≪横島≫
「[あめりか]というのは空港って場所にそっくりですねぇ」
「おキヌちゃん。ここは空港だから」
毎度お決まりのやりとり。
「お~。わっしと同じくらいの体つきの人間もいますジャー」
あぁ、俺も雪之丞も日本人の中じゃあ大きいほうだがこっちじゃ標準サイズだな。
確かにタイガー並みの体格の人間も結構いるな。
「みなさん。これから来るまで3時間ほどのところに私達の部族が暮らす自治区があります」
車で移動すること3時間。
ネイティヴ・アメリカンの宝か。
……嫌な予感がするな。
車中は特に何もなく、ほどなく自治区についた。
「まずは各部族の長老達にお会いください」
集落の雰囲気は……消極的歓迎6割、積極的拒絶4割というところか。
あまり開放的な雰囲気ではない。そういう部族なのか襲われたことが尾を引いているのか。
部族の長達が集まっているらしい大きなテントの中に案内された。
集会や秘儀を行うときには昔ながらのテントの中で行うとのこと。
「よくおいでなさった異国の方。私は部族連のまとめ役をしておるニルチッイと申します」
伝統的な衣装を纏った老婆が俺達に挨拶をよこした。
上品な雰囲気だが眼は鋭い。
敵意を抱いているというよりは戦士の瞳を宿しているといった方がいいか。
「はじめまして、横島忠夫と申します。こちらはうちの所員の伊達雪之丞とタイガー寅吉です」
値踏みをされているような視線が注がれるな。
「早速依頼の件を詳しくお聞かせ願いたいのですが?」
「はい、依頼とも……」
俺と雪之丞、それとニルチッイさんがほぼ同時に、タイガーも一拍遅れて席を立った。
表に出るとこちらに向かってくる一団。
ジャッカル、はげたか、兎、鴉、梟、鷲、鯱、ビーバー……あれはサンダーバードにウミクマ。
トーテムの群れだと!? トーテムが何故インディアンをおそう!?
それだけじゃない。あの白い毛むくじゃらは恐らくウェンディゴ。
話に聞いたとおりゾンビもいるがあれはメドーサが使っていた改造ゾンビ!
なんだこの取り留めのない集団は。
……いや、呆けている場合でも混乱している場合でもない。
「雪之丞! タイガー! 動物型のやつは絶対に傷つけるな。俺が何とかするから雪之丞はゾンビを、タイガーはウェンディゴの方を頼む! 住人の安全を最優先にしろ! ユリン、ドラウプニール!」
「戦えるものは前に! そうでないものは避難をしなさい。女性と子供を早く逃がすのです」
俺とニルチッイさんが矢継ぎ早に指示を出す。
とはいえインディアン達はトーテムを攻撃できるはずもない。
俺もトーテムさえいなければまとめて攻撃をすることも可能なのだが彼らの前でトーテムを殺すわけにもいかない。
ネクロマンサーの笛を構えるとトーテムたちに向かって吹き鳴らした。
トーテムは祖霊、効果はあるはず。
ちっ! 半ば神族と化しているだけあって効きが甘い。
動きを止めるのが精一杯でフォローには回れないか。
とはいえトーテムの邪魔さえあければインディアン達の攻撃、どうも銀を使っているらしく微々たるものだが効果はあるし、接近を防ぐための弾幕という意味では十分だ。
精神感応を使ってウェンディゴたちの動きを止めているし、雪之丞の炎を纏わせた霊波砲でゾンビを掃討している。空中を自在に飛びまわることでゾンビたちの銃撃を自分に向ける事にも成功していた。
空中をあれだけ飛びまわって精密射撃ができているところを見るとタイガーがサポートしているのだろう。
レーダー兼チャフ兼管制のタイガーと戦闘機の雪之丞、いいコンビだな。
ピートが加わればかなり厄介だぞ。
いや、タイガーが精神感応を維持したまま霊波砲を撃てるようになればさながらイージス艦のような役割も可能か?
インディアンたちを混乱させないために呼び出した数こそ少ないが、タイガーが動きを止めたウェンディゴをユリンたちが駆逐をする。
広範囲攻撃ができないために時間はかかったがそれでも一時間ほどの戦闘でウェンディゴとゾンビは駆逐された。
「ニルチッイ族長。彼らはどうすればいい?」
それだけ言うと再び笛を吹く。こういう時は笛というのも困りものだ。
「解放してあげてください。今ならやつらの束縛から離れているはずです」
族長の言葉を信じて笛を吹くのを止めるとトーテム達は地面に吸い込まれるように消えていった。
「まずはお礼を言います。あなたのお陰で祖霊たちを傷つけずにすみました。皆にも怪我もほとんどなかったようです」
「ネイティヴ・アメリカンの世界で自分達の種族のトーテムの動物を殺すのはタブーと聞いています。また、他族の前でそのトーテムの動物を殺すのもタブーと聞いています」
「心遣い、感謝をいたします」
ニルチッイさんが深く頭を下げる。
周囲の視線も好意的なものに変わってきたな。
ゾクリッ!
何だこの悪寒は?
下?
「下がれ!」
俺の言葉に何人反応できただろうか?
地面から生えてきた巨大な腕がインディアン達を吹き飛ばす。
巨人? 違う。精霊の力が感じられる。
……嫌な予感が大当たりか。
「あら、まさかこんなところであなた達に会うなんてね」
「てめえ! 勘九郎」
「あら、雪之丞元気してた?」
勘九郎、……一人だけか。
いや、あれは以前の勘九郎じゃないな。
「まぁいいわ。あなた達がいようがいまいが、私は【大精霊石】さえ手に入れればいいんですものね。さぁ、やっておしまいなさい」
勘九郎が命じると巨精霊がこちらに向かって殴りかかってくる。
動きもすばやいしパワーがでかい!
俺一人ならともかくインディアンたちを護りながらだと攻められない。
「勘九郎おおお!」
「馬鹿! 早まるな!」
一人突撃する雪之丞の拳を勘九郎が難なく受け止めると手にした剣の柄で雪之丞を殴り倒した。
「いつまでも自分のほうが上にいるなんて思い上がらないで頂戴」
「ぐぅっ」
「雪之丞さん!」
「……そうね。雪之丞が手に入ったことだし今日のところは引いてあげるわ。また会いましょう」
この辺り一帯を取り囲むような巨大な火角結界を張ると勘九郎は雪之丞を土角結界で固める。
「ユリン!」
分身たちがいっせいに勘九郎に迫るが剣の一薙ぎで払われる。
だが今のはフェイク。狙いは雪之丞の陰にユリンを一羽潜り込ませることだからな。
巨精霊に雪之丞を運ばせると消えるように去っていった。
この結界をとかないことには後をおえないか。
戦力を日本に残しすぎたのが仇になったか。
あれを見てはっきりしたよ。今回は元始風水盤の事件は起こらずこっちがおきたってわけだ。
……日本から戦力を呼ばないとな。
勘九郎。何があったか知らないが雪之丞は帰してもらうからな!