの山の山頂まで制覇したいという思いに囚われているのは内緒だ。
だがこれは、ある意味仕方のないことなのだ。
ある登山家は言った。「そこに山があるから登るのだと」
俺も言いたい。「そこに山があるから制覇したいのだと」
厭らしい意味ではなく、漢なら当然の心理というものだ。
世の男性諸君にアンケートをとったのなら、九十九%の人間が俺に賛同してくれると思う、残りの1%はアレだ、同性にしか興味の無い人間だけだ。

「保健体育……でございますか……」
月詠さんは、なぜか歯切れが悪く、呟いた。
あぁ、まずい。確実にドン引きされてしまった。
違うんです、俺には疚しい気持ちはこれっぽっちも無いのです。
「申し訳ございません。出来うることならば、私も協力して差し上げようと考えていたのですが……勉強なさるのが保健体育の分野ですと……私如きが出しゃばることは出来ませんので……申し訳ございません」
月詠さんはこちらが恐縮してしまうくらい、本当に申し訳なさそうな顔で、深々と頭を下げた。
どうも月詠さんは、思春期の男子中学生にありがちな短絡的思考をしているらしい。
保健体育と聞いて、生殖系の想像をしてしまったのだろう。
でも、今回のテスト範囲は応急処置とライフワークについての分野なので、月詠さんの御期待に沿うことは出来ないのだ。残念無念、また来世。

「大丈夫ですよ。自分でもテスト勉強くらい出来ますから……」
「いえ、ここで諦めてしまっては御剣の名折れ。お任せ下さい。保健体育ならば冥夜様がお得意の分野でございます。私は協力することは適いませんが、冥夜様でしたら。冥夜様でしたら、必ずや武様のお力となって下さいます」
確実に冥夜の得意な分野でないことは確かだったが、月詠さんは豪語した。
そうまで言われては俺としても断ることも出来ない。
月詠さんの前では腹を晒して前面降伏も已む無し、なのだ。
とりあえず俺は冥夜が来た時のために乱れたベッドを直そうとし、月詠さんが冥夜を呼びに部屋から出て行こうとした時、俺の部屋の扉は勢いよく弾かれたように開かれた。

「お待ちなさい!!」
俺の扉に何か怨みでもあるのか、というくらい力強く扉を開いたのは誰あろう悠陽だった。
「ゆ、悠陽様……」
「話は総て聞かせて貰いました。水臭いですよ真那さん。そういうことでしたら、武様の妻である私が尽力させて頂きますわ」
「ゆ、悠陽様のお手を煩わすことではございませんので……」
「いやですわ真那さん。太陽が東から昇るのと同様、妻が夫の世話をするのは至極当然のこと。武様のお手伝いを致すのに、どんな苦労がございましょうか。ありません。存在しません。仮にあったとしても、瑣末なことに他なりませんわ」
悠陽はにっこりと微笑み、有無を言わさないような強い口調で月詠さんの口撃を封じた。
主人は冥夜であるとは言え、悠陽に逆らうことは出来ず、月詠さんは「む、無念……」と、がっくりと床に手を突いて項垂れてしまった。それを見て悠陽は勝ち誇ったように、「ほほほほ」と口元を手で隠しながら、上品に、まるでどこぞの悪役のように高らかに笑った。
実に役に嵌っている。

俺としては別に手伝ってくれるというのなら、無碍に扱うつもりはない。
ただ、問題は。
悠陽はどこで俺と月詠さんの会話を聞いていたのか、ということだ。
俺にプライベートという上等な言葉も、国家が定めた個人情報保護法等も悠陽の前では無力であるのだと痛感した。
「では武様、まずは湯殿の方へと参りましょう」
「……あ~悠陽さん。今から勉強をするところなんですけど?」
「存じ上げております、ですが男女が睦み合う前には、互いに身を清めておくのが作法」
「うん、多分それは間違いじゃないけど、今は致命的な間違いがあるよね?」
「ハッ!!も、もしや…… 武様は女性の汗に興奮を催す性癖の持ち主なのでは!!これは私としたことが……危うく大変な間違いを致すところでした。では、このまま汗と匂いを落さずに……」
悠陽は、来ていた服を今にも脱ごうと手を掛けた。
俺は光の速さでその手を握り、悠陽の蛮行に待ったを掛けた。

「待て待て待て。うん、俺は確かにワキフェチだ。否定はしない。でも、今俺に必要なのは悠陽の汗と匂いじゃなくて勉強だから。必要なのはステディより、スタディですから。あ!先に言っておくけど保健体育を勉強するっていっても生殖は関係ないからな?今回のテスト範囲は応急処置の分野だからな?」
そろそろ悠陽の性格を把握している俺は、先手を打って悠陽が次に取るであろう攻撃方法を封じた。ライフワークもテスト範囲だと言ってしまうと、確実に『ならば、一度契りを結んでしまえば生涯設計と言うものがどういうものか分かりますわ』婚姻届片手に言われていたことだろう。だから敢えてテスト範囲は応急処置の分野だと指定したのだ。
まぁ、同じクラスなんだから悠陽もテスト範囲を知っているはずなんだけどな。

「存じ上げております。ですが武様。この世に無駄なものなど塵一つとして存在していないのです。学んで無駄、ということはありませんわ。試験の範囲だけを勉強するよりも、必要なことは本当に学ぶということです。そして、机上でただ読み物を読んでいるだけでは本当の知識というものは身に付くことはありません。体で体験し、経験することで初めて己が身の一部となるのです。ですから、武様まずは保健の分野を共に経験致しましょう」
悠陽はそう言って俺の手を振り払い、服を脱ぎ始めた。

「な、なんで服を脱ぐのかな?」
「愛し合う二人には無粋な質問ですわ武様。勿論、無駄な物だからですわ」
あ、あんた、今無駄なモノはないって言ったばかりじゃん……
舌の根も乾かぬうちにとはまさにこのこと。
そして悠陽に逆らえるはずもない、脆弱な俺は……
………
……
ま、ご想像にお任せいたしますよ。




悠陽が疑問系で俺に問うて来た時。
それは言うなれば、公園のベンチにツナギを着た男が座っていた時の絶望感に似ている。
大魔王からは逃げられない。それと同様、未成年お断りの展開に突入した場合、悠陽の魔の手からは逃れられないのだ。
これは自然の摂理、いや、大自然の脅威と言うほうがしっくりくる。
つまり、ここでは、俺自身の危機管理能力が問われるわけだ。
上手く、自然に悠陽には俺が小説を書いていることを悟られないようにしなくてはならない。

俺はカラカラに乾いた喉を潤すために唾を飲み込み、乾燥した唇から言葉を紡いだ。
「大学生になったからには漫画ばかりじゃなくて小説でも読み始めようと思ったんだけどさ、何が良いかわからないから男友達に聞いたんだ。そしたら、そいつは『男なら戦闘、ロボット、SFだろ常考』って言っていたけど、じゃあ女の子はどういうのが面白いと思うのかなぁ、って疑問に思ったから聞いてみただけ、深い意味はないよ」
「そうでしたか。私はやはり恋愛が題材となっている小説が面白いと思いますわ。例えば、『八百屋お七』『伊達娘恋緋鹿子』等ですわね」
悠陽は振袖事件が好きなのか。
ヤンデレですね、わかります。
というか、俺への当て付けか?と疑いたくなるような選択だな。
「流石姉上。捨てられた女性の儚さ、愚かさを題材にした物が好みだとは……自分の未来を投影して感情移入しているからでは?」
「ほほほ」
「ふふふ」
悠陽のチョイスはどうかと思ったが、悠陽の答えにまた油を注ぐ冥夜。
そして再燃する、姉妹喧嘩。
成程、明暦の大火から来ているのか……って、だれがうまいことを言えと……
最近思うのだが、こいつらって実は仲悪くないか?

霞は二人のにらみ合いを止めることも、傍観するでもなく、ぼんやりと何かを考えているようだった。
「ロボ……SF……戦術機……」と時々俺の言葉を反芻していた。

姉妹喧嘩、考え込む霞に、トイレに入ったまま何かを呻いている純夏を尻目に嘆息して、一人料理に箸を付けた。
やれやれ、だ。




前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.03024697303772