≪横島≫
「久しぶりだな鬼道!」
「ほんまやな。横島君も忙しそうやったし、僕のほうもボチボチやったからなぁ」
「教職とG・Sの二束草鞋じゃそれもしょうがないだろうよ。ジルは今日の入学式には出席しないのか?」
「何しろほんまもんの天使やからなぁ。ここはクリスチャン系の他にも仏教系や神道系も多いやろ? うちとしても宗教問題には必要以上に首を突っ込みたくはないしな。是空殿や五月はんもうちの講師になってくれるんやったらそんな心配も少しは薄れるんやけど」
「……やり口が冥華さんに似てきたぞ」
鬼道が上機嫌に笑う……が、何だ? この空気は。
俺と鬼道を取り巻くように見ている女生徒達の雰囲気がおかしい。
「……ん? あ、そうか」
鬼道は何か思い当たったようだ。
俺の視線の疑問符に気がついた鬼道は苦笑を浮かべて小声で俺に言った。
「霊能科の生徒の憧れの的である横島君と、学園の嫌われ者の僕が親しくしゃべってるのが意外やったんやろうなぁ。しゃあないわ、これも親父が残した遺産やから」
意外な言葉に俺が一瞬硬直した。
その間に鬼道は去っていった。
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「どういうことなんですか! 冥華さん」
「横島君がそこまで血相を変えるということはお友達のことかしら~」
「鬼道のことです!」
「あぁ、そのことね~。私のほうも何とかしなくちゃって思うんだけど鬼道君も頑固だから~」
冥華さんの話を総合するとこうだ。
鬼道の家は前回は落ちぶれたとはいえ式神使いの名門としての血筋をまだゆうしていた。
ところが今回の鬼道には一級オカルト犯罪者の血筋という不名誉な評判のほかに、親が六道つぶしに加担したにもかかわらずその息子である鬼道は六道の庇護を受けている(ようにみえる)のをみて無駄に潔癖な女生徒達には節操なしに見えてしまった。
更には鬼道の実力などこの狭い学園では見せる機会がほとんど無く、それまでの悪評と重なりあの若さで主任という地位や、A級G・Sという認定も世渡りだけで(実際には不可能だが)手に入れたような印象を彼女たちは抱いてしまっているらしい。
いつぞやの俺に近い境遇に鬼道はあるわけだ。
そして鬼道も俺と同じように自分からその悪評を払拭する気は無いらしい。
「私も~、何とかしなくちゃって思うんだけど鬼道君が嫌われ者も一人は必要だからってきかなくて~」
確かに学園という閉塞した社会にはそういう存在が汚れ仕事を引き受けるのも必要なことかもしれない。
「やっぱりお友達って似るのかしらね~。不器用なところなんてそっくり~」
とりあえず理事長の感想はおいといて。
「冥華さん、頼みがあるんですが」
「いいわよ~。でも私のお願いも聞いてもらえるかしら~?」
悪魔と契約する気分かな?
ま、今更か。
冥華さんを信用して白紙の約束手形をかわす。
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≪おキヌ≫
「と、いうわけで近々現役G・Sとの練習試合が組まれた。そこで各クラスより三名ずつ、代表選手の選出を行う。ま、まだ入学したてやさかい学園の方の名誉やら何やらはきにせんでええわ。思う存分やったり」
弓さんとも一文字さんとも個別にはお友達になれたけど二人そろっては無理だし、鬼道先生の周囲にも不穏な空気が漂っているけど鬼道先生のほうからもういいからっていわれてるし。
横島除霊事務所でお世話になっているのもしばらくは伏せておいたほうがいいっていわれてるから皆には内緒にしている。
「一文字、前へ」
簡易式神との模擬戦。
一文字さんは荒いけど他の人より戦闘慣れしている。
霊力のコントロールと戦術が身につけばきっと強くなる。
「ほう、今の段階で倒したか。とはいえ効率は悪いしまるで喧嘩だ。もう少し霊力の流れをよむんや」
「……頭悪ィもんで」
何人かの生徒が戦ったけど簡易式神相手に苦戦している。
「次、氷室」
「あ、はい」
今回は霊的格闘の訓練ではないのでネクロマンサーの笛を使って霊力のコントロールを奪って(簡易式神じゃなければとてもじゃないができなかったけど)勝利を収める。
「よし! 次、弓」
弓さんは流石。
動きに無駄も少ないし、霊力コントロールも実戦レベルに達してる。
多分この学年ならトップクラス。
そんな弓さんを憧憬の目で見る一文字さん。
……きっかけ、何かきっかけがあれば二人はいいお友達になれるはずなのに。
「ふむ。メンバーは一文字、氷室、弓の三人で決定や」
「ちょっとまってください! 氷室さんはともかく一文字さんならもっと優秀な人間が他にもいるはずです」
「何だと!」
「弓さん、やめてください。一文字さんも抑えて」
「ま、確かに一文字よりうまく対処できたものも何人かいたがお前ら二人を別格にすれば後はもう団栗の背比べ、それやったら対人戦における気組みの方が重要や。一文字の経歴には目を通してる。あんまり褒められたもんや無いけど少なくとも初見の人間と戦って萎縮するようなことは無いやろう」
「……ふん。私たちの足を引っ張らないでちょうだいね」
「てめえ」
「二人とも、仲良く、仲良くね」
「「フン」」
あぁ~もうどうしたらいいのかしら。
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「……と、いうわけなんです」
とりあえず美神さんたちに相談した。
「ふ~ん。なるほどね。ま、なるようになるんじゃない?」
「ちょっと令子、もう少し親身に聞いてあげなさいよ」
「令子ちゃんは心配しなくても大丈夫って言っているのよ~」
相変わらず仲がいいな。
私たちもこんな風になれればいいのに。
「こればかりは外側からどうこうできる問題じゃないもの。ま、本当の意味で解決したかったらね」
「それもそうね。それにおキヌちゃんがその内側に入り込んでいるワケだし」
私?
「おキヌちゃんがいればきっと大丈夫よ~」
冥子さんがやけに自信満々に言ってのけた。
不安だからこうして相談をしているのに。
「あ~、それと今度の試合には私たちも解説としていくからがんばってね~」
本当に大丈夫なのかしら?