≪雪之丞≫
いい加減、デートの一回くらい誘えとミカ姉やエミ姉に言われて誘ってはみたが……どうすりゃ良いんだ?
「まさか雪之丞のほうから誘ってくれるとは思いませんでしたわ。あなた、こういうことに疎そうだから」
言葉とは裏腹に顔が少し赤い。
やばい、……可愛い!
クッ、どうすりゃいい。
あいにくと圧倒的な経験不足だ。
上映している映画はラスト・ワイルドにマラソン橋の愛、インタビュー・ウィズ・ブラドー。
「何がみたい?」
「雪之丞にお任せしますわ」
偵察失敗。なんてこった。
まて、こういうときこそ冷静になって彼我の戦力差と、所持している情報を検索しなおすんだ。
彼我の戦力差。
圧倒的に俺の経験不足。かおりに関しては不明。
……いかん。圧倒的(敗北)じゃないか我が軍は。
……そういえばおきぬちゃんがかおりはヴェルレーヌの詩が好きだといっていたな。
あの妙にまだるっこしくて甘ったるい奴。
……ということは恋愛ものか?
俺は黙ってマラソン橋の愛の方に向かう。
よし! 心なしかかおりの足音がはずんでる。
途端に巨大な霊圧の気配を探知。
何かしくじったか?
って違う。方向はかおりからじゃねえし、質も強さも桁違いだ。
俺はかおりにかけよると背中にかおりを庇う。
「なんですの、このすさまじい霊圧は」
視線のほうにはまるで道化師のような服を着たガキ。
「人間じゃなさそうね」
「俺たちに用があるみたいだぜ! 気をつけろ」
「こわくないでちゅよー。すぐおわるから!」
ガキがなにか道具をこちらに飛ばしてきた。
なんかしらねえがアレはやばい。
咄嗟に魔装術を出すとその道具を叩き落す。
「む、輪具が一つ無駄になっちゃったじゃないでちゅか。おしおきでちゅ」
軽い感じで霊波砲を撃ってきたが大砲か!
師匠じこみのサイキック・シールドに角度をつけて上空にそらすように防ぐ。
こいつ、単純なパワーだけなら師匠以上じゃねえか。
防がれたのを見てさらに不機嫌な顔をするガキ。
「なーにやってんのさ、パピリオ」
「勝手に集合場所を動いたらダメじゃない」
「ベスパちゃん。ルシオラちゃん」
ガキと同レベル、下手すりゃそれ以上の女が二人。
「霊力が強めな奴がいたんで調べてみようと思ったんでちゅけど、男のほうが生意気にも抵抗するんでちゅ」
「ふ……ん」
「なるほど?」
「かおり、わるい。映画はまた今度誘う」
かおりを横抱きに抱え上げると眼くらましに、サイキック・シールドを相手に投げつけ、破裂させた。
サイキック・猫騙しなんていう格好の悪い名前を師匠がつけてたのが、効果は十分だ。
「ちょ、ちょっと、雪之丞。私も」
「ダメだ。連中、俺よりも数倍強い。ここじゃあ、街に与える被害がデカすぎる。みろ、もう追いついてきた」
振り返らなくても分かる。スピードもこっちより上だ。
どうにか、人気のない東京湾に浮かぶ無人島まで逃げ延びたが。
「もう鬼ごっこは終わりでちゅか?」
「手前ら何もんだ」
「あら、そういう時は自分から名乗るものよ、ボク」
「もう良いからさっさと帰っちまおうぜ! そんな簡単に見つかるなら苦労しないって」
「あら、メフィストの生まれ変わりは日本にいる可能性が高いんでしょ? このままアシュタロス様のところに連れ帰れば手間がはぶけるじゃない」
「ルシオラって仕事熱心だねー。クソマジメなんだから……」
「ペチャパイで性的魅力に欠けるから、その分マジメにならざるえないんでちゅー」
メフィスト!? まさかこいつら、ミカ姉を!
「ぺ……ペチャ……あなたの胸でそういうこというの!?」
「パピリオの胸には未来があるんでちゅ! ルシオラちゃんみたく、もう終わってないんでちゅ!」
「よしなよ……!」
か、軽い。
だけどそうとなりゃ先手必勝だ。
右手に炎、左手に雷。
放った攻撃は連中に命中した。
が。
「へぇ、二種類の霊力を同時に操ったんだ」
「しかも今の攻撃、200M近くはあったね」
くそったれ。
その後はひたすら守りに徹しただけだった。
あのやばそうなわっかは完全に迎撃し、それ以外は守りに徹する。
時たま一番でかい女、ベスパと言ったか。
ベスパが近接戦を挑んでくるがパワーはあるが技術は師匠や五月には達していない。
だが、俺は満身創痍だった。
かおりに行く攻撃は可能な限りサイキック・シールドでそらし、それが間に合わないようなら体で守ったからだ。
「あぁ、もうホントしつこいったらありゃしない。殺さない程度にちんたら攻撃するのも飽きちゃった」
「生意気でちゅ。ここで殺しちゃわないでちゅか?」
「……」
ルシオラとか言う女がじっとこちらを見る。
「……なんか興がそがれちゃった。演算機を使って確率が高いのから潰していきましょう。元々男に転生するより女に転生している確率のほうが高いんだし」
「それもそうだね。はやいところかえってシャワーでも浴びたいし」
「む、それもそうでちゅね。ペットたちがお腹を減らしているでちゅ」
パピリオとかいうガキが置き土産においていった馬鹿でかい霊波砲からかおりを守りきったところで意識は闇に沈んでいった。