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No.12234の一覧
[0] 鬼才と進む道【お知らせ追加】[春夜](2011/09/19 16:04)
[1] プロローグ[春夜](2009/10/12 19:45)
[2] 【第一部】第一話 オペレーション・ルシファー[春夜](2009/10/15 21:19)
[3] 【第一部】第二話 魔女と鬼才[春夜](2009/10/15 21:18)
[4] 【第一部】第三話 オルタネイティヴ計画特務戦術機甲小隊[春夜](2009/10/15 21:17)
[5] 【第一部】第四話 教導隊の顔[春夜](2009/10/18 11:10)
[6] 【第一部】第五話 嵐の前[春夜](2009/10/15 21:15)
[7] 【第一部】第六話 AH[春夜](2009/10/15 21:15)
[8] 【第一部】第七話 AH――そして[春夜](2009/10/15 21:14)
[9] 【第一部】第八話 追憶――海[春夜](2009/10/15 21:13)
[10] 【第一部】第九話 充填期間[春夜](2009/10/15 21:12)
[11] 【第一部】第十話 巣立ちの日[春夜](2009/10/15 21:11)
[12] 【第一部】第十一話 変遷[春夜](2010/01/11 22:11)
[13] 外伝 第一話 戦う理由[春夜](2009/10/06 22:33)
[14] 外伝 第二話 追憶――誕生日【社霞誕生日記念SS】[春夜](2009/12/05 19:56)
[15] 外伝 第三話 オルタネイティヴ計画特務戦術機甲小隊の日常?[春夜](2009/10/28 23:03)
[16] 【第二部】第一話 白銀来る[春夜](2009/11/05 21:25)
[17] 【第二部】第二話 違和感[春夜](2009/11/07 23:05)
[18] 【第二部】第三話 九州戦線[春夜](2009/11/12 19:19)
[19] 【第二部】第四話 齟齬[春夜](2009/11/24 20:40)
[20] 【第二部】第五話 横浜基地[春夜](2009/12/05 23:13)
[21] 【第二部】第六話 2001年11月11日[春夜](2010/01/11 22:14)
[22] 【第二部】第七話 訓練兵を鍛えようin横浜[春夜](2009/12/21 19:47)
[23] 【第二部】第八話 クーデター 序 ――それぞれの思い[春夜](2010/01/23 23:02)
[24] 【第二部】第九話 クーデター 破 ――それぞれの思惑[春夜](2010/01/23 22:59)
[25] 【第二部】第十話 クーデター 急 ――銀[春夜](2010/02/17 09:34)
[26] 【第二部】第十一話 long long time ago[春夜](2010/02/21 14:13)
[27] 【第二部】第十二話 追憶──天を照らす星[春夜](2010/02/25 20:51)
[28] 【第二部】第十三話 偽りの宝物[春夜](2010/03/07 22:01)
[29] 【第二部】第十四話 偽りの英雄[春夜](2010/03/12 17:17)
[30] 【第二部】第十五話 偽りの平穏[春夜](2010/03/18 17:20)
[31] 【第二部】第十六話 集う道[春夜](2010/05/08 22:20)
[32] 【第二部】第十七話 追憶──終わりと始まり[春夜](2010/05/29 01:22)
[33] 【第二部】第十八話 絡まる思い[春夜](2010/09/15 18:12)
[34] 【第二部】第十九話 乖離[春夜](2010/09/15 18:13)
[35] 【第二部】第二十話 間隙[春夜](2010/09/28 23:12)
[36] 【第二部】最終話 次へ[春夜](2010/11/06 23:56)
[37] 設定集[春夜](2010/02/25 20:52)
[38] 【ネタ】オルタネイティヴ計画特務戦術機甲小隊の天敵[春夜](2009/11/05 20:33)
[39] 【ネタ】Short Short[春夜](2009/10/10 10:52)
[40] 【IF】もしも彼女が~~たら その一[春夜](2010/03/12 17:21)
[41] 【第三部】プロローグ[春夜](2011/01/01 23:48)
[42] 【第三部】第一話 フロリダ基地襲撃[春夜](2011/09/14 17:08)
[51] 外伝第四話 壱玖玖漆[春夜](2011/09/18 14:47)
[52] 打ち切り? のお知らせ 2012/05/17追記[春夜](2012/05/17 00:30)
[53] 追加のお知らせ[春夜](2013/08/08 05:08)
[54] 【第二部】二十一話[春夜](2013/08/08 05:04)
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[12234] 【第二部】第七話 訓練兵を鍛えようin横浜
Name: 春夜◆0856b548 ID:7c291c8b 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/12/21 19:47
 2001年11月16日
「なかなか全員さまになってきたな」
 訓練を眺めながらアールクトは呟いた。画面には六機の吹雪が模擬戦を行っている。
「軍曹から見てどうだ? 彼らは」
「はっ、新OSということもあるのでしょうが……これまで担当してきた訓練兵に比べて非常に優秀であると思われます」
「そうだな。私もフロリダ時代に訓練兵を鍛えたが、彼らと比べても優秀だな。練習機が吹雪という違いもあるが」
 吹雪という機体をアールクトが説明するとしたら贅沢な機体と答える。主機出力が足りないがそれ以外は現行機と比べても遜色ない性能だ。
「しかし撃震がここまで動くようになるとは意外でした」
 まりもの乗機である撃震――光菱が改修した撃震にXM3を搭載した機体だが、第三世代機の技術を惜しみなく投入した結果2.5世代相当の性能を獲得した。おかげでまりもも訓練兵たちに遅れを取ることなく仮想敵を務めることができていた。
「ひよっこ相手とはいえ、第一世代では第三世代を相手にするのは厳しいと思っておりましたので」
「連中、XM3への親和性が高いからな……通常の撃震では動きに追い付けないだろうな」
 と、話しながら見ているうちに模擬戦が終了した。
「……予想通りみたいですね」
 まりもが溜息を吐く。アールクトもこめかみを揉んでいる。
「賭けにもならなかったからな……」
 彼らがそうした原因、通信機の会話が漏れ聞こえてきた。
『あんたが独断専行したのが悪いんでしょ!?』
『臨機応変に対応した。それだけ』
『そのせいでこっちの対応が崩れたじゃない! 白銀との連携も取れてなかったし!』
『お、おい。お前ら落ち着けって』
『榊は頭が固い。いつまでも失敗した作戦に固執しても仕方ない』
『あなたみたいに作戦無視して動くのは正しいって言うの!?』
『戦場で無能な指揮官に従っていたら全滅しかない』
『何ですって!』
 二人――一応武もいるがいないも同然――の会話はどんどんヒートアップしていく。
「これは、放置するわけにはいかないな」
「はい……」
「さて……何か良い手は無いものかどうか」
 思わずアールクトは天を仰いでしまうのだった。

「え~っとそれじゃあ第……何回だっけ? とりあえず反省会を始めます」
 PXで一番心情的にも中立の武が司会を務めて反省会を始めるが……。
「彩峰が悪い。以上」
「榊が堅物過ぎる」
 二人とも即答。そして一瞬視線を合わせ、ふんっと逸らす。
(ああ、もう! 何でこいつらはどの世界でもこうなんだよ!)
 前の世界でもそうだし、元の世界でもそうだったはずだと武は思う。そのくせ妙なところでは息が合うし。この反省会もそのあたりをうまくするために始めたのだが。
(最初のうちはよかったんだよな……割と二人も友好的というか、歩み寄りの姿勢がまだいくらかあったというか……)
 それが回を重ねるごとに段々互いに我を通すことが多くなって、現在。
(今回は前みたいなことをしなくてもうまく行くと思ったんだけどな~)
 また合宿やるしかないのか……? と思っているとまりもから三人が呼び出された。
「白銀、榊、彩峰。話がある」
(……また五日間模擬戦から外れてどうにかしろって奴かな)
 前回と同じならそうなるだろうな、と思いながら行くと予想通りの言葉が降ってきた。
「貴様たちには明日からの模擬戦外れて貰う」
 やっぱりか、と思って武はうなだれるしかない。だが今回は武に代わり千鶴が抗議した。
「教官、それは成績が悪いからですか? だとしたら」
「榊。自分で分かっていることを口にしようとするな」
 きっぱりと言われ千鶴は黙り込む。このあとは五日間でどうにかしろって言われるのだろう、と思っていたら。
「明日から三日間、アールクト少佐のご厚意で少佐の部隊の方に一対一で教導をして貰えるそうだ」
「へ?」
 思わず声を出してしまった。
「それも含めて五日間の猶予を与える。その後の模擬戦の結果次第では、さらに芳しくない結末を覚悟しておけ。以上だ」
 予想外の出来事にしばし呆然としていたが、頭を振って切り換える。
(未来は変わってるんだ。こういうこともあるだろうし。それに……)
 現役衛士からの一対一での教導。それが無意味なはずがない。
「え~っとじゃあそういうことらしいから……三日間ちょっとお互いに頭冷やそうぜ? 顔を見ないで冷静に考えてみれば何か見えてくるかもしれないし」
「……そうね。少し頭に血が上ってたかもしれないわね」
「私が冷静」
「っ……あなたねえ」
「だ、だから落ち着けって!」
 二人の間に入って止めながら武は思う。……大丈夫かな、今回。だが人間関係のことは前回と同じように行動したからと言って同じ結果になるとは限らない。
「未来を知ってるのも考え物だよな……」
 小さくつぶやくが二人は全然聞いてない。ますますヒートアップしている。

「……さっきから気になっていたが何を探しているのかね?」
 執務室に来るなりがさごそ探しているアールクトをさすがに不審に、或いは手伝おうと思ったのかミリアが声をかける。
「胃薬を探している」
「……なぜ?」
「訓練兵を教導することになった」
「ああ、Ms.香月からも聞いている」
 それと胃薬が繋がらない。
「……俺の担当は白銀武だ」
「あ~なるほどね」
 得心が行ったとばかりに頷くミリア。
「そんなに嫌なら別の人に任せれば良いじゃないか」
「ギルバートはA-01の教導で手が離せないし、シオンとシルヴィアは既に担当が決まってる。ケビンとやらせたらお互いに暴走するだろうし、他の連中はあいつと一対一にすると面倒なことになりそうだ」
「……まああれだ。大ごとにならないように頑張ってくれたまえ」
「……善処しよう」
 既に胃薬を欲している時点でだいぶ危ない気もするがね、と言おうと思ったがそれは心の中に留めておいた。わざわざ負担になるようなことを言う必要もないだろうと思ったからだが。
「自分から許可を求めておいて言うのも何だが良いのか? 一応機密部隊だろ」
「どうせ彼女たちはA-01に入るのだろう? それが少し前倒しになって顔を合わせたと思えばいい」

 2001年11月17日
「さて、では彩峰訓練兵。私が貴官の教導を担当するシオン=ヴァンセット大尉だ。三日間だけだがよろしく頼む」
「シルヴィア=ハインレイ中尉です。よろしくね、榊訓練兵」
「「よろしくお願いします」」
 シオン、と言う人には武は見覚えがあった。
(あれって月詠中尉にタマがぶたれそうになったときに割り込んだ人だよな? あいつの部下だったのか)
「何をぼんやりしている白銀武。ヤル気がないなら置いていくぞ」
 イラっとした。よりによってこいつかよ! とも思った。だがそのたびに大隊長まで上り詰めた人間が無能なはずがないのだから、と自分を諫めて来た。
「全員別々に教導する。諸事情により実機が使えないのでな。シミュレータでの演習が主になるが我慢しろ」
 そう言って三人は別々の場所に向かう。確実なのはアールクト以外シミュレータデッキには向かっていないこと。
「……あの二人に何よりも必要なのは自分以外の考え方に対する理解だ」
 武の無言の疑問に答えるようにアールクトが前を歩きながら口を開いた。
「下地としてそれがあれば多少は互いに話しやすくなるだろう」
 そう言って彼はシミュレータデッキに入る。
「さて、彼女たちはそういった目的でうちの部下に教導をさせる。で、貴様は――」
 振り向いてサングラス越しの視線が武を射抜く。
「喜べ。俺が徹底的に貴様に三次元機動の真髄を叩き込んでやる」
 そう言って振り向いたアールクトの顔は……。
(どう見てもSの顔だ!)
 サングラスがあってもそう断言できた。

「くそ!」
 思わずシミュレータの中で悪態を吐く。さすがに自分で真髄というだけのことはある、と武は思った。
 いきなり始めたのは模擬戦。
『貴様も教官がどのくらい自分よりも上にいるか分かった方が身に入るだろ?』
 と言ってこちらの返事も聞かずにシミュレータに入っていった。
 聞くところによればこのOS――XM3は彼が理論を提唱したらしい。そのあたりの経緯はどうでもよかったが、武にとってはこのOSは己の操縦技能をフルに引き出してくれるものだった。同時にそれは従来よりも遥かに高度な機体制御というこの世界ではまだ誰も手に入れていない武だけの切り札となる、はずだった。
「……あいつも、俺と同じ考えで動いてる?」
 どう考えてもそれ以外になかった。XM3を動かしている衛士はみな旧OSの延長で動いている。武が訓練時に色々と教えているがそれでも、だ。当然その時アールクトも色々と教えていたが、彼はあくまで触りの部分。こういう概念だからこういう動きができる。ということしか教えておらず、具体的な操縦方法は自分で考えろといったスタンスだった。仮想敵役もまりもに任せきり。つまり、武はアールクトがどれくらいの腕を持っているか知らなかった。
 だが、今それが目の前にある。武と同じ考えで、概念で動きながらもその細かいキレが違う。着地の際の僅かな関節の屈伸、噴射跳躍の際に機体を細かく動かし航空力学的に最適な状態にする。射撃の際に重心をずらして着地位置を微妙に変える。等々上げればキリがないほど僅かに上を行かれている。
 今のところ形勢はほぼ互角。だがそれも徐々に、本当に少しずつ傾いてきている。
 搭乗機体は同じ吹雪。設定も同じ。つまりこの徐々に傾く天秤は完全に衛士としての力量を示していた。
「くっ!」
 右肩に被弾。36mmの単発なら損傷は酷くない。だが、一瞬だけバランスを崩した。それはコンマ一秒の世界。その刹那の間に武は体勢を持ち直し――アールクトは追撃をしかけた。
 至近距離からのセミオートでの36mmの連射。マズルフラッシュが瞬き武の吹雪の機体情報を次々と赤に変えていく。
 それでも反転噴射跳躍で距離を取る。が、それを読んでいたかのように水平噴射跳躍で開けたと思った距離が一瞬で零に戻る。もしも武が下がらなかったら激突するタイミング。まともな神経の人間ならそんなことは絶対にしないだろうという機動だった。そしてそのせいで武はこの後の攻撃の組み立てを全て破棄する。
 今から始まる攻撃を凌げなければ反撃の機会など訪れないと本能で理解した。
 背部兵装担架の基部が起動。満を持して74式近接戦闘長刀を手に取るアールクトの吹雪。刀身を保持したリップにある八ヶ所のロッキングボルトが炸裂し、強制解放されると同時に火薬式ノッカーが長刀自体を振り上げる。両腕で保持され、唸りを上げて振り下ろされる74式近接戦闘長刀。主腕のトルク、振り下ろされることによる重力加速度、そして兵装担架の各種機構による加速――現状の冥夜の抜刀すら霞む高速の抜刀。それを回避すべく武の吹雪は右腕のナイフシースから副腕が右手に65式近接戦闘短刀を握らせようとする。
 だが、間に合わない。吹雪が65式近接戦闘短刀を手にする前にアールクトの吹雪の74式近接戦闘長刀が武の吹雪を真っ二つにするだろう。それだけの威力を備えている。だから武は更に後方に飛びのきつつ87式突撃砲を投げ捨て、相手の振り下ろしを僅かでも鈍らせようとする。87式突撃砲を切り裂く74式近接戦闘長刀。その瞬間、僅かに74式近接戦闘長刀の振り下ろし速度が落ちる。その僅かな差で武の吹雪は再び武器を手にする。
 74式近接戦闘長刀と65式近接戦闘短刀の間合いの差。それは比べるまでもない。だが、西洋の重さで切る剣ならともかく、74式近接戦闘長刀は日本式の――引いて斬る刀だ。間合いと言ってもその実際は物打ち――本物の日本刀なら刀の殺傷性は切っ先3寸の内が最も高く、その箇所以外の範囲なら致命打にはならない。
 冥夜との会話の中でそれを知った武は間合いを詰める。反転噴射をキャンセル。慣性で機体バランスが崩れそうになるのを強引に持ち直し、水平噴射で加速しての踏み込み。物打ちの内側、武の65式近接戦闘短刀が最も威力を発揮し、アールクトの長刀は物打ちの内側で威力が減じる間合いに。

 だが、アールクトの方が一枚上手だった。

 87式突撃砲を切り裂く瞬間まで両手で保持されていた74式近接戦闘長刀。だが、武が間合いを詰めた瞬間にはそれは片手になっていた。ならもう片方の手はどこに?
 決まっている。武を打ち倒すための位置。他にありえない。
 既に握られている65式近接戦闘短刀。そして本来必要な間合いを詰めるという作業は必要ない。何故なら、武自身がその間合いを詰めた。65式近接戦闘短刀が最も威力を発揮するその間合いに。
 小さく、しかし戦術機の装甲を切り裂くには十分な威力を持ってそれが振るわれる。判定、管制ブロックに致命的損傷。大破判定。
 武の負けだった。

「なかなか悪くなかった。ああ、想像以上だ。正規兵でもこれだけ動けるのはそういないだろう。最後の短刀での踏み込み。あれは良い判断だ。並みの衛士なら反応できずに切り伏せられただろう。ただお前にとっての不運は相手が私だったことだ。決してお前は弱くない。私が強すぎただけだ」
(……誉められてるはずなのに妙に苛立たしいのは何故だ)
 妙にアールクトは上機嫌だった。その上機嫌の理由は武にはわからない。こうして武を負かすことができた程度で浮かれるような人間にも思えなかったし、仮にそうだとしたらただでさえ低い武の中のアールクト株が更に下がることになるが。
「さて、白銀訓練兵。今回の模擬戦で私とお前の実力差がはっきりしたわけだが……何が違うと感じた?」
 何が、というなら何もかもだが……。
「根本では差を感じませんでした」
 武はそう断言する。そう、根本――剣の技量や機体運用の巧みさを除けば差はなかったように武は感じた。
「……よし。それに気がついたなら良い。自覚があるだろうが……お前と私の操縦概念は他者とは違う。他の連中がやっているのはあくまで従来の概念であのOSを使っているだけだ。それではXM3の本来の力の半分も発揮できない」
 まあ、従来の概念で八割まで迫る猛者もいるけどな。と遠くを見ながら言うアールクトに何となく同情を覚える武がいた。
「お前に操縦技能を、お前の本領を発揮させることが出来るのは世界広しと言えども俺だけだ。だから、俺はお前に俺の持つすべての技能を徹底的に叩き込む」
 そこで一旦言葉を切り背中を向けてこちらを振り向きながら言う。

「ついてこれるか?」

 答えなど問われるまでもない。
「当たり前だ!」
 その後上官への口の利き方について一時間ほど説教された。それに理不尽さを感じたのは武のせいでは無い。

 2001年11月18日
「……明日の訓練は急ではあるが中止となった」
 その日の訓練も終わり、全員が集まった中でまりもが口を開く。
「急な話ではあるが、明日国連事務次官が当基地を査察することになった。よって中止だ」
 それに慌てたのは武と壬姫だ。武はその日にHSSTが落下するのを知っているため。壬姫は自分が書いた手紙の内容のため。
「先生! HSSTが落下してきます!」
「あうあうあうあうあうあうあ~」
 二人はそれぞれ行動を起こし、来訪の日は何事もなく終わる――はずだった。

 2001年11月19日
 視察ももうすぐ終わる時間のはずだ。簀巻きにされた武はトイレに転がされながらそう考える。……少し目の端に水滴が見えたのは気のせいでは無いだろう。
「ふう……何事もなく終わったか……」
 武の視点ではそうだった。
 夕呼の視点でも特にこれといった問題は起こらなかった。
 アールクトの視点でも予定どおりに終わったことに安堵していた。
 ミリアから見てもその日は何事もなく終わった。

 だが、もっとマクロな点で見ると何事もなくとは言えなかった。

「狗に紛れ込ませた虫はどうだ?」
「気付かれることもなく、各所に分散しています」
「ふん……所詮は黄色い猿か。思うように動いてくれるわ」
「まあまあ。愛玩動物は馬鹿なくらいが可愛いですよ」
「確かにな」
 暗い一室でクツクツと笑い声が響く。
「これを足掛かりにあの魔女を蹴落とす」
「……だがあの小娘はどうする? 大層な建前を並べてはいるがどう考えてもあれは向こうに与している」
「構わん。諸共処理すればよかろう。既に奴は不要だ」
「だがあの頭脳は魅力だ。簡単に捨て去るには惜しい」
「しかし生かしておいて今回のように噛み付かれるのは困る」
「ならば四肢を削いで保管おけばよい。……貴重な古書というのはそうするものだ」
「確かにな。本に手足など不要か」
「違いない」
「あちらの解析は?」
「ブラックボックスの根幹部の複製に成功したらしい。もはやオリジナルなど不要。この件で使い潰してしまえばいい」
「……そうだな。奴も年を越せるかどうかという状態だ。カードを切るなら今、か」
「戦力的には十分だ。あれなら我らの関与も疑われまい」
「あの小娘なら感付くかも知れんぞ? われらの基準で考えては危険だ」
「気付いたら気づいたで構わん。気付いた時には既に手遅れだ」
 彼らには絶対の自信がある。例え話題の小娘がこちらの動きに気付いたとしても既に彼女では対処できないレベルに達していると。
「虫はいつ動かす?」
「引金は奴らに引かせてやろうじゃないか。楽しませてもらった大道芸人に施しをやるのは礼儀だろう?」
「ええ、我らのためによく働いてくれたのです。それくらいは譲るべきでしょう」
「尤も、埒が明かないようならこちらで更に引金を引きますがね」
「文字通りにな」
「では手筈どおりに」
「ああ、風の噂では恐らくこのあたりに動くだろうとのことだ。派遣できそうな部隊を見繕っておけ」
「我らの手駒を含ませて、ですな?」
「人聞きの悪い……同志、と呼んであげたまえ」
「以前同志と呼んできた彼はとんだ無能でしたので」
「ああ、彼か……実に中途半端な真似をしてくれた。おかげで一時期私たちも動き辛くなってしまったよ」
「本気であの小娘を落とすつもりだったならあんな半端なやり方ではなく徹底的にやるべきだったのにな」
「しかしおかげで別のところには穴もできました。その点は感謝しても良いでしょう」
 再び笑い声が室内に満ちた。明るいとは言い難い声が。
「では私はこれで」
「ああ……我らが祖国のために」
『祖国のために』

 だがこれは誰も知らない話。ここにいた人間しか知らない話。
 だから武にとって、夕呼にとって、アールクトにとって、ミリアにとって、11月19日は何もなかった日だった。

 2001年11月20日
「さて、これで俺の教導は終了だ」
「あ、ありがとうございました」
 初日に教導中はちゃんと上下関係を意識しろと叩き込まれた成果か、普通の武の挨拶が響く。
「今日はゆっくり休んで明日からの戦いに備えておけ……俺の教導とは比べ物にならないほどの険しさだろう」
 そうしみじみと言うアールクトに武は激しく同意した。なにしろこれから待っているのは千鶴、慧の二人の間を取り持つ。少なくとも訓練中、任務中は息を合わせられるようにしなければいけないのだから。
「……では解散。神宮司教官には俺から明日からの訓練に復帰することを伝えておく」
「はっ。失礼します」
 その背中を見送ってアールクトはため息を吐く。
(順応しすぎにもほどがあるだろ!)
 三日で教えられることなどたかが知れてると思ってた。精々今後何かの成長の切っ掛けになれば良い。その程度のつもりだった。
(三日であり得ない吸収率……これはミリアの仮説が当たってたか?)
 たったの三日。その三日で武の操縦技能は劇的に向上した。むろんアールクトとしては一対一なら全然負けないし、小手先の技も含めれば圧勝できる自信がある。
 だが、今の白銀武に、彼の操縦技能に匹敵する衛士が世界に何人いるだろうか? 少なくともアールクトの部隊にはいない。総合力で見ればまだまだ勝っているが、あそこまでの変則機動を相手にしては総合力などという器用貧乏な連中では勝てないだろう。それこそ総合力でも勝ってある一分野で互角に近い人間でもない限り。
 たったの三日でそこまでの化け物になってしまった。無論、心理状態など実戦にある様々なファクターを考えれば順位は大きく下がるが。
「これは嬉しい誤算、で良いのかな?」
(だけどこれでまた俺の知る未来から遠ざかった)
 今持ってる情報がどれだけ役に立つのだろうか。溜息が洩れそうになるが堪える。
 本当に溜息をつきたくなるのはこれからなのだから。

 2001年11月21日
「それでは恒例の対冥夜分隊対策会議を始めたいと……おもいます……」
 腕組みをして沈黙を保つ千鶴と慧の圧力に負けて声が小さくなる武。普段ならこれくらい無視できる。だが、今二人が発しているこの重圧の前でとてもそんな真似は出来ない。
(何故こんなに空気が重い……?)
 心当たりがない。まさか自分の知らぬ間に喧嘩でもしたのかと思ったがそういう訳でもなさそうだ。
「必要ないわ。白銀」
「うん、必要ない」
「いや、必要ないってお前ら」
 何でこんな時ばかり息が合うんだと突っ込みたくなる。
「だから対策を練る必要なんてないわよ。もう私と彩峰で練ってあるから」
「あとは白銀の意見を聞くだけ」
「へ?」
「だから、昨日の夜私と彩峰でじっくりと話し合ったの。普段の個人的感情を訓練中は忘れようっていう前置きの元ね」
「そういうこと」
 何時の間に、と武は思う。一体アールクトの部下だという二人がどういう教導をしたのか武にはわからないが、何かをするまでもなく二人の関係はだいぶ軟化していた。
(良い事なんだけど……)
 昨日寝る間も惜しんで色々と考えた俺は一体何だったんだと言いたくなる武だった。

 模擬戦の結末はわざわざ言うまでもないだろう。千鶴、慧、武のA分隊の最大の欠点でもある連携の不備が完全にという訳でもないが改善されたのだ。その技能を十分に発揮し……負けた。流石に連携が取れていようが、壬姫の狙撃は甘くなく、冥夜、美琴もA分隊に劣る技量では無い。これまでにない接戦だったが、負けた。これがA分隊側のみにXM3があったというなら勝敗は覆っただろうし、回数をこなせばこなした数だけ勝敗は変わっただろう。つまりはそれくらいの接戦だった。
 しかし負けは負け。A分隊は――一週間の兵舎のトイレ掃除を命じられた。
『この程度で済んでよかったと感謝しておけ』
 というのはまりもの談。
 また、その兵舎のトイレという閉鎖空間の中で千鶴と慧が口論を始めないわけがなく――武の胃に負担をかけるようになったのは余談である。

 2001年11月25日
 ようやくこの日が来た。アールクト=S=グレイは万感の思いを込めて呟く。思い返すのは先日のこと。
『これ……! この図、見たことありますよ!』
 ついに気がついたのだ。白銀武が、鍵に。オルタネイティヴ4を成功に導く鍵に。
『違う……これ、BETAのいない世界で見たんだ。そう、この図にバツをつけてその隣になんか数式を……』
 長かった。これでようやく、これまでとは違う結末を迎えられる。
 口元に笑みが浮かぶ。ようやくだ。
「これでやっと、俺の目的が果たせる……」
 部屋の照明が瞬く。短時間だが停電が起きる。つまり、転移装置の電力供給のためだろう。アールクトは記憶から該当することを思い浮かべ、笑みを深くする。
「これでやっと…………」

 2001年11月27日
 転移実験の関係で夕呼の執務室に向かう武。
(今度こそ世界を救える)
 部屋の前まで行くと霞が佇んでいた。
「お、何だ? 霞も先生に用事か?」
 こくりとうなずく霞に微笑みかけながらIDカードを通して執務室に入る。と。
「副司令なら司令室に行きましたよ」
「うわっ!」
 見知らぬ男の声に身構える武。執務室の中央に視線を飛ばすとそこには声の主と思われる男がいた。
「はじめまして」
「え? は、はじめまして」
「作りものにしては良くできている」
「むがっ?」
 いきなり頬をつねられて奇声をあげる武。それを振りほどく。
「なにするんですか!?」
(こいつ……あっさりと俺の懐に入りやがった……。俺だって警戒してたのに!)
「――白銀武。本物か」
「な……」
「警戒しなくても大丈夫だよ。社霞ちゃん?」
 武の困惑は深まる。心当たりは――無いわけでは無かった。城内省がらみ。今の白銀武の名を知る人間は訓練校の人間を除けばほとんどそれになる。
 そもそも夕呼の執務室はそんな簡単に入ってこられるような場所では無いのだ。そこにいる時点で警戒に値する。
「ふむ……無用な警戒心を与えてしまったようだね。シロガネタケル?」
「そうやって名前を連呼するから怪しいんですよ」
 怪しいことこの上ない。
「騒がしいわよ。人の部屋で何やってんの」
 その無意味な論争は夕呼が戻ってくるまで続けられた。

 来客を追い払うように退室させ、夕呼は深く椅子に腰かけて溜息を吐く。転移実験も順調。何の問題もないはず、だ。
 白銀武が00Unitの根幹理論を否定し、正しい物の在り処を示した。正直、他世界の自分とはいえ他人に頼るのはあまり良い気分では無かったが仕方ない。自分のプライドに拘って人類を滅ぼさせるわけにはいかない。
 だが、と夕呼の胸に一抹の不安が過ぎる。ただ一人――正確には二人、か? この事態を予見した人物がいた。
 ミリア=グレイとアールクト=S=グレイの二人。彼らだけが最初から白銀武が鍵だと言っていた。彼こそが救世主だと。確かにそうだろう。こうして人類を救うための研究に貢献などと呼べるレベルでは無いことをしてくれた。
 だったら、なぜあの二人はそれを言わなかった? 気付いているなら武が来た時点であの図を見せれば00Unitはもっと早期に完成し、人類にとってのプラスになったはずなのに。
(やっぱり完全には信頼できないわね)
 それなりに信用はしているが。きっと彼女たちは利害が反したら自分を見切るだろう。それは夕呼としてもお互い様だから責めるつもりはない。
 付け加えるなら武が理論回収のために転移実験をした翌日。何事もなかったかのような顔で。
『先ほど00Unitの問題点の因果情報を受け取りました。私ではどうしようもないですが、Ms.香月にお知らせしておきます』
 と言ってODLを経由してBETA側に情報が漏れる可能性があるという情報を伝えてきたが……それも怪しい。
(本当はもっと前に受け取っていたけどあえて今明かした? だとしたらその理由は?)
 一番可能性として高く、その行動で確実に効果が見込めるのは完成の遅延だが――。
(する意味がない)
 完成を妨害するならある意味本来の立場に戻った正しい行動だと言えるが、完成を遅延させてどうするというのだろうか。そもそもこの程度のことは大した遅延にもならない。元々最終的には反応炉を介さなくてもODLを浄化するつもりだった。そのための研究は進んでおり――簡易浄化装置を大量に並列で繋げば解決している。コスト面を度外視すれば既に完成しているとも言えるのだから。
(これも単に稼働開始が少し遅れるだけ)
 ならば次、向こうが完成が遅れることで何らかのメリットがある。ましてや彼女たちは未来の情報を得ている。それも加味すれば可能性としては低くないが。
(……流石に思いつかないわねえ)
 稼働開始が遅れてメリットが生じるというのは考えにくい。少なくとも夕呼には考え付かなかった。
「……まあ良いわ。少なくともこれで00Unitは完成する」
 このあと何か手を出してきても問題はない。オルタネイティヴ本計画と予備計画では動かせる権限の規模が、優先度が違う。何か企んでいたとしてもどうにかできる自信があった。

 12月5日。
 他者にとってはこれから意味を持ち――アールクトにとっては既に意味を持つ日が始まる。

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