≪横島≫
妙神山での修業からこっち、特に大きな事件は起こらなかった。
一番大きな事といえば雪之丞がG・S資格試験を受けなかったことか。
俺にも、ゼクウにも、小竜姫さまにも、ワルキューレにも、それから五月にも一発もまともに有効打が当たらなかったのが悔しかったらしく一撃が入るようになるまで資格試験を受けないと言い出しやがった。
無茶苦茶だ。
俺はともかく他は身近にいるからわからなくなってるかもしれないが、武神に魔界正規軍のエリート。そして本物の戦の鬼。一流のG・Sでも有効打なんてそうそう当てられるものじゃない。
・・・まぁ、雪之丞なら1,2年のうちに何とかするだろうから特に何も言わなかったが。
ヨーロッパ組だとカオスの実験が遅れていたらしい。それでも霊力監視衛星の打ち上げには成功したらしくその中にカオスの記憶層も組み込んでいる。
今は優秀な助手のお陰で研究の目処も立ち、今年か来年のうちにも来日するとのこと。
西条は日本支部ができ次第異動するらしい。
美智恵さんががんばっているのであと1,2年というところか?
鬼道は日本に帰ってきて大学に通っている。来日してすぐに六道家に謝罪に行ったら六道女学園の教師にならないかと誘われたらしくどうするか思案中との事。今でも時々あって酒を酌み交わしている。
魔鈴さんは大学を卒業して日本に来たときにレストランを開店するときの援助と錬金術の手ほどきを条件にカオスの助手をしている。カオスにしても科学のほうはともかく、錬金術や魔法に関して彼女以上の助手を望めないだろう。
日本組としては俺は大学4年になってすぐ、横島除霊事務所の所長となった。所員は俺と冥子ちゃん。令子ちゃん、エミ、見習いの雪之丞。
冥子ちゃんたちは独立ちするまでのつなぎということになっている。いつまでもうちの所員でいさせるのはあまりにももったいないからな。
顧問として小竜姫さま、ワルキューレ、将門さま、ジルが名前を連ねている。新事務所の顧問としてこの連名ははっきり言って異常だ。小竜姫さまたちは代わりにうちの事務所を妙神山の東京出張所にしてくれれば良いといってくれたがそれもせいぜい連絡位しかやることはなく、逆にうちの名前を売る効果のほうが高いし、将門さまは
『五月を住まわせるのにそのくらいはしてやらんとな。』
だ、そうだ。
俺はその申し出をありがたく受けることにした。
実力のほうはともかく、冥華さんがよこしてくれる仕事以外は半年くらいは小口の依頼を中心に受けて事務所としての知名度を上げているところだ。
幸い、1年間倫敦にいて、帰ってきてからもろくにG・Sとして活動できなかった俺と違い3人は実力の高い美少女G・Sとしてかなり名前をうっていたし、俺自身は協会内での知名度だけは高かったのですぐに大口の依頼も受けさせてくれるようになったので(冥華さんの暗躍もあっただろう。)所属G・Sが多いこともあいまって(S級の俺、A級の令子ちゃん。冥子ちゃんは単独で引き受けた事件数が少なく、エミは呪術師として役に立つ事件というものがそもそも少ないのでまだB級。雪之丞はまだ見習いだが実力は十分なので単独でなければ頭数になる。それにゼクウ、ユリンの存在も大きい。リリシアやジルも人手のないときは良く手伝ってくれるので不定期の社員として依頼量から何割かを支払っている。)この近辺では最大手といっても良い。俺が出す条件のせいもあって多少依頼数が目減りするものの、無理して稼ごうとしなければ十分だろう。
・・・こっちの世界では多少の執着心は見せるものの令子ちゃんが常識の枠を超えるほどにはがめつくないからな。
マンションの建設は少し遅れたものの冬に完成した。入居者は今のところジル、リリシア、五月の3人しかいないがそのうち埋まるだろう。元々お金のために作ったわけではないしな。
俺自身はまだ幸福荘に住んでいる。まだ小鳩ちゃんには出会えていないから。
リリシアは何でも仲間のために風俗店を経営するのだそうだ。流石にリリムが直接接収したら拙いのでとりあえずはオーナーとして収まって、発散される精気を吸収するとの事。何だか裏技的だが(リリシアが直接吸わないのであれば)許可が下りたんだからまぁいいのだろう。精気の質はあまりよくないらしいが量だけは普通に吸っていたころから比べれば大量の精気を集められるらしい。その道のプロ(リリシア)が技術指導をしているので評判は上々との事。
ジルは本格的に人間界調査の任務が与えられたらしく、その事でうちに雇ってくれといってきたので常任顧問として事務所にいてもらうことにした。・・・いくら天使とはいえ、見た目8歳児を現場で働かせるのはあまりよろしくないからどうしても手が足りないとき以外はお留守番だ。俺がデスクワークをしているときは俺の膝や肩の上に良く座っている。変な場所を気に入ったものだ。
普段はユリンをお目付け役にしている。そうでないと補導されそうになるからだ。携帯電話を持たせて補導されそうになるたびに俺に連絡するようにしている。
五月にはいまだ嫌われたままだ。たまに雪之丞相手に組み手をしてくれてるようではあるが・・・強いな。
そんな感じで1年と半年間。修業を除けば比較的穏やかで、ゆっくりとした時間が流れていた。
そして時期的には少し早かったのだが、俺が大学を卒業する間際になってあの事件が舞い込んできた。
人骨温泉ホテル除霊依頼。
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≪令子≫
久しぶりに横島さんと2人っきりでの依頼だ。
場所は人骨温泉ホテル。
横島さんはもてるからね。知ってるだけでも冥子にリリシア、小竜姫さま、ヒャクメ、ワルキューレ。それから六道女学園の私の同期のほとんど。エミは妹だから外すし、ジルは流石に幼すぎるけどよくもまぁこれだけ種族も違う連中にもてるもんだと思う。
惜しむらくは横島さんが鈍感だっていうことか。そうでなければプレイボーイも気取れるのに。
まぁそんな横島さんは横島さんっぽくないけどさ。
どういうわけか独特の雰囲気があってみんなも積極的なアプローチができないけどこのチャンスを逃さないようにしないとね。
ママも応援してくれるみたいだし。
「令子ちゃん。大丈夫かい?」
横島さんがこちらの心配をしてくれる。
途中までの道は送迎バス以外の交通機関がなく、途中の車が通れる道は落石があったために仕方なく歩いてホテルを目指しているのだが、山道を1時間ほどの行程。荷物を持った状態では少し骨か。
でもこの荷物のほとんどは私の除霊道具だし、7割以上は横島さんが持っているのでそうへこたれるわけにもいかない。
基礎体力に絶望的な差があることも否めないけど。
「大丈夫よ。」
「・・・でもあまり無理をして本番の除霊の時にへばってはいられないからね。今回の除霊はほとんど令子ちゃんに任せて俺は荷物もちにでも徹するつもりだし。・・・そうだ。荷物は全部俺が持っていくから令子ちゃんは一足先に行って俺たちの到着を伝えてきてもらえないかな?」
「でもそれじゃあ。」
横島さんは私の荷物をヒョイと受け取るけどもまったく危なげな様子はない。
・・・知ってはいたけどやっぱ化け物チックだわ。
「それじゃあ先に行きますね。」
「あぁ。俺もそう後れないうちに行くよ。」
笑顔で見送ってくれる横島さんを残して私は先に行くことにした。
「・・・さてと。」
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≪???≫
「あの人・・・あの人がいいわ・・・ようし・・・」
大荷物を抱えて歩いている男性に狙いをつけて肩から体当たりをする。
「えい!」
横から体当たりをするんだけど・・・あれ、当たった感触がない?
「キャァ。」
思いっきり転びそうになったところをさっきの男性が抱きとめてくれた。
「ご・・・ごめんなさい。私ったらドジで。」
「君は幽霊だね?」
え、いきなりわかられちゃった。
「ご、ごめんなさいごめんなさい。」
逃げ出そうとしたのだがつかまれた腕が抜けられない。
「落ち着きなって。悪いようにはしないから。」
私の髪を優しく梳いてくれました。
「君はまだ悪霊化していないようだけど誰かを代わりにしてしまえば君はそのまま悪霊化してしまい今以上に苦しむことになってしまう。俺はG・S・・・霊を払う仕事をしていて名前は横島忠夫。・・・とりあえず一緒に来てもらえないかな?」
こうやって頭を撫でてもらうのは何百年ぶりでしょうか?
「ごめんなさい。私あなたを殺して私の身代わりになってもらおうとしていたんです。」
そう告白しても泣き出した私の頭を抱きとめて、横島さんは私の頭を撫でてくれています。
私が泣き止むのを待って、私は横島さんに連れられて人骨温泉ホテルに連れられていきました。