≪横島≫
監視されてる。
当初は気がつかなかったが間違いない。
観察とは違う視線。
ひどく冷静な視線に時折さらされる。
監視者は鈴女。
とどのつまりは。
「……茶番か」
「どうしたんですか? 王様」
少しおびえたような視線でこちらを見る鈴女。
だけど気がついてみればその瞳の奥の冷静な部分がわかる。
なるほど、彼女は監視者としては一流に部類されるらしい。
「ここには君と俺の二人しか居ない。いい加減茶番はなしにしてもらったほうが精神衛生上いいのだけど?」
「何のことでしょう?」
『心見』
『うむ』
俺の合図で俺がつけてたバンダナの瞳が開く。
突如開いた瞳に怯える鈴女。
「こいつは心眼、名前の通り心を見る目だ。これ以上茶番を続けるなら……」
嘘だ。まぁ、読もうと思えば読めないこともないと思うが。
鈴女は観念したように諸手を上げた。
「ハイハイ、降参。だから心を読むのはやめてくれる? あまり愉快じゃないから」
「君は誰だ? 何の理由で俺に近づいた? あれだけ俺を監視していて偶然、は、ないだろう?」
「はぁ、私もヤキがまわったかしら。こんなにすぐにばれるなんて」
鈴女は頭を押さえつつ、ため息をついた。
「私はスコットランドの妖精界、ネヴァーランドの対人間界派遣員で、名前はあなたたちの言葉で訳すならティンカーベルよ」
一瞬言葉に固まった。
「……もう一度出身地と名前をプリーズ」
「何よ? ネヴァーランドのティンカーベルだけど?」
もう、ほとんど残っていなかった俺の童心がまたひとつ失われた気分になった。
ティンカーベルが変態レズ妖精だったなんて。
……そういえば今回令子ちゃんに言い寄らなかったな? 別人(?)
俺は持っていた仲間の写真を取り出して彼女に見せる。
その中でピートと令子ちゃんを指差し問い詰めた。
「どっちが好み?」
「何よいきなり。って言うか選ぶまでもないじゃない」
ティンカーベルはピートを指差した。
「おまえ、レズじゃなかったのか?」
「何人聞き悪いこといってるのよ! 私はノーマル。何が悲しくて同性愛なんてならなきゃいけないのよ」
「……いや、すまない。いろいろテンパってた」
セルフコントロール。何とか平常心を取り戻した。
「それで、いったい何が目的なんだ?」
「とりあえずは、アイルランドの妖精郷、コナハトに来てもらえるかしら?」
「君はスコットランドの妖精なんだろう?」
「詳しいことはマブに聞いてもらえる? 私じゃどこまで話していいかわからないし。ただ、今回はネヴァーランドやコナハトだけじゃない。ウェールズのアヴァロンやイングランドのフェアリーランドは勿論、ギリシャのニンフ、ロシアのヴォジャノーイとルサールカ、アルプスのエルフ、フランスの貴婦人達も一枚かんでるわ。だからここで嫌とは言って欲しくはないんだけど」
「その手に隠し持ってる浮気草の露を使わないと約束してくれれば行くのはかまわないけど?」
「ゲ、ばれた?」
やっぱりか。あっさり手札を出しすぎると思ったら。
まぁ、マブのところに行くならいきなり危害を加えられることもあるまい。……多分。
一抹の不安はあるものの、かつて訪れた妖精郷、コナハトを目指し、アイルランドへとむかう。