ですから、何度も、何度も申していますように、面白いとは何ぞや?と言うことになるのです。私が切に望む会話と言うのは、『そもさん!』『せっぱ!』のように、打てば響く物なのです。小さく叩けば小さく響き、大きく叩けば大きく響く、といった薩摩のせごどんのような反応も、勿論、人物評も要りませんし、ただ無心で私が投げた球を受け止めて、もう一度私に向って投げて欲しい、それだけが私の願いなのです。
キャッチボールが……したいです……(会話的な意味で)
阿吽の呼吸を会得した私達ではありますが、悲しいかな会得したのはあくまで呼吸だけ。しかし、私が真に欲するものは、阿吽の呼吸の果てにある答え、でございまして。
ですが、答えを貰うことは叶わず、こうして皆様方のご意見を承りたく存じ上げます。
………
……
と、まぁ、丁寧な言葉に言い変えるならこんな感じで、俺は食卓にいる皆(純夏は省く)の知恵を拝借しようと、懇切丁寧にお願いしたのだ。
「ふむ、つまりタケルが望む『面白い』とは、滑稽な話だけではなく、大衆受けする話を望んでいると言うことであろう?」
「滑稽本・中本のような一部の方にではなく、源氏物語のような広く人気のある話が聞きたいと言うことですわね、武様?」
「そうなんだよ。まさにそう言いたかったんだ、良くわかってくれたな」
先程の意味不明な声明をよく理解したな、二人とも。俺ですら意味がわからんのに……ある意味流石だぜ。まぁ、本当に、二人の言うとおりなのだ。
ピンポイント受けする作品より、ベストセラーとなる話が欲しいのだ。
ただ、最近はどうも不思議現象が多発しているようで、『ボガッ、グチャ、私は死んだ。○○―○(笑)』みたいな話でも人気が出るらしく、中々理解し難いのだ、市場と言うものは。
いえ、変動すると言う意味で、ですよ?深読みしないで下さいね?
「当然だ。伴侶たる者、如何に言葉が少なくとも察せられる」
「当然ですわ。夫の言葉を理解できなくては、夫婦性活に支障が出てきます。円満な性活のためにはこのくらいのことは妻の責務でありましょう」
「……姉上。タケルは私の伴侶となる者。略奪愛等とは……フッ、確かに姉上らしい」
「……冥夜。そなたは本当にザルのような海馬をお持ちですね。ある意味羨ましい」
バチバチと火花散る美人双子姉妹の攻防。
色々言いたいところだが、まず、お前ら好戦的過ぎ。
どこの戦闘民族野菜人ですか?
あと、冥夜、悠陽に喧嘩を売るのは程ほどにしような?
とばっちりは俺の方にくるんで、マジ勘弁。それに恐らく悠陽さんは略奪愛上等ですよ?
まぁ、悠陽のそういう姿勢と言うのは、ある意味潔いのかもしれないが……なぁ?どうかと思うぜ?
ちなみに、ザルのような海馬とは、
意訳:シット!『この底抜けの馬鹿野郎!!記憶力が皆無じゃないか!』お下劣なおフェラ豚め!
ということなのであしからず。
鉤括弧の部分は、悠陽の言葉を的確に訳したもので、残りは雰囲気に合わせて俺が継ぎ足しておいたけど、意訳なので、これであっていると思う。聖闘士と書いて、セイントと読むのと同様、日本では言った者勝ちみたいな風潮があるからな、大丈夫だ。
「……源氏物語、知っています」
それまで会話に参加していなかった霞が、小さな声で自己主張をした。
声がでかけりゃいいと思っている国の人に見習わせたいね、この謙虚さを。
「おぉ!偉いぞ、勉強熱心なんだな」
女性の頭を撫でるのは、事後だけである!そう堅く決意していた俺であったが、褒められて照れている霞を目の前にしてはそんなもの砂上の楼閣、風の前の塵に同じく、脆くも誓いは崩れ去り、俺はひたすら霞の頭をナデナデした。いや、常にカッコイイを目指している俺が幼稚な言葉を使うわけにもいかんな、俺としたことが失敗した、すまん、言い直すぜ。
俺は霞の頭を、まるで【マロンとチップとデール】を優しく愛撫するかの如く、彼女の頭を撫でた。
あぁっと、今度はちょっとウィットに富みすぎたかな?
すまんね、紳士たる俺はフランス語も使いこなせる上に、ちょっと前のアニメにも詳しかったりするのさ。
ところで、マロンを英語だと思っている人間がいるらしいが……違うらしいぜ?
「アルファベットが使われていたら全部英語だと思っていれば間違いないわよ~だから英語は勉強しましょうね?」と、豪語していた元担任の英語教師。
彼女の発言の信用性は、マロンが英語ではないと知ってからは暴落して紙屑同然まで落ち込んだ。「マロンは英語だろ?」と純夏に言った際、俺は純夏から馬鹿にされてしまった。
純夏から馬鹿にされるなど、マジ屈辱。
勿論、仕返しとして、夕呼先生にあることないこと吹き込んでおいた。
多分、今年の有明は今迄以上に彼女に試練を与えることだろう、しかし、いたいけな男子高校生の心を弄んだ罰として甘んじて受け入れて貰いたい、そして、俺がその露出の激しいコスプレ姿を写真に収めることも許して欲しい。
「はい……勉強しました」
「どんなことを勉強したんだ?」
「光る……源氏です」
「うん。名前はあっているけど、多分ニュアンスは大きく違うと思うぞ」
「?」
源氏が光るとか、ちょっと不気味。蛍なら許せるけどさ。
でも、源氏物語と来て、「ホタル」と聞くとどうしても源氏名と言う言葉が浮かんでくるあたり、もしかすると俺は死んだ方がいいダメ大学生に分類されるのかもしれない。
そして、こんな要らない知識を俺に与えたヴィンセントは確実に駄目大学生の見本だ。
「ほぅ。社は源氏物語を知っているのか、あれは実に趣や風情がある話。日本を学ぶ上で欠かす事の出来ない、最高の教材となるであろう」
「ですが、私の個人的な意見を述べさせて貰えれば、主人公である光源氏の人間性を総て迎合することは出来ませんわ。ただ……殿方というのは何時の世も変わりないということを教えてくれる最高の反面教師であることは間違いありませんわ。ねぇ、武様?」
うん、そこで俺に振るのは何故なんですかね?
「はい……面白いです。……それと、どこか白銀さんに似ています」
「……ぷっ、あははは、確かに、な。社は実に観察眼に優れているようだな」
「…… おほほほ、えぇ、そうですわね。まるで武様のようなお人ですわ」
いや、いや、お待ちください御三方。
光源氏ってアレよ?すっげー鬼畜野郎で、ペドでマザコンの上に人妻でも平気で食っちゃうようなお人だぜ?そんな偉人と俺のような庶民を比べるなんて、あの人に失礼と言うものだろ?男の永遠の夢であるハーレムをナチュラルに築き上げたような、あの人と比べられて俺なんてとても、とても、足元にも及びませんよ。
守備範囲は非常に広く、幼女から、お婆さんまでイけるあの人と違って、俺のストライクゾーンはすごく狭いから!もうピンポイントじゃないと通らないから!本当に勘弁してください。
大体だなぁ、俺の心をピンポイント射撃するような女性はだなぁ、あぁ~、うん、まずは俺を甘やかしてくれることが出来るように年上の、包容力のある人。これは大事。
俺は怠惰な性格だから、無理矢理にでも強引に俺を引っ張っていくことが出来て、それでいて、時々は相手の方も俺に甘えてくるような、可愛らしさも持ち合わせていないと駄目だな。
あ、あとおっぱいは大きくないと駄目。例えるなら、バナナを挟めるくらいの大きさがベストだ。勿論、バナナって言うのは何かの暗喩じゃなくて、そのままの意味だぜ?邪推した人間は心が腐っているから、浄化した方がいい。
な?かなり難しいだろ?そんな理想の女性はなかなか居ないからな。
俺が今迄、皆との関係を発展させなかったのは、これのせいなんだ、決して俺が肉体的に不能だとか、精神的に不能だとか、そういうことはない、女嫌いでもない、むしろ女の方が好きだ。あぁ、女好きだと言ってもいい。
ただ、俺は逆白馬の王子様を待っているタイプなんだ、受動的な人間なんだよ。
そう、傷つきたくない現代っ子?みたいな?
だから理想の女性が現れるまで俺は頑張っているんだ。
難しいけど、やりがいのある仕事だ。
ドモホルンリンク○のように一滴一滴を眺めるように、俺はいつか現れる筈の理想の女性を待っているのさ。
だが、そう簡単に現れることはない、俺の周りにいる多くの女性をみても心当たりなど…
……あれ?心当たりがいそう?
俺の条件を満たすことが出来る女性が、俺の傍にいるのか?
いや、もう誤魔化すのはやめにしよう。
………あぁ、本当はわかっていたんだ。でも認めるのが怖かっただけなんだ。
今の総ての条件をほぼ満たす人は、確かに俺の傍に居るんだ。
そう、夕呼先生だ。
夕呼先生はかなり見事なおっぱいを持っている、白陵高校の裏文化祭で俺の在学中ベストオブtheオッパイの三冠に耀いた、素晴らしいモノを持っている持ち主だ。
これを否定することなど俺には出来ない。
短所を長所に脳内変換する面接の技術を応用すれば、傍若無人で強引な性格も、牽引力のある活動的で活発な性格と訳すことができる。問題ない。
年上だし、包容力は……ないが、その代わりにおっぱいが俺を包んでくれる。
これは、包容力があると訳すことができる。問題ない。
可愛らしい一面などはないが、代わりにそれを補ってあまりあるオッパイがある。
可愛らしさは、オッパイと言う山脈の山頂に存在するサクランボを可愛らしいと訳すことができる。問題ない。
問題は総てクリアー。
な、なんて、こった……
俺の理想の女性は、夕呼先生だとでも言うのか!
あぁ、神は俺になんという試練をお与えになるのだ!
あんな性格ブスに、なんという見事な神器を与えたもうたのだ!
神は死んだ、ニーチェ(笑)
とりあえず、俺の当面の目標は夕呼先生をギャフンと言わせる事である。
でなければ、もう一人の俺が浮かばれない。
だから、非常に残念なことであるが、仕方なく、本当に悲しいのだが、俺の中で夕呼先生を選ぶという選択肢を総て破棄することにした。
いや、本当に残念なことである。