≪横島≫
「大分質が落ちてる」
「授業のことかしら~、それとも生徒のことかしら~」
「両方ですよ。令子ちゃんたちがいた頃と比べると大分質が落ちてる」
「仕方ないわよ~。オリジナルから遠ざかれば理念は失われ、内容は形骸化してだんだん質は下がっていくわ~。横島君が教鞭を取ってからそう何年もたってはいないけどそれでも少しずつ風化していくものですもの~。それに~、生徒だってあの子たちが例年と比べてそう劣っているわけではないわ~。むしろあの年に粒がそろっていただけよ~」
「確かに令子ちゃんたちは例外だったかもしれないけど、他の子達は今の子達と素質はそう変わらないように見受けられる。ただ、活かしきれてない」
「耳の痛い話ね~、教育者としては~」
「あの子達のためにもやはり鬼道の方をどうにかしないといけないみたいですね。あいつは俺なんかよりもはるかに優秀な教師になれるはずだから」
「おばさんも期待しているわね~」
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≪おキヌ≫
よ、横島さん、聞いてないですよ~。
「それでは~、横島除霊事務所のG・S対~、六道女学園選抜メンバーの練習試合を行いたいと思います~」
プロのG・Sと練習試合とは聞いていたけどまさかうちだったなんて。
他の選抜メンバーも半分は愕然としている。
解説席には横島さんと美神さん、エミさんが座っていて、理事の席に冥子さん。客席に五月さんとジルちゃん、シロちゃん、タマモちゃんがいるから相手をしてくれるのは雪之丞さんとタイガーさんということだと思う。
誰が相手でもしゃれにならないけど。
愛子さんがすまなそうにしてるってことは知らされてないのは私だけですか?
審判の鬼道先生が前に出て選手を呼び寄せる。
「横島除霊事務所、タイガー寅吉君。六道女学園一年生選抜チーム」
「ちょっとまってください。まさか一学年の選抜メンバー全員を一人で相手するんですか!」
「いや、次の雪之丞君には二年生と三年生の選抜メンバーをいっぺんに相手してもらうことになっとる」
それを聞いてプライドの高い選抜メンバーの人たちが怒気をあげる。
いくら横島除霊事務所のG・Sだからといって自分たちと年齢が変わらないからという理由でタイガーさんや雪之丞さんの実力をはかりきれて無いみたい。
雪之丞さんなんて私たち全員でかかっても勝てるかどうかわからないっていうのに。
結局抗議は受け入れられず、その怒りは対戦相手、タイガーさんに向けられるけどタイガーさんは微動だにしない。
いつものタイガーさんなら狼狽しているはずだからおそらく自己暗示で戦闘モードに入っている。
いつもの気の小さい状態のタイガーさんならつけいる隙があるかと思ったけどこれじゃあだめだわ。
「はじめ!」
一文字さんをはじめとした前衛型の何人か、雷獣に変化した生徒と神通棍をかまえた生徒、仮面で顔を隠した生徒がタイガーさんに攻撃を仕掛けるけど……当たらない。
道士風の衣装の生徒のキョンシーたちもだめ。弓さんが前に出てもそれは変わらなかった。
タイガーさんは開始から微動だにしていないのに攻撃が勝手に外れていく。
これは!
「精神感能力です! 精神感能力で私たちの視覚情報がずらされているんです。このまま闇雲に攻撃しても当たりません」
「精神感能力? だったら」
私と同じ巫女服を着た生徒が玉串を振るって心理攻撃を仕掛けるみたい。
だけど、
「駄目です! タイガーさんは精神感能力者としては世界有数なんです! 下手に精神攻撃を仕掛けたら逆に汚染されちゃいます!」
それだけ言うとネクロマンサーの笛を吹いて援護。もう一人、頭から触角のようなものを伸ばして巫女服の生徒の援護に回る。
三人がかりの精神感能力でどうにか彼女を救い出すことができた。
まともにぶつかったこと無かったけどこんなに強力だったなんて。
「でしたら私が」
カソックを着た生徒から聖書が紙吹雪のように飛ばされる。
確かエミさんの技の原型になった非武装結界。
「いくら視覚をずらそうとも広範囲に霊力を奪い取る私の非武装結界なら」
まずい!
私が彼女に飛びついた瞬間、彼女が元いた場所に白い塊が砲弾のように飛来した。
間一髪でかわすことができたけど直撃したらと思うとぞっとする。
ほとんどの人間が反応できない速さでタイガーさんの体当たりが飛んできたのだ。
「タイガーさんは虎人の血をひいていて野生の虎の能力に近い身体能力と攻撃力を持っています。ああいう時間のかかる術だと術者を攻撃されて終わりです!」
「氷室さん、やけに詳しいのね」
「そんなことより直接攻撃、間接攻撃、精神攻撃、防御結界全部駄目なんて完全に手詰まりよ!」
そうこうしているうちに気分が悪くなってきた。
「三半規管が狂わされているわ。このままじゃあ何もできないまま全滅よ!」
誰かの声に覚悟を決める。
「私のネクロマンサーの笛なら音を媒介にするぶん精神汚染の逆流は起こりません。何とか精神感能力を押さえこんでみます」
とはいえこれは私とタイガーさんの体格差以上に不利な勝負。
全身全霊を込めて笛を奏でるけど少し押し戻すのがやっと。
多少気持ち悪いのが抑えられたけどそれ以上じゃない。
「っらぁああ!」
!?
一文字さんが誰かが落とした霊刀で自分の足を刺した。
「一文字さん正気ですの!」
「っ痛ぅ! だけどお陰で視覚情報のずれってやつはどうにかなったみたいだぜ!」
戦闘モードに入っていたタイガーさんも僅かに動揺している。
精神感能力が少し弱くなっている。
一文字さんは動揺したタイガーさんに突っ込むと攻撃を加えず大きなタイガーさんの背中に飛びついた。
「あたしが声でナビるから弓、お前が決めろ!」
「何を……」
「あたしじゃ残りの霊力が少なすぎる。こんなかで一番余力を残してるのも、攻撃力が高いのもお前だ!」
「……一発に全霊力を込めますわ。しっかり誘導なさい。それと巻き込まれないように。弓式除霊術奥義! 【水晶観音】!」
弓さんの持つ宝珠が六臂の鎧と化した。
「フォローして!」
私が叫ぶと弓さんの援護をするために、タイガーさんの動きを止めるためにそれぞれの得意分野でタイガーさんに攻撃を加えていく。
無駄な攻撃でもけん制くらいにはなる。
タイガーさんは横島さんや雪之丞さんほど無茶苦茶な動きはできないはずだし三人がかりの精神攻撃なら一文字さんの怪我で動揺しているタイガーさんにも効果があるはず。
タイガーさんは完全に動きを止めた。
たぶん流れ弾に一文字さんがさらされないように。
「こっちだ!」
今の私たちにできる最良の攻撃。
しかし結果を言えば惨敗。
確かに弓さんの攻撃は当たったが生来のタフさに加え、獣人化してさらに増したそれの前に渾身の一撃は耐えられ、今まで以上の強力な精神感能力(今までは少し手加減をしていたらしい)の前に完全に三半規管を狂わされて一人、また一人と気を失ってしまった。
……私も。