≪横島≫
突然だが現在スイス・イタリア国境付近にいる。
もちろん時間転移をしてきたわけなのだが。
今回と前回の違いは半ば意図的に起こしたので(今まで起こさなかったのはカオスがなにやら準備があると言ったからだ)準備も十分できている。
令子ちゃんようの装備もそれなりに持ってきてあるし、カオスに自分への手紙を書いてもらっている。
マリアの電力も十分だし、テレサもサポートに来ている。
飛んできたのは俺と令子ちゃん、マリアとテレサ、それからユリンと心見だけだけどな。
「せん……にひゃく……よんじうにねん!?」
流石に令子ちゃんが混乱しているな。無理もないが。
「落ち着いて、令子ちゃん。……テレサ、原因はわかっているか?」
俺もマリアもテレサも事前に知っているので令子ちゃんだけ蚊帳の外というか嘘をついて騙しているようで心苦しいのだが仕方ないな。
「局地的な時空震が感知されました。97・8%の確立で時間移動が行われたと思います。霊力の発信源は美神さんの、この座標は姉さんの記憶が混ざったためだと思われます」
「美智恵さんも時間移動能力者だったからな。マリアの放電に巻き込まれて眠っていた霊能力が目覚めたというところか」
「ソーリー・ミス美神。マリア・巻きこんでしまいました」
「しょうがないわよ。まさかこんなことになるとは思わなかったんだし。それよりも元の時代にはどうすれば返れるのかしら?」
「そのまま時間移動を再度行ってももとの時代に帰れる可能性は高いですが、この時代、この場所にはドクターがおられるはずですからドクターの助力をお願いした方がより確実かと思います」
「そうね。カオスの力を借りられるなら借りた方がいいか。時間移動に成功したはいいけど石の中なんてことになったら困るしね」
石の中? 確かにそれは困るな。
俺と令子ちゃんはマリアとテレサに運ばれて空からあの村に運ばれた。
令子ちゃんが少し心配をしていたがカオスの名前を出せばたいていのことは納得するだろうといったら納得していた。
村に着くと魔女が来たと逃げ惑う中で俺は大声を張り上げる。
「驚かしてすまない。俺はドクター・カオスの知己で横島と言う。ドクターはここにおられるか?」
マリア姫が前に出てくる。
「カオス様の知己と言うのは真か!」
「……マリア?」
令子ちゃんが小声で漏らす。
どうやらその呟きはマリア姫には聞こえなかったようだ。
「あぁ。ドクターに頼みたいことがあってきたのだが」
「いいでしょう。ここは私の父の領地じゃ! 私も父上も魔術には寛容ゆえ、カオス様の知り合いであるというのなら邪悪な魔術師というわけでもあるまい。村への立ち入りを許可しよう。私の名はマリアだ」
「俺の名前は横島忠夫。横島と呼んでくれればいい」
自己紹介をかわす。マリアの容姿と名前に驚いていたが、
「そのことについて正確に説明すると専門的な話を三日三晩は説明しなくてはならないが?」
と言ったら引き下がってくれた。
「残念ながらカオス様は一月ほど前から地中海の方に出かけている。吸血鬼を倒して名を上げるとおっしゃっていた」
「そうですか。もしよろしければカオスが帰ってくるまで厄介になれないでしょうか?」
「実を申すとカオス様がお出かけになった後、この地にプロフェッサー・ヌル邪悪な錬金術師がこの地に現れたのだ。父上もヌルの手に落ち、今この村でカオス様の帰還を待ちつつ抵抗運動をしているのじゃ。そなたらがカオス様の知己というのなら手を貸して欲しい」
「かまいませんよ。俺達もカオスが帰ってくるまで身動きが取れませんから」
戦力的にはなんら問題ないしな。マリアとテレサ、俺、令子ちゃん、ユリンに心見。
俺が抜けたとしてもヌル程度なら問題なく倒せるはずだ。
問題があるとすればあいつが技術者だということだ。
全く同じ物を発明しているとは限らないからその点だけは気をつけないとな。
「姫さま! 大変ですプロフェッサー・ヌルの部下どもがここを……!」
「なんですって!?」
外に出ると人造モンスターの火竜とガーゴイル。ゲソバルスキーに率いられた騎士モドキ達が村の方に向かってくる。
「バロン!」
「バヴッ!」
「みんな落ち着け! 私と魔術師の横島どので皆を守る! ひとまず村はずれの墓地へ集まれ!」
「私と魔術師の横島どので皆を守る! ひとまず村はずれの墓地へ……」
バロンがマリア姫の声を録音して復唱する。
「俺があのモンスターたちを片付けてくるから令子ちゃんもバロンと一緒に村人達を守って。ただし、無理はしないこと」
「わかったわ」
さて、バロンには悪いがカオスを呼んでもらわんといかんからな。
ガーゴイルと火竜の相手はこちらで受け持つがゲソバルスキーにいったん負けてもらおう。
「おぉ! 横島どのは古代の秘術を受け継ぐ大魔法使いなのだな。流石はカオス様の知己」
ヌルとゲソバルスキーあたりに見られさえしなければ問題ないので文珠を用いてあっさりと勝負をつけたらマリア姫に感心された。ま、魔法ではないのだが誤解されても問題ないだろう。
村はずれの墓地に行くとバロンが倒され、村人達は令子ちゃんが張った精霊石の結界の中に避難していた。
「すぐに助けないと!」
飛び出そうとするマリア姫を押しとどめる。
「待て、精霊石で張った結界はおいそれとは破れない。タイミングを計るんだ」
とはいっても、ユリンとマリア、テレサで一斉攻撃をかければ問題ないのだがここはカオスを待つほうがいいだろう。
今回もゲソバルスキーが出したマリア姫の恥ずかしい写真でマリア姫がゲソバルスキーを殴りに行ってしまい、窮地に(実際はそうでもないが)陥る。
「私が少し留守にしただけで、ずいぶんとにぎやかにやっているじゃないか! 遊ぶなら私も混ぜてもらおうか!」
「ド、ドクター・カオス! 来てくれたのか……!」
真打登場か。
さて、ここまでは歴史の流れどおり。この先どういう変化を起こすべきなのかな……。