エピローグ Muv-Luv Alternative モテない男の……プロローグ?
「うわぁぁぁぁぁーーーー! 猫のうんこ踏んだッ!!」
雲がかった青空の下、オレは絶叫を上げて起き上がる。
……へ?
……あれ? 猫のうんこは?
じゃなくって一体ここはどこだ?
いきなり見覚えない場所にいる自分の現状が分からず辺りを見渡す。
え、え~~と……何が起きたんだっけ?
思い出される自分の記憶。
確かマブラヴの世界で『あ号標的』なんて言うラスボスに憑依してしまって、現実を受けいれられなかったオレは自暴自棄に『美女は生かすイケメン殺す』なんて言う馬鹿な作戦を実行してしまったのだ。
まぁ結局その作戦は物の見事に失敗に終ったわけだが。
いやぁ本当に馬鹿な事をしたもんだ、あらゆる意味で……。
人類が勝ったという意味ではこれで良かった様な気もするが、その一方で自分の野望が成就できなかった事は残念だったような、何だか複雑な気分だ。
ついちょっと前の話なのにまるで夢であったような感覚。
自分でも言うのも何だが壮絶な経験を味わった直後なのに平然としているのは別にオレが特別な人間だからと言うわけではない。
世の中には2種類の人間がいて、こういった経験をした直後に感情が一気に押し寄せるタイプと、後からじっくり押し寄せてくるタイプの2種類がいるのだ。
そしてオレは後者のタイプの人間であったと言うだけの話で、恐らくこれからしばらくは眠れない夜が続くのだろう。
まぁその時はその時で今は置いておくとしよう。
「……で、ここはどこだ?」
声に出してみても誰も答えてくれるわけでもない。
そこはまるで昔博物館で見た戦争の被災地の跡のようだった。
何処もかしこもボロボロの建造物。
人の出入りが無くなったために自然に風化したのではなく、明らかに何かしらの暴力が通った痕跡が残っている。
地面に転がる瓦礫の山が歩きにくい事この上ない。
爆発物か何かで吹き飛ばされたのだろうか?
壊れた建物から剥き出しになった黒く焼け焦げた鉄筋が高熱な何かに晒された事を物語っている。
「どこなんだろう……全く見当がつかん……」
口では敢えてそう言いって見たものの、実は内心ここが何処だか検討がついている。
マブラヴのあ号標的として木っ端微塵に吹き飛ばされて気がついたらこんな廃墟…………。
ありきたり過ぎる展開が脳裏に浮かぶが頭でそれを否定する。
「…………柊……」
何となく見上げた駅の跡地。
空襲爆撃に晒されたかの如くボロボロで僅かに分かる駅名は1文字だけ。
だがそれでもハッキリとここの場所が何処なのかを指し示していた。
やっぱりそうなのか?
認めたくは無いがここはマブラヴ・オルタネイティヴの世界……。
という事はつまり……!
「よっしゃあぁぁぁぁぁーーーーーーー!!」
オレは天に向かってガッツポーズを取る。
そう! ガッツポーズである。
今のオレには両手両足、人間としての五感全てが揃っていた。
原作キャラに憑依したわけではない。
本能として分かる、これは自分の体だ!
吾郷標為の体である。
何てことだ! きっと心優しい神様があの時のオレの願いを叶えてくれたのだろう。
人間としてマブラヴの世界に来たかったというオレの願いを聞き届けてくれたのだ!
ありがとう神様! アンタ最高だッ!!
「――何て言うわけねぇだろ! ふざけんなコラァーーーーー!!!!」
八つ当たり気味に地面に転がっていたヒビの入った瓦礫を思いっきり蹴っ飛ばす。
痛ッ!! ちくしょう!
思ったよりずっと硬かった! ちくしょうッ!!
右足のつま先を押さえて擦るがそのままバランスを崩して尻餅をつく。
うわぁぁぁぁ~~! やっちまったぁ~~~~!!
あの時人間としてマブラヴの世界に行きたいって思わないで、元の世界に帰りたいって思っていれば本当に帰れてたかも知れないのにぃ!!
頭を抱えるオレの叫びに呼応するかのように、大陸からの冷たい空気を運ぶ北風が、廃墟となった柊町に一層強く吹く。
「うおッ! つーか寒い! 寒いぞ! 何だこの地味な嫌がらせは!?」
両腕を擦りながら身を縮こませ寒さに耐えるオレの格好はノーネクタイの半袖ワイシャツに、風通しの良い夏用のスラックス。
俗に言うクールビズと言うやつだ。
そう言えば死ぬ直前のオレって確かこんな格好だった。
CSR(企業の社会的責任)としてか、唯の光熱費削減が目的なのかそれは分からないが、あのクソ暑い夏の炎天下の中得意先を背広姿で訪問しなくても良くなった事は、オレにとってもありがたい事だったがまさかこんな事になるとは自分の運のなさに泣けてくる。
「――おい、ちょっとあんた」
寒さに震えるオレの背後から突然男の声が聞こえてきた。
振り返るとそこには1人の青年がいた。
その顔は余りに見覚えがありすぎてオレは一瞬息を飲む。
これと言って特徴のない顔立ちなのはパソコンゲームの主人公の宿命か?
髪の色は純夏のように赤毛でもなく、ましてや壬姫のようにピンクでもないオレの世界でもごくごくありふれた茶色の髪。
髪型もワックスやジェルで固めたわけでもなく、自然のままに降ろした感じで何処の学校でも校則に引っかからない実に優等生な髪型だ。
唯一特徴的と言えば、少なくてもオレは現実では見たことの無い真っ白な詰襟の学ランがそうと言えばそうの目の前の男こそ、我らがマブラヴの主人公、白銀武その人であった。
つまり……。
「イケメン!! …………敵だッ!!」
「へ?」
怨みは無いが問答無用でオレは武に殴りかかる。
大人気ないと分かっているがオレのこれまでの経歴を知っている人ならば、これは仕方がない事だと分かっていただけるだろう。
「あれ?」
しかし次の瞬間フワリと宙に舞うような感覚。
視界一杯に広がる青い空と、それと同時に襲ってきた背中への衝撃によりオレは武に投げ飛ばされたのだと気付く。
オ、オルタの武ちゃんかよ……。
「くそ……イケメン超強えぇ…………」
「ちょ、ちょっと!? 大丈夫かあんた!?」
思わずぶん投げてしまった事に焦る武の声が気絶する間際のオレの耳に僅かに残る。
かくしてオレはマブラヴの世界に降り立った。
平々凡々のオレがこの狂った世界で一体何の活躍ができるのか?
いやそんな事より果たしてモテる事が出来るのか?
……などと言うトンチンカンな事を考えていたオレだったが、この時はまだ自分自身に大きな変化が2つ起きていた事に気付いていなかった。
1つ目は白銀武がループする際に自分の能力を継承していたように、オレも『あ号標的』の知識を継承していたと言う事。
そして2つ目。オレを跡形もなく消し飛ばした純夏の1撃は間違いなくオレの心の奥底に人類への憎悪と言う形でくっきりとその痕跡を残していたと言う事であった。
これが果たしてこの世界にどんな影響を与えるのか、あるいは全く与えないのか……それはまた別の話である……。
あとがき
あまりに主人公が可哀想だったんでエピローグを追加しました。
蛇足になったかも知れませんが。
自分もまだまだ甘いな。
……ボツネタ
「イケメン!! …………敵だッ!!」
「へ?」
怨みは無いが問答無用でオレは武に殴りかかる。
大人気ないと分かっているがオレのこれまでの経歴を知っている人ならば、これは仕方がない事だと分かっていただけるだろう。
「あれ?」
しかし次の瞬間フワリと宙に舞うような感覚。
視界一杯に広がる青い空と、それと同時に襲ってきた背中への衝撃によりオレは武に投げ飛ばされたのだと気付く。
オ、オルタの武ちゃんかよ……。
「くそ……イケメン超強えぇ…………」
「ちょ、ちょっと!? 大丈夫かあんた!?」
思わずぶん投げてしまった事に焦る武の声が気絶する間際のオレの耳に僅かに残る。
「あ~あ……まさか召喚に失敗したとは言え、いきなりマスターに殴りかかってくるなんて。こんなんで聖杯戦争勝てんのかよ……つーか弱いしこのサーヴァント」
……へ? 聖杯戦争? マブラヴの世界じゃないの?
◆
――聖杯戦争。
それはあらゆる願いを叶えると言われる伝説の聖杯を奪い合う、7人のマスターによる殺し合いである。
マスターは己のサーヴァントを従え自らの力を証明しなくてはならない。
サーヴァントとは別名『英霊』……過去、現在、未来、あるいは歴史上、空想上を問わず偉業を成し遂げた人間の事である。
偉業を成し遂げた彼らは死後崇め奉られ、人の身でありながら精霊の域に達する。
それを使役する事ができる聖杯戦争がいかに大掛かりな儀式か容易に想像つくだろう。
……そして今回、1人の男が英霊として召喚された。
男は嘗てごくごく普通な一般人だった。
それがひょんな事から運命のいたずらに巻き込まれ、多くの男達の代弁者として前を立って歩く事となる。
結果はこの男の敗北……だがこれにより間違いなくこの男は世界の危機を救ったのだ。
もっともこの男の功績など誰も知るはずもなく誰も崇める事もなく男は死んだ……はずだったが、見る人は見ていた。
人々の想いは彼を英霊の座へと押し上げ再び彼の願いを成就させるチャンスを与えたのだ!!
この男の願い。
それはすなわち…………。
次回!! 『モテない男の聖杯戦争inマブラヴ』
【真名】吾郷 憑依(あごう ひょうい)
【マスター】白銀 武(しろがね たける)
【クラス】非モテキャラ
【ステータス】
筋力:最近筋トレしてない 戦略知識:素人、歴史オンチ
耐久:最近内臓脂肪が…… 衛士レベル:対戦ゲームのカモ
敏捷:最近運動してない 不運:果てしなく
【クラススキル】
非恋愛原子核:EX
恋愛要素と対になる物を引き寄せる。モテない。とにかくモテない。
【宝具】
美女は生かすイケメン殺す:C
概念武装。美女は生かすイケメン殺す。それ以上でもそれ以下でもない。
あとがき
すいません。適当ぶっこきました。続きません。