≪横島≫
「横島卿、よくイラシてくださいました」
キャラット王女自ら港に出迎えに来てくれていた。
ザンス王国には直通の空港はない。
最寄の国まで飛行機で飛び、そこから帆船に乗って揺られること十数時間。
大西洋に浮かぶ島国、ザンス王国への唯一の公的ルートだ。
もっとも、大型ではないとはいえ一般的な船舶はないわけではないしそちらのほうが早くはあるのだがそちらは名目上タブーに触れる非合法なルートらしい。
実際、今現在活動は大分抑えられたとはいえ原理主義者のテロリストに狙われるケースも多かったと聞くし。
「お久しぶりです、キャラット王女」
この国における略式の礼でキャラット王女に挨拶をする。
まぁ、ザンス国人の衆人環視の中握手(タブー)するわけにもいかないし。
俺は大使館経由でザンス王国(実質的にはキャラット王女らしい)の依頼を受けてこの国に入った。
ただし、俺の隣にいるのはいつものメンバーではなく【Rabbit's nest】のメンバーだった。
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「大家さん。おりいって頼みたいことがあるんだが」
貉さんがうちの事務所に顔を出したのは一ヶ月の休養期間も終わって二ヶ月がすぎたころだった。
「うちのメンバーではないんだが、知り合いの妖怪が狙われていたんだ」
【Rabbit's nest】とは何度か情報交換を行って事務所のメンバーとも気安い。(もともと顔見知りだし)
しかし持ってきた依頼に問題があった。
「……貉さん。悪いがその依頼を受けることは出来ない」
貉さんが持ってきた依頼はある妖怪の組織を止める手伝いをすることだった。
しかしその組織というのが問題であって。
「何でだ? 師匠。妖怪の傭兵団なんてあったらまずいことになるんじゃないのか?」
まずいなんてものじゃない。
だが、それでも今雪之丞たちと軍人を戦わせるわけにはいかない。
俺はそばにいたワルキューレに率直な意見を求めた。
「ワルキューレ、正直に言ってくれ。俺達が軍事訓練を受けた軍人、もしくはテロリストと戦闘行動になった場合どうなる?」
「戦って勝つのはお前らだが先に殺されるのもお前達だ」
想像通りの答えだった。
「お前達、人間を殺せるか?」
誰も答えない。
「倒すことは出来ても殺すことは出来ないだろう? 覚悟してもためらいは残るはずだ。だが軍人にとっては殺すことにためらいはない。お前達の一瞬の躊躇のうちに殺される。テロリストなら殺すことに喜びすら見出すだろうさ。そんな連中と殺し合いになったらこの中の誰かは確実に殺される。……妖怪の傭兵だけを戦力として考える奴はいまい。雇い主の下には必ず人間の軍人かそれに類する連中がいるはずだ。そんな連中を相手には出来ない」
貉さんのほうに向き直った。
「それが貉さんの依頼を断る理由です」
俺は貉さんに頭を下げた。
貉さんは好々爺の笑みを浮かべて了承してくれた。
雪之丞たちも納得できないといった表情を浮かべるが俺の真剣な調子のためか表立って反対はしない。
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「なぜ、あんなことを?」
ザンス王国へと向かう船の中で貉さんが聞いてきた。
この船に乗っているのは貉さん親子に加々美さん。鴉天狗の八咫琢磨さん。幼龍の巽流人君。化け土竜の野呂圭吾さん。それから件の襲われていたというカメラの付喪神の宿木来夏さんと彼女の所属する組織の麒麟(!?)の転生体だという壌黄凛さん。
「あの時言ったとおりですよ。うちの所員に人間同士の殺し合い、それも軍人を相手にさせるわけにはいかない。戦う覚悟は出来ていますし、殺すことも可能でしょうが戦場はそれほど甘いものではありませんので」
詭弁だな。
戦場というものを嫌というほど知っている俺があいつらをそこにおいておきたくなかった。
エゴとも言うか。
ザンス王国の原理主義テロ組織が外部から傭兵を雇い、大々的なクーデターを計画しているという情報が入り、少なからず知り合っていた俺の元にキャラット姫から相談が持ちかけられた。
あれ以来国は少しずつ経済的に上向いていき、王室の人気は上がり逆に抵抗勢力は縮小傾向にあったという。
ザンスの原理主義者たちは機械は使わず異国の人間を信用しない。
しかし、追い立てられた連中は一つの詭弁を持って最後の抵抗を試みた。
機械でもなく異国人でもない妖怪を雇い入れて。
即ち【Rabbit's nest】から持ちかけられた依頼と対を成していたのだ。
だが俺は皆を巻き込まぬために貉さんの依頼を断った。
そしてザンスからの依頼は俺を名指しであった(俺は一応ザンスの精霊騎士の資格があったため他国のものとはいえ比較的受け入れやすかったため)ことを理由に一人でザンスまで行ってくるといい、そのことを貉さんに教え結局同行することになったのだ。
「しかし君だって同じだろう」
「俺は大丈夫ですよ。戦場は嫌というほど経験がありますし、もう何十億と殺してますから」
笑顔と共に貉さんの追及を断ち切った。
さて、忙しくなりそうだな。
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中書き
最近めっきり投稿も遅くなり(^^;)特にRe〔11〕があまりにもなんだかなぁという文章だったため、書き直してみました。……他の話も書き直し必要だろうという突っ込みは禁止の方向でお願いします^^;
かれこれこの話を書き始めて一年が経過していますがこれまでお付き合いいただいている皆様方。誠に感謝しております。
ラストまで今しばらくかかりそうですがなにとぞこれからも生暖かく見守ってやってください。m(--)m