≪横島≫
時の流れは移ろい、人も移ろい、心も移ろう。
だが、その移ろうことを嫌うものがいる。
運命。
そしてその運命を司るのがきっと、宇宙意思。
馬鹿だ、馬鹿だ、大馬鹿だ。
そんなもんに真っ向から逆らおうなんて愚者の極まりだ。
だがそれでも運命は変わる。
変えられる。
時に些細な違いが大きな違いを生み出すことがある。
神族が、魔族たちが干渉することもあろう。
だが、今回は違う。
たった一人の意志が運命を変えた。
それは宇宙意志にとっては取るに足らない運命だったのかもしれない。
いくらでも修正が可能な運命だったのかもしれない。
でも重要なのはそこではない。
伊達雪之丞。
かつての親友と同じ名前、同じ容姿、同じ魂、そしてきわめて酷似した性格を持つ我が誇るべき教え子は運命に打ち勝った。
それが、とても誇らしい。
「いや、お前も大概タフだなぁ」
「面目ねえ」
「馬鹿、褒めてるんだ」
「それで、何があったの?」
「いきなり攻撃してきやがったんだ。わけのわからない道具、やばそうなんで叩き落したから効果の程はわかんねえけどそれを使って何かしようとしてやがった。……ただ、メフィストの生まれ変わり、ミカ姉を探していた」
「……とうとう追いついてきたのね。アシュタロス」
「とにかく注意してくれ。出来ることなら師匠の傍から離れないでくれ。連中、大真面目に強い。たぶん師匠でもなけりゃ勝ち目はねえ。やった感じ、パワーだけならゼクウの旦那以上だ。もっとも、接近戦の腕前は俺と同程度しかねえがな。とはいえあのパワーは厄介だ。師匠か老師でもなきゃ守りきれねえ。俺もこの程度の傷すぐ治して復帰するから」
「すぐ治してって、全治3ヶ月の骨折までしてるんだぞ」
「そうよ、雪之丞。私を庇って大怪我してしまったんですもの。今は安静になさって」
「……雪之丞」
「悪い。師匠。……畜生、ザマぁねえ」
俺はゆっくりと雪之丞の頭を撫でた。
「お前は、守りきったじゃないか。自分より遥かに強い相手から、数に勝る相手から、何一つ犠牲にすることなく守りきった。本当に強いということはそういうことだと俺は思ってる。……雪之丞、俺はお前を尊敬するよ」
一瞬何を言われたのか分からないといった表情だったが、次の瞬間誇らしげな笑みに変わった。
「今のお前なら一週間もしないうちに治せるはずだ。治ったら頼むぞ、頼りにしている」
「お、おう。三日で治す」
早速、チャクラを開いて傷の修復に当て始めた雪之丞に苦笑しつつ令子ちゃんたちを伴って事務所に戻った。
これ以上ここに留まるのは無粋だろう。
ルシオラ達が現れなかったことを気に止めながらもその先の展開に頭をめぐらせる。
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≪ヒャクメ≫
精神を集中する。
大丈夫、私の目から逃れられるものはないのね。
ましてや事前に情報があるのだもの。
老師に願い出て、千里眼様や、順風耳様の下で修行した私の心眼なら必ず見つけて見せるのね。
奪われた核ミサイル、究極の魔体の存在。その二つがあれば美神さんの抹殺命令は回避できる。
横島さんの憂いを一つでもはらしてあげることが出来るのね。
でも、それは当初の目的に過ぎない。
私の本当の目的は反デタント派の神族や魔族を割り出すことなのね。
絶対、絶対に許さないのね。
横島さんを殺した連中を。
横島さんのことを汚物のように言った連中を。
アレ以来私は真面目に仕事に取り組むようになった。
アレ以来、覗き見をやめた。
私の提出した証拠を周りに信頼させるために。
それはとても危険なことだということは分かってるのね。
戦う力を持たない私が多くの神族や魔族を敵にまわすということだから。
だけど今はためらわないのね。
私が死んでも横島さんは泣いてくれるだろうけど。
そんな優しい彼のためなら頑張れるのね。