≪横島≫
……何故だ?
何故ここに令子ちゃんが存在している?
ユリンに探しにいかせたらまず見つけたのはここには来ていないはずの令子ちゃんだった。
おかしい。
もし、天文学的な確立の末に偶然この場所に来たとしても今回、令子ちゃんがこの場所にとどまる理由はないはず。
俺が持たせている文珠で雷を起こせるはずだし、もし仮に帰りのイメージを正確にできないのだとすればもう少し慌てているはずだ。
自分の意思で来たにしたら令子ちゃんしか来ていないのもおかしい。
俺なら最低でも雪之丞はつけるはず。
そもそも、今回はわざわざ時間移動能力まで使って前世の自分にあう理由はないはずだ。
不審に思い物影に隠れながら監視をする。
『心見、わかるか?』
『そう急くな、横島。……あの魂、美神令子のものに相違ない。……いや、まてよ?』
『どうした?』
『いや、あの美神令子の背中に傷跡のようなものがあるのだ。いや、文字か? C、アルファベットのCと書かれている。……それにポケットの中に文珠とエクトプラズム粘土を忍ばせてあるな。……文珠には【模】と刻まれておるぞ?』
C? エクトプラズム粘土? 【模】の文珠?
……そういうことか!
俺はいったんこの場所を離れる。
ダレにも見咎められぬ場所へと。
「兄者、どうしたのだ?」
心見が人の形をとり、その口調がいつものそれに戻る。
「出て来い! そこにいるんだろう?」
はたして、俺の言葉に反応して人影がそこに現れた。
「安心したよ。まぁ、これだけヒントをちりばめていて理解できないというのならその正気を疑うがね」
第一声がいやみだ。
よっぽど俺が憎らしいのだな。
まぁ、俺も大嫌いだが。
「ご苦労なことだな。どれだけ他人の人生を弄べば気が済む!」
「自分も同じ事をやるのだろう?……効率が良いからな」
ク……。
「とっとと己のやる事をやってとっととくたばれ!」
「己のなすべきこともなさずに死ぬようなら俺がくびり殺してやる!」
不毛だな。
向こうもそう思ったのだろう。矛先も殺気もおさめる。
「……失敗するなよ」
「あぁ。ここで失敗するわけにはいかないからな」
俺は再び文珠を精製すると出発地点より大分前、南部グループとの事件直後の現代に戻る準備をする。
別れの言葉もなく、俺は俺とわかれた。
・
・
現代に戻った俺はすぐさまカオスの研究室の向かう。
「どうしたのだ?」
「頼みがある。エクトプラズムで人形を作り加工をしてもらいたいんだ」
「いきなりだな。理由を言ってみろ」
俺はカオスに事情を説明した。
「なるほどな。確かに霊視をする場合は表面はあまり見ない。人間を相手にして材質が炭素であるか、それとも他の何かであるかまで気にするものは存在しない。有効かも知れんな。まぁ、やるからには徹底的に迷彩をするから半年後くらいにとりに来るといい」
……カオスが何か研究していると思ったら、まさか俺からの依頼だったとはな。
カオスにも迷惑をかけっぱなしか。
「だが、入れ物はともかく中身はどうするのだ? 無論培養する気なのだろうが、人間ではちょっとちぎって持ってくるなどというまねはできまい?」
「それについてもあてはある。培養の用意だけしておいてくれ……すまんな、ヌルの真似事なんかさせてしまって」
「まぁ正直あまり愉快ではないが、致し方なかろう。私が作ったオリジナルよりも、奴が作った生産物の方が今回に限っては有効だろうからな」
カオスと別れると今度は再び平安京へと移動を重ねる。
前回の移動よりもほんの数日だが早めに。
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生まれたての魔族には知識はあっても経験がない。
だから魔族ということに胡坐をかいて己の気を消すという行為を疎かにしやすい。
まぁ、何が言いたいのかといえば俺の腕の中に生まれたばかりの魔族が気を失ったかたちであるが存在しているということだ。
拉致同然、と、言うよりそのものなのだがどうしても必要な事項なのでここは我慢してもらおう。
今の段階なら彼女が失踪したとしてもそれを気に留めるものは少なかろう。
奴の手ごまはこの娘だけではないからな。
そのまま文珠で再び現代のカオスのとこまで戻り、魂をわずかに切り離すと文珠に【時/間】【移/動】【5/0】【0/年】【未/来】と、【模/倣】【持/続】【美/神】【令/子】という文字を込めて埋め込みを頼む。
平安時代の段階、究極の魔体もコスモプロセッサも存在しない今ならば……。
そういう考えも頭をよぎったが神・魔界のチャンネルを閉じたあの時とは違い、今のアシュタロスは魔界に帰ることも可能なのでそれをされると俺では追う方法がない。
あっても今度は魔界正規軍まで相手にしなければならないしな。
第一、確実にアシュタロスが倒せるとは限らない。
戦闘向けではないとはいえ、あのクラスの魔族では七種の霊波刀と文珠を併用すれば攻撃は届くかもしれないが、最初の一撃で倒せなければ脆弱な人間の肉体しか持たない俺ではどんどん不利になる。
攻撃にしたって届きはすれ、一撃必殺なんかはとても望めない。
老師との模擬戦で、そういうことは嫌というほど理解させられているからな。
第一、ここでアシュタロスを倒せてしまったら、俺の目的が達成させられない。
俺はもう一度、あの究極の魔体と相対しなければならないのだから。
同じ理由で文珠に込める文字を一万年とかにもできない。
……そしてカオスに後を任せて出来上がりの簡易(ここまでやるとあながち簡易でもないが)式神を受け取りに更に時間移動。
そして彼女、魔族メフィストをもといた場所に戻すと【忘】の文珠で記憶を消した。
肉体をエクトプラズムで作り上げ、その中に必要な文珠を内側に埋め込んで文珠の力で令子ちゃんの分身を作り上げる。
必要な魂は同じ魂の持ち主で、魂の切り離しが可能であるメフィストの魂を切り離し、南部グループとヌルが行ったようにそれを培養させて必要な分だけ作り、人工魂の製作者であるカオスが調整と迷彩を行う。
何かしらかの事故の理由にならないために混ざり気のない(魂の結晶を吸収していない)魂を利用している。
生まれたばかりの魂の方がその放つ力も強かろうしな。
最初から疑ってかかるのであるならともかく、そうでなければヒャクメでもオカルト的視覚でこれを見破るのは難しいだろう。(材質を調べられてしまえば即座にばれてしまうのだが)
これが、俺がヒャクメの映像で見たことの真実だったわけだ。
あとは、彼女から遠く離れた位置から隠れてことの成り行きを見守れば良い。