2001年11月11日白銀武がBETAの襲来を告げた日だ。「白銀の記憶が正しいか、そして私の理論の証明が出来るのか?大きな賭けだわ。」不安と期待が入り混じる複雑な心境で夕呼は呟く。空の上ではすでにオルタネイティヴⅤ推進派が活発に動き始めている。夕呼に残されている時間が少ない。今夏の作戦では直属部隊を動員した。それだけでは無い。帝国軍に情報をリークし、自分たちの作戦に協力を頼んだのだ。これで空振りなら夕呼は全てを失いかねない。基礎段階で不調を示しているオルタネイティヴⅣの信用は失われつつあるのだ。だが、BETAが情報どおりに動けば信用はもちろん、検体とそしてもっとも貴重な時間が手に入る。今回の情報はオルタネイティヴⅣ本来の成果とは違うのだが時間稼ぎには充分な成果と言える。「成算は十分にある。「白銀武」が持ってきた情報だからね。あれは本物の「白銀武」。そうよね。」隣にいる霞に笑いかける。霞はその視線を受け止め力強く頷く。白銀武は死んでいる。その霞のリーディングに間違いはない。鑑純夏は確かに白銀武が死んだのを確かに見ていたからだ。だが、同時に鑑純夏は白銀武が会いにくると信じている。その矛盾した想い。それ自体はおかしいことではない。果てしない孤独と絶望の中で彼だけが彼女のよりどころだった。そして現れた「白銀武」。彼女の思いに応えるように確かな存在として現れた。だが彼が持ってきた情報は決して明るい未来では無い。むしろ絶望へ続く道を示した。しかし持ってきた情報はすべてではない。「鑑純夏」に関する情報に大きな間違いがある。「鑑純夏」に辿りつけなかったのだろう。ならば「鑑純夏」に辿りつければ答えは変わるかもしれない。彼女の目覚めはオルタネイティヴⅣにおいて重要な意味をもつからだ。「行き詰ったこの状況を変えるためには手段を選んでいる暇はないのよ。これは最初の賭け。 ラピス夢を見ていた。誰かが悲しんでいる。その悲しみに私の胸の奥が小さく疼く。何故泣いているの?誰かが答える。「・・・ちゃんがいないの。」会いに行けないの?「・・・ちゃんは」「私を選んでくれなかったから。」沢山の女の子が見える。「死んでしまったから。」体の欠けた男の子が見える。声が聞こえるたびに私の中の何かが軋む。「私は想いを伝えられなかったから。」その言葉を聞いたとき軋みは明確な痛みになった。私の中のあやふやな不安が形になったような気がした。「起きたか?ラピス。」「ん、どうした、泣いているのか?」「泣・い・ている?私が?解らない・・・」「まあいい、地球へ飛ぶぞ。ユーチャリスのコントロールを頼む。」ラピスは小さな違和感を感じた。だが、黙って言う通りにする。船体が光に変わりそして・・・激しい振動に襲われた。