≪ピート≫
雪之丞、まだ機嫌が悪いみたいだな。
せっかく今日はクリスマスイヴだというのに。
いや、キリスト教徒でもない雪之丞に主の生誕を祝うことを強要する気はないけどそんな顰め面で会ったら弓さんたちがかわいそうじゃないか。
「雪之丞、まだ横島さんにおいていかれたことを気にしているのか?」
「そんなんじゃねえよ!」
嘘だ。非常に気にしている。
全身から不機嫌オーラを放出しているから子供は泣き出すしヤクザまでがコソコソと回れ右してるじゃないか。
ヤレヤレ。
「僕は横島さんが雪之丞や美神さんたちを連れて行かなかったのは正解だと思うよ」
今にも掴みかかりそうな雰囲気の雪之丞。いや、実際に掴みかかってこなかったあたりに成長の跡が見られるな。
「そりゃどういう意味だ!」
「だって雪之丞は戦闘は出来ても戦争は出来ないだろう? 僕たちの知り合いの中で戦争が出来そうな人間といったら……横島さんとドクターくらいかな。美智恵さんは微妙なところだけど。僕は御免被りたいしね」
さらに立ち上る不機嫌オーラにタイガーが慌てている。
ゴメン、タイガー。
「僕の実年齢、知っているよね? その間に何回戦争を見てきたと思う? 僕はブラドー島にこもっていただけじゃなくて島に必要なものを調達するために島の外に頻繁に出ていたから何回か巻き込まれたことがあるよ。特にイタリアはカトリックの総本山があるし、世界大戦にも参戦していたからね。嫌になるくらい戦争は目の当たりにしているよ」
本当は見たくはなかったけど戦争中だって島の物資が不足すれば出て行かざるをえないからな。
あの小さな島じゃあ完全な自給自足は出来なかったし。
「戦争の悲惨さをここで語っても無意味だから語らない。だけど戦争にかかわっていくうちに人間はどんどん壊れていくんだ。極々普通の人たちが平気で他人を殺せるようになるくらい。横島さんは戦争を起こさせないためにザンスに行って、被害を最小に食い止めようとはするでしょうが、きっと戦闘になるでしょうね。いや、戦争かな? 僕は雪之丞に戦争に関わって欲しくはない」
チッと舌打ちをして踵をかえす雪之丞。
雪之丞、それじゃあただのチンピラだよ?
「……わかってんだよ。師匠が俺のためにこっちに残したって事くらい。だから腹が立っているんだ。俺はいつまであの人に守られていればいい? 俺は強くなった、そりゃぁ師匠にはまだおよばねえよ。だからいまだ師匠に認められねえ程度の実力しか得ていない自分に腹が立つんだ!」
主よ。どうやら僕は親友の成長にすら気がつかぬほど目が曇っていたようです。
「タイガー、一発殴ってくんねえか。そうやって気分転換でもしねえとかおりにあったら不機嫌にさせちまうからな」
タイガーの手加減なしの拳を受けてふきとぶ雪之丞。
その後、僕、雪之丞、タイガー、おキヌちゃん、弓さん、一文字さんでクリスマスパーティーを魔鈴さんのお店で始めた。
パーティーの間は雪之丞もタイガーも不機嫌さを表に出さず、特定の相手のいない僕とおキヌちゃんは不器用なカップルたちを温かな瞳で見守った。
ところが何のひょうしでか魔鈴さんに注意されていたというのに一文字さんが窓の外に出てしまい、最終的に全員が窓の外に出た僕たちはサンタクロースと雪だるま、わけのわからない植物のようなものに襲われたが、
「右手に炎、左手に雷、翼より暴風」
今まで単独でしか行使しなかった能力を同時展開してきた。
「すごいじゃないか雪之丞」
「いや、まだ駄目だ。今のままじゃあ同時展開すると霊力が三分割以下になっちまう。師匠みてえに全部を100%の威力で放てる様にならないと完成とはいえない」
「いや、あたしらから見ると三種類の霊能力を同時に制御しているだけでも十分人間離れしてるんだけど」
「フンガー!」
「……タイガーさんはモルゲンステルンの雨ですの? ……あんなのどう対処すればいいのよ」
その後僕の放った鮮血魔術もなぜか、(まるで横島さんについていけなかったことのストレスをあからさまに相手にぶつけようとしている雪之丞やタイガーのように)通常以上の威力でもって襲い掛かってきた植物もどきを焼き払った。
その後種明かしをされた僕たちはもはや食べられないほど蹂躙されたクリスマスケーキを前にニコリと微笑みながら青筋を浮かべる魔鈴さんに平謝りに謝った。
まぁ、それをのぞけばいいクリスマスイヴだったかな。