≪メドーサ≫
『元同門のよしみであんたには本当の実力を見せてあげるわ。魔装術はね、みがきをかけて完成させると……こんなに美しくなるものなのよ!』
「鎌田選手お約束の魔装術……」
「い……いや、これは……」
勘九郎は魔装術を完璧に使いこなしている。前の二人とは一緒にするな。
「こ……これが鎌田選手の魔装術……!? 前の二人とは随分と感じが違います」
『どう? 生身のまんまじゃこれほどの出力は不可能よ。どうする? 仲間になるなら命だけは保障してあげるわよ』
『俺の師匠なら生身だってそれ以上の出力出しやがるぜ! でも、流石に俺は無理だな。……だからてめーの喧嘩! 買ってやる』
な、……あの小僧も魔装術を使うだと!
「おっと驚きました! なんと雪之丞選手まで魔装術を見せました!」
「空中を飛んでるあるな。パワーの程はわからんあるが雪之丞の方がこれで戦略的には有利になったある」
「……まさか魔装術の使い手があいつら……あんなにいたとはね」
「これでも神族や魔族に知り合いが多いんだ。うちの事務所」
ちっ! この横島とか言う人間、さっきのゼクウ以上に掴みきれない。
人間(クズ)のくせに。
「激しい攻防が続いております。しかし空中を自在に飛びまわる雪之丞選手が徐々にですが一方的に押し始めました」
「……うちの雪之丞は1時間でも2時間でも魔装術を纏って戦うことができる。そういう訓練をしているからな。……だが、あの勘九郎は半ば人間じゃあなくなっているな」
「霊力を実体化させるということは、逆に肉体を力の付属物に貶めるということ……魔装術が悪魔の技と言われるゆえんよ!」
「でも、強いわ。半ば以上魔に堕ちるからこそ霊力の物質化は人間であった頃よりもスムーズに行われる。魔装術の極意なんかを極めなくてもね。あなたたちも弟子にそれを教えなかったことを悔やむべきね」
とはいえ、あの雪之丞とかいうクズと契約をしている魔族は勘九郎より上か。
このままでは基本スペックの差で押し切られる。
「いいえ……! 力の上に胡坐をかいているだけでは本当の強さは得られないわ! 人間でい続けることをあきらめてしまう技では雪之丞さんに勝てはしないわ! 勇気や愛や思いやりのない力は滅ぶのよ!」
「あの~、小竜姫さま。……あれは雪之丞なんですが」
「……勇気や友情や思いやりのない力は滅ぶのよ!」
……愛はあんまりないのかしら?
『ヴヴ……ヴヴヴヴ』
『くそったれが!』
『待て! 試合はそこまでだ! 鎌田選手、術を解きたまえ! 君をG・S規約の重大違反のカドで失格とする!』
!
『証言が取れて~証人もいるからもう言い逃れはできませんよ~』
陰念か蜘蛛丸か? クズが!
『……証拠? それがどうしたって言うの?』
勘九郎の放った霊波砲がそいつを襲う。
……ちっ! ガードされたか。
『人間ごときが……下等なムシケラがこのあたしに指図するんじゃないよ』
『完全に人間じゃなくなってるワケ!』
勘九郎の周りに続々とG・Sが集まってくる。
あの雪之丞とかいう小僧がいる以上不利か。
ん? 周りの雑魚スイーパーを勘九郎の攻撃から護るために取り押さえることができないようね。
「やめさせなさいメドーサ! 計画が失敗した以上、この上ムダな戦いは不要のはず!」
やっぱりアマちゃんだよ。
「そうかしら……?そんなにクズどもを助けたい? だったら私のいうとおりにすれば止めさせてあげるわ。ここで私に殺されなさい、小竜姫! 計画は失敗したけどあなたの命がもらえるなら悪くはないわ。どう? 条件を飲むならおとなしく引き下がってあ…」
刺す又を取り出しかけたその瞬間、いつのまにか、そう、本当に気がつかないうちに小竜姫の奥にいたはずの横島が私の背後に立ち、首筋に騎士剣をあてがっていた。
「それは困るな」
剣の格も高い。これなら私でも致命傷をおうか。
みれば魔族と思わしき奴が2人、こちらをライフルで狙っている。
小竜姫も神剣で私の首を狙う。
超加速で乗りきれるか? ……下手な博打は打たないが賢明ね。
「形勢逆転ね。勝手な真似もここまでよ! メドーサ」
会場では勘九郎が雪之丞に殴り飛ばされた。
『てめーの相手は俺だろうが! よそ見してんじゃねーよ』
クソ。状況はこちらが不利か。
「勘九郎! 引き上げるわよ」
『……わかりました』
勘九郎が火角結界を発動させ、中の連中を閉じ込める。
『雪之丞。あなたは……あなたはこのあたしが必ず殺してあげるわ!』
『次は必ずテメーを止めてやる!』
『全員で霊圧をかけてカウントダウンを遅らせるんだ!』
「どう? 人間の力ではあの結界を破るのは無理よ? どーするの? ここは引き分けにした方がいいんじゃなくて?」
後ろに立った横島とか言う男が剣を引いた。
「横島さん……」
「小竜姫さま、この場は逃がしましょう。下手に手を出して爆発を早められでもしたらいくらゼクウが向こうにいても間に合わないかもしれない」
「……く。……いいわ、残念だけどここはお前の勝ちね。お前がこの会場に入る前に見つけられなかったのが敗因よ」
小竜姫が悔しそうに剣を引いた。
魔族達もライフルの構えをとく。
「ほーっほっほっほ。おりこうさんね。今回は顔見せのつもりだったしおとなしく帰ってあげるわ。でも、次は小竜姫も、その横島とか言う男も殺してあげるから覚悟することね!」
ちっ! 最終的には引き分けにもつれこんだが終始あっちのペースだったか。
次は見てなさい。
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≪横島≫
ゼクウ、小竜姫さま、ワルキューレ、ジーク。
それに神・魔族には劣るものの俺と五月が霊圧をかけるとカウントダウンも止まり、かなりの時間が稼げる。
だからといってあんしんもできないが。
「心見! 分解している暇まではさすがにない。霊的構造を解析して解除用の線を見極めてくれ」
「心得た。しばし待て、兄者」
俺の時は黒だったが今度もそうとは限らない。そんなあやふやなものに命をかけることはできないからな。
一分、二分が過ぎた時、救援の手がやってきた。
『黒なのね~。黒い線が解除用のせんなのね~』
「ヒャクメさま!」
白龍会の会長を妙神山まで運んでいったはずのヒャクメさまが戻ってきた。
さすがに百の感覚器官をもつだけあって心眼が苦労していた解析を一瞬で行うことができたようだ。
「妙神山で白龍会会長の石化をといて記憶を覗いたけどな~んにもわからなかったから急いで戻ってきたのね~」
やれやれ、いざとなったら文珠で強制解除をしなくてはならないと思ったけど、衆人環視の下で使う羽目にならなくて良かったよ。
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それから三日くらいは雪之丞も荒れるように修業を欲したので俺もゼクウも五月も存分に相手をしてやった。
あれでも一応は古巣に思い入れもあったらしい。
白龍寺の中も多くの石にされた修行者や僧が石化の回復を行われている。
タイミングがずれていたとはいえメドーサに殺された修行者を助けることはできなかった……。
唐巣神父が試験の結果を持ってやってきた。
「G・S協会は今回の試合を無効にはしないことを決定したそうだ! つまり、席次こそ決まらなかったが勘九郎君以外の合格者は全員合格だ。おめでとう。ピート君。雪之丞君。タイガー君。ドクター」
「全員合格おめでとう」
ドクターを除く三人がかなり手荒い祝福を受ける。
特に五月の張り手はかなり痛そうで力加減を間違えたのか背中をたたかれたタイガーが床に突っ伏してしまった。
その後魔鈴さんのお店を借り切ってパーティーを開いた。
参加者はうちの事務所と妙神山組とリレイション・ハイツのメンバー、冥華さんと美智恵さんなのでかなりの大事になっている。
そんな中主賓の一人、雪之丞がレストランからこっそり抜け出すのを見咎めてその後を追った。
「どうした? 雪之丞」
「ん……師匠か」
雪之丞はばつの悪そうな顔をする。
「……何か悩み事か?」
「いや、考え事だ。……俺が白龍寺にいた頃、勘九郎はライバルというか友人というか、まぁそういう関係でな。あいつの趣味にはついていけなかったが、実力も近くてお互いひたすら強さを求めていることも共感してそれなりに仲が良かったんだ。……俺とあいつの違いって言うのは何だったのかなと思ってよ」
「……それは難しい質問だな。お前は雪之丞で、あいつは勘九郎だった。そういう解答が一番正解に近いのかもしれんが」
「俺がもし白龍寺に残っていれば俺はメドーサの弟子になっていたと思う。違うとすれば俺が14の時に俺は師匠の下につくことを決めてあいつは白龍寺に残った。それくらいだ。もしかしたら立場が反対になっていてもおかしくないと思ってな」
「だが、勘九郎は自らが魔物と化すことを望み、最後の一線を越えてしまった。仮にお前がメドーサの手下になっていたとして、お前はそうなっていたか?」
「……わかんねえよ。わかんねえけどあいつとのケリは俺がつける」
……そのとき、俺は雪之丞の力となってやることができるだろうか?
レストランに戻るといつの間にか酒が入っていて阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。
幸い子供達は美衣さんと魔鈴さんが連れ出してくれたらしいが、主賓の三人が床に突っ伏していた。
……俺がいない間に何があった?
亡者と化した一団は新たな犠牲者を見つけたようだ。
俺は気配を消すと雪之丞を生贄にさしだし子供達のいる空間へと逃げ出すことに成功した。
すまない、雪之丞。力になれない俺を許してくれ。