≪横島≫
「おぉ、コナハトの王よ。よく眠れたかね?」
俺を見つけたオベロン王は柔和な微笑で俺を迎え入れてくれた。
「さて、皆も揃ったところですし会議を始めるとしましょう」
ティターニアの一声で会議が開催される。
「さて、来るべき魔神アシュタロスが起こす戦争を前に各々の妖精界がどのように動くつもりか、意見をまとめるとしましょうか」
「その前に、コナハトの王がどれだけ強いか見せてもらいたいものだな」
これまで意見を控えていたヴォジャノーイの王が俺を見やりながら言った。
「昨日見せてもらった映像ではコナハトの王がアシュタロスを倒したようだが、実際にこの眼で見て見なければ信じられん。それに妖精界は魔法において優れているが、神・魔族に比べれば戦闘能力で劣るからの」
「そうですわね。……誰か! アルスターに使いを」
ティターニアの一言で傍に控えていた妖精が退室する。
「コナハトの王。失礼ですけれども、一戦私達の前でその力を示してくださいな。あなたが戦う姿を見たものはこの中でもヴィヴィアン様だけですから。あなたには妖精界最強の騎士と戦ってもらい、その力を示していただきたいのです」
「わかりました」
アルスター。というと相手はセタンタか。
移動をし、程なく、二人の武装した妖精が広場のような場所にやってきた。
まるで女性のような美しい面差しながら今の俺(183cm)を超える長身で、無表情に銛の様な槍を携えた騎士と、同じく槍を携えながら柔和そうな笑みをたたえる騎士がこちらを見やる。
「王たちの招聘にク=ホリン。推参した」
「同じくタム=リン。参りました。」
「お久しぶりですわね。早速ですけどク=ホリン。あなたを妖精界最強の騎士としてここにいるコナハトの王と、しあってもらいたいのです」
ク=ホリンは何もいわず槍を構えた。
「ちょっと待ってください王よ。彼の者は人間ではありませんか! それにコナハトは」
止めようとするタム=リンをメイヴが説き伏せた。
「わかっております。ですが、ヨコシマは強いですわ。恐らくこのばにいる誰よりも」
その一言がいい終わらぬうちに、ク=ホリンが槍を突き出してきた。
攻撃ではない。
その槍、ゲイボルグに俺が霊波刀を合わせた瞬間、試合は始まった。
ク=ホリンのゲイボルグが狙い過たず俺の眉間、咽頭、心臓、鳩尾、肝臓を狙いまるで五本の槍が同時に繰り出されたかのようなスピードで放たれた。
「って、あいさつ代わりが五段突きかい!」
そのこと如くを霊波刀を分岐させ、あるいはサイキック・シールドを展開させて防いだ。
が、うっすらとわき腹に血が滲む。
霊波刀も、サイキック・シールドも明らかに力負けしている。
霊波刀は受け流すことも可能だから何とか凌げたが、サイキック・シールドは回転させていたにもかかわらず、力負けして貫かれた。
幸い、穂先をそらすことには成功したからかすり傷ですんだが、あと少し、サイキック・シールドの防御力が劣っていれば、もしくは回転させていなかったらと思うとゾッとする。
侮っていたわけじゃないがこいつ、斉天大聖老師ほどでないにしても、小竜姫様並に強い。
霊力を込めれば何とか凌げるだけの防御力、強度を作れるが、その隙を与えてくれないほどに速い。
恐らく、超加速を使っていない小竜姫様以上だ。
何度となく打ち合うが、その度に小さいとはいえ傷を作るのはこちらだ。
文珠は使えない。
発動前に突かれるのがおちだ。
定形型霊波刀は威力がありすぎる。
それに、俺自身、こいつとの戦いをアレに頼らず終わらせたいと願っている。
こいつの、ク=ホリンの協力を仰ぎたいんだ。
霊波砲を収束もさせずに拡散させて無理やり距離を稼ぐと一振りの剣を取り出す。
「流石は最強騎士の槍。生半可な霊波刀じゃあ相手にもならんか。だけど、最強騎士の武器なら俺も持ってるよ」
アロンダイトを構えた瞬間、ク=ホリンの表情が変わった。
口が大きく裂け、髪は逆立ちその一本一本から血が滴っている。
ルーン魔術で自分の身体能力を上げると、まるで野生の獣のように、否。それ以上のスピードで俺に殺到した。
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≪タム=リン≫
羨ましい。
素直にそう思った。
王たちは久しく見なかった神代の戦いともいえる二人の一騎打ちにあるものは興奮し、あるものは恐怖の色すら見せる。
クーが、あの表情を出すということは本気になった証。
私との試合では出すことなく私の敗北だった。
クーが神速の槍を見舞うと、コナハトの王はそれを流水を思わせる動きでかわし、武器の短さを生かして近距離戦へともつれ込ませる。
槍と、剣だけではない。
拳や蹴りが互いに相手の体を捕らえる。
そうせざるをえないほど、二人の技量は接近しているということだ。
「クイーンメイヴ。あなたのかつての望み、叶うかもしれませんよ」
「どういうことですの?」
「クーのあんな嬉しそうな姿を見るのは同僚になってずいぶん長いときを一緒にすごしてきましたが初めてです。おそらく、フェルグス殿が死んでから初めてなのではないでしょうか」
「……私だけのものにならない男なんて興味ありませんわ」
「マーリン殿は複雑そうな表情ですね」
「ふん。あやつが持っているのはアロンダイトではないか。かの荷車の騎士の持ち物だぞ」
「なるほど。望郷の思いですか」
「たわけ!」
口ではそういってますが、その視線はあなたの心情を雄弁に物語っていますよ。魔術師殿。
さて、これほどの戦いももったいないですがもう終わりですね。
今度ばかりはクーも分が悪そうだ。
何か重いものを背負っているようなコナハトの王と、背負うべきものをなくしたクーではね。