≪横島≫
映像は再びブラドー島に戻る。
「皆さんの申し出は嬉しいのですが、これはボク達の問題です。マイヤの思い人や恩人達を危険な目にあわせるわけには行きません」
「何も私たちだって殺し合いがしたいわけじゃあないわ~。でも~、同じ人間同士なら戦わない方法も取れるんじゃないかしら~」
「それに、この島の人たちの大半は戦う力を持たないというじゃないか。その人たちを見捨てるわけには行かないよ」
「俺は、俺はもう一度群井さんと話がしてみたい。……それにマイヤの故郷を見捨てるわけにはいかない」
「皆さん……」
「ピエット、その辺にしておきなさい。同情でもなく、憐憫でもなく、自らの意思で戦いに赴こうとするものに過度の心配は失礼と言うものよ」
「しかし」
「横山、この剣を持っていけ。その棒切れよりは役に立つはずだ」
ブラドー伯爵が横山に一振りの剣(アロンダイト)を手渡した。
「この剣は?」
「かつて主君を裏切り、己の親友の弟を切り殺した騎士が持った剣よ。彼の騎士王をも凌ぐ武力の持ち主であった最強の騎士、湖の騎士ランスロットのな。それと我が使い魔を貸そう。娘を滅ぼしたものと話をするにはそのくらいの力は必要であろう?」
「……ありがとうございます」
「リーリエ、女子供の避難はすでに終わっているな?」
「えぇあなた」
「余の蝙蝠がこの島に向かってくるVTOL機を見つけた。戦いが始まるぞ」
ブラドー伯爵がマントを翻してそう宣言する。
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群井達の乗った飛行機は空中で停止してみせた。
正確にはヘリコプターのようにホバリングをしている。
そこから三人、由美、青嶋、宇尾、ロウの四人がアンドロイドの二人に抱えられて島に降り立った。
「……待ち構えられていたと言うことかしらね? 横山」
居並ぶ横山達を一瞥して由美がそう発する。
「……群井さんともう一度話がしたいんだ。そしてこんなことはもう停めてもらう」
「無理よ。兄さんは誰かが停めてくれるまで決して止まらない。そして私は兄さんを殺させるわけには行かない。……交渉の余地など最初からないわ」
「それでも……まかり通る!」
「どれ、余、自ら露払いをしてやるとしよう。横山、貴様は群井とか言う男のもとに行くがいい」
青嶋、宇尾が邪魔をしようとするがそれをリーリエとピエットが間に割って入る。ブラドー自身は由美を相手取ることにしたようだ。
「ふむ。少々狭いようだな。G・Sの諸君、少し場所を変えないかね?」
「……いいでしょう」
ロウは悠然と歩を進め場所を移動する。
そして皆から大分遠ざかったところ、皆の戦いがよく見える小高い丘の上で苅田神父と芳川に提案をしてきた。
「どうだね? ここはお互いこの戦いに手出しをしない休戦を結ばないか?」
「どういうつもりかしら~?」
「私は群井の協力者であって部下ではない。青嶋や宇尾のように人外に対して恨みもなければ由美のように群井の身を案じているわけでもない。私にとって群井、そして横山は興味深い観察対象で、研究対象だからな。その観察の邪魔はされたくないのだよ。……人間の意志がどれほどの力を発揮するか。興味深いとは思わないかね?」
「貴方が戦闘を停めるのは歓迎するが、横山君や皆の応援に向かわねばならないのでね」
アンドロイドの腕から機銃が発射されて苅田と芳川の間の地面を抉った。
「邪魔はされたくないといっただろう? 銀の弾丸は吸血鬼にも効くが人間を殺すことも造作もない。そしていかに霊能力を持っていたとしても防ぐのは難しいぞ? 我が娘達のセンサーは優秀だ。お前達がおかしなまねをしようとすればすぐにでも察知する。私としては無駄な殺戮は趣味ではないのだがね」
「くっ……」
「……信じるのだな。自らの仲間というものを」
ロウははるか上空の飛行機と、そこにまっすぐん向かう一羽の大鴉の背に乗った横山にまっすぐに注がれた。
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ブラドー伯爵と由美が相対していた。
「人間の娘よ。本当に余とやりあって勝てるつもりなのかね?」
「無理でしょうね。兄さんならいざ知らず、私では貴方の相手はつとまらなそう」
「ふむ。そこまでわかっていながら挑むか。人間とはつくづく奇妙な生き物だな。……一つ賭けをしないかね?」
「賭け……ですって?」
「我らの戦いの勝敗を、横山とお前の兄とやらの勝敗の結果にゆだねてみる気はあるかね?」
「……それで貴方にどんなメリットがあるというのよ? その気になれば簡単に私を殺せるあなたに」
「娘が愛した男の力を見ていたい。それが理由だ」
ブラドー伯爵もまた、自らの使い魔にのった横山に視線を送っていた。
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青嶋とリーリエが遠い間合いで睨み合う。
「貴方はなぜ、そこまで人外を憎むのかしら?」
「俺の母親は人外に殺された。理不尽な理由でな」
「……そう、かわいそうな坊や。ママの温もりが恋しいのね?……でも、娘を理不尽に殺された母親というのも悲しいのよ。貴方にそのことを教えてあげる」
「っらぁ!」
青嶋が十数個の霊波砲を放つ。
「『神に棄てられし哀れな機織女。その哀しみでわれらを包め!』アルケニー」
蜘蛛女の八つ足がその霊波砲を完全に防いだ。
「手荒い子ね。ならこういうのはどうかしら?『夜の使い、翼を持つ鼠、首狩しもの。その手に持ちし弔いの刀を我が敵に振るえ!』カマソッソ」
マヤ神話に伝わる冥界の蝙蝠を呼び出し青嶋を攻撃するが青嶋は魔装術を展開してその攻撃を防いだ。
「魔装術ですの?」
「あぁぁああぁあ!」
青嶋の叫びが音波砲となり岩を砕き、炎が大地を焦がし、風がリーリエを地面に釘づける
リーリエは負けじと龍の蛟、エジプトの魔獣アーマーン、火の妖精ジャック=オー=ランタンなどを呼び出し応戦した。
この映画の中で最も派手な戦闘がここに展開され観客の視線が奪われるのがわかる。
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ピエットは宇尾と相対していた。その近くにはスキやフォークを構えた島の男達が
「君は、純粋な人間ではないね?」
「わかりますカイノー」
宇尾が人虎の姿をとる。
「ワータイガー。何故それなのに人外を排斥する!?」
「ワッシの両親は普通の人間ジャー。だけど遠い祖先に人虎が交じっていたばかりにわっしは迫害され続けたんジャー。それを救い上げてくれたんが群井さんですケン。だからワッシはワッシみたいな者をこの先作らんためにも、人外と人が交わることのない世界が作りたいんジャー」
「ふざけるな! 君がこれまでどういう眼にあってきたかは知らない。けどな! そんな理由でボクの妹を奪ったというのか!? 問題があるのは僕らや君を迫害する人間じゃあないか!」
「ワッシは人間ジャー! ……だから人間の気持ちもわかりますケン」
「クッ……ボクたちが争う理由などないと言うのに」
「ワッシは群井さんのために、あんたは横山さんのために、それで理由になりませんカイノー?」
宇尾が先に仕掛けた。十字架と聖水を投げつける。
「無駄だよ。クリスチャンのボクには十字架も聖水も弱点足り得ない」
島民を庇うようにピエットがその攻撃を受ける。
「ク……」
「父と、子と、聖霊の名において命ずる。殺害の王子よ、退散せしめよ! アーメン!」
「本気で聖なるエネルギーを使えるのか!」
霊波攻撃をかわして肉弾戦に持ち込もうとする宇尾。
しかし霧化したピエットの前にそれをかわされてしまう。
十字架と聖水のために距離を開けていた島民達の接近に合わせていったん後ろに下がった。
「フンガー!」
通常の手段で攻撃ができないと知った宇尾は周囲を密林に変え(精神感応)長期戦に持ち込む。
「ボクが察知できない?」
「密林はワッシの領域ですケン。簡単には負けられませんケンノー」
密林に溶け込む虎と吸血鬼の戦いは相手の様子を伺う展開になった。
島民たちはジャングルから襲う虎の群れに向かい手にした農具を振るい続ける。
そして映像は最後の戦い、横山と群井に移った。