≪テレサ≫
「ひどい奴らだ……! 中枢機能が無事だったのが幸いだったな、バロン!」
お父様が人造犬のバロン、もしかしたら私や姉さんの(技術的な意味での)祖先に当たるのでしょうか?人工魂は持っていないようですが高性能の人工知能は持ち合わせているようですから。
まぁ、私と違って姉さんにはマリア姫という祖先(モデル)がこの時代にいるわけだし、700歳差の私と姉さんだったら姉さんが私の直系の祖先と言い換えてもおかしくはないのか。我がことながら複雑ね。
「――にしても驚くことばかりだ! 私以上の天才が城を乗っ取ってモンスターを作っているだと? で、お前達は未来から時空を越えてきたとな……それも未来の私が認めた対等の友人だというのか!?」
「マリアとテレサを見てもらえば納得してもらえると思うが?」
「たしかにな。マリアは人造人間試作M-666と同じコンセプトで生み出されたようだし、この時代にこれだけのものを作り上げ、かつここまでワシと同じ開発の癖を持ったものなどおらんだろう。仮におったとしてもわざわざそんな嘘をつく理由などないだろうしな」
ミス美神が席を外した隙にお父様には姉さんが未来のお父様が持たせた手紙を渡しました。
ちなみに、ヌルの部下がバロンにつけた立体映像装置は横島さんが偶然を装って早い段階で壊しています。恐らくヌルが識別したのはゲソバルスキーと直接会ったミス美神の他に、人造モンスターを倒したものが別に存在するということくらいでしょう。
「なるほど、ヌルは魔族なわけか。どうりで人造モンスターを作り上げるなんていう真似をしたのか」
「俺達のことは令子ちゃんには内緒にしてくれないか?」
「お前が逆行者だと知っているのはお前の直属の部下と神・魔界の六柱と、私と私の娘たちだけだというのか」
「まぁ、その内の一柱は覚えているかどうかはわからないがな」
「そんな大事なことをこの時代の私に話してもよかったのか?」
「信用されるためにはこちらが信用しなくてはなるまい?」
「なるほど。真理ではあるな」
「俺の知るカオスは信用するにあたいする男だった」
「そう言われてしまえばこちらとしても協力せざるを得ないか。例え未来の自分といえど、否。だからこそ負けたくはないのでね」
ちなみにマリア姫もさっきからこの場にいるけど、この地方の言葉でも、フランス語でもないエジプト語(現在はアラビア語に滅ぼされてほとんど残されていない。が、古いエジプトの記録を読むのには必要なのでお父様に習ったそう)で二人が会話をしているので理解はできないでしょう。別にマリア姫には知られてもかまわないといえばかまわないのですけど、何かの拍子でミス美神に漏れるとまずいですからね。
「この手紙には未来の私から私に対する依頼が書かれていてな、それを達成するためにはヌルを倒して奴の研究データを手に入れないといかんのだ」
? そんな話は聞いてないですけど……。
まぁ、お父様が考えがあっての行動なのでしょうから大丈夫なのでしょう。
ミス美神が花摘み(トイレ)から戻ったので言葉を戻し(嘘ではありますが)決まったことを教えます。
「より確実性を増すためにはそれなりの施設が必要だというからカオスと協力してプロフェッサー・ヌルを追い出すことに決まったよ。それと、カオスの推論だとヌルは魔族らしい」
「どうりで。技術、工程、コスト、生産性の全てに兵器としては劣る人造モンスターなんて作り出そうとしているから変だとは思ってたんだけどね」
まぁ、確かに人造モンスターは兵器には向かないわね。
確かに相手の戦意を挫く効果はあるかもしれないけど、大砲だって同様の効果が得られるし、モンスターなんぞを使ったらあからさまに法王庁を挑発することになりますもの。
でも、ミス美神の観察眼もなかなかのものですわ。
「ふむ。……しかしこれで……いや、……ん。先ほどの情報から判断するに……、まてよ、リンクさせればなんとか……あ、駄目か。……いや、可能なのか」
お父様が情報を整理して作戦を練っているよう。
少なくとも私達の方が戦力的にも上回り、情報戦も制している。(横島さんと心見の霊視でヌルの諜報装置がバロンにつけられたもの以外なかったということは確認済み、さらにはユリンを飛ばして城の監視をさせています)後はどれだけ被害を抑えられるかということを考えているのでしょう。
「ふむ。決まったぞ! さて、諸君。悪巧みを始めようじゃないか」
こう言う時のお父様は楽しそうですわね。
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≪ヌル≫
「ドクター・カオス。あなたのほうから来てくださるとは思いませんでしたよ。それもわざわざ私の未来の妻まで連れてね」
ドクター・カオスがわざわざ城まで訪ねてきてくれた。
後ろにいるのは手枷をはめ、猿轡をかまされたマリア姫とゲソバルスキーが相対したという女ですか。こちらは枷をはめていませんね。
「私もこんな田舎でくすぶっていたくはないものでね」
「そうでしょうとも。あなたも私と同じ種類の人間。己の能力を高めるために人生をかけてきたタイプの人間です。天才は天才どうし、理解してもらえると思いましたよ。ところでそちらの女性は?」
「マリア姫がお前を倒すために雇った魔女の弟子だそうだ。もっとも、師匠を殺した後はこの私に忠誠を誓ったがね」
「あのモンスターを倒したまではよかったけど、ドクターの鉄の鳥にはあの男も敵わなかったからね。私は強い男に従うことにしているの」
鉄の鳥? なるほど。ドクター・カオスの発明品にやられたわけですか。恐らくは飛行機械のことなのでしょう。
「なるほど。で、その男は?」
「村に捨ててきたよ。嘘だと思うのなら確かめてくるといい」
「いえ、それには及ばないでしょう」
「ふむ。しかしお主は生体工学が得意のようだな。機械工学を得意としている私が組めばなかなかどうして、面白いことになりそうじゃないか」
「えぇ。私が人造モンスターを世界中に売りさばけば我々は巨万の富を手に入れることができる。ドクター・カオスが手をかしてくれれば我々の名声も、富も不動のものとなるでしょう。さぁ、食事でもしながら詳しい話をしましょうか」
楽しい食事会になりそうですね。
疑うわけではないが用意させる間にソルジャーに村のほうの確認をさせましょう。
帰ってきたソルジャーは、確かに穴が無数に開いた(恐らく銃弾)見慣れぬ男の死体が放置されているのを見つけ出した。