前書きというか中書き
え~、書き始めてから最長の空白を迎えてしまいました。申し訳ございません。
実生活の方で最後の投稿よりこの二ヶ月で職場が二回変わり、職種も一回マイナーチェンジしておりまして、まぁ、同じ会社内のことではありますが^^;そのほかにもパソコンの故障が重なり長くほったらかしになってしまいました。待ってくださった奇特なお方、真に申し訳ありません。完結まで必ず突き進みますのでご勘弁の程をm(ーー)m
≪ニルチッイ≫
夜の闇の中、中央に燃える炎の明かりだけがあたりをオレンジ色に照らし出す。
祭壇に祀られた三つの石に対し私たちの居住区だけでなく、私の願いを聞いてくれる全てのネイティブアメリカンを集めこの儀式を行っている。
山のマニトゥ、森のマニトゥ、川のマニトゥ。
彼らに対して礼賛を。
過去の先人達に敬意を。
今を生きる同胞達に慈しみを。
そして我らの恩人に加護を。
「海は大地を隔てるものではありません。海の底で大地はつながりこの地球という世界を作り上げています。大地あるところにマニトゥの力は必ずや届きましょう。我らが受けし恩、命と心の両方を守ってくださった横島さん達の心、彼らの同胞の命、守れずして私たちの誇りなどどこにありましょうや」
レイラインにのってマニトゥは必ずや彼らの守りとなってくれる。
そう信じてこの戦いが終わるまで私たちは儀式を続けましょう。
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≪美智恵≫
東京の真ん中にいきなり巨人が現れた。
彼らは小蝿を追うかのように手を振り回すが、その手が触れただけで悪霊たちが消滅していく。
霊格が違いすぎるために起こる現象だが、彼らは一体何者なのだ?
敵だとすれば厄介すぎる。
「あれは、アルゴンキン族の偽神、マニトゥなのね」
「マニトゥ、自然そのものを神格化して、アルゴンキン族が人格を与えたネイティブアメリカンの守り神ですか?」
「ちょっと待って欲しいのね」
ヒャクメ様は情報収集網を広げているのかしばし黙考に入る。
「恐らく我らへの援護だろう。横島とネイティブアメリカンとの関係は良好だ。マニトゥとも関わっておったしな」
「その通りなのね。マニトゥ達はこちらの味方なのね。それも霊格だけではリリシアさんを除いてぶっちぎりなのね。多分人界で生まれた神だから冥界のチャンネルが殆ど閉じていてもパワーダウンしてないからだと思うのね」
「他にも出てくるぞ。学校からだな。いや、それだけじゃない。ゲートが開く。それに山から、川から、町から、海から、次々味方が現れる」
プロメテウス様の予言はこれ以上も無い吉報だった。
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≪愛子≫
寺社の結界が破られ無防備にされけ出された人たち。
彼らの守護霊が必死に守っているけどそれだけじゃあ足りない。
「お願い、守ってあげて」
「承知した、生徒会長殿」
生徒会長、彼らの中で私の呼び名はそれで定着しつつあった。
襲い掛かる悪霊の群に怯える少女。
その前にふわりとマントが舞った。
悪霊、そして低級の妖怪たちの首から突如として油彩用のペンチングナイフが突き刺さる。
私に横島さんや雪之丞君みたいな目があれば投げたものだとわかるのかもしれないけど私の目にはいきなり首に刺さったようにしか見えない。
飛び散る鮮血がまるでマントのように見えた。
「赤いマントは、いかがかな?」
そしてその両手には二本のペンチングナイフを握り、優雅にマントを翻す。
「恐怖に震えるがいい、人間どもよ。今宵は汝らの味方ではあるが我らは汝らの恐怖の象徴、さぁ、恐れおののくがいい」
赤マントはそう芝居がかった見得を切るのだが、
「か、かっこいい」
俗に言う吊橋効果っていうやつね。
プラス、自分のピンチに颯爽と現れて赤いマントを翻す礼服を着込んだ顔も一応美形に入る男性。
普段だったらノーサンキューないかれた格好かもしれないけどこうピンチの時はそれがかっこいいと映るのは仕方ないことかもしれない。
タキシード仮面さまという声が聞こえる。
青春ね、と私は視線をはずしてやるせない気持ちを誤魔化した。
どうも私はオタ系の青春とはそりが合わないらしい。
「惚れさせてどうするのよ」
チャチャを入れたのは花子さんだった。
花子さんは襲い掛かってくる妖怪をその小さな手で持ち上げる。
自身は宙に浮かんでいるので身長差は関係なし。
その小さな手は確実に妖怪の首を握り締める。
「首絞め遊びして遊ばない?」
花子さんが楽しげに問いかける先の妖怪の首からゴキリと硬いものが砕かれる音がした。
「さぁ、恐れなさい人間達」
花子さんは避難していた人間達にそう宣言するが。
「か、怪力幼女萌え」
と、ある意味でダメ人間の呟きを聞いてしまい、赤いスカートをつっていたサスペンダーがカクンと肩まで落ちていた。
「萌えさせてどうするね?」
「う、うるさいわね」
罵り合いながらも流石は学校妖怪の中でもっとも有名な二人だけあってその能力は高かった。
見えないほどの速さでペンチングナイフをふるう赤マントに、ヒラヒラと優雅に舞いながら次々と妖怪たちを縊り殺していく花子さん。
周りではテケテケや仮死魔霊子が脚をもぎ取り、森妃姫子が脚のない妖怪を引きずり殺し、どこからともなく吊り下がる13階段の首吊りロープが絞殺し、アギョウさんが食べて、二宮尊徳像は硬い体を生かして人間達の防衛をしていた。
いまや完全に自分と同類である学校妖怪たちの戦闘能力の高さにちょっとびっくり。
私も破魔札(直接触ると私にも痛いので手袋着用)を使って攻撃に参加。
現役六道女学院生は伊達じゃないわ。
「伊達に横島除霊事務所の事務はしていない!」
数分のうちに辺りの敵は一掃された。
途端に沸きあがる歓声。
私たちに向けられる感謝の声。
助けてくれてありがとうという声。
私はこの声を知っている。
いつも横島さんの事務所にいたからこの声を知っている。
けど、今まで学校の恐怖の体現を自称し、実際それを行ってきた彼らは知らない。
初めてなげかけられた言葉に戸惑っていた。
いい傾向だと思う。
投げかけられる言葉の意味を理解できたなら、彼らは学校の恐怖の体現として以外の生き方を見つけられるんじゃないか。
私はそうなる未来を望む。
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≪東郷平八郎≫
今一度、三笠の上に立てようとはな。
海上自衛隊の艦隊とは別個に行動して海域の戦端を担ってはいるが海から来る妖が多すぎる。
「敵前にて回頭を行う上村、片岡両中将に伝達」
敵、悪霊の集団を前にかつての戦法をとる。
あの時は敵艦隊の有効射程距離や、自艦隊の足の速さを考えての決断だったが今回は敵の射程距離もばらばら、だが、あれだけの霊団を本土にあげるわけにも行くまい。
ターンを成功させたその時、進行方向に巨大な水柱が立った。
「イクチか!」
茨城県や九州に生息するアヤカシとも呼ばれる怪魚、イクチ。
頭が通過した場所を尾が通過するためには三日かかるという大魚が目の前を塞ぐ。
これではT字ターンは完成できず無防備な状態をさらすと思った矢先に救援が来た。
救援は一隻の帆船。
その帆船はイクチに集中砲火をかけ、海中に追いやるとそのまま悪霊集団に突き進み攻撃を仕掛ける。
その帆船に付き従うように人魚や海座頭、磯女、針女子といった日本の海の妖怪がイクチに止めを刺し、悪霊集団に攻撃を加える。
「全艦再度回頭。悪霊集団の側面につけ集中砲火、前方から現れた帆船と妖怪には攻撃を加えるな」
敵、悪霊集団は帆船の圧倒的な攻撃力に加え、側面からの集中砲火に耐え切れず散り散りになった所を妖怪たちに各個撃破された。
前方の帆船から手旗信号にて休戦の合図があり、こちらもそれに応えた。
帆船は幽霊船のようだが敵意はないと判断。
帆船から一人、こちらに飛んできた。
「高名な東郷提督と戦線をともに出来たとは光栄の極み。私は彷徨えるオランダ人号の船長、ヴィスコム」
「なるほど、伝説に名をとどめる幽霊船か。あれほどの強さも理解できる。しかしなぜ日の本を守ってくれる?」
「永遠という呪いを横島忠夫という霊能力者に解放してもらい、寄港地を提供された。この場にいる妖怪たちも誰に追われることなく安息の地を提供された妖怪たちだ。我が家を守るのに理由は必要あるまい?」
それにな、と付け加える。
「海の男は総じて義理堅いのだよ。貴公もそうであろう?」
ヴィスコムが唇の端を持ち上げて笑う。
「私は。一船の船長に過ぎない。以降は貴公の指揮下に入ろう。私のオランダ人号と海の妖怪、存分に使われよ」
私も生前を顧みても滅多にないくらい笑った。
なんと気持ちの良い男であろうか。
海の男として偉大な先達に敬意を表する。
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≪美智恵≫
各地から現れた増援に興奮していたのか、彼女の来訪に数瞬気がつけなかった。
突如現れた空間の穴にホルスターから精霊石銃を抜き放つ。
「随分手荒な歓迎ね。これが今のアッシャー界における増援への出迎えなのかしら?」
「あなたは?」
「先に名乗るのが礼儀でなくて? フフフ、そんな怖い顔しなくても大丈夫よ。今言ったとおり増援だから」
「私は美神美智恵。今回の戦役における迎撃部隊の指揮官よ。総指揮官は横島忠夫。これでいいかしら」
「よろしくてよ。私はアイルランドが妖精王国コナハトの女王マブ。コナハトの王、横島忠夫の祖国の救援に来た妖精部隊の取りまとめ役」
横島君が妖精の王?
「彼は人間のはずですが?」
私の戸惑いから出た言葉にマブは冷笑を持って応える。
「あれが人間? 悪い冗談だわ。人間の限界をはるかに超えて、かつては戦神であった妖精女王のこの私すら超える力を持つ存在が人間?」
「横島君は人間です。彼がそれを望み続ける限り」
マブはクスリと笑う。
……この女、
「な、何か空気が険悪なのね~」
「同じ女帝タイプだからな。気が合わんのだろう」
「そこ、黙る!」
勝手な批評を始めたドクターとヒャクメさまに普段は使わない命令口用で沈黙を促す。
「まぁ、横島が何であれ、私の振舞った赤い蜂蜜酒を飲んだらコナハトの王であることは変わりありませんわ」
「わかりました。それで救援ということですがあなたは向かわれないのですか?」
「横島が直に頭を下げにきたというのならともかく、そうでないなら私の手を煩わせるつもりはありませんわ。まぁ、人一倍張り切っている騎士がいますから私が出るまでもないでしょう」
マブがなにやら呪文を唱えると空に大きな穴が開く。
その穴からまるで赤い彗星のような勢いで一本の槍が飛び出した。
その槍から無数の鏃が飛び出し、悪霊集団を刺し穿つ。
次いで穴から飛び出したのは二人の騎士。
「ク=ホリンが一番槍を貰った」
「すでに乱戦で一番槍もないでしょう。タム=リン続きます」
二人の騎士の後にも続々と妖精たちが続いた。
スプリガン、デイーナ=シー、デュラハン、カーシー、ケットシー、フェアリー、ピクシー、ルサールカ、ニンフ、ヴォジャノーイ、カリアッハベーラ、プーカ、リャナンシー、そのほかにも多くの妖精が穴から飛び出していく。
「今度の王様は優しいね」
「そうそう、王様なのに私たちに命令しないもん。命令されるのっていや」
「だけど女王様が相変わらず厳しいからねぇ。コナハトの王の祖国を守れなかったらどんなに怒るかわかったもんじゃないものね」
「そうそう」
「ほら、無駄口叩いてるとコナハトの女王に怒られるよ」
「あ、ティンカーベルちゃん待ってよ」
妖精たちの群はやがて光の尾を撒いて日本中に飛んでいく。
「すごいのね~。ティターニアやオベロン、ピーターパンまでこっちに来てるのね。それにエインフェリア?」
「それはそうよ。横島は全ての妖精郷の王たちに認められたのだから妖精郷は全面的に協力してるわ。アヴァロンからは来ていないようですけれども。代わりといってはなんですけれども、エインフェリアを連れてきて差し上げましたわ」
全ての妖精郷から認められているって、横島君何をやったのよ。
私が頭を抱えていると、その中で一人淡々と自分の役目を果たしておられたプロメテウスさまが次の予言を詠んだ。
「とりあえず最後の増援だ。日本中の山々から、川から、海から、森から、地の底から、都市から、妖怪たちが現れる。これで数的不利や質的な不利は完全に覆った」
日本地図のなかに戦力分布を色分けし、主戦力を大駒として現していたのだが、敵の色、赤色に半ば以上埋められた日本地図は半分以上を味方の色、青色によって覆られ、悪路王、酒呑童子、大峰山の前鬼坊、愛宕山太郎坊、比良山次郎坊、飯綱三郎、鞍馬山僧正坊、白峯山相模坊、相模大山伯耆坊、英彦山豊前坊、九千坊、金長狸、彷徨えるオランダ人号、猪笹王、山のマニトゥ、河のマニトゥ、森のマニトゥ、金毛白面九尾大妖狐の大駒が加わる。
「あきれた。神・魔でもおいそれとは手が出せないクラスの妖怪がこんなに現れるなんて。八大天狗は殆ど神だし、鬼の王、河童の王、化け狸の王も神格化されている。それに偽神マニトゥに神仙級の大妖狐、現存する最古の幽霊船。天界か魔界にでも喧嘩売るつもり? 相手が可愛そうになってきましたわ」
それは貴女もでしょうと口から出るのを押さえた。
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≪猪笹王≫
わしが突進するたびに悪霊たちが飛び四散する。
下らぬ。
下らぬとわかってなおそれを繰り返した。
背に生えた熊笹を掴み、恐怖に堪える人間の子供がそこにいる限りは。
横島から仔細を聞いた時はどうもする気はなかった。
せいぜいねぐらの山を守るくらいだった。
山に住む河童一族や天狗たち、山童たちが山を降りて戦うと聞いた時も委細構うつもりはなかった。
だが聞こえてしまった。
山のふもとで泣く子供の声を。
親とはぐれたか、捨てられたかは分からないが子供ばかり三人で守護霊に守られながら悪霊たちにさらされ怯えていた。
その泣き声を聞いた時に昔滅ぼされた一族の、我が子のことを思い出し、自制が切れた。
わしは子供らを襲う悪霊どもを一気に蹴散らすとその背に子供を乗せた。
その後も執拗に襲い掛かる悪霊たち、中には高位のものもいていくらかは傷ついたものの子供たちは傷つけなかった。
かわりにわしが血を流したがな。
しかしそのうちわしではなく子供たちを狙ったほうが良いと感じたのか、執拗に子供たちが狙われ、その度にわしは血を流す。
突然の暴風、それはわしにではなく悪霊たちに向けられた。
「苦戦しておるようだな。人間の子を守るなどお前らしくもない」
知己の大天狗、鞍馬山僧正坊だった。
「子供の泣き声は耳から離れんのでな。断末魔の泣き声を聞きたくなかっただけだ」
クククと笑う僧正坊をにらみつける。
「この先に子供を捜す人間がいたのでわしも探してやってたところだ。今は配下の木葉天狗が守っている」
「山から出ようとしなかった貴様が珍しいことよな」
「なに、貴様を保護している横島忠夫、かのものの保護を受けた鴉天狗や次郎坊の眷属の鴉天狗、八咫とかいったか。そいつに絆された次郎坊がそいつに書状を持たせてきおった。まぁ、わしも他の大天狗や九尾、悪路王、酒呑童子、九千坊、金長狸が出てくるとは思わなかったがな」
「上級妖怪せいぞろいだな。八俣遠呂智は出てこんのか?」
「出てきたとしても敵じゃろうなぁ。ぬらりひょんも出てこんわ」
周囲の鴉天狗や木葉天狗が悪霊たちを蹴散らしているので軽口も出る。
「紅葉は出てこんが滝夜叉姫は中心になって戦っておる。鈴鹿御前もそのうち出てくるじゃろう」
「早太郎が出てくれば面白かろうに」
「早太郎は知らないが、人狼族は総出で出てきたぞ?」
「ほう、奴らもわしと同じで人間を嫌っておったはずだが?」
「一族の仲間を3度救われたらしい。父親と己を救われた人狼の若い娘が横島所霊事務所に属して修行していると八咫の坊やが言っておったよ。今の人狼族は限定的だが親人間派じゃ」
「自然を壊すだけの連中にご苦労なことだ」
「貴様とて同じであろう?」
「わしは……わしは子供の泣き声がうるさかったから出てきただけだ。出てきたついでに少しばかり横島に対する義理を果たすかもしれんがな」
「素直でないやつだ」
「喧しい!」
そうこうしているうちに人間の姿が眼に入った。
だが同時にそれに襲い掛かる3体の狒々も眼に入った。
木葉天狗では荷が勝ちすぎるか。
わしの突進で一体、僧正坊の大団扇で一体、後一体がどうしても間に合わぬ。
だがわしの鼻はそれを察知し、目の前の一体に集中する。
わしの牙は狒々の胴を貫き、僧正坊の大団扇が巻き起こした風は狒々をズタズタに切り裂いた。
残る一体は、山の茂みから現れた山犬(狼)、普通の山犬よりかなり大きく、体高で6尺(182cm)ほど、全長は2丈(606cm)程で、日本狼のおよそ4倍ほどの大きさか。
「早太郎も出てきおったか」
「狒々が復活したのを感じましたゆえ。僧正坊殿、猪笹王殿、久方ぶりにござる」
頭を下げる早太郎に応用に頷く僧正坊。
だがわしらが人間の言葉をしゃべっているのを聞いて、子供と再会し抱き合っていた親子の父親の呟きが聞こえる。
「もののけ姫? モロの君と乙事主は実在したのか?」
それを聞いた僧正坊は陣羽織が汚れるのも気にせずに転げまわって大笑いをしていた。
意味が良くわからないわしと早太郎は怪訝に顔を見合わせるばかりだった。