≪麻美≫
う~ん。歓迎されてないなぁ。視線の半分は嫌悪。残りは忌避か。
王宮に案内されてみたはいいけど視線がこれじゃあくつろげないや。
お父さんたちは結構なれてるみたいだし大家さんもぜんぜん気にしている様子がないけど。
コラコラ君たち! 悪口を言うならせめて隠れてから言いなさい。あ、でもそれも陰口をきかれてるみたいで気分悪いかも。
「お久しぶりです」
一人の男の人が大家さんの前に出てきて頭を下げた。
「あなたは……ジャコフさん」
「覚えていてくださいましたか。その節は本当にお世話になりました。あの時のことを今思うと熱病にでもおかされていたような気分です。あなたが荒療治ででも私の目を覚ましてくれなかったらと思うと……とてもおろかな真似をしていました。あの時は恨んでもいましたが今はとても感謝しています」
「今はどうしているのです?」
「王女様のとりなしで減刑を許された。精霊騎士の座は剥奪されたがそれは仕方のないこと。今は王女様付きの下男として少しでも王家の役に立てればと思っています。それもこれも貴方の配慮があればこそと大使と王女から聞かされています。本当にありがとうございました」
どうやら知り合いみたい。
「だったらジャコフさん。あなたに手伝ってもらいたいことがあるんですが」
「私に出来ることであればなんでも言ってください。でも、先に記念式典を行ってからです」
「記念式典?」
私が横合いから口を出したがジャコフさんはにこりと微笑む。……この人、いい人だ。
「横島さんのですよ。外国の方で初めて正式に精霊騎士に認定されるその式典です」
え~と……精霊騎士って何?
「……厚意はありがたいが、外国人の俺が精霊騎士に取り立てられるのは連中の攻撃対象にされるんじゃないのか? ……それが狙いか?」
ジャコフさんは申し訳なさそうに頷いた。
「元々横島さんを精霊騎士に取り立てようとする話は王女と国王陛下の間で出ていました。しかし、テロリストのことを考えて極秘裏に授与する予定でしたが私が正式に、いえ、大々的な式典にするように進言させてもらいました」
大家さんはすまなそうな顔をしているジャコフさんにニィッと笑って見せるとその肩をポンポンと叩いた。
「やっぱりあなたに協力してもらう必要がありそうだ。助かりますよ」
ジャコフさんは安心したような顔をした。
「そういっていただければ」
……。
私は隣にいた流人君に小声でたずねる。
「ねぇ、どういうこと?」
「さぁ、俺にもさっぱり」
そんな私達にお父さんが助け舟を出してくれた。
「つまり、あのジャコフさんは大家さんを囮にしたんだよ。排他的な原理主義者にとったら外国人が伝統ある精霊騎士になるなんて許せるようなことではないからね」
「じゃ、じゃあ何で大家さんはジャコフさんをほめてるの?」
「私達にとって一番不利なのは相手の動きがつかめないということだからね。相手が行動を起こすとわかれば対処の使用があるというものさ。だから大家さんは相手の動きを制限したジャコフさんの手腕をほめているのさ」
「もし仮に、手出しをしてこなければ来ないで相手の動きを予測する材料になるわ。だって、相手にとってはクーデターの方が本命なわけだし。……どんな組織にだって先走る人はいるでしょうしもし捕らえられれば良い情報源になるわ」
なんとなくわかったようなわからないような。
「……でもさ、自分を囮にされたってのに笑顔でそれを評価する大家さんってかなりの変人?」
私のセリフに大家さんを含めた皆がなんともいえない表情を見せた。
「麻美ちゃん。そういうことははっきりとは言わないものよ」
「いや、霧香さん。全然フォローになってないです」
なんとも情けなそうな顔になる大家さん。
「あら。フォローする気なんてありませんもの。私は自分を大事にしない人は好きじゃありませんから」
「霧香さん……きつい」
面白そうに笑う霧香さんとガックリと肩を落とす大家さん。
大家さんは急にまじめな顔になる。
「実際のところ、外国人の俺が精霊騎士に認定されるのはどうかと思うんだが」
「いえ、むしろ認定されないほうが問題あります。精霊獣はザンスのオカルトの秘奥。あなたならそれを封じる手段もあるかと思いますがそれをされてはオカルト先進国ザンスの面子にかかわります。ましてやそれをなしたのがただの外国人であったのならなおさら……。姫様の精霊獣を用いたときのことは話に聞いています。あなたは諸侯が納得するだけの実力を示せば後はこちらで如何様にでもさせていただきます」
「……ジャコフさん。あなたがただの下男というのは嘘でしょう?」
「イエイエ、ワタシドコニデモイルイタッテフツウノゲナンネ」
「なぜ急に片言になる! 目を背ける! いきなり口笛を吹き出す!」
「ちょっとした冗談です。先ほどの質問に対してはノーコメントの方向で。それでは横島卿。記念式典のためにザンスの正装に着替えていただきますのでこちらへどうぞ。お付きの方々……申し訳ありませんが王国ははいまだ排他的な勢力の力も強いものですから公式には横島卿のお付きの方々ということになっております。皆様には別室で用意がございますのでご一緒にこちらへ」
ん~。事前情報がないからいまいちよくわかんないなぁ。あとで大家さんに聞いてみよっと。
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新年明けましておめでとうございます。今年もおつきあいのほどをよろしくお願いいたします。