≪横島≫
重要参考人としての任意同行もアリバイが警視庁内。それも幹部との面会中というこれ以上ないくらい強固なものなのですぐに解放された。
いや、解放された矢先のことだ。壁を突き破って精霊獣が俺を拉致した。
予想内というよりそのほうが都合がいいのでおとなしく拉致される。
犯人は今回もザンス王国王女だったからな。
「ワタシの父をオソったのはアナタでございますね? よくもヤってくれました! アナタをラチカンキンします! ゴーモンしてコロします!」
「随分と物騒な話だな。あなたはいったい何者だ?」
知ってるけどな。
「ワタシ、ザンス王女キャラットです! 父のテキはこのワタシがサバきます!」
独りよがりなお嬢さんだ。
「――それにしてもキタないクウキですね! 我が国ザンスと違って、キカイ文明にケガされきってイます! あんなモノにタヨらなければイドウもままならぬアナタ方はナンとオロかなコトでありましょうか!」
「ザンスで何人の人間が空を飛べる?」
「え?」
「全員が飛べるわけでも、病気にかからないわけでも、怪我を治せるわけでもあるまい? 魔法は個人の才能による部分が非常に大きいからな。ザンスの文化を否定するわけでもないし、科学がおしなべてすばらしいものだと賛美するつもりも全くないが。科学には科学の利点がある。全く同様の条件下では誰がいつ力を行使しても同様の結果が得られるというな。ま、狭い視野は身を滅ぼしかねんぞ?」
「余計なオセワです! それにワタシたちキカイにフれるコトなりません! ソレは王家のタブーです!」
そのまま俺はザンス王国大使館(つくりは普通の民家だが)に拉致され椅子に縛り上げられた。
「ひ、姫! なんてことを! 王族が訪問先の国でこんなマネをするなんて……!」
「シンパイありません、大使! ワタシにはガイコートッケンがあるのですカラ! キカイ文明にドクされたこの国のモノに、精霊石のカゴのあるワタシをトラえることはデキないです!」
「……随分甘やかされて育ったようですね」
「イヤハヤ、私の口からはなんとも」
「それは失礼」
……この大使、ことなかれ主義かと思えば意外にやるぞ!? 王女に気がつかれないようにうちの事務所と警視庁、オカルトGメンに連絡を取っている。
そうかと思えば王女がいなくなった隙に俺に謝罪をしてきた。
「横島さん。王女がご迷惑をおかけして大変申し訳ございません。高名な霊能力者のアナタにこのような仕打ちを。どうかご容赦願いたい。今、横島さんの事務所に連絡を入れて迎えに来てもらいますので」
「ええ、こちらもお姫様相手に荒事したくはないのでおとなしくつかまったわけですし謝罪は承りました。連絡を入れるのなら六道家の方にいれていただけますか?」
「わかりました」
その後お姫様の尋問(というにはあまりにも拙いものだが)をノラリクラリとかわしている間に鳩時計を持った令子ちゃんたちがやってきた。
「横島さん無事!?」
「おのれ大使! テキのナカマをマネきイれるとは――」
「おちつきなさいって」
「ああっキカイ!? それ、タブーですっ!」
精霊獣を出して迎撃しようとするが鳩時計を前に精霊獣と一緒に頭を抱えてうずくまる。
「――と、いうわけで横島さんはザンス王国国王暗殺とは無関係よ! 真犯人は横島さんに当局の注意を向けて次の暗殺計画を行うつもりよ!」
「そ、そんな……」
「……まったくあきれた単細胞の姫君なワケ……!」
「横島さんのお名前はニルチッイ殿から聞いております」
大使が意外なことを言う。
「なんでそこでニルチッイさんの名前が? それにザンスは鎖国状態だったのでは」
「ほとんど、です。確かに化学文明の国家とは国交深くはを結べませんでしたが、同じく精霊信仰を行うネイティヴ・アメリカンの方達とは比較的深いお付き合いがあるのですよ。特にニルチッイ殿は国王陛下とも深く親交を結んでおられます。ザンス王国が貿易の相手国として地理的に近いヨーロッパでも、アメリカでもなく日本を選んだのはそれが大きな理由を占めているのです」
なるほど。神道の残る日本なら気休め程度とはいえ国内の原理主義者を説得する理由にはなるのか。
「ニルチッイ殿は横島さんに大変なお世話になったと申していました。ネイティヴ・アメリカンを救ってくれた英雄だとも。その話を聞いて国王陛下は日本と貿易を行うことを決断なされたのです」
「た、大使! それはマコトですか?」
「まことにございます」
それを聞くと王女が俺に深く頭を下げた。
「スミマセンでした。お婆様の恩人にこのようなマネを」
大使が耳打ちをする。
『姫様はニルチッイ殿をお婆様と呼び大変慕われておるのです』
まさかこんな伝からタイムスケジュールの狂いがおきていたとはな。
……だからこそ俺が狙われたのか?
「横島さん。どうか国王陛下をお守りするのにご助力を願えないでしょうか?」
「わかりました。お引き受けいたします。それで、真犯人の心当たりは?」
「ち……父にはテキがオオいのです……! チカゴロ他国の製品がチカラをつけてキて、ザンス製品のウリアゲがオちてキて――父は、これまでのタブーをヤブってこの国の製品のウリコみをしにキました! 国内のカゲキな原理主義者タチのモウハンパツをカっています!」
「宗教と経済の板ばさみなのね」
「狂信者……か」
俺が一番嫌いな手合いだな。
数分後、テレビ中継で再びザンス国王が暗殺されかける。今回も国王のSPが重傷を負い、今回は西条が逮捕されることはなかった。
「ち、父上」
「猶予はあまりないようですね。大使、至急俺達を国王の警備につけるように手続きを頼みます」
「わかりました」
「……横島さん。ワタシでは父を守ることデキない……! だから、アナタにスベてをアズけます! この精霊獣石は精霊にユルされしもの――王族と、それにニンメイされた騎士にしかツカえません! どうか父をマモってほしい! たったイマからアナタはザンス王女の精霊騎士・横島卿です! 精霊のご加護があらんコトを……!」
精霊獣石が発光して精霊獣があらわれる。
元々のデザインは変わらないものの、より人間的というよりサイズこそ大きいものの絵画から抜け出してきた女性騎士さながらの姿で俺の前に膝まずいた。
「お初にお目にかかりますマイマスター。王女の精霊獣、これよりはマスターの配下としてお仕えさせていただきます」
「せ、精霊獣がシャベった?」
「はい王女殿下。マスターの強力な霊力により可能になったことと思われます。私達は使う人間の能力によって形態が変化しますから」
「ワタシより横島さんの方が強力なのですか……!? ザンスの王女であるワタシより」
「お言葉ですが王女殿下。マスターの霊力は歴代のザンス国王はおろか人間の限界すら軽く凌駕しております。王女の精霊獣であるこの私とてマスターの霊力を全て受け止めることなど不可能なのです」
驚愕と畏怖と尊敬のないまぜになった視線で見られる。
その後、国王陛下の臨時SPとして雇われることとなった。
……この状況、使えるな。
俺は事情を説明して五月、美衣さん、セイレーンに応援を頼んだ。
この状況を利用するために必要でない戦力でも集める。
彼女達には国王の護衛ではなくアシモト総理をはじめ日本の政治家の護衛を(いざ事件が起きたときは)頼んだ。
警視庁にはいい顔をされなかったが、その辺は国王陛下に頼み込んでねじ込んでもらった。
(表向き逮捕にはならなかったとはいえ)容疑者にした男がSPになり、妖怪まで国会の警護につくなんて前代未聞どころのはなしじゃないからな。
今回も事務所でおキヌちゃんが襲われたのだが今回はおキヌちゃんは幽霊なのでワイヤーで首を絞めたところで関係がないし、五月に基本的な対術を教え込まれていたのと機械が作動したこともあって撃退に成功。
その映像を人工幽霊一号が録画していたその映像と、犯人の残していった俺と西条の変化マスクを証拠として警視庁に提出した。(意図的に国会への地図は提出しなかったのだが)
これで犯人は絞られ(俺は容疑者から完全に外れ)指名手配を受けるようになった。
罠は仕掛け終わった。
後はひっかかるのを待つだけだ。