≪横島≫
「あなた、本当に人間ですの?」
俺を出迎えたマブの第一声がそれだった。
「いや、第一声がいきなりそれか?」
「当たり前です。以前あったときは一応、古代の英雄に匹敵するとはいえ人間の範疇でしたのに、今のあなたの力は弱まりはしたとはいえかつては戦女神の一柱に数えられた私を超えているんじゃありませんこと?」
まぁ、確かにだいぶ前、チャクラを全て開いたときに人間ではなくなってしまったかもしれないけど。
「まぁ、これなら確かに中心であってもおかしくはありませんわね」
「中心?」
詳しい話は皆が集まっているところでしますわ。
マブが優雅にドレスを翻すと、そこはつい先程までの場所ではなく、大きな円卓に何人もの妖精たちが座る会議場のような場所にたどり着いた。
「コナハトが女王、クイーンメイブ。今回の議題の特異点たる人間、タダオ=ヨコシマをお招きしましたわ」
特異点?
ここにいる妖精たちは皆王、女王なのだろうか?
マブに匹敵しそうな妖精がちらほらいて、その皆が俺のほうを観察してくる。
「横島にも説明の必要がありますわね。あなたは便宜上とはいえコナハトの王の資格があるのですからどうぞおかけになって」
マブに勧められて椅子に腰掛けると一人の妖精が席を立った。
「さて、出席者は今なお眠り続けるアヴァロンの代表の代わりにマーリン殿が参加しておりますが、それ以外の出席者は正規の出席者が揃われたようですわね。此度の議長はフェアリーランドが女王、ティターニアが勤めさせていただきます。皆様よしなに」
あぁ、彼女が。
「さて、此度の会議にはコナハトの王として初めてこの会議に参加する人間がいらっしゃいますから簡単にこの会議の趣旨をご説明いたしますわね。我々妖精は人間の文明の発展以来、地上に住みやすい環境を失ってきました。もっとも、私達には本来の故郷である妖精郷がありますからわざわざ人間と争ってまで地上の郷にこだわる理由がありませんでしたから特に恨んでいるわけでもありませんのでその点はおきになさらずに。とはいえ、人間達を信用しているわけでもありませんので時折、人間界の監視を行ったり、妖精たちの予言者に妖精郷に対する脅威が現れないか予言させたりして情報収集を怠ったりはしていませんでしたが。そして、何か脅威があると判断されたときにこのような会議を行い、妖精界全体の意見をまとめるのです」
なるほど。
「さて、そして今回の会議なのですが。皆様ご存知の通り、妖精界の予言者たちが皆揃って、突如ある一定期間からの未来を予言できなくなってしまいました。現在わかっていることはこの一年のうち、それも数ヶ月のうちにナニカが起きるということ。そしてその中心にそこにおられますタダオ=ヨコシマがいるということです。本来であれば監視の妖精をつけて、事が終わるまで監視をさせるのですが、此度はタダオ=ヨコシマがコナハトの王でもあることからこの会議に召集し、状況を確認することにいたしました」
あ、なるほど。前回鈴女、ティンカーベルが人間界に紛れ込んだのは前回の中心であった美神さんを監視するためか。レズだったのは女性の美神さんにつきまとうための口実かなにかだろう。妖精独特の悪戯が混ざっている可能性も否定できないが。
何かしらかの魔法で環境省の役人を操っていたのかもしれない。
「さて、事情はわかりましたか? コナハトの王」
「えぇ、良くわかりました」
「この場は妖精界全体の命運を決める場です。故に偽証は許されません。もしあなたが知っていることがあるのなら余さずこの場にて証言なさってくださいな」
さて、どうするかな。
『横島、正直に告げたほうが良いと思うぞ。ここで話をこじらせてもデメリットしかあるまい』
心眼の言うとおりか。
「……荒唐無稽の話ですので、お聞かせするより実際に見てもらったほうが良いでしょう。ただし、この場で見た映像は決して外に洩らさないで下さい。私はここにいるマブや湖の貴婦人。アヴァロンの妖精郷にすむ妖精たちに借りがありますゆえに正直に私が持つ秘密の一端をお見せしますが、神・魔にも深く関わる上に極めて重大なことですゆえ場合によっては妖精郷と神・魔との関係がこじれる可能性があります。賢明なご判断を」
【映/像】の文珠を用いて俺は俺の知る過去の映像を映し出す。
それとは別に俺は別のことを考えていた。
あと数ヵ月後の未来が見えないということは、恐らく数ヵ月後には宇宙の卵が……。