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No.12234の一覧
[0] 鬼才と進む道【お知らせ追加】[春夜](2011/09/19 16:04)
[1] プロローグ[春夜](2009/10/12 19:45)
[2] 【第一部】第一話 オペレーション・ルシファー[春夜](2009/10/15 21:19)
[3] 【第一部】第二話 魔女と鬼才[春夜](2009/10/15 21:18)
[4] 【第一部】第三話 オルタネイティヴ計画特務戦術機甲小隊[春夜](2009/10/15 21:17)
[5] 【第一部】第四話 教導隊の顔[春夜](2009/10/18 11:10)
[6] 【第一部】第五話 嵐の前[春夜](2009/10/15 21:15)
[7] 【第一部】第六話 AH[春夜](2009/10/15 21:15)
[8] 【第一部】第七話 AH――そして[春夜](2009/10/15 21:14)
[9] 【第一部】第八話 追憶――海[春夜](2009/10/15 21:13)
[10] 【第一部】第九話 充填期間[春夜](2009/10/15 21:12)
[11] 【第一部】第十話 巣立ちの日[春夜](2009/10/15 21:11)
[12] 【第一部】第十一話 変遷[春夜](2010/01/11 22:11)
[13] 外伝 第一話 戦う理由[春夜](2009/10/06 22:33)
[14] 外伝 第二話 追憶――誕生日【社霞誕生日記念SS】[春夜](2009/12/05 19:56)
[15] 外伝 第三話 オルタネイティヴ計画特務戦術機甲小隊の日常?[春夜](2009/10/28 23:03)
[16] 【第二部】第一話 白銀来る[春夜](2009/11/05 21:25)
[17] 【第二部】第二話 違和感[春夜](2009/11/07 23:05)
[18] 【第二部】第三話 九州戦線[春夜](2009/11/12 19:19)
[19] 【第二部】第四話 齟齬[春夜](2009/11/24 20:40)
[20] 【第二部】第五話 横浜基地[春夜](2009/12/05 23:13)
[21] 【第二部】第六話 2001年11月11日[春夜](2010/01/11 22:14)
[22] 【第二部】第七話 訓練兵を鍛えようin横浜[春夜](2009/12/21 19:47)
[23] 【第二部】第八話 クーデター 序 ――それぞれの思い[春夜](2010/01/23 23:02)
[24] 【第二部】第九話 クーデター 破 ――それぞれの思惑[春夜](2010/01/23 22:59)
[25] 【第二部】第十話 クーデター 急 ――銀[春夜](2010/02/17 09:34)
[26] 【第二部】第十一話 long long time ago[春夜](2010/02/21 14:13)
[27] 【第二部】第十二話 追憶──天を照らす星[春夜](2010/02/25 20:51)
[28] 【第二部】第十三話 偽りの宝物[春夜](2010/03/07 22:01)
[29] 【第二部】第十四話 偽りの英雄[春夜](2010/03/12 17:17)
[30] 【第二部】第十五話 偽りの平穏[春夜](2010/03/18 17:20)
[31] 【第二部】第十六話 集う道[春夜](2010/05/08 22:20)
[32] 【第二部】第十七話 追憶──終わりと始まり[春夜](2010/05/29 01:22)
[33] 【第二部】第十八話 絡まる思い[春夜](2010/09/15 18:12)
[34] 【第二部】第十九話 乖離[春夜](2010/09/15 18:13)
[35] 【第二部】第二十話 間隙[春夜](2010/09/28 23:12)
[36] 【第二部】最終話 次へ[春夜](2010/11/06 23:56)
[37] 設定集[春夜](2010/02/25 20:52)
[38] 【ネタ】オルタネイティヴ計画特務戦術機甲小隊の天敵[春夜](2009/11/05 20:33)
[39] 【ネタ】Short Short[春夜](2009/10/10 10:52)
[40] 【IF】もしも彼女が~~たら その一[春夜](2010/03/12 17:21)
[41] 【第三部】プロローグ[春夜](2011/01/01 23:48)
[42] 【第三部】第一話 フロリダ基地襲撃[春夜](2011/09/14 17:08)
[51] 外伝第四話 壱玖玖漆[春夜](2011/09/18 14:47)
[52] 打ち切り? のお知らせ 2012/05/17追記[春夜](2012/05/17 00:30)
[53] 追加のお知らせ[春夜](2013/08/08 05:08)
[54] 【第二部】二十一話[春夜](2013/08/08 05:04)
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[12234] 【第二部】最終話 次へ
Name: 春夜◆0856b548 ID:7c291c8b 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/11/06 23:56
 荷電粒子砲の一射。
 ハイヴを打ち砕いたそれを撃った直後の間隙。ラザフォード場をほとんど展開できず、無力な巨体を晒す凄乃皇弐型に上空からの砲弾が降り注ぐ。弾種は36mm。本来ならばその程度で凄乃皇が傾くことは無い。だがしかし、常識外れの弾速が堅牢なはずの装甲を易々と突き破った。
 被弾個所から黒煙が上がる。内部の電気回路が引き裂かれ、凄乃皇を操縦する純夏は己の神経が喰い破られたような錯覚を覚える。咄嗟にその区画を電子的に切り離す事で対応したが、僅か一瞬の間に先ほどまで緑一色だった機体状況が浸食されるように赤に染まる。同時に機体の傾きを自覚した。──ラザフォード場の制御、姿勢維持。しかし出来ない。
 例えるならば片腕を失った状態。歩く為の機能は残っているが、大きく変わった重心のバランスに身体が対応できていない。幾つか損傷した回路を除いた制御を行うには時間が足りない。地面に不時着する。そう察した彼女は咄嗟に叫ぶ。
「逃げて!」
 その言葉に反応出来たのは残念なことに全員では無かった。機体を横倒しにして不時着する凄乃皇。その下に不知火とサイレントイーグルが合わせて三機。純夏は墜落の際に姿勢制御を諦めて墜落の衝撃を和らげるために下方にラザフォード場を展開していた。それが仇となった。凄乃皇と言う機体の維持と言う点では純夏の判断は間違っていない。凄乃皇の墜落だけならばまだ三機の衛士に生存の可能性は残っていたが、下方に展開されたラザフォード場に巻き込まれた以上生存は絶望的である。
 しかし残った者たちにそれを悲しむ余裕などない。続く弾丸でサイレントイーグルが二機撃墜される。凄乃皇が地面に墜落してからまだ三秒しか経過していなかった。その攻撃を受けて漸くA-01もオルタネイティヴ計画特務戦術機甲大隊も動きを再開させる。迅速に散会。同時に上に向けて攻撃態勢を取る。そこで見たのは──もう一つの太陽だった。

 ◆ ◆ ◆

 唐突に降り注いだ弾丸が凄乃皇を落としたのを見て、YF-23を駆る武は一瞬自失する。だがその損害は致命的な物ではない──あくまで機体がではなく純夏の身がということである──事に気付いた彼の反応は早かった。瞬時に攻撃してきた相手を確認。その相手がこちらに向けて36mmの雨を降らせてくるのを見えた為、比較的容易に回避する事が出来た。だが安堵には程遠い。そこにある機体に武は見おぼえがあった。武だけでは無い。あの日、あそこに居た人間がその圧倒的すぎる戦闘能力を思い出す。単機で一個大隊を潰した白銀の戦術機。その姿を見て何も感じない物などいない。
 動けない。動いた瞬間にあの日見た光景の焼き直しがここで行われると言う強迫観念じみた確信が有る。そうしているうちに銀色の機体は背中から前方に砲身を構える。そしてその先端から溢れだす閃光。
 頭上に出現したもう一つの太陽。それは先ほど凄乃皇が放った光と同種の物だと武は気付いた。そしてその標的が自分たちだと言う事に。
「な……!」
 戦術機である以上人類側の物なのだろう。だが、本来轡を並べて戦うはずの人類の剣はその切先を隣の戦友となるべき人類に向けられた。そのショックが大きい。ましてや先ほどまで人類反撃の狼煙だと思っていた物と同じものを向けられれば動揺はさらに大きくなる。
 回避を考えるが間に合うはずもない。あれが凄乃皇と同じなら今から逃げたところで向こうが僅かに射角をずらすだけで蒸発する。
 ならば先制攻撃。ラザフォード場があったとしても、荷電粒子砲発射の前なら全方位に展開は出来ないはず。確実に空いている場所──考えれば答えはすぐに出る。荷電粒子砲の砲身を向けている機体前面。そこには展開できない。ラザフォード場は内側から攻撃し放題の便利な盾では無い。展開していたら両方向からの侵入を留める壁だ。
 決断した後の武の行動は早かった。他にも数名──彩峰や美琴など勘の良い者は回避よりも先制攻撃を選んだ。
 XAMWS-24 試作新概念突撃砲を全て前面に。兵装担架にマウントしてあった二門のうち一門は先ほどの救出劇の中で担架毎失われている。そしてその時に手で持っていた物も咄嗟の盾代わりに使って今はもうない。つまり二門だけ。
 それでも上の敵に向けてトリガーを引き絞る。相手は回避する素振りを見せない。そして全弾命中。射角の関係で後背部のラザフォード場に弾かれた物も幾つかあるが36mm,離脱装弾筒付き安定翼徹甲弾APFSDS粘着榴弾HESH劣化ウラン貫通芯入り仮帽付被帽徹甲榴弾APCBCHEと戦術機が使用可能な弾種のほぼ全てが一機の戦術機に集中する。だが爆煙が晴れた後当然のように無傷の機体を見て心が俺無い物など居ない。たとえそうなるかもしれないと覚悟していてもだ。
 極光が一際強まる。それに対して武には無駄だと知りつつも凄乃皇の盾になるように機体を動かすしかなかった。

 ◆ ◆ ◆

「……充電完了」
 小さく、機体の中で彼──武家として生まれた白銀武は呟く。天照。本来ならばこの世に存在するのは十年後の機体。その最大の武装への電力供給が完了した事を示すサインが点滅している。そして彼は躊躇うことなくそれを選択した。
 天照に三つ装着された背部兵装担架。その中央、他の何よりも巨大な砲が発射の為に形を整える。折りたたまれていた砲身は真っ直ぐに前に伸び、長大な姿を形作る。肩越しに展開された荷電粒子砲の砲身下部。そこにあるグリップを掴み照準を合わせる。目標は眼下にいる有象無象──あの巨大な機体は荷電粒子砲の一射くらいならばラザフォード場でどうにか耐えるだろうという計算がある。この引金を引けば展開している戦術機は全滅する。そうなれば動けない的など幾らでも処理できる。
「あと少しだ」
 意図せず彼の唇から呟きが漏れた。あと少し。この引金を引いて、あのデカイのを潰して。そうすれば──。
 そうすれば──どうなる?
 何かあったはず。何かあったはずだ。そうすれば何かを取り戻せる。何を?
 僅かな逡巡。時間にして一秒もない。
 その一瞬が凄乃皇の周りに展開している全員の命を救った。
 全身を突き抜けるような衝撃。散々弄られて衝撃や苦痛に鈍感になった彼の身体でもそれは堪えた。激しく揺さぶられる機体の中身。バーテンダーのシェイカーの中に放り込まれた氷の気分を味わされた。並みの衛士なら失神している衝撃もさほど気に留めずに彼はその原因を探す。
 探すまでもなかった。先ほどまで空に居たのは自分一人。だがそこにもう一つある。とても無視できない巨体。大きさの比率的には人とクジラか。潜水艦の様な航空機の様な細長い巨体。だがその形状は流体力学を完全に無視している。それがこうして空にあると言うのは有り得ない。常識ならという但し書きが付くが。
(同じか)
 だがここには条理に反した機体が三つも有る。そして彼にとっては己の物以外は必要ない。破壊目標は元々このデカイのだけでクジラは予定に入っていないが関係ない。邪魔をするならただ意味の持たない物体に変えるだけ。
 チャージが完了している荷電粒子砲の砲塔を巨体──ヘルメス・サードに向ける。後はトリガーを絞るだけ。そう考えた刹那ロックオンしていた機影が正面から消えた。目標を失った照準が彷徨う。
(何処に)
 レーダーに視線をやるより早く直感した。背面にラザフォード場を展開。その力場を掻い潜って衝撃が機体まで届く。
「ぐ……」
 噛み締めた歯の隙間から苦悶の声が漏れた。肺から空気が吐き出される。そんな状態でも身体は機体を反転させ敵機と相対ヘッドオンさせる。背を向けたままでは勝ち目はない。向き合った先には一瞬で背後に回り込んだ敵機。クジラのヒレの様に見えていた部分はどうやら相当な威力を持った火器だったらしいと彼は考察する。そしてその機動力。巨体だからと侮っていたが、相当素早いらしい。その上小回りも利く。
(厄介だ)
 だがそれだけだ。
 荷電粒子砲を兵装担架に戻す。代わりに手に握るのは12式高周波近接格闘長刀。今回の武装はこの機体が始めから装備していた物が全て搭載されている。それを軽く振って感触を確かめる。
(……違う)
 何か違和感を覚える。どこか違う。バランスか、別の何かか。いまいちしっくりこない。だがその誤差を飲み込んで彼は剣を振るう。
 これだけの巨体。各部に迎撃用か、チェーンガンは設けられているようだがその程度では足止めにもならない。懐に潜り込んでこの剣を振るう。それだけで決着がつく。気分はクジラを解体する職人。
「一太刀馳走!」
 上段からの一閃はまずまずの出来だった。横合いから下へ抜けるように振り下ろす。だがそれは押し留められた。上から叩き落とされた"腕"によって。
 刃には触れないように下に。運剣に余計な力が加わった為、切先が僅かに装甲を削って終わった。だが彼の心は攻撃の失敗よりもその原因に向いている。そしてそれを見た。バカバカしい程に巨大な人型を。

 ◆ ◆ ◆

「ヘルメス・サード。戦闘形態に移行」
 戦術機の管制ブロックとは比べ物にならないスペースを確保されたコクピットの中でアールクトは小さく呟く。その肩は戦闘開始から僅か数分で上下している。ML機関の出力に任せた強引な機動。それによってもたらされる加速度は強化装備があるとは言え無視できるものではない。瞬間的な最大Gは約20G。そんな物を何度も受けていれば屈強な人間でも体力はやすりを掛けたかのような勢いで削られていく。
 クジラと評された巡航形態からXG-70シリーズと同じように縦に長い状態に機体を可変させる事を終えたアールクトは後方に過ぎ去った凄乃皇やA-01の方を見やる。
「鑑少尉、機体は動かせそうか?」
 36mmとはいえ、紛い形にもレールガンによる攻撃。もしかしたら機体を放棄する必要があるかもしれないと危惧していたが通信機越しに届く声はその懸念を払拭した。
『大丈夫です! 移動なら何とか』
「……では全機体は戦域より離脱。先頭を第九中隊、左舷に第七中隊、右舷第三中隊、殿は第二中隊が努め後退しろ。以降の指示はHQに従え。以上」
 ここに居たら凄乃皇は兎も角不知火やサイレントイーグルは流れ弾だけで撃墜される。そんな戦場に部下を置く訳にはいかない。ましてやこれから行うのは酷く個人的な戦いだ。
「純夏……」
 知らずうちに呟きがアールクトの唇から漏れる。彼が口にしたのは後方にいるこの世界の鑑純夏の事では無い。自分と同じ世界の鑑純夏の事。幸せにしたかった少女が最期にいた場所。機械仕掛けの神の胎内。
 天照。この世界の異物。明確な形を持ったアールクトにとってのイレギュラー。相手の意図は分からない。だが確実なのはその望みは自分の望みとは合致しない事だけだ。そしてアールクトが天照を敵とみなすにはそれだけで十分だった。行動不能までに叩きのめしてその上で中に居るであろう純夏を救出する。それがどれだけ困難か。今さら論ずるまでもない。
 敵が動く。こちらの巨体の隙間を突くように、懐に入り込もうとする。それはこちらにとって一番嫌な戦法だ。至近距離ではこちらは迎撃用の36mmくらいしか火器が無い。遠距離でなら豊富な火器で圧倒できるが、密着戦では相手の方が圧倒的に有利となる。
 それは敵も分かっている。そしてこちらもその弱点は百も承知。なら、対策をとらない理由が無い。対策と言うには余りに力技なのは認めざるを得ないが。
「いくぞ」
 それを行うにはアールクトにも少々の覚悟が必要だった。出撃前に行った技術士官との会話が思い出される。
『この機体のラザフォード場制御は凄乃皇弐型と比較して稚拙と言わざるを得ません。可能な限り複雑な使用は避けてください。多重干渉、機体の処理能力の限界……考えれば幾らでも不都合は思い浮かびます』
 一言で表すならそんなものは欠陥機以外の何物でもない。そんな欠陥機を使っているのもこれ以外で天照に対抗できる物が無いからだ。同じ土俵にすら立てない。
 だが今アールクトはその忠告を無視してラザフォード場を発生させる。懐に居る天照を包み込むように。そのままにしておけば天照は高水圧の深海に落ちたように圧壊する。当然それを良しとしない敵機は対抗するようにラザフォード場を発生させる。目に見えない鬩ぎ合い。今こうしている間にも天照とヘルメス・サードのCPUは互いのラザフォード場を撃ち消しつつ相手に損害を与えようと様々なパターンを一瞬で切り替え、干渉しあっている。処理能力ではヘルメス・サードは天照に遠く及ばない。そんな一瞬の均衡を崩したのは天照の側だった。
 その状態を維持する事を厭うように乱雑に離脱する。それはこれまで見せた事のない反応──危機感から出た物だと言うのを推測するのは容易だった。その様子にアールクトはこちらの対抗策が上手くいった事を察してほんの少し唇を釣り上げる。簡単な話だ。CPU同士がやっていたのは如何にお互いの力を受け流すかということ。例えるならサーフィン。互いの波に上手く乗れるかどうかという戦い。だがその波がもしも津波と呼ばれる物だったら? サーファーでは対処のしようのない物だったら。そうなったらサーファーは波に飲み込まれるしかない。
 天照は戦術機として見た場合、対抗できる機体は皆無と言っていい。未来でも同型機の開発が困難であった以上これは確実だ。だが──戦術機以外、戦略航空機動要塞と比較した場合、その優位性は常には当てはまらない。例えば火力。どんなに重武装にしようとしても戦術機のサイズである以上限界はある。荷電粒子砲と一言でいえば同じだが、その出力には十倍近い差がある。搭載できる火器の数も大きく制限を受ける。そしてラザフォード場の出力。戦術機サイズにまで小型化させた技術者の才気は疑いようもない。だがどんなものにも纏わりつく大きさと出力のトレードオフ。ML機関もその呪縛から逃れることは出来なかった。ラザフォード場の最大出力。それは互いのML機関が通常運転の最中では精確に比較するまでもなくこちらの方が高い。これがアールクトの勝算。機体特性の違い。それを生かして最強を狩る──!
 距離を離した天照に追撃をかける。機体各部のVLS、四型と同じように腕代わりのレールガンの一斉射撃。相手の退路を塞ぐように1500mmとミサイルが降り注ぐ。決して高さを取らせないように上位からの砲撃で今の位置に釘付けにする。高度を取った場合、こちらには不利だった。お互いに高さは取れる。だがその後──地上にいる光線級が狙って来るのはML機関の出力が高いヘルメス・サードだ。そしてこちらは高速機動とラザフォード場の同時処理が困難だ。元々アールクトの作戦と言うのが綱渡りめいたものである以上、こちらに不利な要素は徹底的に排したい。
 レーダーマップがA-01の撤収が順調に進行している事を告げる。この調子なら向こうは大丈夫。後はこれを──。
 そんな余分がアールクトの反応を遅らせた。
「っ!」
 ミサイルの爆炎の中から閃光が飛び出す。ほんの少し装甲に汚れが増えただけの天照。手には12式高周波近接格闘長刀。
(懲りずに接近戦だと?)
 先ほどの攻防で懐に入った場合の危険性は理解できたはずだ。それでも尚近接戦を挑む敵手の姿に僅かな憐憫を覚える。
 あの衛士がこの世界の白銀武だと言う事は八割確定だ。シロガネタケルで無いと天照は動かせない事。クーデターの時に見せた剣技。己の記憶にある鑑純夏の発言とこの世界の鑑純夏の発言の違い。彼を知る者から聞いた話を総合するならば天才──麒麟児。黄を賜る武家である白銀家に生まれ、その剣技と戦術機の腕は斯衛の中でも高い評価を得ていた。特に剣技は成人するころには紅蓮を超えるとまでの腕前だったらしい。その性格はとてもではないが、自分とは違うとアールクトは苦笑交じりに評価する。二度目の武が聞いても同じ反応をするだろう。武家の人間として相応しい振る舞いを体現するような人間だったらしい。そんな人間が帝国に弓引く理由などそう多くは無い。その中でもアールクトは最も高いと思っていたのは薬物による洗脳。後催眠暗示ですら似た事が出来るのだ。違法な薬物を使えば尚楽だろう。この無謀な突撃は薬物による状況認識力の低下だと判断した。
 アールクトの推測はあながち間違っていない。現に天照に乗っている白銀武は薬物による洗脳を受けている。厳密には洗脳ではなく、生体コンピュータとして使う為に脳内の神経伝達速度を上げる施術を外科的、内科的方法によって受けた結果、己の意思が殆ど無くなり、暗示によって命令に忠実な人形になったのだが。しかし彼の致命的な間違い。それは状況認識力の低下など起こしていない。そして己の意思が無くとも、かつて天才と呼ばれたその戦腕は些かも衰えていない事に気付かなかった事である。
 ラザフォード場で包み込む。先ほどの焼き直し。だがその結末は全く異なった物となった。
「………………何だと」
 そんな月並みな言葉しか出てこない。先ほどまで万全だった機体状況。その一か所が真っ赤に染まっている。右腕──1500mmレールガンの砲身が重々しい音を立てて地面に落下する。半分ほどの長さになったそれを見て一瞬自失するがすぐさま機体を動かす。機体の限界以上の速度を出した天照が再び装甲に切れ目を付けていく。
「ぐ……」
 呻く時間すら惜しい。必死に機体を繰り大きな損害だけは避ける。だが次々と刻まれていく機体は文字通り終わりへのカウントダウンに見える。驚異的な天照の速度を完全に追う事は出来ない。己の技量と経験を駆使してどうにか致命的な損害を避けている状況だ。
(解せない)
 有り得ない事だった。天照は文字通り限界を超えている。かつてアールクトが行った天照の機動試験。その中で限界速度という項目があった。その際の速度は一般的な戦術機よりは早いが、音速は超えてない。そんなレベルだった。そしてそれはML機関を最大出力で行った試験である以上、天照はそれ以上の速度を出せない──はずだった。
 ならば今の光景は何だ、とアールクトは自問する。何らかの改造が施されたのかと一瞬考えるがすぐさま否定する。未来でもあれが限界だったのだ。それが過去でホイホイ改良されては当時の技術者たちの立つ瀬が無い。
 そこでふと気が付く。こちらから離れている時は速度は平常──と言っても十分に速いが──だ。こちらの側に来た時にだけ加速している。だがそれはおかしい。こちらの側に来た時はラザフォード場で干渉している。減速ならまだしも加速などするはずもない。なのに現実はそれに反している。その理由が分からない限りアールクトの敗北は不可避の物となる。
 目を凝らす。天照に。その周囲に。ヘルメスのセンサ類が得たデータに。その中から原因を探る。そうしている間にも損害は増えていく。
 焦りが生じる。それを抑え込みながらデータをチェック、チェック、チェック……。違和感。とあるデータ──ラザフォード場の分布状況。天照が加速する瞬間、移動方向にだけラザフォード場が無い。
「まさか」
 ほんの一瞬。ほんの一瞬だけ天照の処理能力を力任せに使ったラザフォード場の相殺。進行方向だけ相殺し、残りの箇所は反発させる。過剰にかかった圧力は何もない一方に向かう。
 何の事は無い。天照の限界を超えた加速はこちらの力を利用しただけの話だ。だが驚くべきはそこでは無い。
「たった一回の交錯でここまで見抜いた!?」
 一度受け止めただけ。それだけで既に敵手はここまでの状況を組み立てていたのだろうかとアールクトは戦慄する。そして何よりもその胆力。言葉にするのは容易い。しかし上手くいかなければそこで圧壊するだろう。それを迷い無く行える。
 難敵だ。この敵はこれまでで最も手ごわい。アールクトはそう確信した。そして同時に勝算が限りなく下がった事も。

 撤退を検討。却下。ここで撤退したら天照は間違いなくA-01に向かう。それだけはさせてはならない。あそこにいる白銀武、鑑純夏、御剣冥夜、榊千鶴、珠瀬壬姫、彩峰慧、鎧衣美琴──A-01の面々、ここに来るまで幾つもの世界で何度も死なせ、共に闘ってきたギルバード=ラング、シルヴィア=ハインレイ、ケビン=ノーランド、シオン=ヴァンセット──オルタネイティヴ計画特務戦術機甲大隊の隊員。誰一人としてこんな理不尽な暴虐に巻き込ませる訳にはいかない。
 天照と自分はセットだ。ミリアの願いか──それとも自分が無意識に願ったのか……。詳細は分からない。多分今後分かる事もないと思う。だが確実にあの理不尽をこの世界に持ちこんだのは自分だ。自分の不始末は自分で決着をつけないと。たとえそれが己の最大の願いへの希望を自分の手で断ち切る行いだとしても、だ。
 元々が自分の我儘で始まった事だ。純夏でさえも言っていた。
――未来を知っていてもどんなに力があってもひょっとしたら今回より悪い結果になるかもしれないよ? 今回のこれが最良の結末かもしれないよ?
 と。だからきっとこれは罰。自分の好きなように世界を変えようとした代償なのだろう。一番幸せにしたかった人をこの手で討つ。これ以上は無い罰だ。
「だけどな」
 それを甘受したらそれこそ最初から諦めていればいいと言う話になる。諦めない。諦める物か。このふざけた回数の繰り返しで一番鍛えられたのはその諦めないと言う事。たとえこれが罰だとしても──ギリギリまで足掻いて見せる。足掻いて足掻いて、その上で望みを叶えてやる。まだ自分は終わっていない。この世界でループが途切れるとしても、まだ生きている。この世界でやれることが有る。
「さあ、行くぞ」

 ◆ ◆ ◆

 状況を確認する。
 ここは何処だ? ──佐渡島だ。
 今は何時だ? ──2002年の1月1日。
 何が行われている? ──帝国軍主導による甲二十一号目標攻略作戦。
 自分の目的は? ──本作戦に投入された国連軍の新型破壊兵器の破壊。
 その手段は? ──現在搭乗してる戦術機による攻撃。最も有効と思われる攻撃手段は荷電粒子砲。
 その為の障害となるのは? ──現在交戦中の敵機。ブリーフィング時に該当する機体の情報は無し。ただし外見から破壊目標の同系機と思われる。
 勝算は? ──予断を許さぬ状況ではあるがやや此方が優勢。敵機の巨体を盾に一撃離脱を繰り返す。
 他に確認事項は? ──無い、はずだ。
 思考にノイズが生まれた。先ほどから感じてる些細な違和感。その違和感が無視できないほどに大きくなる。
 何か有ったはずだと言う想いを捨てきれない。自分には何かあったはずだと。こんな簡素な確認事項では無く、もっと重要な何かが。
 何故作戦領域に向かう時に予定されたルートを通らなかった? ──分からない。
 何故あの時敵に捕捉される事が分かりながら城郭でとどまった? ──分からない。
 何故あそこに居た二人に懐かしさを感じた? ──分からない。
 何故自分はこんな作戦とは関係の無い事を考えている? ──分からない。
 ……自分は何者だ? ──分からない。
 自分の事が思い出せない。どうしてこんな大事な事を今まで考えなかったのか。それすら疑問に感じる。普通自分が何者か分からなければもっと気にするはずだ。なのに何故それすらも考えなかった?
 頭が痛い。莫大な情報が頭に刻み込まれていく。自分では無い自分の記憶。そのほとんどは認識できずに零れ堕ちていく。だがその中で零れ堕ちない物が有った。
 赤い髪の少女の姿。
「──あ」
 彼女の名前は? ──思い出せない。だが覚えている。とても大切に思っていた事だけは覚えている。
 自分の名前は? ──思い出せない。だがこの敵と戦っていればいずれ思い出せる気がする。

 ◆ ◆ ◆

 砲弾が互いの間を行き交う。剣閃が煌めく。お互いがお互いの持つ全ての技能を振り絞って戦っていた。第三者から見れば一種予定調和じみた動き。互いが互いの次の行動を予測できるように機体を縦横無尽に奔らせる。周囲にはBETAも居た。だが彼ら二人以外はここには存在しないように戦う。それぞれの流れ弾が無粋な視線を飛ばす観客を引き裂く。熱烈に抱きつこうとしたモノを撃ち抜く。握手を求めようとする手には爆風を、二人の舞の邪魔になる巨体にはそれに見合った弾丸を。
 何時までも続きそうな輪舞はある一点を超えた事で終わりを告げる。
 小人の持つ剣が折れた。巨人の撃つ砲火が途切れた。
 そしてお互いに最後の武器を手に取る。

 ◆ ◆ ◆

 一秒ごとに自分が生まれ変わる。
 自分では無い自分の記憶。それと共鳴するように本当の自分の記憶が溢れかえる。
 ──純夏。
 母親の実家の側に住んでいた少女。武家に生まれた白銀武にとって、唯一と言って良い心許せる相手。
 ──純夏。
 大切な幼馴染だった。幼い日は別れの日に泣きたくなるくらいに。
 ──純夏っ!
 だけどあの日──BETAが横浜に侵攻した時、自分は瑞鶴に乗っていた。当時はまだ任官していない。端的に言うならば戦場のごたごたにまぎれて奪った。わざわざそんな危険な真似をしたのは偏に幼馴染を助ける為。軍の展開が間に合わない事を確信した為に一人で助けに行こうとした。だが多勢に無勢。単機では何も出来ずに成す術もなく撃墜され、どうにか機体から這い出た時に──奴に出会った。
 後藤。下の名前は知らないし、階級も知らない。ただ帝国軍で違法な人体実験を繰り返していたのは知っている。そして帝国がBETAに侵攻された時、早々に見切りをつけて合衆国に亡命しようとした。己のこれまでの実験データを携えて。
 そんな男が何故自分を拾ったのかは分からない。確認しようにも既に彼はこの世の人間では無い。一体何が有ったのかは分からないが。
 そして自分は──人体実験を受ける羽目になった。一体何処をどういじられたかなど分からない。確実なのは一度頭を開かれた事が有るという程度だ。もう一つ確実なのはどうやら自分は適性はあったがそれを遥かに超える無茶を受けた結果、そう長くは持たないらしい。少なくとも研究者が考えているような長期間戦えるスーパーマンには達していないようだ。
 そんなある日この機体に乗せられた。そして直感した。──純夏がいると。
 そう、あの時は彼女の存在を覚えていた。その頃から薬品の投与回数が増えて……今に至る。何度か出撃した記憶はあるが、どれも自分とは思えない。

 互いの砲口に光が満ちる。お互いにこれが最期の武装。この閃光が晴れた時に立っている方が勝者だ。だが既に彼にとってはこの戦いに意味は無い。だがこの敵が見逃してくれるとも思えなかった。
 閃光が走る。互いに放たれた光の矢はお互いを喰らい尽くそうと突き進むが──既に天照は射線上から離れている。この機体の電磁波遮断措置ならば僅かな距離でも離れれば影響は殆ど無いに等しい。だが相手はあの巨体で避けるのは不可能だろう。
 そう思った瞬間に向こうに動きが有った。敵の頭部が吹き飛ぶ。外的要因では無い。内部からだ。そこから出てきたのは──戦術機。それも僅かに記憶に引っかかる。
「YF-23……!」
 思い出した。あの機体は一度戦った。恐らく──通常の機体相手では最も苦戦した相手。
 だがもう戦う必要は無い。自分が真に戦うべき相手はここにはいないのだから。
 機体を飛翔させる。戦術機には不可能な完全な飛行。
「……済まない」
 小さく先ほどまでの敵手に詫びながら天照は佐渡島を去る。

 与えられた任務は今回も失敗した。任務を出した側からすれば、だが。逆にこの機体の衛士──白銀武からすればそれは成功と呼べた。
 ようやく思い出した。己の名前を。自分が守ろうとしていた人の名前を。
「よくも……」
 散々良いように使ってくれた、と小さく悪態を漏らす。だがそれを表に出さないように努める。今はまだここの研究所の連中にはこちらの洗脳じみた暗示が解けている事に気付かれてないはず。機体の中につい先日まで乗せられていた少女は今はいない。ならばまずは彼女を取り戻す。
 そう決めた後の行動は迅速だった。
 格納庫の中に入った瞬間に手にした10式電磁速射砲の予備弾倉を補給コンテナから強引にとりだす。正規の方法とは程遠いやり方で開けられたコンテナの残骸から逃げ惑う整備兵を見て僅かに溜飲が下がるが、主目的を忘れる訳にはいかない。そのコンテナから即行える補給を全て済ませ、景気づけとばかりに10式電磁速射砲を格納庫の一角に向けて打ち出す。
「純夏……!」
 守るべき少女の名を口にして、彼は己を縛り続けた組織に反旗を翻した。

 ◆ ◆ ◆

「暴走?」
「は、現在第三格納庫、第二研究棟が破壊されました」
 ふむ、とその報告を受けて男は考える。暴走するような理由が思いつかなかった。施した暗示は完璧なはずだと自負している。だが……それが解けたとしたら暴走、というよりも反逆も有り得る。と言うよりもしない方がおかしい。
「如何致しましょう?」
「……もう取るべきデータは取った。中枢ユニットは既にこちらにある。ゼロは失うのが惜しいが……良いよ。予定通りにテストを行う」
「は、了解です」
 敬礼も返さずにその男は次の行動に移る。手近な通信機を取る。
「ああ、僕だ。SSを準備しておいてくれるか? ああ、全部だ。上手くいけば良いテストが出来る。あれを相手に、ね」
 そうして指示を出し終えて口元に隠しきれない程の笑みを浮かべる。そこから読み取れるのはただただひたすらな──理性。どこまでも整合化された無秩序よりも遙かに異質な秩序。
「さあおいで……IZ16……君とぼくとで殺し合いをしようじゃないか……」
 最高に楽しい事になる。そう歪んだ笑みを浮かべた。

 ◆ ◆ ◆

「純夏ぁぁあ!」
 叫ぶ。意味が無いと分かっていても。それでも叫ばずにはいられない。
「ふざけんじゃねえ……」
 唇から血がにじむほどに噛み締めた口から怨嗟の声が漏れだす。
「ふざけんじゃねえ!」
 許せなかった。
 世の中は平等ではない。平等ならばBETAに襲われて死ぬ人はいない。或いは生き残る奴はいない。
 そんなことは理解していた。十分すぎるほどに理解していた。
 だが、それでも。
「何であいつがこんな目に会わなければいけない!?」
 人ではなくなり、機械の身体になって。それでもまだ弄ばれて。
「何も悪い事をしてないあいつがこんな酷い目にあって! 何であんなクソ野郎どもが悠々と生きてやがる!?」
 平等ではない。それは良い。
 だが、それでも、行いに応じた報いぐらいあっても良いんじゃないか?
「畜生が!」
 そうして彼の取った行動はシンプルだった。既に彼女の居る場所の見当は付いている。ならば関係の無いブロックならば破壊しても構わない。むしろ特別な理由が無い限り彼はこの施設の全てを破壊するつもりでいた。
 銀が──天照が背負う最大の武装。荷電粒子砲。それが肩越しに展開する。砲口に紫電が集まる。チャージは一瞬。放たれた光の奔流は射線上にある物全てを薙ぎ払い……目標に届く前に四散した。
「な……」
 閃光が晴れる。そこに居たのは……。
「同型……いや、簡易量産型かっ?」
 天照を簡略にしたような機影。だが性能としてはそこまで劣る物ではないのだろう。装備は殆ど現行機の物。だがML機関を搭載しているのであろう。その機体は空を飛び──今、ラザフォード場で荷電粒子砲さえも凌いだ。それだけで十分すぎるほどの脅威だ。一般の機体なら。
「どういうつもりか知らないが……その一機で俺を止められるとでも!?」
 確かにこちらも消耗している。だが実際にこの機体を使った自分には分かる。これはそう簡単に制御できる物では無い。ましてや宙に静止すると言うのは口にするほど簡単じゃない。既存の戦術機と同じ感覚で操っていてはこの機体の真価は発揮できない。少なくとも実戦経験は無いはずだ。そのアドバンテージは大きい。
『いいや、一機じゃないさ』
 ようやく研究所側から通信が来る。
『三十六機だ』
「っ!」
 音も無く、取り囲まれていた。正面に居る一機と同型の機体が三十六機。ぐるりと天照を囲んでいる。そしてその全てがML機関を搭載していた。
『君は以前三十六機の戦術機を撃破していたね? それと同じ数だ。ただし……』
 三十六機がそれぞれ装備を構える。世界各種の武装。中には電磁速射砲らしきものすらある。
『結末は既に決定しているけどね』
 殆ど性能差の無い戦術機三十六機を相手に生き残れるかと聞かれてイエスと答えられる人間はどれだけいるか。
『精々長く生き延びてくれよ? この子達のデータを取る機会は中々無いんだ』
 耳障りな声。何処までも理性的でそれが逆に恐怖を感じさせる。
『さあ、始めよう。君の死で終わるデモンストレーションを』
 返事をする余裕など、無かった。

 ◆ ◆ ◆

2002年1月31日
 桜花作戦実行。あ号標的を目標とした突入部隊、全隊員が帰還。

2002年2月1日
 フロリダ基地、壊滅。

 ◆ ◆ ◆

 何か伝えていない事はあっただろうか。
 目的を達成した後の僅かな虚無感。そんな中でアールクトはやり残したことを考えた。
 佐渡島攻略が終わったら横浜基地からフロリダ基地に戻る。だからその前に桜花作戦で有った事を思い出せる限りデータにまとめた。あれを見れば作戦の立案が楽になるはずだ。尤も、そもそもの前提条件が違うのであまり役には立たないかもしれない。それならそれで良い。今の白銀武には多くの戦友がいる。教えを請える上官がいる。もしかしたらそれはマイナスなのかもしれない。白銀武と言う個人を鍛えるには向いていないのかもしれない。
 だがそれの何がいけない? 人一人がやれる事などたかが知れてる。それならば一人が二百を目指すよりも十人で千を目指した方が良い。
 きっと彼は大丈夫。自分みたいに失敗はしない。失敗してもそれを補ってくれる仲間がいる。何よりも──守るべき対象がすぐ側に居る。
「ああ、そうだ……」
 一つだけ伝え忘れていた事が有った。この世界の鑑純夏と社霞に伝えたかった事。
「二人は幸せになっていい」
 それだけの言葉。世界の全てが否定しようと自分だけは肯定してやると。
 ほんの一瞬悔いの感情が胸を過ぎるが、思いなおす。
 それを伝えるべきは自分では無く、この世界の白銀武で有るべきだろう、と。

 ここに残すべき言葉はもう無い。
 だから行こう。正真正銘最後の戦いに。

初投稿 10/11/06


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