≪小鳩≫
今日もいい天気。
時間は5時30分。
何時もどおりの起床。
昨日は少し遅くまで勉強をしていたのでちょっぴり眠いです。
日課の掃き掃除を始めます。
これは管理人としてのお仕事です。
お母さんもすっかりよくなって今では管理人のお仕事も手分けをして行ってます。
私の担当は朝と夕方です。
「あら、小鳩ちゃん今日も早いのね」
「リリシアさんお早うございます」
私が朝一番に会うのは大概リリシアさんです。
と、いってもリリシアさんは朝早いんじゃなくて帰宅途中なのですけど。
リリシアさんのお店はお昼の2時開店。朝5時閉店なのだそうです。
「ねぇ、この間の話、考えてくれた?」
「え?……あの、やっぱり何度お誘いされても困ります」
「え~!? 小鳩ちゃんのスタイルと容姿、決め細やかな気配りさえあればすぐにでもうちの店のNo1になれるっていうのにもったいない。男を喜ばせる技術なら私が教えてあげるし卒業したら一緒にお店やりましょうよ」
私は顔を真っ赤にして俯きます。
そうするとリリシアさんは決まって嫣然とした微笑を浮かべてくれます。
「ごめんなさいね、無理強いをするつもりはないわ。でも、せっかくそれだけの武器に恵まれたんですもの。使わなければもったいないじゃない」
そういうとリリシアさんはお部屋に帰っていきます。
リリシアさんはすごくいい人(?)ですけど時々すごく困ります。
次に会うのは大概五月さんです。
「今日も早いな」
「五月さん、お早うございます」
「あぁ、ところで例の話は考えてくれたか?」
「あ、はい。神田明神での巫女さんの話ですよね?」
「あぁ。今年の正月にお前とキヌに来てもらったのに相当味をしめたらしいな。次はいつくるとうるさくてかなわん」
今年のお正月に五月さんに頼まれて神田明神の将門様の社で巫女さんのバイトをしました。
最も二人とも未成年なので朝の8時から夕方の5時までの間でしたけどものすごく忙しかったです。
五月さんは36時間連続で巫女さんをやっていたようですけど。
前金がわりと立派な宝船の絵をいただいたので今年のお正月にはそれを枕元に忍ばせて眠りました。
「お母さんも最近はずいぶんと調子がいいみたいなんで少しくらいなら」
「そうか。そうしてくれると親父も喜ぶ」
将門様には貧チャンの事でお世話になりましたから。
五月さんはそのまま横島さんのお宅に向かいます。
早朝トレーニングのためだそうです。
次に会うのは少し時間が空いてミーアさんです。
「おはようさん」
「おはようございます、ミーアさん」
ミーアさんは現在六道ケミカル、横島さんのお父さんが社長を勤めている会社の調査部門で働いています。
六道ケミカルは元々ミーアさんを捕らえていた会社が前身のようで複雑そうですが妖怪を受け入れてくれる会社はものすごく少ないので仕方がないそうです。
調査部門では主に野外での活動が多いそうなので高い体力は重宝されているみたいです。
横島さんのお父さんが社長なせいか、少しずつですがミーアさんも会社に溶け込めてきたそうです。
六道ケミカルといえば一度は最低まで落ち込んだ株価もものすごい勢いで業績を伸ばし、今では六道系列の会社の中でもかなり上のほうにいっていて、まだ成長を続けているということです。
「今日はどちらまで?」
「今日は北海道で土の採集さね。ま、あの横島のおふくろさんが指示を出してるんだから何かあんだろ」
土壌に含まれる細菌やバクテリアを採集してそこに薬効があるかないかを探し出すのも製薬には必要なことらしいです。
次に会うのはマリアさんとテレサさん、美衣さんです。
三人は決まって遠くのスーパーの朝市に買い物に行っています。
「小鳩さんお早うございます」
「グッドモーニング・ミス・小鳩」
「お早うございます、管理人さん。これ、頼まれていたものよ」
「お早うございます、皆さん。それとテレサさん、ありがとうございます」
あそこの朝市は安いんですけど朝の仕事があるので買いにいけないのでいつも皆さんに頼んでいます。
「今日は鯵の干物が安かったんですよ。それも文化干しじゃなくて本物の日干し」
「ミズ・美衣。尻尾・でてます」
「あら、私としたことが」
あわてて尻尾をしまう美衣さん。
魚の目利きに関してはプロ以上の美衣さんですから今日の朝ごはんは期待大です。
美衣さんは今もヒノメちゃんのベビーシッター(今ではどちらかというと保母さんになるんでしょうか?)を続けていますが今は福祉関係と事務職の資格をとるために勉強中らしいです。
ヒノメちゃんの手がかからなくなった後の就職活動のためだとか。
三人と別れた頃に朝のお掃除も終わっておキヌちゃんと待ち合わせてロードワークに出かけます。
「小鳩ちゃんお早う」
「おキヌちゃんもお早う」
おキヌちゃんはG・Sとしての基礎体力を作るために五月さんに、私はリリシアさんに薦められて始めたのですが一緒に行くことにしています。
だいたい5kmくらいの距離を走ってこの時間に開くお豆腐やさんにほかの皆さんの分のお豆腐やタマモちゃん用の油揚げを買って、帰りは徒歩で帰ります。
マンションに帰ってみるとそこに宝船が停まっていました。
何で?
「何があったんでしょうか?」
「……状況の割りに落ち着いてるね、小鳩ちゃん。……あ、福の神様慣れしてるものね」
ご近所の朝の早いお爺さんやお婆さんが拝む中船の中からマリアさんに案内されたご老人、福禄寿さまと寿老人様がこちらに向かってきます。
「おう、嬢ちゃんたちが宝船の絵を枕元に忍ばせてくれたんかい」
「最近の若いもんにしちゃあ感心じゃのう。しかも二人もと来たもんだ。わし等も嬉しくなってソロ活動していた仲間に招集をかけてたもんで二ヶ月以上遅れちまったがお前さんらに福を授けにきたぞい」
「……あの、せっかくですけどうちにはもう貧ちゃんがいてくれてますから。それに今私すごく幸せなんで誰かほかの人に幸せを分けてあげてもらえませんでしょうか?」
「私も。今、怖いくらいに幸せなんです。わざわざ来ていただいたのに大変恐縮なんですけど」
私とおキヌちゃんがやんわりとお断りすると福禄寿様と寿老人様が急に泣き出してしまいました。
「福禄寿よ、長生きはするもんじゃのう」
「おうさ寿老人。この欲にまみれた世界でこんなにもピュアで足るを知る娘ごに会えるとはおもわなんだ」
ほかの福の神様たちにもなんかものすごく感心されてしまっています。
私とおキヌちゃんがどう反応していいかわからないでいると横島さんたちがかけつけてきてくれました。
「宝船か。すごいな」
あれ? 横島さんが登場した瞬間、寿老人様が少し驚かれたような?
結局その日は七福神様たちと横島除霊事務所の皆さん、ご近所浮遊霊親睦会の皆さんが宴会を始めてしまいそれで終わってしまいました。
今日が日曜日でよかったです。
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≪横島≫
何だ? この視線は。
やけに七福神たちに監視されてるというか観察されている。
前のときはこんなことなかったはずだが……。
その視線は宴会が続いてもなお断続的に続いていた。
「少しよいかな?」
宴も収束に向かいおきているものが少なくなってきた頃、トイレに立った俺の後を追ってきた寿老人が俺に声をかけてきた。
「お前さん、何者じゃ?」
意図のわからない質問に慎重に答えざるをえない。
「自己紹介はしたとおもいましたが?」
「ふむ、では質問を変えようか? ……お前さん、本当に人間か?」
「どういう意味でしょう?」
「ま、答えたくなければ答えんでもいいわい。お前さんにも事情があるようじゃしの。ただ、わし等も封印されし神じゃ、おぬしの中に収めてあるものが少しは見えるのよ」
驚いた。
「まさか、あんたたちはオリジナルの七福神なのか?」
俺が問うと寿老人は面白そうに笑った。
「ああ、そうじゃ。わしらがオリジナルじゃよ」
警戒すべきかそうでないか。
迷う間に寿老人が声をかけてくる。
「ま、何かあったら声をかけるといい。わしと、わしらは何があってもお前さんの味方であることを誓おう」
なぜだ?
真意が測りきれない。
だがその言葉には何か俺を信頼させるものがあった。
寿老人は再び宴の席に戻っていき、ポツンと残された俺は今後のことに頭をめぐらせる。
彼らがオリジナルの七福神だとしたら……。
持て余しかねない武器を無条件に渡された気分だった。