香月 夕呼サイド綺麗に詰まれた書類の山。書類の山といってもここ部屋の主が溜め込んでいるわけではなく、それだけ多忙ということをあらわしているに過ぎない。その部屋の主である香月 夕呼はその中の一枚を片手に持ち、それに書かれたものに対して自他とも認める最高の頭脳を活かして考えている。「あのジャミングはBETAによるものではなく、XMNシステムを起動したときに00ユニットタイプMが発したものか……。 発した原因も現段階では不明、自分で作ったものながらわけがわからないわね。 まあ、グレイ系の物質もまだ未解析な部分がただあるし、人間という生物……特にESP能力保持者のことなんてわかってないんだから――」仕方ないとはいいそうになって口をつぐむ。この部屋に誰もいないからといって弱音を吐くような真似をしたくない。仕方ないで済ませるなら凡人でもできるが天才である自分はそこで済ませるわけには行かない。次の作戦でも同じようなことが起きるようでは困るのだ。そこまで思うと00ユニットのバイタルデータを手元の端末に表示させ原因を洗い出す。タイプKはシミュレーターの時にそういったことを見せるようなことはなかった。可能性の話ならあるかもしれないがまずは実際に行ったタイプMを主軸に考える。タイプKにも搭載されているESP能力は社とタイプMの複合タイプだ。リーディングにプロジェクション、それと未来予測演算能力……!。そこで思い出す御城にもあるあいつら兄妹特有の能力、リーディング遮断。あれが何らかの作用で拡大してジャミングになったと仮定すれば辻褄が合う……まずはこの線から見ていこう。丁度良く彼女らがここに来ることになっているから事情聴取するのために呼び出す手間も省ける。受話器をとる手間も省けたわね。……それと伊隅と鳴海にも説明しなければならない。タイプKのことは既に釘を刺してあるから問題ないとしてタイプMのほうは少し手間がかかりそうね……。…………あっ。そこで私は重大なことを思い出し結局受話器をとることになった。「こちら中央作戦司令室」「私よピアティフ」「何でしょうか副司令?」「伊隅のやつはもういっちゃったかしら?」「ゲートに問い合わせてみますので少々お待ちください…………お待たせいたしました。伊隅大尉は既にゲートをとおり帝都へと向かわれたそうです」「あ~そう」「……緊急のことなら呼び出しましょうか?」「いえ、そんなに急ぎのことじゃないから大丈夫よ。ありがと」そういって受話器を元の位置に戻す。そういえばあいつは他の姉妹に武道館で会うことになっていたんだっけ?……私も少し疲れてるみたいね。それにしてもピアティフのやつ何か機嫌がよかったみたいだけど……やっぱあいつのせいなのかしらね?マブラヴALTERNATIVE~立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ ~第六章その2御城 衛サイド昨晩ピアティフ中尉との再会もできた。あの後ゲートで伍長たちにも久しぶりに会い、ピアティフ中尉には聞かれないほどの声でいつプロポーズするなんていわれたり、神宮司軍曹の墓の前で鳴海中尉……いや、今は大尉か、が速瀬中尉に絡まれていたり、ついでに私と彼女のことをからかわれて彼女はまんざらでもなかったとか……とにかく幸せな夜だった。それで健やかな朝を期待したのだが……。「…………」「…………」再会してからの健やかな朝……になるはずだった。その朝は一体全体どこに行ってしまったのだろうか?茶碗に乗る白飯(合成)を箸でつつきながら目の前の現状を確認する。私の横にはエインヘリャル中隊3人娘が何やら浮かれて落ち着きがなく、視線を膳に向けたり目の前の人物達に向けたりしている。そしてその視線の先を見るとそこには帝国斯衛軍第19独立警護小隊所属の3人の少尉と月詠中尉がいるわけだ。私には彼女達とはそれなりの面識があり、別段意識するような関係ではない。だが隣の3人の元帝国軍軍人としては目指していただけあって、目の前に斯衛軍がいることに歓喜しているのだ。それでその視線を受けている月詠中尉たちはというと……。月詠中尉は全く動じることなく味噌汁を啜っており、神代、巴、戒の3人の少尉は一見動じていないようだが、先程から箸があまり動いていない。そもそもなぜこのようになったのか?元207分隊の皆と食事を取ろうと考えていたのだが、点呼が終わりPXに向かおうとすると3人が食事に誘いに来た。まだこの基地になれていないだろう3人のことを考え2つ返事で了承し、ここに向かってきたわけだ。ここにつき京塚曹長に昨日やられたように音がなり響くほど背中を叩かれ食事を受け取った。ここまではいい。偶然なのか必然なのかわからないが月詠中尉たちにばったり出くわし、なし崩し的にそのまま席に着いたのだこの時間帯に月詠中尉たちが食事にくるなど普通はないのだが、気まぐれなら気まぐれで済んでしまうだろうが、生真面目な中尉ならそれはないだろう。なら私のことを待っていたのだろうか?「…………」「…………」いまだに続く沈黙。この重苦しい空気が回りに広がり、何事かと視線を向けてくる輩が増えてきている。この状態では話しづらいことこの上ない。だがその時今まで動じることなく食事を進めていた月詠中尉がお椀をテーブルに置く。何をするつもりかと思えば、周り向かって一睨み。それだけで視線は波が引くようになくなっていった。……さすがですね。私の横で九羽たちがなにやら騒いでいるがこの際無視する。「……挨拶しておくとしよう。久しぶりだな御城少尉」「そうですね。月詠中尉」「貴様が生きていたと聞いたときは驚いたが、思ったより元気そうだ」そういってちらりと九羽たちを見る月詠中尉。……私は手を出したことはありませんから誤解しないでいただきたい。「いえいえ、中尉こそ元気そうで何よりです」「まあ、それはともかくお前に話しておきたいことがあってな……私達はもうすぐここの基地を出る」「…………やはりですか」「貴様のことだから事情はわかっているとは思うが……名に恥じぬ行いを期待する」「……わかっていますよ中尉。御城の名にかけて全力を尽くします」「ふっ、だがそれも短い間かもしれんな……」「?」「いや、なんでもない。用件はそれだけだ。横にいる少尉たちには悪いが今日はお暇させてもらう……御城、達者でな」「中尉もお元気で……」月詠中尉が席をたちそれに習い神代少尉たちも立つ。月詠中尉は盆をもつとそのまま振り返らずに歩いてゆく。神代少尉たちとは今回一言も会話しなかったが、3人とも一糸乱れぬ敬礼を行いこれまた去ってゆく。盆を持てはいるがその後姿はいつものように美しかった。「おい御城」月詠中尉たちの後姿に見とれているところに無粋な声がかかる。声の主はさっきからみーはーのように騒いでいた九羽だ。「なんだ?」「つっ、月詠中尉とはどんな関係なんだ?」「……一つの戦場で唯一つの守るべきもののために戦った戦友だ」-----------------------------------------------------------------白銀 武サイド「――次の作戦、甲20号作戦は近い。今日の訓練での反省を活かし、明日はさらに突き詰めてゆく。 明日帰ってくる大尉に恥をかかせる様なことをするな」!「――はい!(全員)」ハイヴ突入シミュレーション。佐渡島で得たデータをもとに作られた最新のシミュレーターミッションだ。オレ達がやったのは甲20号のハイヴデータで、ヴォールクデータではなし得なかった最深部到達を5回もやり遂げた。オレは内心狂喜乱舞している。純夏たちががんばって得たデータが役に立っている……それを昨日の今日で実感できたのだ。速瀬中尉も鳴海大尉が生きていたことで調子は上向いている。……まさか死んだはずの想い人が生きていて同じ戦場を駆け抜けていたなんて思いもしなかっただろう。現実に再会してこれで堂々と三角関係突入というのだけど、軍人だからそこまで激しくはならないだろう……多分。「それともう一つ!甲20号ハイヴは甲21号ハイヴよりも深いとデータにある。なので私達がここを攻略すれば記録は伊隅ヴァルキリーズのものになる――」…………相手が想い人でもあの時のことは根に持っているんですね中尉。「――ともかく本日の訓練結果を各自反省し、一層の努力をすること。本日の訓練はここまでだが、一つ伝えることがある」まだ何かあるのか?「明日の午後に整備明けの戦術機の試運転ついでに第0中隊のやつらとの親善試合をすることになったわ」!御城たちとやりあうってことか。思えばあいつとまともにやりあったのはXM3の初披露のときでしかも決着つかずだったもんな。ここで白黒つけるのも悪くないな。でも御城の部隊の機体も合わせて18機の機体をオーバーホールしたっていうのに早くないか?……そういえば昨日も遅くまで格納庫が稼動していたみたいだから貫徹で整備をしていたんだろう。相変わらず先生も無茶なことをするな。わざわざ親善試合のために整備兵の人たちには無理させちまったようだ。「相手は6機……こっちの数とは合わないから2隊に分けて戦うことになるわ。人選なんだけど…… 第1部隊は白銀、御剣、彩峰、榊、風間、そしてあたし……私がいうのも何だけど豪く攻撃的ね」「!!(全員)」「大尉が決めたんだけど……第2部隊は伊隅大尉、宗像、涼宮、柏木、珠瀬、鎧衣だ。こちらは支援射撃を重視しているみたいね。……白銀!」「はい!」「この部隊編成には何の意味があるかいってみろ!」部隊編成の意味……これは……オレ達の時と同じだ。大尉も人が悪いな……わざわざ試すようなことをするとは。「この配置の意味は第1部隊がBETAでいう要撃級や突撃級に該当する近接戦闘を想定したもので、第2部隊は光線級を想定したものです!」「そのとおりだ。私達があいつらを試すことになる。いやな気分をするやつもいるだろうが、 どれだけの実力があるかわからないようなやつに背中を預けるわけにはいかない。明日は絶対に手加減するな!――以上、解散!!」……大尉がいない分の変則的なフォーメーションもちゃんとできてるしよくやっている。今日は御城たちとの合同訓練はなかったけどあっちのほうはどうなんだろうか?そんなことを考えていると向こうからお馴染みの5人がやってくる。「タケル~」「ん?なんだ美琴」「いやね今日の訓練すごかったよね~」「ああ、そうだな。これも佐渡島でのデータのおかげなんだろう」「確かにあれだけBETAの数が少なかったのはもっとも安全なルートを通っていたからなのだろう」「冥夜のいうとおりだろうな」「訓練のこともそうですけど明日の御城さんたちの部隊と演習をするなんてちょっと驚きですね」「オレは明日が楽しみで仕方ないよ」「……御城を蟹にする?」「……つまり一泡吹かせたいと?」「ウン、ウン」「口で言うな」他愛のない会話。だけどそれがオレが生きていることを実感させることであり、守りたいと思う。……会話中にしんみりしちゃだめだな。もっと話題を出さなきゃ。「でも、第0中隊……エインヘリャル中隊の使っているジュラーブリクだっけ?あれってどういった機体なんだ? 設計思想も不知火とは大分違うみたいだけど……」「たしかアラスカ・ソビエト軍が開発した第3世代機とはきいてはいるが、性能面のことは全く知らんな」「そうね。後でデータベースで検索してみるのが得策ね」「お?委員長らしいね~」「……はあ、突っ込むのも莫迦らしくなってきたわ」「なんだよそれ?」「別になんでもないわよ」こうして明日の演習の対策を練っていると中尉たちもこれに加わり、鳴海大尉には絶対負けるなと速瀬中尉に檄を飛ばされる。……あとその理由が墓参りの後どっちが強いかどうかの痴話喧嘩が理由だと涼宮中尉に聞かされるのだった。-------------------------------------------------------------九羽 彩子日記横浜基地に着て2日たった。鳴海隊長は2人の中尉にやきもきされたのだが、今日はなにやら少し怒ってた……どうしたのだろうか?それはそうと朝はあの月詠中尉に会えて感動した。でも、一言も話せなかったのでとても残念だ。明日の合同演習は楽しみだ。ついでに鳴海隊長の昇進祝いも合同で行われるらしい。………………。……御城があまりかまってくれない。これだけ積極的になってものらりくらりとされて……はあ。それにあの金髪の通信仕官……香月副司令の副官もやっているらしい。あの女も御城に気があるみたいだ……負けられねえ。初恋がどうだのこうだの魅瀬と元気に言われているが、そんなのしらねぇ。なんとかすればオレの勝ちに決まっている!!……根拠はねえけどな。~~~~~こうなったらヴァルキリーズのやつらから情報を手に入れたほうがよさそうだ。そうと決まったら即実行、明日聞いてやる!------------------------------------------------------イリーナ・ピアティフ日記あの人と再会……。涼宮中尉がいうには御城少尉は肌の色で判断するような人物ではないとのこと。これは元207のとある少尉に聞いたことだが、アメリカ的発言は禁則とのこと。……まあ、私がそんな発言をすることはありえないが注意しておこう。ともかく女性陣が声をそろえていうことはもっと積極的になったほうがいいらしい。でもそれって私という人物像とかけ離れてるようなきがするし……あの人が受け入れてくれるかどうか……。それはともかくアプローチは継続してゆこう。…………今になって気づいた。A少尉に聞いたのは間違いだったのかも……口止めしといたけど大丈夫かしら?あの人とはなんでも殴り合いをするような仲だとか。今日も格闘訓練?で模擬戦をやったとかしなかったどか……。まさかあの人はサディ――そんなわけな――逆なこともないわよね?……深く考えるのはやめよう。