≪リリシア≫
繁華街を深夜と呼べる時間に歩くのは久しぶりだ。
お店の女の子達との忘年会のため本日はお休み。女の子達とお酒を飲んでほろ酔い気分のとき、あいつを見つけた。
「横島、どうしたのこんなところで」
「あれ~、リリシアやんか」
関西弁? それにものすごく酒臭い。
珍しい。泥酔してるんだ。
足元のおぼつかない横島をタクシーに乗せると横島の家ではなく自分の部屋に連れ込んだ。
「まったく、どうしたのよそんなになるまで呑んで」
「えぇやんか。二十歳過ぎたら少年漫画の主人公やってお酒がのめるんやど」
横島の酔いが抜けないのでしばらくは取り留めのないことを話していた。
「だいたいねぇ、あれだけ周りに美女を侍らしといて誰にも手をつけてないなんて健康な成人男性にあるまじき行為よ。犯罪よ」
「あのなぁ」
「年上、年下、幼馴染、巨乳、美乳、貧乳、ロリ、未亡人、ワイルド、清純、ツンデレ、鬼娘、猫耳、器物娘、悪魔っ子、魔女っ子、血のつながらない妹、子供のときから育て上げた美少女、アンドロイド、男の夢が集約されているじゃない」
「えらい狭い範囲の男の夢やなぁ。否定はせんけど」
「……まさか、眼鏡娘じゃないと萌えないとか?」
「ちゃうわ!」
「……まさか、そんな、男の本懐、ハーレムを実現させるためにまだまだ美少女を集める気? だめよ。いくらあなたでも今いるメンバーだけでも枯れ果てちゃうというのに……恐ろしい子」
私が両頬に手を当ててイヤイヤしてみせると横島は脱力した。
だんだんと酔いがさめてきたのか横島が標準語に戻っていったのを確認して本題に戻った。
「それで、どうして泥酔してたの」
「ん~、気持ちのリセットというか……ザンスで俺そっくりな奴がいたんだ。容姿じゃなくて思考ルーチンって言うか」
「へ~、あなたのほかにも自虐、自嘲、自己嫌悪の三拍子揃った人間っていたんだ」
私の言葉に肩を落とす横島。
「リリシア、俺の過去についてどこまで知ってる?」
!
世間話でもするような調子の問いだが私はどきりとした。
「もしかしてバレバレ?」
「あの一件以来、意識的にか無意識にかはわからないけど時々俺からジルを庇うようなしぐさ見せてたからなぁ。リリシアは最高位の夢魔だし。……大丈夫だったか?」
何で覗き見した相手の心配してるのよこの馬鹿は。
「視覚だけつなげただけだから大丈夫よ」
「そうか……思考ルーチンが似ているというのは自分の親しい誰かのためなら自分の知らない人間を見殺しに出来るってとこだよ。確実に被害が出るとわかっててもルシオラたちが生まれてくるのを待ってるんだから。わかるだろう? 平安時代に行ったときにうまく立ち回ればアシュタロスの反乱を未然に防げたということは?」
横島は自嘲の笑みを浮かべた。
「そのかわり、あなたは自分の手の届く範囲、いいえ、無理してでも、手の届かないような場所にいる人さえ守ろうとしているんでしょう?」
「どうかな? 確かにこれまでは余裕があったから出来る限りのことはしたと思う。けど、余裕がなくなれば多分俺はあいつと同じことをする」
「……で、あなたはどうする気なの?」
「どうも。いまさらやめるわけにもいかないし。元々さ、この世界に来たのだってもう一度皆に会いたかっただけで他の連中なんてどうでもいいんだ。そうじゃなきゃ、ラグナロクの引き金になんかならなかったって言うの……なんか急に眠くなった。わるい、このまま寝させ……」
横島はそのまま眠りへとおちていった。
手にしたグラスの中のグレープフルーツジュースを一口飲む。
「心にもないこと言っちゃって。本当にどうでもいいと思ってるんならあんな必死になって全部を守ろうとなんかしないって言うのよ。神・魔の最高指導者だって全知全能じゃあないこの世界でいったい何様のつもりよ」
毛布を上にかけてそれから頬に軽くキスをする。
横島の夢に干渉するために。
ま、今日くらいは悪夢にさいなまれず安眠しなさい。
……て、いうかこんな美人の部屋で二人っきりなのに何にもしないで寝る? ふつー。
しかも淫魔の部屋で熟睡しちゃって。
あんたに会ってから淫魔としてのプライドズタズタだわ。
そんなことを考えているのに口元は自然に微笑んでいた。
「とはいえ、いくらなんでも陰気が濃すぎるか。あの娘に相談してみようかな」
翌朝、次の日曜日にあって欲しい人がいると告げると横島は詳細も聞かずに承諾した。