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No.541の一覧
[0] よこしまなる者151話から[キロール](2005/10/19 00:35)
[1] Re:よこしまなる者151話から[キロール](2005/10/27 00:02)
[2] Re[2]:よこしまなる者151話から[キロール](2005/11/02 17:10)
[3] Re[3]:よこしまなる者151話から[キロール](2005/11/02 17:14)
[4] Re[4]:よこしまなる者151話から[キロール](2005/11/07 02:36)
[5] Re[5]:よこしまなる者151話から[キロール](2005/11/11 02:18)
[6] Re[6]:よこしまなる者151話から[キロール](2005/11/12 01:07)
[7] Re[7]:よこしまなる者151話から[キロール](2005/11/12 01:07)
[8] Re[8]:よこしまなる者151話から[キロール](2005/11/19 19:50)
[9] Re[9]:よこしまなる者151話から[キロール](2005/11/19 21:34)
[10] Re[10]:よこしまなる者151話から[キロール](2005/11/28 00:15)
[11] Re[11]:よこしまなる者151話から[キロール](2005/12/23 00:06)
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[13] Re:よこしまなる者151話から[キロール](2006/01/01 22:30)
[14] Re[2]:よこしまなる者151話から[キロール](2006/01/01 22:35)
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[16] Re[14]:よこしまなる者151話から[キロール](2006/01/23 00:33)
[17] Re[15]:よこしまなる者151話から[キロール](2006/01/23 00:31)
[18] Re[16]:よこしまなる者151話から[キロール](2006/02/01 02:10)
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[20] Re[18]:よこしまなる者151話から[キロール](2006/02/19 19:37)
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[22] Re[20]:よこしまなる者151話から[キロール](2006/03/09 21:37)
[23] Re[21]:よこしまなる者151話から[キロール](2006/03/09 21:38)
[24] Re[22]:よこしまなる者151話から[キロール](2006/04/05 23:27)
[25] Re[23]:よこしまなる者151話から[キロール](2006/04/27 00:19)
[26] Re[24]:よこしまなる者151話から[キロール](2006/04/27 00:20)
[27] Re[25]:よこしまなる者151話から[キロール](2006/05/11 02:39)
[28] Re[26]:よこしまなる者151話から[キロール](2006/05/11 02:40)
[29] Re[27]:よこしまなる者151話から[キロール](2006/05/15 22:39)
[30] Re[28]:よこしまなる者151話から[キロール](2006/05/15 22:32)
[31] Re[29]:よこしまなる者151話から[キロール](2006/05/25 05:22)
[32] Re[30]:よこしまなる者151話から[キロール](2006/06/11 03:22)
[33] Re[31]:よこしまなる者151話から[キロール](2006/07/05 22:56)
[34] Re[32]:よこしまなる者151話から[キロール](2006/07/21 02:28)
[35] Re[33]:よこしまなる者151話から[キロール](2006/07/25 00:07)
[36] Re[34]:よこしまなる者151話から[キロール](2006/08/18 03:21)
[37] Re[35]:よこしまなる者151話から[キロール](2006/09/03 04:46)
[38] Re[36]:よこしまなる者151話から[キロール](2006/09/03 04:40)
[39] Re[37]:よこしまなる者151話から[キロール](2006/09/19 22:50)
[40] Re[38]:よこしまなる者151話から[キロール](2006/09/19 22:54)
[41] Re[39]:よこしまなる者151話から[キロール](2006/09/29 01:03)
[42] Re[40]:よこしまなる者151話から[キロール](2006/10/05 04:34)
[43] Re[41]:よこしまなる者151話から[キロール](2006/10/30 01:06)
[44] Re[42]:よこしまなる者151話から[キロール](2006/11/09 04:07)
[45] Re[43]:よこしまなる者151話から[キロール](2006/12/08 04:07)
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[47] Re[45]:よこしまなる者151話から[キロール](2007/01/25 01:45)
[48] Re[46]:よこしまなる者151話から[キロール](2007/03/17 23:16)
[49] Re[47]:よこしまなる者151話から[キロール](2007/04/12 20:49)
[50] Re[48]:よこしまなる者151話から[キロール](2007/04/16 23:02)
[51] Re[49]:よこしまなる者151話から[キロール](2007/04/23 22:22)
[52] Re[50]:よこしまなる者151話から[キロール](2007/04/25 04:49)
[53] Re[51]:よこしまなる者151話から[キロール](2007/04/29 00:56)
[54] Re[52]:よこしまなる者151話から[キロール](2007/05/08 03:57)
[55] Re[53]:よこしまなる者151話から[キロール](2007/07/22 22:12)
[56] Re[54]:よこしまなる者151話から[キロール](2007/09/25 22:07)
[57] よこしまなる者208話[キロール](2007/12/10 00:46)
[58] よこしまなる者209話[キロール](2007/12/19 02:09)
[59] よこしまなる者210話[キロール](2008/01/04 23:59)
[60] よこしまなる者211話[キロール](2008/02/21 03:24)
[61] よこしまなる者212話[キロール](2008/04/24 01:51)
[62] よこしまなる者213話[キロール](2008/08/24 05:05)
[63] よこしまなる者214話[キロール](2008/10/18 01:38)
[64] よこしまなる者215話[キロール](2009/01/21 04:24)
[65] よこしまなる者216話[キロール](2009/04/09 23:15)
[66] よこしまなる者217話[キロール](2009/10/14 03:57)
[67] よこしまなる者218話[キロール](2009/10/21 01:03)
[68] よこしまなる者219話[キロール](2009/10/31 01:02)
[69] よこしまなる者220話[キロール](2009/12/02 03:14)
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[541] よこしまなる者215話
Name: キロール◆17d3264f ID:925ce772 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/01/21 04:24
 ≪タマモ≫
『国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった。信号所に汽車が止まった』
 
そんな小説の一説すら思い起こさせるほどに劇的に世界の様相が変わった。
けれど、この世界は優しくはない。
白く、白く、凍てつく風とどこか遠くから聞こえる獣の遠吠え。
断末魔の声にも聞こえるその声がこの世界に生命があることを告げる。
それでも、その声を聞いていてなお、ここに生命があることを信じられぬような眼前の光景。
北極か南極か、あるいは氷河期の時代でもここよりは幾分優しい世界だったのではないだろうか?
肌を突き刺し、そこから進入して心臓すら凍らせてしまうのではなかろうかと錯覚させるような寒さ。
皮膚を、筋肉を凍らせ、砕いてしまうのではないかという暴虐な寒風。
 
そしてその世界は私にとっては酷く懐かしく。
 
背後を振り返ると一様に寒さに身を強張らせている。
シロや令子の様子が一番酷い。
逆に、比較的常態に近いのはカオスとおキヌちゃん。それでもいくらかきつそうにしている。
 
「大丈夫、じゃなさそうね」
 
私の問いかけに反応したのはシロだった。
 
「も、猛烈に寒いでござる。なんでタマモは平気なんでござるか?」
 
「そうね。この世界は私の故郷によく似ているからかしら。好んではいないけど故郷であることは変わりないわ。麗しくも、懐かしくも無いけど今となっては忌まわしくも心温まる我が故郷。私はこんな世界に生まれ、生き、友も、愛すべき人も得た」
 
『タマモはキタキツネでござったか』等と見当外れの納得をする私の親友にして愛すべきお馬鹿さんの台詞に苦笑を零す。
 
「馬鹿じゃないもん!」
 
「ちょ、いきなりどうしちゃったワケ」
 
「どこかで馬鹿にされた気がしたんでござる」
 
突然叫びだしたシロに目を白黒させるエミ。
勘がいいわね。
そして私は笑みを深める。
これでこそ。
これでこそ私の真実愛すべき第二の故郷。
暖かな陽だまり。
だからこそ、陽だまりに暖かな日差しをくれる太陽を無くしたくはない。
 
静かに門を見上げる。
寒風に砕かれること無くそこに姿を見せるそれに刻まれた文字。
横島の心の一部にして秘された言葉を読み上げる。
 
寒風はただ平野に吹き
あまねく命を枯らして奪う
一人立ち尽くす者の声は
聞くものもなく風に砕かれる
全ては哀しみの前に凍りつく
愛も、未来も、魂さえも
悲しみに終わる白き世界
 
その言葉を前に、私は自分が何をすべきかが理解できた。
 
私は尾を振るい狐火を作り出すと皆に向けて投げた。
 
「熱! ……くは無いでござるな」
 
「そうね~、とっても温かいわ~。タマモちゃ~ん、ありがと~」
 
私の狐火を受け取った瞬間反射的に熱いと言いかけたシロと火を飛ばした私を疑うことも無くその火を受け止めて礼を言う冥子。
そっか。私の火は温かいか。
 
「光栄だわ」
 
私は冥子に微笑むと十二単を翻して目的の場所に向かい歩き出した。
 
「ここは、私の故郷に似ているわ。だから解るの。あの泣いている声のする場所に横島はいる」
                   ・
                   ・
 果たして、それはそこにいた。
全身に傷を負いながらそれでも己の四肢で凍てつく大地の上に立つ獣。
日本狼に似てはいるが狼のそれではない巨躯と漆黒の毛皮。獣としか形容のできない生き物。
この白い世界にたった一つ残された獣。
例え、この世界に他の生物がいたとしてもソレは己とは別種の生き物である。
そんな心理状況が生み出したのであろう獣。
真実孤独を映し出す光景。
 
この獣を、この世界を私は知っている。
この獣は、この世界は横島と出会う前の私だ。
そして、この獣が横島だ。
 
身に纏っていた十二単を纏めて脱ぎ捨てる。
背後からどさりと重い者が倒れる音がした。
振り返るとタイガーぶっ倒れていた。
雪之丞はカオスに後ろを向かされカオス自身も紳士のたしなみとしてか背後を向いていたが雪之丞は耳がまっ赤になっているのがわかる。
青少年には刺激が強かったか。
成長した今なら令子やエミに負けてないスタイルだし、色気という点ではリリシアとだって張り合える。
 
「流石は天界や魔界にも名の通った金毛白面九尾大妖狐。キンナリーやアプサラスにも負けていませんな」
 
意外なのは普段紳士然としたゼクウが堂々と直視していることだったが理解できた。
緊那羅は元は半神半精霊の享楽的な者の多い楽神だものね。
 
「ちょっといってくるわね」
 
妖気も極力抑えて獣に近づく。
無防備に、ゆっくりと。
獣がその爪を、牙を振るえば今の妖気を押さえ全裸の私などひとたまりも無いのだろう。
けれども私はそのまま獣に近づいた。
獣が私に気がつき警戒を露にするがそれでも私は止まらない。
あと3歩。
獣が吼える。
あと1歩。
獣が爪を振り上げる。
 
私は獣に抱きつき、その毛皮に体を埋める。
獣の爪はとうとう振るわれなかった。
 
「寂しいのでしょう? 悲しいのでしょう? 独りでいるのは寂しいわ。独りに成るのは悲しいわ。ねぇ、横島」
 
獣、横島は喉の奥で唸るような声を上げる。
 
「愛していたから寂しいのでしょう? 愛しているから悲しいのでしょう? 私も同じだったから、だから少しかもしれないけど解る」
 
毛皮に包まれたその体を撫でる私。
愛しく、愛おしく。
                   ・
                   ・
 私が生まれたのはいつだったろうか?
少なくとも4000年以上は昔のはず。
人間の記述を信じるのなら紀元前2070年には既に九尾の妖狐として生きていたはずだ。
まだ、妖狐として若かったのだろう。
私はその時一つの過ちを犯した。
人間の妻になってしまったのだ。
偶然、人間の治水工事を覗いたとき、一人の人間に興味を惹かれてしまったのが過ちだった。
私は興味に惹かれるまま人間に化け、女嬌と名乗りその男に嫁いだ。
男の名前は文命。後年禹王と呼ばれた男。
黄帝の血を引く神の血筋であり、家庭を顧みない男ではあったが元より独立して生きる狐にとってはそれほど気にはならなかった。
温かくは無かったがそれでも、私が私としていられるその空気は嫌いではなかった。
その頃の私は今のように忌まれる事もなく、瑞獣として崇められていた。
けれども、それは間違いだったのだろう。
文命が死んで、私も国から消えたがその頃には私は孤高を愛しながら孤独ではいられぬ存在になってしまっていた。
1000年は耐えたが、眼前で助けるまもなく妲己という女性が殺されたのを見て、その時既に耐え切れなくなっていた私は彼女に化け帝辛、紂王の妻となった。
哀れな妲己の敵討ちに、少しだけ犯人達に制裁を加えたのは確かだ。
だが辛はソレを勘違いし、また、文命ほど強くなかった辛は私の魅力に骨抜きになってしまい、私を喜ばせるためにと炮烙等の惨殺を始めてしまった。
ソレを止められなかった私にも責はあったのだろう。
やがて国は滅ぼされ私は逃げ落ちた。
太公望の投げた宝剣によって重傷をおった私は弱り、人々が口にするような邪悪な魔性としての自分と、男を誑かす女性としての自分、そして本来の狐性としての自分に心が分かれてしまった。
弱った心が人間の想いや恨みによって影響を受けてしまったのだ。
かつて瑞獣であった私は傾国の魔物と呼ばれ、居場所を無くし天竺へと逃げ込んだが、そこでも班足太子が乱心をし、国許に逃げ帰れば今度は幽王が乱心した。
居場所を無くし遣唐使に紛れ倭へと逃げたが結局そこでも追われる破目になり、絶望して自ら石と化すことになった。
そう、私は絶望した。
私は孤独に絶望した。
周りに誰がいても、誰の傍にいても私は孤独だった。
誰も私を見ていない。
私の美貌に眼を奪われても私のことを見ていない。
見ているのは美貌だけ。
私の正体に気が付いたなら私のことを見ていない。
見ているのは魔性だけ。
誰も私を見ない。私は孤独だ。
私は孤高だ。誰か私を見てよ。
誰も私を見ない。私は孤独だ。
私は孤高だ。誰か私を見てよ。
誰も私を見ない。私は孤独だ。
私は孤高だ。誰か私を見てよ。
誰も私を見ない。私は孤独だ。
私は孤高だ。誰か私を見てよ。
だから私は絶望した。
私を真に愛してくれる者はいない。
美貌に眼を奪われてそれ以外のものは眼に映らない。
魔性に眼を奪われて私を理解しようとしてくれはしない。
孤独だ。
寒い。
心が凍てつく。
 
『俺は、横島忠夫だよ』
 
今にして思えばそれは奇跡のようなもので。
4000年という永い時の中で、決して現れなかった存在は唐突に私の前に現れた。
私を金毛白面九尾の狐と知っていながらその男は私を真摯に見つめていた。
魔性に惑わされず私を見てくれている。
幼生とはいえ九尾の狐の容姿を見てもその男はそれに心を奪われない。
美貌に惑わされず私を見てくれている。
私にとって横島は太陽のような存在に映った。
太陽の光が命を育む代わりに命を奪うように。
私の心に光を齎し孤高と孤独を奪っていった。
太陽の光が陽だまりを生むように、横島の周りは温かく心地の良い場所だった。
知っている。
私はソレがどれ程特別なことかを知っている。
知っている。
私が初めてデジャブーランドへ行った時、横島が国家権力を敵にまわして私を護ろうとしたことを今の私は知っている。
知っている。
この陽だまりの中なら誰もが私を見てくれている。
美貌も、魔性も、全部ひっくるめて私を見てくれている。
この陽だまりの中で私はタマモとして生きていられる。
この陽だまりを作る太陽が横島。
陽は何れ沈むのかもしれない。
人間は生きて100年と少し。
何れ別離も覚悟している。
けど、私はまだ陽だまりの中にいたいのだ。
                   ・
                   ・
私は獣、横島にだけ聞こえる小声で囁きかける。
 
「ねぇ、横島。4000年越しの初恋はあなたが奪っていった。足りぬというなら愛情も、いえ、心の全てをあなたに捧げても良い。だからお願い。私からあなたを奪わないで」
 
私の囁きを聞くと横島は一声大きく吠えると淡い光と文珠を残して消えてしまった。
 
「ちぇ、逃げられた。女から告白をさせておいて答えも出さずに逃げるなんて無粋が過ぎるわよ」
 
禹王にも成せず、如何なる王も、権力者達にも成すこともできなかったことを横島は簡単にやって見せた。
私のことを見て、惑わされず、化かされず、真っ直ぐに私を見てくれた。
もう少し早く出会えれば、私は素直に彼に甘えることもできただろう。
もう少し遅ければ、私は魔性か女性に狂わされていたかもしれない。
遅かった。けど間に合った。
全てはこれからだ。
私は横島を奪わせたりはしない。
 
十二単を今一度着なおすと、私は陽だまりに帰る。
 
「とんだチキンね。裸の美女を前にして逃げ出すなんて」
 
鶏なら狐に食べられるのが道理というものでしょうに。
 
手の中の文珠を転がしながら不平を洩らす。
 
『俺の知っているタマモは、意地っ張りで、でも寂しがりやな女の子。少しひねくれていても心の優しい女の子。俺はそれを知っているし、皆もそれに気がついている。だからタマモは幸せにならなくちゃ嘘だよ』
 
最後に発した小さな咆哮の意味はこんなところだ。
横島は私を見てくれている。
だったら気がついてもいいじゃない。
私が幸せになるのには何よりも横島が必要だってことくらい。
 
文珠には【決/意】と刻まれている。
この白銀の世界を打ち破る決意とはどのような決意なのだろうか。
知りたい。
横島の事なら何でも。
例えそれがどのような悪夢であろうとも私は知りたいと感じている。
あぁ、なんてことは無い。
私の美貌にも、魔性にも心を奪われない男に私はすっかり心を奪われてしまっているのだ。
だから私はきっと微笑んでいた。
                   ・
                   ・
 文珠を持って門に近寄ると今までどおり、文面が変わる。

慟哭の声は届かない。
悲しみの声は届かない。
もはや誰にもこの声は届かない。
だから俺は悲しめ痛む。
悲痛は心を凍てつかせ、
そこに全ての意味は失われる。
もう、誰もいない。
 
改めてこの白銀の世界が私にとって故郷の風景なのだと気がつく。
誰にも理解されることも無く。
誰にも振り返られる事も無く。
ただ自分と、他人だけの世界。
絶対的な孤独の心象風景がこの世界。
私にとって忌まわしき故郷であり、横島にとっても忌まわしき過去なのであろう。
 
文珠をはめ込むとやはり文面がかわる。
 
皆いなくなってしまった。
誰もいない。
もう、誰もいない。
けど、魂が流転するのであれば、
輪廻を廻るのであれば、
100年の後か、
1000年の後か、
帰ってくるかもしれない。
帰ってきて欲しい。
だから、せめて。
せめて帰ってくるこの場所を、
この場所を守りたい。
ここには思い出があって、
優しい記憶があって、
みんなが眠る場所だから。
 
門をくぐる時、私は一度振り返った。
白銀の世界。
真実孤独を知る者の心象世界。
けど、こんな世界は横島には似合わない。
私は幻術でこの世界を埋め尽くした。
暖かな陽の光と木漏れ日が織り成す陰影の中に生命の満ち溢れる風景。
横島にはこんな世界が似合っていると思う。
 
そこで、私は一つ悪戯を思いついた。
雲ひとつない晴天の空に慈雨の如く穏やかな雨の幻覚を付け加える。
私なりの決意表明と宣戦布告のようなものだ。
 
横島の心の中に【狐の嫁入り】を。


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