≪タマモ≫
「何こんなところでウンウンうなってるのよ?」
今日は美神たちは除霊に出かけている。
本来であれば横島除霊事務所きっての武闘派の雪之丞や、シロも参加するところだが今回は冥子と一緒に緊急時への対処用にお留守番。
冥子は水を使って一見すれば遊んでいるかのような訓練の真っ最中。
庭が水で出来たサファリパークになっていた。
「ん、タマモでござるか。拙者は以前答えられなかった宿題について考えていたんでござる」
「宿題?」
「そうでござる。以前、犬飼殿、いや、妖刀八房と相対することになったときに一つの宿題を出されたんでござる。結局、拙者はその答えを出すことが出来ずに次善の策を持って相対したわけなんでござるが」
そう言って、シロは自分の切り札の霊波刀。
抜刀のできる霊波刀を出して見せる。
「んで、宿題って何よ?」
「妖刀八房を越える、自分にとって最強の霊波刀を作り出すことでござる」
妖刀八房って言ったらアレよね?
一度切れば八回切れるって言うやつ。
「あんたにとって最強ってどんなイメージなの?」
「それは先生に決まってござろう?」
うわ、即答。
それも何の疑問も持たない感じに。
「まぁ、師匠は最強ではないと思うが、一番身近で強いのといったらダントツで師匠だろうな」
雪之丞も苦笑してる。
「で、そういう雪之丞は何悩んでんの?」
「ん、あぁ。……なぁ、タマモ。俺は強いか?」
「強いんじゃないの。人間としたら規格外なくらいに。じゃなきゃあたしやシロの面目丸つぶれじゃない。幼年体とはいえ最高クラスの大妖怪よ。あたし達」
まだ一度も勝てないんだから。
っていうか、ここの事務所は異常すぎ!
……所長がアレだものねぇ。
「俺もな。強くなったと思う。それこそ師匠に出会う前じゃあ想像も出来なかったくらいに強くなった。けどまだ全然とどかねえんだ。ガキの頃は見えた師匠の背中が今じゃ全然見えやしない。こんなんじゃいつまでたっても師匠に追いつくどころか、背中すら守れねえ!」
雪之丞は悔しそうに、呻くように言葉を吐き出した。
「拙者もこのままでは先生の期待を裏切ってしまうことになるでござる」
シロもまたしゅんとして考え込んでる
「そんなに~、焦って考えちゃダメよ~」
いきなり声をかけられたかと思ったら残っていた冥子がニコニコ微笑みながらやってきた。
そしてエイ~! と、シロと雪之丞の背中に抱きつく。
あ、雪之丞の顔が赤くなった。
「大切な答えは~、すぐに出しちゃダメなのよ~。ちゃんと~、しっかりいっぱい考えて答えを出すの~。いっぱい考えて出した答えは~例え間違ってたとしても無駄じゃあないんだから~」
冥子は不思議と安心できる声で雪之丞達を諭す。
「……冥子姉、おれ、ちょっと修行してくる。何かあったら携帯に連絡入れてくれ。五分で戻る」
そう言うと雪之丞は窓から飛んでいった。
「拙者も負けてはおれんでござる。冥子殿。拙者も素振りをしてくるでござる」
シロも雪之丞に負けない勢いで走り出していった。
「見事なものねえ。あなたの一言で二人とも迷いが吹っ切れたみたい」
「だって~、私はみんなのお姉ちゃんだもの~」
冥子は満面の笑顔で私の頭を撫でてくる。
もう! そんな顔されたらやめろっていえないじゃないの。
……あたし、九尾の狐なのよ?
……ホントにここの連中は。
……居心地が良いわ。
・
・
・
≪キーやん≫
「これで一区切りといったところでしょうか?」
「そうやなぁ。月神族、妖怪たちに、精霊王国ザンス、妖精。地上で神族や魔族に曲がりなりにも対抗できる戦力との縁はふかまったっちゅうワケやな。横島のもつ縁にまで干渉して」
「仕方ないでしょう。……私たちは横島さんの意思の力を甘く見すぎていたのですから」
「恨まれとるのは知っとったハズなんやけどなぁ」
記憶を失って初めて見せた神族、魔族への怨嗟。
あまりにも普段の横島さんが表に出さないが故に、私たちはその根の深さを見誤っていた。
そう、私たちは恨まれてしかるべきだったというのに。
「ま、なんにしても当初の予定やった、神族、魔族の精鋭部隊を秘密裏に人間界に送る案は大幅に修正が必要やな」
「そうですね。戦闘に秀でた神、魔族は多かれ少なかれ人間を蔑視している。いや、相手にもしてないというべきでしょうか。逆に人間に慈しみを感じている神は殆どが生活神。戦闘力はあまりありませんからね。例外といえばそちらのアモン大佐くらいでしょうか」
「あぁ。あいつはメンバーに入れる予定や。そっちかて、七福、とりわけ死神のあいつがえろう、横島に肩入れているみたいやないか」
「彼の起源は横島さんの友達ですからねえ。……まぁ、幸い七福もいればあの娘もいます。冥界のチャンネルが閉じてもある程度の干渉は可能でしょう」
「せやな。どう少なく見積もってもアモンの奴と七福、それにキーやんの娘がおれば最低でもルシオラ達は押さえ込んでおつりが来る。……歴史道理に進めばやけどな。いや、進むんやろうな」
「やはり?」
「アシュタロスにかました妨害工作は成功しとった。横島が手駒をバンバン減らしとったし、どう考えてもあと5年は稼げる……はずやったんやけどな。ここに来てアシュタロスの動きがまるで辻褄を合わせるかみたいに急速にすすんどる。作戦の結構予定は予想では、歴史どおりや」
まるで世界に踊らされているような気分です。
こちらの世界は横島さんの味方ではないのでしょうか?
己の無力が嫌になりますね。