≪横島≫
しばらくはタイムスケジュールどおりに事件が起きた。
恐竜はネクロマンサーの笛でおとなしくさせている間に恐竜の骨を借りてきて一緒に成仏をさせる。
セイレーンはカオスがボケていなかったためにカオスだけでケリがついた。流石にカオスが当時歌った曲はカラオケになかったため他の曲を歌ったのだがイギリスに長くいたからてっきりビートルズでも歌うかと思ったら予想に反してクイーンだった。まぁイギリスを代表するアーティストには違いない。
今回はセイレーンも声をからしていなかったために船の上でのカラオケ大会で和睦を結ぶことに成功。
ジェームズ伝次郎が所属する事務所から歌手デビューをすることと、リレイションハイツへの入居が決まった。
歌唱力が以上に高く、見目もよく、話題性も十分なために少なくとも一度は成功するだろう。その後は人間ではないというハンデや、やっかみの込まれた偽スキャンダル(魅了の魔力を込めて歌っている等)をどうかわしていくかが焦点となるな。無論、オカルト的な偽スキャンダルならうちの事務所が全面的に協力することを約束している。
ヴィスコンティとのレースは大ファンだったという雪之丞がどうしてもやらせて欲しいというので雪之丞に任せた。当時の俺はおろか美神さん以上の霊力を持っているので人工幽霊一号との連携が微妙にかみ合わなかったものの(雪之丞が熱くなりすぎたせい)全体的に見ればいいレースを繰り広げてヴィスコンティに勝利した。
ゴキブリは入居当初に業者に殺虫消毒をしてもらって、壊れた建物部分は人工幽霊の自己申告させ【修/復】したのでそもそも発生していない。例えゴキブリがでたとしてもジェノサイドZなんて危ない薬には頼らないけどな。
アン=ヘルシングの場合は前回から比べればピートの能力が格段に高くなっていることで自力で解決している。
精神的に成長したことで無条件に女の子には怒れないということはなくなっていたし、今回はゴリアテには誰もとらわれていなかったので自力でヘルシング教授の執念に気がついて除霊を行った。
今回は何故かエミからのアタックは受けてないもののアンちゃんから熱烈なアタックは今回も受けている。
ただし俺とピートと唐巣神父の三人からの説得、及びカオスの伝で当代のヘルシング教授(カオスもオックスフォードで教鞭を取ったことがあり、初代ヘルシングはそのときの教え子の一人だったらしい。吸血鬼退治の方法も実はカオスの伝授によるものだったとのこと)の説得も受けて普段は初代ヘルシング教授の遺物を使うことを禁止したためにはた迷惑ということは減少している。
神楽面は擬似的な体を作って直接デートしてもらった。経過はともかく結果は同じようになった。
死神さまのときも同じ。違うのは精霊石による眼くらましではなく文珠による幻影というより確実な方法をとったということ。
違いがあるとすれば入院したのがアン=ヘルシングの襲撃の際に捻挫をしたタイガーだったということか。
恐山の時は捻挫から復帰したタイガーが活躍した。パワーと体格、霊力ではひけを取らないし、取り組み前に俺と五月で入念に相撲対策をしている。元々五月に素手での戦い方を仕込まれてもいたので水入りの入る長い取り組みの末に一本背負い(相撲の決まり手にもある)でタイガーが勝利を収めた。
その後の相撲協会からものすごい勢いでスカウトが来たが本人はG・Sになる方を選んだようだ。
……17歳で現役横綱もかなわない伝説の横綱と真っ向勝負で勝っているのだから角界に行けば時代を代表する力士になっていただろうな。
ここから先はタイムスケジュールからずれ始めた。
まずはオカルトGメンの日本支部が(とりあえず今はまだ試験段階として小さなものだが)設立された。
とりあえず現段階でのTOPは西条だが、組織が大きくなったら美智恵さんが赴任してくる。
これは美智恵さんが生きてこれまでずっと設立のために準備をしていたのだからこれは起こるべくして起こった改変なのだが。
場所は今回もうちの事務所の隣。
最も今回は俺と西条の関係が良好なこともあって前回のような騒動には発展しなかった。
今回も令子ちゃんにコナをかけはしたが前回ほどではなかったし、比較的あっさりと引き下がった。
前回とは違い俺を認めてくれているということか?
契約を交わしたわけではないがうちの事務所とオカルトGメンは共闘関係を築くだろうな。
この辺りで雪之丞とタイガーが見習い期間を終えて正式にうちの事務所の所員となった。もちろん今はEランクだが、この二人ならすぐに上に駆け上るだろう。カオスは元々特例でDランクからのスタートだったのですでにAランク(主にカオスにとっては初歩的な、現代のG・Sにとっては革新的なオカルトアイテムの改造の功績が認められてのもの)に来ている。カオスはうちの事務所には所属はしておらず普段は研究にいそしんでいる。最も、手を借りたい時はいつでも言えと言ってくれているし事務所にもよく顔を出しているのでほとんど所属しているようなもの(カオスまで所属するのは協会がいい顔をしないのはわかっていたからわざと公式には所属しなかったという面もある)だが。
ピートもそう時間をかけずに(この辺の遅れの差は実力ではなくうちの事務所と唐巣神父の所の仕事の密度の差)Eランクになるだろう。
他の所属メンバーは令子ちゃんと冥子ちゃんがSランク、エミがAランクになっている。
これを機に独立をしたらどうだといったのだが断られた。
このメンバーから遠く離れたところで事務所を開くのも、近くで商売敵になるのも嫌だという。
とはいえ、いつまでも俺の下にいるのもどうかと思うので相談した結果三人も共同経営者になることと、事務所内での独立性をさらに高めることにした。仕事はうちの事務所で共同で取るものの、それを分配した後は個人の責任でG・S協会への報告書の作成や(所長が書かねばならない部分は除く)アフターケアなどをやらせることにした。また、週に一回対等な立場でのミーティングも行っている。
もちろん、相互でのヘルプは行っているが。
日本で七人しかいない(二人が追加されたため)S級G・Sのうち三人が所属していて、さらに二人が浅からぬ関係を持っているというのも我がことながらとんでもないな。
もう一つ、タイムスケジュールが狂う事態が起きた。
ザンス王国国王が来日するというのだ。
情報を掴んだ俺は細工をして来日の時間に合わせて冥子ちゃんは六道女学園の講師に、エミはG・S協会本部に折衝に向かわせ、令子ちゃんと雪之丞、おキヌちゃんは海外出張(美智恵さんのヘルプ)俺とタイガーは警視庁内にいて警視庁の高官と折衝を行っていた。愛子には厄珍堂へ買出しを頼んでいる。
もちろんアリバイ工作(俺達が犯罪を犯すわけではないのでこの言い方も変だが)のためだ。
そして今回も残念ながら暗殺未遂事件は起きてしまった。
さて、今回も俺を始めうちの事務所や関係者を犯人に仕立て上げようとするのかな?
前回(少なくとも表向きは)日本最高のG・Sである美神さんを身代わりに選んだのだからうちを狙う可能性は高いと思うのだがな。
だとすれば……全て潰すよ。
「横島クン、いるか!」
西条の声。今回も俺か。
「どうした? 西条」
「こんなことは言うべきではないが何かの間違いではないかとボクも思う。だが証拠があがっているんでね。オカルト犯罪防止法に基づき、君をザンス国王暗殺未遂容疑で逮捕する!」
「ザンス国王が来日したときのことを言っているのなら俺は警視庁で印南警視正と交渉をしていたのだが?」
「なに! それは本当かい」
「警視正本人か、そうでなくとも受付けにいた人間に聞けば証明できると思うぞ? 俺を逮捕した後では誤認逮捕になるだろうから今のうちに確認を取ったほうがいいのではないか?」
すぐさま西条が警視庁に確認を取る。
「……すまない。警視正本人にも確認が取れたよ。本当にすまなかった」
「外交問題になるから逮捕を急ぐのはわかるが確認はしっかりとったほうがいいぞ。それとも、俺が犯人だという決定的な証拠でもあったのか?」
「あぁ。この写真を見てくれ」
西条が取り出した写真には空港の職員の首を絞める俺の姿が映されていた。
「……ザンスには変化マスクがあるし、特殊な幻術や霊能力でもこの程度はできる。エクトプラズムスーツなんてのもあるしな。むしろザンス国人を疑うべきではないか? 日本人が今ザンス国王を狙っても得することは少ないだろう?」
「不勉強だな。変化マスクのことは知らなかったよ」
「あそこは今の今まで鎖国状態だったし、俺もカオスに聞いたことがあるくらいだったから知らなくてもしょうがないだろう」
素面で大嘘をつく。
「……だがこれだけの証拠があがったのならアリバイがあっても重要参考人は確実かな?」
「あぁ。すまないが警視庁まで同道願うよ」
「わかっている。……一応伝えておくけどうちの事務所の面子は偶然全員にアリバイがあるから。令子ちゃんは雪之丞とザンス国王の後の飛行機で帰ってきたのだし、冥子ちゃんは六道女学園に講師に、エミはG・S本部に行っていたから。愛子も厄珍堂に買い物を頼んでいたし、タイガーは俺と一緒に警視庁にいたぞ」
「それはわかったが何故今そんなことを?」
「俺が身代わりにされそうになったのであればプロのテロリストであれば少なくともうちの事務所について調べていた可能性が高い。俺が捕まらなかったり、第二、第三の暗殺計画があったなら他のメンバーが犯人の身代わりにされるかもしれないと判断したんだ」
「なるほど。理にかなってるな」
「西条、お前も人事じゃないぞ? 日本に今いるオカルト犯罪の専門家、かつ逮捕権を持っているもののTOPはお前だ。……俺ならお前を狙うな。お前が捕まれば犯人が逃げおおせる確率は格段に高くなる。当分の間は公私共に複数人での行動をお勧めするよ。令子ちゃん達もだ。六道さんちで全員寝泊りさせてもらってくれ。愛子は事態が収集するまで出勤しなくていい。人工幽霊一号、もし留守中に侵入者がいたら録画して西条宛に画像を送ってくれ」
「忠告には感謝しよう」
「わかったわ」
「わかりました」
「了解しました、オーナー」
さて、布石は打った。
あとはあのお姫さんがどう動くかか。